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第3章
72.彼の執着について
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とはいえ、彼に嫌われる行動はいままでだって散々試した。
しかし、それに私はことごとく返り討ちに遭っており結局痛い目を見るだけで終わってしまっている。
それは逐一報告していたベリエル殿下もわかっているはずだ。
まぁ、それを相談するたびに「本気か?」みたいな目で見られていたけれど。
ときには馬鹿にするように笑われたりしたし。
そして結局失敗していたから彼には無意味な事だと分かっていたのだろうけどね!
「手っ取り早く自分の前世でも伝えれば話は早いんだけどな」
「それは無理です」
とんでもない提案に、速攻で否定する私に、なぜだか少しばかりきょとんとしながらベリエル殿下は疑問を口にする。
「どうしてそこまで嫌がる? 今のこの国であれば君の前世が悪人であろうともそれだけで罪人にしたりはしないぞ」
いやいや、そういう問題じゃないのよ。
「それはこの国の判断でしょう? 彼の判断ではないではないですか」
そう告げる私に心底意外そうに驚くと、今度は違う問いを投げかけてきた。
「どうして君はそこまでアイツを怖がる? 君の話を聞いていると君の前世はまるで史実と合わない性格のように見えるな。君の前世は本当は一体どんな人物なんだ?」
「それをあなたが知る必要はないと思います」
興味ありげに私に問う彼の視線を無視しきっぱりと断る。
ここまでの私の態度でこの話題を進めても無意味だと悟ったのだろう、些か腑に落ちない顔をしていたがこれ以上追及することはなかった。
「それよりも彼の話です。なにかありませんか? 誰かの行動に嫌そうにしていたのを見たことあるとか」
「う~む、しかしアイツも僕と同じように感情を隠すのはうまいからな」
斜め上を見て考えているがどうやら答えは見つかりそうにない。
確かに、私だって見たことないもの。
「君が好意に答えてくれなくて不貞腐れているのは、何度か見たことあるがな」
「……どうしてそのまま嫌いになってくれないのでしょうね」
そうすればスムーズに事が運ぶのに。しかしこれは私の願望だ。彼が思い通りになるわけもないか。
「それは裏を返せば、それ程の理由がやはりあるということだと思うのだが……、君は心当たりないのか?」
「そりゃ、あれかなぁっていうのはありますけど。そこまでの理由になるようなものでは……」
「なんだ? いいから言ってみろ」
全く強引なんだから。
しかしここで話すのにはいささか問題がありそうだけど、まぁ小声で話せば聞かれはしないか。
小さく手招きし、顔を近づけるようにジェスチャーをする。
その意図を察したのか思う通りに前のめりになって顔を近づけてくれたのを確認し、私も彼に顔を近づけた。
耳打ちするように小さな声で彼に囁く。
「昔彼の前世があの人だと知ったとき、ひどく落ち込んでいたので慰めてあげたのです」
「慰めた?」
「ええ、これからの自分が前世に左右されそうで恐ろしいとこぼしていたので、それなら自分として受け入れれば良いとアドバイスしたのです」
そう告げると、ベリエル殿下は体を戻しじとーっとした目で私を見つめた。
え? な、なに?
「明らかにそれがきっかけだろう。そしておそらくあの執着するような好意もそれが起点じゃないのか?」
「ええ? しかし、そんなアドバイス彼が落ち込んでいたら誰でもしそうじゃないですか?」
「まぁ確かにそう問われれば誰でもするかもな。心優しいフィーネならもっと良い慰めの言葉をくれるかもしれない」
相変わらず婚約者にベタ惚れのようだ。
そういう惚気をこの人から聞くと寒気がするから聞きたくないけど。
「だがな、その時傍にいてアイツの悩みを解消したのは間違いなく君だ。それが何よりも大事なんだよ」
つまり彼の悩みを一番良いタイミングで解決してしまったばっかりに私は好意を持たれている、ということなのだろうか。
そんなことなら話は早いじゃない。
「ならその思い出を壊してしまえば彼からの好意は無くなるでしょうか?」
「君は時々ひどく強引なことを考えるな。止めておけ、そんなことしたら逆上して刺されかねないぞ」
なんだ、いい案だと思ったのに。
しかし、ベリエル殿下が今日一番の呆れ顔をしているということは、それほどまでに今の提案は酷いものだったといことなのだろう。
「ともかくアイツが君にここまで執着するのは異常だと僕も思っている。さっきの出来事だけであそこまでこだわる理由もはっきり言って感じない。それに僕や君の予想と、アイツが本当に思っていることが合致しているという確証もないしな。とりあえず一応アイツの好意の正体を聞き出しておけよ。なるべく早く、な」
なんだよ~、結局聞き出さなきゃダメなの~?
せっかく彼に聞き出すことなく執着の正体を知れたと思ったのに。
しかし、ベリエル殿下にまで釘を刺されてしまった。
これは早急に聞き出してスッキリさせておきたいことではあるのだけれど、どうやって聞き出そうかなぁ。
やっぱり嫌だよ~。「どうして私のこと好きなの?」なんて聞きだすの。
しかし、そうも言ってられない事態になりつつあるのは薄々感じている。これ以上優柔不断な自分を晒すのもいい加減にしないととは思っていたし。
しかし、それに私はことごとく返り討ちに遭っており結局痛い目を見るだけで終わってしまっている。
それは逐一報告していたベリエル殿下もわかっているはずだ。
まぁ、それを相談するたびに「本気か?」みたいな目で見られていたけれど。
ときには馬鹿にするように笑われたりしたし。
そして結局失敗していたから彼には無意味な事だと分かっていたのだろうけどね!
「手っ取り早く自分の前世でも伝えれば話は早いんだけどな」
「それは無理です」
とんでもない提案に、速攻で否定する私に、なぜだか少しばかりきょとんとしながらベリエル殿下は疑問を口にする。
「どうしてそこまで嫌がる? 今のこの国であれば君の前世が悪人であろうともそれだけで罪人にしたりはしないぞ」
いやいや、そういう問題じゃないのよ。
「それはこの国の判断でしょう? 彼の判断ではないではないですか」
そう告げる私に心底意外そうに驚くと、今度は違う問いを投げかけてきた。
「どうして君はそこまでアイツを怖がる? 君の話を聞いていると君の前世はまるで史実と合わない性格のように見えるな。君の前世は本当は一体どんな人物なんだ?」
「それをあなたが知る必要はないと思います」
興味ありげに私に問う彼の視線を無視しきっぱりと断る。
ここまでの私の態度でこの話題を進めても無意味だと悟ったのだろう、些か腑に落ちない顔をしていたがこれ以上追及することはなかった。
「それよりも彼の話です。なにかありませんか? 誰かの行動に嫌そうにしていたのを見たことあるとか」
「う~む、しかしアイツも僕と同じように感情を隠すのはうまいからな」
斜め上を見て考えているがどうやら答えは見つかりそうにない。
確かに、私だって見たことないもの。
「君が好意に答えてくれなくて不貞腐れているのは、何度か見たことあるがな」
「……どうしてそのまま嫌いになってくれないのでしょうね」
そうすればスムーズに事が運ぶのに。しかしこれは私の願望だ。彼が思い通りになるわけもないか。
「それは裏を返せば、それ程の理由がやはりあるということだと思うのだが……、君は心当たりないのか?」
「そりゃ、あれかなぁっていうのはありますけど。そこまでの理由になるようなものでは……」
「なんだ? いいから言ってみろ」
全く強引なんだから。
しかしここで話すのにはいささか問題がありそうだけど、まぁ小声で話せば聞かれはしないか。
小さく手招きし、顔を近づけるようにジェスチャーをする。
その意図を察したのか思う通りに前のめりになって顔を近づけてくれたのを確認し、私も彼に顔を近づけた。
耳打ちするように小さな声で彼に囁く。
「昔彼の前世があの人だと知ったとき、ひどく落ち込んでいたので慰めてあげたのです」
「慰めた?」
「ええ、これからの自分が前世に左右されそうで恐ろしいとこぼしていたので、それなら自分として受け入れれば良いとアドバイスしたのです」
そう告げると、ベリエル殿下は体を戻しじとーっとした目で私を見つめた。
え? な、なに?
「明らかにそれがきっかけだろう。そしておそらくあの執着するような好意もそれが起点じゃないのか?」
「ええ? しかし、そんなアドバイス彼が落ち込んでいたら誰でもしそうじゃないですか?」
「まぁ確かにそう問われれば誰でもするかもな。心優しいフィーネならもっと良い慰めの言葉をくれるかもしれない」
相変わらず婚約者にベタ惚れのようだ。
そういう惚気をこの人から聞くと寒気がするから聞きたくないけど。
「だがな、その時傍にいてアイツの悩みを解消したのは間違いなく君だ。それが何よりも大事なんだよ」
つまり彼の悩みを一番良いタイミングで解決してしまったばっかりに私は好意を持たれている、ということなのだろうか。
そんなことなら話は早いじゃない。
「ならその思い出を壊してしまえば彼からの好意は無くなるでしょうか?」
「君は時々ひどく強引なことを考えるな。止めておけ、そんなことしたら逆上して刺されかねないぞ」
なんだ、いい案だと思ったのに。
しかし、ベリエル殿下が今日一番の呆れ顔をしているということは、それほどまでに今の提案は酷いものだったといことなのだろう。
「ともかくアイツが君にここまで執着するのは異常だと僕も思っている。さっきの出来事だけであそこまでこだわる理由もはっきり言って感じない。それに僕や君の予想と、アイツが本当に思っていることが合致しているという確証もないしな。とりあえず一応アイツの好意の正体を聞き出しておけよ。なるべく早く、な」
なんだよ~、結局聞き出さなきゃダメなの~?
せっかく彼に聞き出すことなく執着の正体を知れたと思ったのに。
しかし、ベリエル殿下にまで釘を刺されてしまった。
これは早急に聞き出してスッキリさせておきたいことではあるのだけれど、どうやって聞き出そうかなぁ。
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