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第4章
154.生まれ変わる条件
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「グレス様に釘を刺されていたのです。エスティは自分の前世を話すのを避けているから、その話はしないようにって。それなのに、昨夜はあんな話を持ち出してしまった。私が全面的に悪いのですから、気にしないでください」
またしてもニッコリとした笑顔で告げる彼の言葉に驚く。
お、お兄様がそんなことを、ヴァリタス様に?
しかも、私の前世を伏せたまま。
そんな、私を想って言ってくれていたなんて。
お兄様の優しさに胸が熱くなる。
やはり、お兄様は唯一、この家で信用できる人なのだわ。
そうよね、だってお兄様だもの。
妹や弟の事を絶対に信じてあげるのが、兄ってものよね。
私ったらどうしてそんな大事なこと忘れていたのかしら。
でも、今の私の家族にはそんな風に私を心配してくれる人なんていない。
だからなのか、その事実に訳もなく嬉しくなってしまう。
それ以降は、彼となんでもないような話をして朝食を続けた。
朝食を取り終わってすぐ、ヴェリタス様付きの騎士が屋敷へとやってきた。
どうやらそろそろ彼も視察の方へ戻らないといけないらしい。
急いでいるため、ろくに準備もできないまま、彼は屋敷を後にすることになった。
「エスティ、いつか私を信じられるときがきたら、その時にはもう一度話をしてくださいね」
別れ際、そんなことを耳打ちされてしまったが、どう返せば良いのかわからず笑顔のまま固まってしまった。
そんな私に苦笑すると、手を振って行ってしまった。
なんだか、彼には申し訳ない事をしたような気持ちになったがそれ以上私ができることはないような気もしていた。
彼を見送った後、1人で抱えるには少々荷が重いように感じた私は思い切ってお兄様に相談することにした。
先ほどの事もあってか、なぜだかお兄様と話しをしてみたいと思っていたのもあったのかもしれない。
お兄様の部屋を訪ねると、開口一番に昨夜の話を打ち明けた。
「どう思います? どうしてあそこまでヒントがありながら、ヴァリタス様は私の前世に気づかなかったのかしら」
「お前、重要なことを見落としているのに、気づいていないのか?」
「へ?」
重要な事?
何よそれ。
さっぱり見当がつかないのだけど。
「お前は、本当に……。頭が良いのに本当に馬鹿なんだな」
な、なんですと!?
一応、お兄様よりも勉強はできるって自負しているのよ。
学院でも歴代一位と言われていたお兄様よりも出来が良いかもしれない、なんて言われているのに。
その優秀な妹になんてことを言うのよ!
全く失礼しちゃうわ!
腕を組み、怒りを露わにしてみたが、お兄様は何も視界に入っていないような様子で完全に無視している。
そのことに益々怒りが湧いてきた。
そんな私の機嫌など伺うような兄ではないのだけどね。
案の定、お兄様は深く腰掛けたまま足を組みなおし私を見下すように上から目線で質問を投げ掛けてきた。
「転生する人物の特徴ってなんなのか、お前知っているだろ。それを自分の口から言ってみろ」
随分と偉そうな態度に怒り心頭になりながらも、言われた通り口に出す。
「ええっと、今まで亡くなった方の中で、神様に愛される資質のある人物、ですよね」
「ああ。そして世間一般でそんな人物とはどんな人物だと認識されている?」
「それは、神様に使える神聖な役割をした人か、人々に貢献するような功績を残した人。あとは、人々に敬愛されたり、尊敬を持たれたような人……ですよね?」
「その通り。よくわかっているじゃないか。それでいてなぜ答えを導き出せないんだ……。」
いや、そんなこと言われてもわからないものは分からないし。
頬を膨らませ、ふてくされるとお兄様は心底呆れたように笑った。
「そんな顔しても不細工になるだけだぞ」
そういって頬を思いっきり指で刺される。
「い、痛いです! もうっ、お兄様は本当に女性に対してデリカシーというものを持ち合わせていないのですね。これではお姉様に嫌われるのも時間の問題ではないですか?」
「安心しろ、お前以外にこんな事誰がするかっ」
むきー!
本当に腹が立つ人だこと!
「じゃあ最後の質問だが。お前の前世は、世間一般的にどういう人物だと思われている?」
「自分の欲望に忠実で、争い事が好きで、民が苦しんでいてもどうでもよくて……。綺麗な女性が居れば所かまわず襲い、欲しいものがあれば人を殺してでも奪う欲望の塊。加えて人を嬲って痛めつける姿を肴に楽しむ最低最悪な人種で、人を人とも思わない残虐非道の無慈悲な皇帝。で、でも本当はそんなことなどしていませんでしたよ!」
自分で言っていて本当に嫌になる。
でも、昔リヴェリオに関する歴史書や文献を片っ端から読んでしまった結果、こうした無駄な知識を得ることになってしまったのだから仕方ないじゃない。
それにしても、本当にリヴェリオって可哀そう。
あんなに人々を想って死を選んだのに、語り継がれるのは虚像の彼なんだもの。
ああ、やっぱり自分で言っていて悲しくなってきたわ。
「ああ、分かっている。しかし、この国の人々はお前の言ったような人物だと認識しているのは確かだ。そして殿下もそれは例外ではない」
お兄様のその言葉に、一気に気づかされた。
またしてもニッコリとした笑顔で告げる彼の言葉に驚く。
お、お兄様がそんなことを、ヴァリタス様に?
しかも、私の前世を伏せたまま。
そんな、私を想って言ってくれていたなんて。
お兄様の優しさに胸が熱くなる。
やはり、お兄様は唯一、この家で信用できる人なのだわ。
そうよね、だってお兄様だもの。
妹や弟の事を絶対に信じてあげるのが、兄ってものよね。
私ったらどうしてそんな大事なこと忘れていたのかしら。
でも、今の私の家族にはそんな風に私を心配してくれる人なんていない。
だからなのか、その事実に訳もなく嬉しくなってしまう。
それ以降は、彼となんでもないような話をして朝食を続けた。
朝食を取り終わってすぐ、ヴェリタス様付きの騎士が屋敷へとやってきた。
どうやらそろそろ彼も視察の方へ戻らないといけないらしい。
急いでいるため、ろくに準備もできないまま、彼は屋敷を後にすることになった。
「エスティ、いつか私を信じられるときがきたら、その時にはもう一度話をしてくださいね」
別れ際、そんなことを耳打ちされてしまったが、どう返せば良いのかわからず笑顔のまま固まってしまった。
そんな私に苦笑すると、手を振って行ってしまった。
なんだか、彼には申し訳ない事をしたような気持ちになったがそれ以上私ができることはないような気もしていた。
彼を見送った後、1人で抱えるには少々荷が重いように感じた私は思い切ってお兄様に相談することにした。
先ほどの事もあってか、なぜだかお兄様と話しをしてみたいと思っていたのもあったのかもしれない。
お兄様の部屋を訪ねると、開口一番に昨夜の話を打ち明けた。
「どう思います? どうしてあそこまでヒントがありながら、ヴァリタス様は私の前世に気づかなかったのかしら」
「お前、重要なことを見落としているのに、気づいていないのか?」
「へ?」
重要な事?
何よそれ。
さっぱり見当がつかないのだけど。
「お前は、本当に……。頭が良いのに本当に馬鹿なんだな」
な、なんですと!?
一応、お兄様よりも勉強はできるって自負しているのよ。
学院でも歴代一位と言われていたお兄様よりも出来が良いかもしれない、なんて言われているのに。
その優秀な妹になんてことを言うのよ!
全く失礼しちゃうわ!
腕を組み、怒りを露わにしてみたが、お兄様は何も視界に入っていないような様子で完全に無視している。
そのことに益々怒りが湧いてきた。
そんな私の機嫌など伺うような兄ではないのだけどね。
案の定、お兄様は深く腰掛けたまま足を組みなおし私を見下すように上から目線で質問を投げ掛けてきた。
「転生する人物の特徴ってなんなのか、お前知っているだろ。それを自分の口から言ってみろ」
随分と偉そうな態度に怒り心頭になりながらも、言われた通り口に出す。
「ええっと、今まで亡くなった方の中で、神様に愛される資質のある人物、ですよね」
「ああ。そして世間一般でそんな人物とはどんな人物だと認識されている?」
「それは、神様に使える神聖な役割をした人か、人々に貢献するような功績を残した人。あとは、人々に敬愛されたり、尊敬を持たれたような人……ですよね?」
「その通り。よくわかっているじゃないか。それでいてなぜ答えを導き出せないんだ……。」
いや、そんなこと言われてもわからないものは分からないし。
頬を膨らませ、ふてくされるとお兄様は心底呆れたように笑った。
「そんな顔しても不細工になるだけだぞ」
そういって頬を思いっきり指で刺される。
「い、痛いです! もうっ、お兄様は本当に女性に対してデリカシーというものを持ち合わせていないのですね。これではお姉様に嫌われるのも時間の問題ではないですか?」
「安心しろ、お前以外にこんな事誰がするかっ」
むきー!
本当に腹が立つ人だこと!
「じゃあ最後の質問だが。お前の前世は、世間一般的にどういう人物だと思われている?」
「自分の欲望に忠実で、争い事が好きで、民が苦しんでいてもどうでもよくて……。綺麗な女性が居れば所かまわず襲い、欲しいものがあれば人を殺してでも奪う欲望の塊。加えて人を嬲って痛めつける姿を肴に楽しむ最低最悪な人種で、人を人とも思わない残虐非道の無慈悲な皇帝。で、でも本当はそんなことなどしていませんでしたよ!」
自分で言っていて本当に嫌になる。
でも、昔リヴェリオに関する歴史書や文献を片っ端から読んでしまった結果、こうした無駄な知識を得ることになってしまったのだから仕方ないじゃない。
それにしても、本当にリヴェリオって可哀そう。
あんなに人々を想って死を選んだのに、語り継がれるのは虚像の彼なんだもの。
ああ、やっぱり自分で言っていて悲しくなってきたわ。
「ああ、分かっている。しかし、この国の人々はお前の言ったような人物だと認識しているのは確かだ。そして殿下もそれは例外ではない」
お兄様のその言葉に、一気に気づかされた。
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