154 / 339
第4章
153.すこし気まずい朝食
しおりを挟む
朝起きて、昨日の事を思い出して愕然としてしまった。
掛けてある布団を強く握りしめたまま、起き上がる事もせず、青い顔になる。
思い返せば、何てことを話してしまったのだろうか。
そもそも彼の前世の名前を呼んだ時点でまずい状況だったのに。
あんなに胸を内を吐露してしまえば、彼に前世の事を勘づかれるのも時間の問題ではないか。
いや、もうすでに気づかれているかもしれない。
はぁ~と深いため息が零れる。
こうしていても、仕方がない。
とりあえず起き上がるか。
鏡台の前に座り、髪を梳かす。
さて、何に着替えようかと思案していたところで扉がノックされ、この家の使用人が入ってきた。
そういえば、この屋敷に来てもう6日は経っているのよねぇ。
お父様にミリアを連れていくのを拒否されてしまったばっかりに、彼女とはここ1週間ほど離れ離れになってしまっている。
とはいえ、あと2日もすればベルフェリトの屋敷に戻るのだからあまり寂しくはないけれど。
それにしたって、彼女がいないのにいつの間にか慣れてしまっていることに少し驚いた。
しかしながら、やはり数年私のお世話係として働いてくれていた彼女の穴を埋めるのに、ここの使用人では十分ではなかった訳で。
決して劣っているということではないのだが、意志の疎通がいまいちできないのだ。
まぁ、それは私が公爵家の令嬢とは言えないような思考回路と言動をしているのが原因なのだけど。
始めは自分で支度をしてしまう私に戸惑いを覚えていた使用人ではあったが、一週間も世話をしていたら少しは慣れたらしく、私のすることに合わせてくれるようになっていた。
着替えを済ませ、朝食を取ろうと、食堂に向かおうとしていたときだった。
コンコンと部屋のドアがノックされた。
返事をして、相手が入ってくるのを待つ。
そこに現れたのは、ヴァリタス様だった。
「おはようございます、エスティ。もう皆さんは朝食を済ませたようですよ」
「お、おはようございます、ヴェリタス様」
ぎこちないながらもなんとか挨拶を返すことができた。
相当動揺はしていたけどね。
しかし、昨夜あんな話をしていてよく自分から顔を合わせに来たわね。
でも彼の様子からして、どうやらリヴェリオの事には気づいていないみたい。
おっかしいなぁ。
そんなに鈍い人じゃ無いはずなのに。
とはいえ、自分から確かめるわけにもいかず、彼に促されるまま、食堂へと向かった。
食堂に着き、扉を開けて中を確認するが彼の言った通り、確かにもう誰もそこにはいなかった。
「ヴァリタス様も、もうお取りになりましたの?」
「いいえ、エスティを待っていたので。皆さんにはお声がけして先に食べていただきました」
にっこりとした笑顔で返されてしまった。
しかし、気を遣わせないように根回しをしているあたり、やはり計算高い。
やはり気づいていないのおかしいわよねぇ。
用意された席に着き、運ばれてきた朝食を口にする。
とはいっても、病み上がりに加え、もともと食の細い私が食べられるものも量もたかが知れているわけで。
小さなパンを1つと、林檎一切れを時間を掛けてゆっくりと食していた。
一方ヴァリタス様と言えば、パン3つにオムレツ、小さなサラダにウィンナーを3本と、一般的な朝食を召し上がっていた。
私から見れば相当量の多い朝食だけど、おそらく一般男性からしたら彼もあまり食べない部類に入るのだろうな。
現にお兄様はその2倍以上は食べていたような気がするし。
食べ始めて数分経ったものの、2人して口を動かすのは物を咀嚼するときだけ。
昨夜のこともあってか、話掛ける勇気が持てず静寂だけがそこに存在していた。
2人とも国を代表するような令息令嬢。
食事中に音を立てることなんてないし。
とはいえこの静けさは、今の私にはきつすぎる。
「あの、私の前世のことはもう良いのですか?」
「え?」
この沈黙に耐えきれず思わず口に出した言葉は、自分が今一番避けたい話題だった。
わ、私のバカッ!
なんでそんな事聞くのよ!
慌てても後の祭り。
言ったことを無かったことにはできない。
「聞いてほしいのですか?」
「い、いえ! そんな事は全く!」
「そうですよね」
しかし、私の心の動揺に気づいたのか、彼は私にそう告げてまたしても食事の方へと集中した。
だが、これではっきりした。
やはり彼は私の前世にてんで気付いていない。
一体どういうことなのだろう。
私から起こした失態とはいえ、あんなにリヴェリオだってわかるようなことを話してしまった。
あれがクイズなら間違いなく正解に導けるほどの情報量だったはずなのに。
だって、彼と同じ時代に生きていて、彼を呼び捨てで呼んだのよ。
それほど親しい仲の人物ってだけでも特定しやすいのに、さらに私が「知られたら嫌わるような人物」だと自分から暴露しているのよ。
そんな人物など、一人しかいないじゃない。
それとも他にも該当する人物がいるの?
わからないわ。
彼が全く理解できない。
納得できず、うんうんと唸っている私に気付いたのか、彼はナイフを置くと私に話掛けた。
掛けてある布団を強く握りしめたまま、起き上がる事もせず、青い顔になる。
思い返せば、何てことを話してしまったのだろうか。
そもそも彼の前世の名前を呼んだ時点でまずい状況だったのに。
あんなに胸を内を吐露してしまえば、彼に前世の事を勘づかれるのも時間の問題ではないか。
いや、もうすでに気づかれているかもしれない。
はぁ~と深いため息が零れる。
こうしていても、仕方がない。
とりあえず起き上がるか。
鏡台の前に座り、髪を梳かす。
さて、何に着替えようかと思案していたところで扉がノックされ、この家の使用人が入ってきた。
そういえば、この屋敷に来てもう6日は経っているのよねぇ。
お父様にミリアを連れていくのを拒否されてしまったばっかりに、彼女とはここ1週間ほど離れ離れになってしまっている。
とはいえ、あと2日もすればベルフェリトの屋敷に戻るのだからあまり寂しくはないけれど。
それにしたって、彼女がいないのにいつの間にか慣れてしまっていることに少し驚いた。
しかしながら、やはり数年私のお世話係として働いてくれていた彼女の穴を埋めるのに、ここの使用人では十分ではなかった訳で。
決して劣っているということではないのだが、意志の疎通がいまいちできないのだ。
まぁ、それは私が公爵家の令嬢とは言えないような思考回路と言動をしているのが原因なのだけど。
始めは自分で支度をしてしまう私に戸惑いを覚えていた使用人ではあったが、一週間も世話をしていたら少しは慣れたらしく、私のすることに合わせてくれるようになっていた。
着替えを済ませ、朝食を取ろうと、食堂に向かおうとしていたときだった。
コンコンと部屋のドアがノックされた。
返事をして、相手が入ってくるのを待つ。
そこに現れたのは、ヴァリタス様だった。
「おはようございます、エスティ。もう皆さんは朝食を済ませたようですよ」
「お、おはようございます、ヴェリタス様」
ぎこちないながらもなんとか挨拶を返すことができた。
相当動揺はしていたけどね。
しかし、昨夜あんな話をしていてよく自分から顔を合わせに来たわね。
でも彼の様子からして、どうやらリヴェリオの事には気づいていないみたい。
おっかしいなぁ。
そんなに鈍い人じゃ無いはずなのに。
とはいえ、自分から確かめるわけにもいかず、彼に促されるまま、食堂へと向かった。
食堂に着き、扉を開けて中を確認するが彼の言った通り、確かにもう誰もそこにはいなかった。
「ヴァリタス様も、もうお取りになりましたの?」
「いいえ、エスティを待っていたので。皆さんにはお声がけして先に食べていただきました」
にっこりとした笑顔で返されてしまった。
しかし、気を遣わせないように根回しをしているあたり、やはり計算高い。
やはり気づいていないのおかしいわよねぇ。
用意された席に着き、運ばれてきた朝食を口にする。
とはいっても、病み上がりに加え、もともと食の細い私が食べられるものも量もたかが知れているわけで。
小さなパンを1つと、林檎一切れを時間を掛けてゆっくりと食していた。
一方ヴァリタス様と言えば、パン3つにオムレツ、小さなサラダにウィンナーを3本と、一般的な朝食を召し上がっていた。
私から見れば相当量の多い朝食だけど、おそらく一般男性からしたら彼もあまり食べない部類に入るのだろうな。
現にお兄様はその2倍以上は食べていたような気がするし。
食べ始めて数分経ったものの、2人して口を動かすのは物を咀嚼するときだけ。
昨夜のこともあってか、話掛ける勇気が持てず静寂だけがそこに存在していた。
2人とも国を代表するような令息令嬢。
食事中に音を立てることなんてないし。
とはいえこの静けさは、今の私にはきつすぎる。
「あの、私の前世のことはもう良いのですか?」
「え?」
この沈黙に耐えきれず思わず口に出した言葉は、自分が今一番避けたい話題だった。
わ、私のバカッ!
なんでそんな事聞くのよ!
慌てても後の祭り。
言ったことを無かったことにはできない。
「聞いてほしいのですか?」
「い、いえ! そんな事は全く!」
「そうですよね」
しかし、私の心の動揺に気づいたのか、彼は私にそう告げてまたしても食事の方へと集中した。
だが、これではっきりした。
やはり彼は私の前世にてんで気付いていない。
一体どういうことなのだろう。
私から起こした失態とはいえ、あんなにリヴェリオだってわかるようなことを話してしまった。
あれがクイズなら間違いなく正解に導けるほどの情報量だったはずなのに。
だって、彼と同じ時代に生きていて、彼を呼び捨てで呼んだのよ。
それほど親しい仲の人物ってだけでも特定しやすいのに、さらに私が「知られたら嫌わるような人物」だと自分から暴露しているのよ。
そんな人物など、一人しかいないじゃない。
それとも他にも該当する人物がいるの?
わからないわ。
彼が全く理解できない。
納得できず、うんうんと唸っている私に気付いたのか、彼はナイフを置くと私に話掛けた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【コミカライズ企画進行中】ヒロインのシスコンお兄様は、悪役令嬢を溺愛してはいけません!
あきのみどり
恋愛
【ヒロイン溺愛のシスコンお兄様(予定)×悪役令嬢(予定)】
小説の悪役令嬢に転生した令嬢グステルは、自分がいずれヒロインを陥れ、失敗し、獄死する運命であることを知っていた。
その運命から逃れるべく、九つの時に家出を決行。平穏に生きていたが…。
ある日彼女のもとへ、その運命に引き戻そうとする青年がやってきた。
その青年が、ヒロインを溺愛する彼女の兄、自分の天敵たる男だと知りグステルは怯えるが、彼はなぜかグステルにぜんぜん冷たくない。それどころか彼女のもとへ日参し、大事なはずの妹も蔑ろにしはじめて──。
優しいはずのヒロインにもひがまれ、さらに実家にはグステルの偽者も現れて物語は次第に思ってもみなかった方向へ。
運命を変えようとした悪役令嬢予定者グステルと、そんな彼女にうっかりシスコンの運命を変えられてしまった次期侯爵の想定外ラブコメ。
※コミカライズ企画進行中
なろうさんにも同作品を投稿中です。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
悪役令嬢に転生しましたが、全部諦めて弟を愛でることにしました
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に転生したものの、知識チートとかないし回避方法も思いつかないため全部諦めて弟を愛でることにしたら…何故か教養を身につけてしまったお話。
なお理由は悪役令嬢の「脳」と「身体」のスペックが前世と違いめちゃくちゃ高いため。
超ご都合主義のハッピーエンド。
誰も不幸にならない大団円です。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
小説家になろう様でも投稿しています。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる