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第4章
168.不釣り合いな彼女
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純白のシスター服を纏い、見目麗しい少女がそこにいた。
しかし、彼女は見るからにおかしい恰好だった。
シスター服のはずなのに、下半身を隠す布の面積は少なく、破廉恥も良いところだ。
そちらに布が足りないはずなのに、なぜか袖は彼女の手をすっぽり包み込むほどの長さをしている。
しかし、御髪は教皇と同じように白髪で青い瞳は海を切り取ったような深い色をしていた。
そしてどこか、彼女はエスティに似ていた。
「1人でお楽しみしていないで、私にもわけてほしいのですよ! 独り占めは感心しませんですよぉ」
とはいえ、その美しさもこの可笑しな恰好と珍妙な話し方で全てが台無しとなっている。
一体どのように育てば、彼女のような人間が生まれるのだろうか。
不貞腐れた様子の彼女の標的は、どうやら教皇らしい。
彼にここまで失礼な態度を取れるなんて、まさか身内か何かなのだろうか。
まぁ、彼の身内ならばこの可笑しさにも納得だが。
カツカツと小気味の良い音を室内に響かせながら、彼女はこちらへ向かってくる。
正確には、真っ直ぐ僕の方へと近づいてきた。
「はじめましてヴェリタス殿下。お会いできてとっても光栄なのです」
頭を垂れたものの、すぐに顔を上げるとニッコリとこちらに笑顔を見せた。
その姿に狼狽える。
「えっと、あの……」
なんだか、お茶らけているのにその綺麗な顔立ちから邪険にしにくい。
今までにないタイプに、すでに翻弄されていた。
「さぁ、教皇様との話なんてつまらないでしょう? 私と綺麗な中庭でお話しましょー!」
手を取られ、半ば強引に彼女に連れられそうになる。
流石に、男の僕がその力に流されることはなかったが、その細い腕からは考えられないほどの力を彼女から感じた。
「ま、待ってください。私にはまだ、教皇様に聞きたいことがっ」
「あの方に聞いても私に聞いても、さして答えは変わらないのですよ! ささっ、私と一緒に参りましょー!」
「でもっ!」
あそこには意識を無くした兄上がっ。
そう言おうとして、彼女はこちらに振り向くとニカッと笑った。
「だいじょーぶです、とって食われたりしませんから」
なぜか、その言葉と笑顔に何も口に出せなかった。
「ヴァリタス殿下」
天から降ってきたような声がして、教皇の方へ視線を向ける。
彼は彼女の登場にやや疲れ気味になっているものの、その物腰の柔らかさは依然として崩してはいなかった。
「エルテシア様というのは、聖女様なのですよね? でしたら、彼女に聞いたほうが早いと思います」
「はっ?」
「だって彼女は、聖女様、なのですから」
「――――えっ?」
この宗教は、大丈夫なのだろうか。
先ほど、彼女が提案してくれたように中庭へと案内された。
綺麗な花壇が美しい、簡素ながらも優雅な中庭だった。
そこにポツリと置かれたテーブルセットへと腰掛ける。
「いやぁ、まさかこんな形でお会いできるなんて、なんて私は幸運なんでしょう~」
体を左右に揺らしながら満面の笑みを浮かべる彼女はまるで少女のような印象を受ける。
見た目からして同い年なのだろうが、精神年齢は5歳は下なのではないだろうか。
とはいえ、この国の王子を目の前にしてここまで自然体でいられるといのは、ものすごい特技なのかもしれないが。
運ばれてきたティーセットには目もくれず僕を観察する彼女に、紅茶を啜りながらすでに帰りたいとすら願っていた。
「あの、聖女様はどうして僕をこんなところへ?」
ふと思った疑問を彼女に投げかける。
その疑問に、彼女はなんでもないように答えた。
「だって貴方はこの国の英雄を前世に持つ稀有な存在ですよ。話をしていて損はないじゃないですか!」
な、なんだろう。
物凄く嫌な言い方をされた気がする。
まるで珍獣だとでもいわれているような、そんな気分だ。
一気に気分が沈んでいく。
これなら、教皇と対峙していたほうがまだマシだったかもしれない。
「う~ん、まぁ知ってはいますがね」
案外あっさりと彼女はその存在に心当たりがあると言った。
しかし、彼女もあまり要領を得ないようだ。
その反応を見て、少々不安になってくる。
やはりエスティの前世は彼女ではないのだろうか。
「彼女はですね、何と言いますか。端的に言って、このエヒム教の汚点の一部なのですよ」
「汚点、ですか?」
信じられない。
僕の知っている彼女からは、汚点になるような行動をするような人には見えなかった。
むしろ、讃えられていても良いくらいの人格者だったように思うのだが。
「彼女が悪いわけではありません。それは誓って、彼女の名誉のために断言します。しかし、あの時代のエヒム教の上層部は完全に腐りきっていましてね」
彼女が悪いわけではないのに、どうして彼女に汚名が着せられるのか、意味が分からない。
しかし、彼女はその事情を全て知っているようだった。
「200年も前の話ですし、相手が殿下ですからいうのですがぁ。まぁ、その、お金ですよ」
そう言って、指で円を描いた。
困ったように笑う彼女は、おそらくその事実をあまり良しとしていないのだろう。
こんななりでも、聖女らしいところはあるみたいだ。
しかし、彼女は見るからにおかしい恰好だった。
シスター服のはずなのに、下半身を隠す布の面積は少なく、破廉恥も良いところだ。
そちらに布が足りないはずなのに、なぜか袖は彼女の手をすっぽり包み込むほどの長さをしている。
しかし、御髪は教皇と同じように白髪で青い瞳は海を切り取ったような深い色をしていた。
そしてどこか、彼女はエスティに似ていた。
「1人でお楽しみしていないで、私にもわけてほしいのですよ! 独り占めは感心しませんですよぉ」
とはいえ、その美しさもこの可笑しな恰好と珍妙な話し方で全てが台無しとなっている。
一体どのように育てば、彼女のような人間が生まれるのだろうか。
不貞腐れた様子の彼女の標的は、どうやら教皇らしい。
彼にここまで失礼な態度を取れるなんて、まさか身内か何かなのだろうか。
まぁ、彼の身内ならばこの可笑しさにも納得だが。
カツカツと小気味の良い音を室内に響かせながら、彼女はこちらへ向かってくる。
正確には、真っ直ぐ僕の方へと近づいてきた。
「はじめましてヴェリタス殿下。お会いできてとっても光栄なのです」
頭を垂れたものの、すぐに顔を上げるとニッコリとこちらに笑顔を見せた。
その姿に狼狽える。
「えっと、あの……」
なんだか、お茶らけているのにその綺麗な顔立ちから邪険にしにくい。
今までにないタイプに、すでに翻弄されていた。
「さぁ、教皇様との話なんてつまらないでしょう? 私と綺麗な中庭でお話しましょー!」
手を取られ、半ば強引に彼女に連れられそうになる。
流石に、男の僕がその力に流されることはなかったが、その細い腕からは考えられないほどの力を彼女から感じた。
「ま、待ってください。私にはまだ、教皇様に聞きたいことがっ」
「あの方に聞いても私に聞いても、さして答えは変わらないのですよ! ささっ、私と一緒に参りましょー!」
「でもっ!」
あそこには意識を無くした兄上がっ。
そう言おうとして、彼女はこちらに振り向くとニカッと笑った。
「だいじょーぶです、とって食われたりしませんから」
なぜか、その言葉と笑顔に何も口に出せなかった。
「ヴァリタス殿下」
天から降ってきたような声がして、教皇の方へ視線を向ける。
彼は彼女の登場にやや疲れ気味になっているものの、その物腰の柔らかさは依然として崩してはいなかった。
「エルテシア様というのは、聖女様なのですよね? でしたら、彼女に聞いたほうが早いと思います」
「はっ?」
「だって彼女は、聖女様、なのですから」
「――――えっ?」
この宗教は、大丈夫なのだろうか。
先ほど、彼女が提案してくれたように中庭へと案内された。
綺麗な花壇が美しい、簡素ながらも優雅な中庭だった。
そこにポツリと置かれたテーブルセットへと腰掛ける。
「いやぁ、まさかこんな形でお会いできるなんて、なんて私は幸運なんでしょう~」
体を左右に揺らしながら満面の笑みを浮かべる彼女はまるで少女のような印象を受ける。
見た目からして同い年なのだろうが、精神年齢は5歳は下なのではないだろうか。
とはいえ、この国の王子を目の前にしてここまで自然体でいられるといのは、ものすごい特技なのかもしれないが。
運ばれてきたティーセットには目もくれず僕を観察する彼女に、紅茶を啜りながらすでに帰りたいとすら願っていた。
「あの、聖女様はどうして僕をこんなところへ?」
ふと思った疑問を彼女に投げかける。
その疑問に、彼女はなんでもないように答えた。
「だって貴方はこの国の英雄を前世に持つ稀有な存在ですよ。話をしていて損はないじゃないですか!」
な、なんだろう。
物凄く嫌な言い方をされた気がする。
まるで珍獣だとでもいわれているような、そんな気分だ。
一気に気分が沈んでいく。
これなら、教皇と対峙していたほうがまだマシだったかもしれない。
「う~ん、まぁ知ってはいますがね」
案外あっさりと彼女はその存在に心当たりがあると言った。
しかし、彼女もあまり要領を得ないようだ。
その反応を見て、少々不安になってくる。
やはりエスティの前世は彼女ではないのだろうか。
「彼女はですね、何と言いますか。端的に言って、このエヒム教の汚点の一部なのですよ」
「汚点、ですか?」
信じられない。
僕の知っている彼女からは、汚点になるような行動をするような人には見えなかった。
むしろ、讃えられていても良いくらいの人格者だったように思うのだが。
「彼女が悪いわけではありません。それは誓って、彼女の名誉のために断言します。しかし、あの時代のエヒム教の上層部は完全に腐りきっていましてね」
彼女が悪いわけではないのに、どうして彼女に汚名が着せられるのか、意味が分からない。
しかし、彼女はその事情を全て知っているようだった。
「200年も前の話ですし、相手が殿下ですからいうのですがぁ。まぁ、その、お金ですよ」
そう言って、指で円を描いた。
困ったように笑う彼女は、おそらくその事実をあまり良しとしていないのだろう。
こんななりでも、聖女らしいところはあるみたいだ。
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