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第4章
192.波乱の朝
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次の日の朝、お父様が朝早くから出掛けてしまったばっかりにお母さまと朝食を取る羽目になった。
相変わらず1人で食事を取るのを嫌がるのだから面倒だ。
全く、付き合う私の身にもなってほしい。
そのくせ、ため息を吐きながら食べるのをやめてほしい。
他の家族がいるときはそんな行儀の悪いことなど一切しないので、おそらく私と食事をする時しかしないのだろう。
それほど私と一緒にいるのが嫌らしい。
自分から呼んだくせに、我がままな人だ。
母の斜向かいの席に着いて食事を始めるが、母が一方的に話をするのみで私は口を挟まない。
以前会話でもしようかと思って受け答えをしたものの、更に機嫌が悪くなってしまったからだ。
この人は、ただ単に黙って話を聞いてくれる相手がいればそれで満足なのだと思う。
こんな憂鬱な朝食なら取らない方がずいぶんとマシだ。
暗い顔になりながらフォークを持ち上げたとき、食堂の扉が開く音がした。
既に朝食は脇に運ばれている。
一体なんだろうとそちらを見やると、いつもはいないその姿があった。
引き籠っていた所為かどこかやぼったい姿だったが、ちゃんと自分の足でここまできた意志が彼女の瞳にはあった。
「シ――――」
「シルビアッ!!」
私が呼ぶより早く、母が大きな声でその名前を呼んだ。
食事の席などということはすでに母の頭の中にはなかったのだろう。
シルビアを抱きしめると、目じりを滲ませ満面の笑みの母がそこにいた。
体が硬直して動けない。
嬉しそうに笑う2人の姿が滲んでいく。
どうして。
あんなにもう、いらないと思ったものなのに。
どうしてまた私は、囚われそうになっているの?
そんなはずないのに、何かが零れそうで怖かった。
まだ、未練があると思いたくない。
そう、必死に思ってせき止めるしかなかった。
母の抱擁を恥ずかしがりつつ受け止めるシルビア。
と、そのときシルビアは私を見つけ、微笑んだ。
それは悪意などどこにもない、本当にうれしそうな微笑みだった。
その時私はやっと我に返ることができた。
「さぁシルビア。こちらに座って」
母は忙しなくシルビアを案内すると、傍に仕えていたメイド長に朝食を用意するように命令している。
母の隣を当たり前のように座るシルビアとそれを嬉しそうに見つめる母。
目の前に繰り広げられる景色がまるで自分とはかけ離れたもののように見えた。
まるで私だけそこにいないみたいに自然だった。
母はシルビアの前ではあんなに綺麗に笑うのか。
それは昔の、もういないと思っていた母と同じ人だった。
しかし、その母がいたのも束の間だった。
シルビアは自分の食事が運ばれてくる前に、自分の口で転校したいと母に申し出た。
そこからが修羅場の始まりだった。
「そんなの、許されるはずがないでしょう!」
机を叩きこそしなかったが、母の顔はまるで般若のように険しい。
親の仇でも見つけたのかと感じさせるほど、そこには殺気に似た何かがあった。
一体、母がどうしてここまで怒っているのか、私もシルビアもわからなかった。
いつもは優しい母が怒ったのは、シルビアにとっては余程ショックだったのだろう。
泣きこそしてはいないものの、今にも零れ落ちそうな涙を瞳一杯に溜めた彼女が助けを求めるように私を見つめた。
それがいけなかった。
「……お前ね、お前の仕業ね!!」
母はシルビアの視線の先を捉えていた。
母はシルビアをよく見ているのだろう。
私が傷ついていても、母は気づきもしないのに。
私に飛びかかろうとする母を、周りにいた使用人たちが3人がかりで抑え込んでいる。
男性に取り押さえられていても尚、母はその拘束から逃れようと必死に藻掻いていた。
「許さない、許さないわよっ! 一体どれほど私たちを苦しめれば気が済むのよ!!」
母の憎悪が私にまで届いた。
シルビアが恐怖のあまり泣いているのが見える。
でも、母が邪魔してシルビアを慰めることが出来なかった。
私を見つめるシルビアの瞳は、恐怖と不安で揺れていた。
まるで虐められている小さな小鳥のようだった。
だめ。
このままではまたあの部屋に引き籠ってしまう。
今だ蠢く母に、どうにかしてシルビアの意志を届けようと声を張り上げる。
「お母さま、シルビアは苦しんでいます。あの学院でなくても、他にも良い学び舎はたくさんあるはずです。どうかシルビアを助けてあげてください」
「お黙り! そんなの許せるはずないでしょう! あの子はヴァリタス様と婚約させる予定なのだから!!」
えっ?
な、何を言っているのかわからない。
ヴァリタスと婚約?
どうしてシルビアが?
だって、だってあの人は……。
思考がめちゃくちゃになって、何も考えられない。
「お前なんかっ……。お前なんか正体が分かった時に、捨ててしまえば良かったのよ!!」
それは私にとって、止めを刺すような言葉だった。
はっと息を飲んだ。
しかし、空気が肺に届いた感覚がない。
どうしようもなく胸が苦しくて堪らなかった。
その場に居たくなくて、勢いのまま食堂を後にする。
気が付いた時には、馬車に揺られていた。
隣に座るミリアの強い手の温もりだけを、感じていた。
相変わらず1人で食事を取るのを嫌がるのだから面倒だ。
全く、付き合う私の身にもなってほしい。
そのくせ、ため息を吐きながら食べるのをやめてほしい。
他の家族がいるときはそんな行儀の悪いことなど一切しないので、おそらく私と食事をする時しかしないのだろう。
それほど私と一緒にいるのが嫌らしい。
自分から呼んだくせに、我がままな人だ。
母の斜向かいの席に着いて食事を始めるが、母が一方的に話をするのみで私は口を挟まない。
以前会話でもしようかと思って受け答えをしたものの、更に機嫌が悪くなってしまったからだ。
この人は、ただ単に黙って話を聞いてくれる相手がいればそれで満足なのだと思う。
こんな憂鬱な朝食なら取らない方がずいぶんとマシだ。
暗い顔になりながらフォークを持ち上げたとき、食堂の扉が開く音がした。
既に朝食は脇に運ばれている。
一体なんだろうとそちらを見やると、いつもはいないその姿があった。
引き籠っていた所為かどこかやぼったい姿だったが、ちゃんと自分の足でここまできた意志が彼女の瞳にはあった。
「シ――――」
「シルビアッ!!」
私が呼ぶより早く、母が大きな声でその名前を呼んだ。
食事の席などということはすでに母の頭の中にはなかったのだろう。
シルビアを抱きしめると、目じりを滲ませ満面の笑みの母がそこにいた。
体が硬直して動けない。
嬉しそうに笑う2人の姿が滲んでいく。
どうして。
あんなにもう、いらないと思ったものなのに。
どうしてまた私は、囚われそうになっているの?
そんなはずないのに、何かが零れそうで怖かった。
まだ、未練があると思いたくない。
そう、必死に思ってせき止めるしかなかった。
母の抱擁を恥ずかしがりつつ受け止めるシルビア。
と、そのときシルビアは私を見つけ、微笑んだ。
それは悪意などどこにもない、本当にうれしそうな微笑みだった。
その時私はやっと我に返ることができた。
「さぁシルビア。こちらに座って」
母は忙しなくシルビアを案内すると、傍に仕えていたメイド長に朝食を用意するように命令している。
母の隣を当たり前のように座るシルビアとそれを嬉しそうに見つめる母。
目の前に繰り広げられる景色がまるで自分とはかけ離れたもののように見えた。
まるで私だけそこにいないみたいに自然だった。
母はシルビアの前ではあんなに綺麗に笑うのか。
それは昔の、もういないと思っていた母と同じ人だった。
しかし、その母がいたのも束の間だった。
シルビアは自分の食事が運ばれてくる前に、自分の口で転校したいと母に申し出た。
そこからが修羅場の始まりだった。
「そんなの、許されるはずがないでしょう!」
机を叩きこそしなかったが、母の顔はまるで般若のように険しい。
親の仇でも見つけたのかと感じさせるほど、そこには殺気に似た何かがあった。
一体、母がどうしてここまで怒っているのか、私もシルビアもわからなかった。
いつもは優しい母が怒ったのは、シルビアにとっては余程ショックだったのだろう。
泣きこそしてはいないものの、今にも零れ落ちそうな涙を瞳一杯に溜めた彼女が助けを求めるように私を見つめた。
それがいけなかった。
「……お前ね、お前の仕業ね!!」
母はシルビアの視線の先を捉えていた。
母はシルビアをよく見ているのだろう。
私が傷ついていても、母は気づきもしないのに。
私に飛びかかろうとする母を、周りにいた使用人たちが3人がかりで抑え込んでいる。
男性に取り押さえられていても尚、母はその拘束から逃れようと必死に藻掻いていた。
「許さない、許さないわよっ! 一体どれほど私たちを苦しめれば気が済むのよ!!」
母の憎悪が私にまで届いた。
シルビアが恐怖のあまり泣いているのが見える。
でも、母が邪魔してシルビアを慰めることが出来なかった。
私を見つめるシルビアの瞳は、恐怖と不安で揺れていた。
まるで虐められている小さな小鳥のようだった。
だめ。
このままではまたあの部屋に引き籠ってしまう。
今だ蠢く母に、どうにかしてシルビアの意志を届けようと声を張り上げる。
「お母さま、シルビアは苦しんでいます。あの学院でなくても、他にも良い学び舎はたくさんあるはずです。どうかシルビアを助けてあげてください」
「お黙り! そんなの許せるはずないでしょう! あの子はヴァリタス様と婚約させる予定なのだから!!」
えっ?
な、何を言っているのかわからない。
ヴァリタスと婚約?
どうしてシルビアが?
だって、だってあの人は……。
思考がめちゃくちゃになって、何も考えられない。
「お前なんかっ……。お前なんか正体が分かった時に、捨ててしまえば良かったのよ!!」
それは私にとって、止めを刺すような言葉だった。
はっと息を飲んだ。
しかし、空気が肺に届いた感覚がない。
どうしようもなく胸が苦しくて堪らなかった。
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