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第5章
213.断罪の始まり
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急いで教室へ向かった。
教室が見えてきたところで速度を緩めると、息を整える。
目の前まで来ると気持ちを落ち着かせるため深いため息を吐くと意を決して教室のドアを開けた。
教室の中はいつも通りの昼休みの様相である。
しかし、私が足を踏み入れた途端僅かに話声が小さくなった。
まぁ、今まで目立った行動をとったことなんてない人がいきなり時間差で現れるんだもの。
ちょっと気になってしまうのも無理はないでしょうね。
とはいえ、それだけではないのでしょうけど。
コツコツと響く足音が聞こえそちらに目を向ける。
「一体いままでどこにいたの?」
ナタリーが近づき、開口一番にそう告げた。
彼女の目つきは鋭く、私に敵意を向けているのは一目瞭然だ。
しかし、ここで怯むわけにはいかない。
彼女の迫力に気圧されていることを悟られないよう、毅然とした態度を取ると彼女の問いに答えた。
「ごめんなさい。少し体調を崩してしまって……」
「嘘ね、こんな手紙を書ける人間が体調が悪いわけないもの」
潮らしい演技をしても無駄だった。
私に見向きもせず、ナタリーは今朝セイラの靴箱に仕込んだ手紙を勢いよく机に叩きつけた。
これだけ見ればナタリーが私をいじめているようにも見えるが、周りの人間の目はそんな風に私たちを見ていなかった。
もしかしたら、多少の根回しをしているのかもしれない。
彼女ならば今朝の今でそこまでできるだろう。
そう考えると人脈というのがどれほど世渡りに重要なのかを認識させられる。
思った以上に不利な状況に陥っていることに喜べば良いのか落ち込めば良いのかわからないでいると、ナタリーの後ろで体を縮こませているセイラの姿が目に入った。
こちらを心配そうに見つめる瞳には、まだ私に対しての信頼を含ませているようにも思える。
この子は一体どこまですれば私への友情を捨ててくれるのだろうか。
しかし、彼女が私を信じ続けていてくれるのは有難い。
そうすれば、彼女の美しさがより一層強調され私の悪女っぷりがより引き立つのだから。
だからもっと。
もっと、貴方の美しさを見せてほしい。
そして私の醜さを皆に教えてあげてほしい。
そうすれば私の願いが叶う。
これから起こることに期待しつつ、私は口を開いた。
「どうしたの? そんなに怒って。その手紙は一体なぁに?」
知らないというよりは、相手を躱すように。
意地悪さを演出しながら問いかける。
そんな私を見たナタリーは更に顔を歪ませた。
「あくまで白を切るつもりなのね。でも、これだけじゃないのよ」
ピクリと眉が動いた。
彼女の言ったことに心当たりはある。
だが、その予想はあまりに都合が良すぎるものだった。
まさか、もう白状したとか?
いくら何でも早すぎる。
しかし、ナタリーの顔を見るに更なる証拠があるような雰囲気だ。
だとしたら、彼女たちが早々に私を切り捨てたということ。
だが、そんな事をしてベルフェリトを敵に回す覚悟が彼女たちにあるとは思えない。
巡る思考の中で私の疑問を一掃したのは、とある令嬢の声だった。
「エスティ様」
呼ばれて後ろを振り返る。
そこにいたのは、ライリ・マイリエス伯爵令嬢。
あのいじめっ子3人組のリーダー格の令嬢だった。
後ろには彼女の取り巻きで3人組のメンバーであるアペル・ドリエス伯爵令嬢とミクリ・ロイネル子爵令嬢も控えている。
3人とも険しい表情で私を睨み付けていた。
特にミクリ・ロイネル子爵令嬢は私に直接嫌味な指図を受けていたということもあり、憎悪にも似た視線を向けている。
確かに酷い言い方をしたけれど、そこまで恨むようなものでもなかったような気がする。
彼女たちに協力を仰いでから1カ月も経っていない。
つまり、そこまで恨みを積み重ねられるほど私は嫌味な行動をとった覚えはないのだ。
今の私としては有難い誤算ではあるけれど、あれだけしかしないでここまで恨まれるのなら、やはり人間関係というのは難しいものだと思う。
それをいとも簡単に形成しているナタリーは一体どんな魔法を使っているのだろう。
本当に恐ろしい人だ。
改めてナタリーに関心しつつ、鋭い視線を向けてくる彼女たちに同じような視線を返した。
一瞬怯んだものの、いまだに私を睨み続ける彼女たちに違和感を覚える。
なんだろう。
どうしてこんなにも悪意を孕んだ瞳で私を睨み返すことができるんだろう。
そう、彼女たちの中に罪の意識など毛ほども感じないのだ。
人を散々いじめて傷つけてきたのにも関わらず、彼女たちから罪悪感が全く感じない。
それどころか、正義感すら感じるほどの真っ直ぐな瞳を私に向けてくるのだ。
思わず身震いしそうになり、両手で両肘を掴んでなんとか押さえつけた。
いつかの日に見た瞳と全く同じもの。
それがまたしても私に向けられている。
今世では初めての感覚に、それでも弱い姿を見せないように振舞えたのは前世の記憶のおかげだろう。
一体どうすれば、こんなにも自分たちを正当化できる?
わからない。
やっぱり私にはわからない。
「貴方たち、覚悟はできているの? ベルフェリト家を敵に回すことがどういうことなのか分かって――――」
「その脅しは効かないわよ、エスティ」
動揺しつつ、それでも気丈に振舞って絞り出した言葉。
しかしそれはナタリーの言葉によって遮られた。
教室が見えてきたところで速度を緩めると、息を整える。
目の前まで来ると気持ちを落ち着かせるため深いため息を吐くと意を決して教室のドアを開けた。
教室の中はいつも通りの昼休みの様相である。
しかし、私が足を踏み入れた途端僅かに話声が小さくなった。
まぁ、今まで目立った行動をとったことなんてない人がいきなり時間差で現れるんだもの。
ちょっと気になってしまうのも無理はないでしょうね。
とはいえ、それだけではないのでしょうけど。
コツコツと響く足音が聞こえそちらに目を向ける。
「一体いままでどこにいたの?」
ナタリーが近づき、開口一番にそう告げた。
彼女の目つきは鋭く、私に敵意を向けているのは一目瞭然だ。
しかし、ここで怯むわけにはいかない。
彼女の迫力に気圧されていることを悟られないよう、毅然とした態度を取ると彼女の問いに答えた。
「ごめんなさい。少し体調を崩してしまって……」
「嘘ね、こんな手紙を書ける人間が体調が悪いわけないもの」
潮らしい演技をしても無駄だった。
私に見向きもせず、ナタリーは今朝セイラの靴箱に仕込んだ手紙を勢いよく机に叩きつけた。
これだけ見ればナタリーが私をいじめているようにも見えるが、周りの人間の目はそんな風に私たちを見ていなかった。
もしかしたら、多少の根回しをしているのかもしれない。
彼女ならば今朝の今でそこまでできるだろう。
そう考えると人脈というのがどれほど世渡りに重要なのかを認識させられる。
思った以上に不利な状況に陥っていることに喜べば良いのか落ち込めば良いのかわからないでいると、ナタリーの後ろで体を縮こませているセイラの姿が目に入った。
こちらを心配そうに見つめる瞳には、まだ私に対しての信頼を含ませているようにも思える。
この子は一体どこまですれば私への友情を捨ててくれるのだろうか。
しかし、彼女が私を信じ続けていてくれるのは有難い。
そうすれば、彼女の美しさがより一層強調され私の悪女っぷりがより引き立つのだから。
だからもっと。
もっと、貴方の美しさを見せてほしい。
そして私の醜さを皆に教えてあげてほしい。
そうすれば私の願いが叶う。
これから起こることに期待しつつ、私は口を開いた。
「どうしたの? そんなに怒って。その手紙は一体なぁに?」
知らないというよりは、相手を躱すように。
意地悪さを演出しながら問いかける。
そんな私を見たナタリーは更に顔を歪ませた。
「あくまで白を切るつもりなのね。でも、これだけじゃないのよ」
ピクリと眉が動いた。
彼女の言ったことに心当たりはある。
だが、その予想はあまりに都合が良すぎるものだった。
まさか、もう白状したとか?
いくら何でも早すぎる。
しかし、ナタリーの顔を見るに更なる証拠があるような雰囲気だ。
だとしたら、彼女たちが早々に私を切り捨てたということ。
だが、そんな事をしてベルフェリトを敵に回す覚悟が彼女たちにあるとは思えない。
巡る思考の中で私の疑問を一掃したのは、とある令嬢の声だった。
「エスティ様」
呼ばれて後ろを振り返る。
そこにいたのは、ライリ・マイリエス伯爵令嬢。
あのいじめっ子3人組のリーダー格の令嬢だった。
後ろには彼女の取り巻きで3人組のメンバーであるアペル・ドリエス伯爵令嬢とミクリ・ロイネル子爵令嬢も控えている。
3人とも険しい表情で私を睨み付けていた。
特にミクリ・ロイネル子爵令嬢は私に直接嫌味な指図を受けていたということもあり、憎悪にも似た視線を向けている。
確かに酷い言い方をしたけれど、そこまで恨むようなものでもなかったような気がする。
彼女たちに協力を仰いでから1カ月も経っていない。
つまり、そこまで恨みを積み重ねられるほど私は嫌味な行動をとった覚えはないのだ。
今の私としては有難い誤算ではあるけれど、あれだけしかしないでここまで恨まれるのなら、やはり人間関係というのは難しいものだと思う。
それをいとも簡単に形成しているナタリーは一体どんな魔法を使っているのだろう。
本当に恐ろしい人だ。
改めてナタリーに関心しつつ、鋭い視線を向けてくる彼女たちに同じような視線を返した。
一瞬怯んだものの、いまだに私を睨み続ける彼女たちに違和感を覚える。
なんだろう。
どうしてこんなにも悪意を孕んだ瞳で私を睨み返すことができるんだろう。
そう、彼女たちの中に罪の意識など毛ほども感じないのだ。
人を散々いじめて傷つけてきたのにも関わらず、彼女たちから罪悪感が全く感じない。
それどころか、正義感すら感じるほどの真っ直ぐな瞳を私に向けてくるのだ。
思わず身震いしそうになり、両手で両肘を掴んでなんとか押さえつけた。
いつかの日に見た瞳と全く同じもの。
それがまたしても私に向けられている。
今世では初めての感覚に、それでも弱い姿を見せないように振舞えたのは前世の記憶のおかげだろう。
一体どうすれば、こんなにも自分たちを正当化できる?
わからない。
やっぱり私にはわからない。
「貴方たち、覚悟はできているの? ベルフェリト家を敵に回すことがどういうことなのか分かって――――」
「その脅しは効かないわよ、エスティ」
動揺しつつ、それでも気丈に振舞って絞り出した言葉。
しかしそれはナタリーの言葉によって遮られた。
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