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第5章
214.証拠の確証
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ナタリーは2人きりでもないのに私を呼び捨てにしていた。
令嬢としての体裁を忘れるほど彼女は怒っているのかもしれない。
とはいえそんな彼女の態度を責める存在などここにはいなかった。
今、この場においては私よりも彼女の存在の方が上だとでも言うように。
皆、私という存在に疑いの目を向けていた。
この状況を前に怯まない私を誰か褒めてほしい。
「一体どういう意味?」
今度はナタリーを睨みつける。
しかし、彼女の怒りは相当のものなのだろう。
私に敵意を向けられても尚、彼女の瞳には一切の揺るぎもなかった。
「どういう意味なのかは貴方が一番分かっているのではなくて? 彼女たちを利用してセイラをいじめていたらしいじゃない」
やはり、裏切ったということか。早すぎる寝返りに怒りを覚えたように彼女たちを睨みつけた。ポーズであるとはいえ、ここまで何度も人を睨みつけることなど今までもこれからもきっと一生できないような経験だろう。まぁ、できれば一生味わいたくなかった経験ではあるけれど。
ナタリーの信じられないような発言に周りにいたクラスメイトたちやいつから集まったのか、廊下にいる野次馬の生徒たちがひそひそと小声で話をし始めた。どうやら順調に私の評判は落ちているようだ。
「私がいじめをしてたですって? 何を言っているのか全然わからないのだけど」
またしてもナタリーをあしらうように言う。
すると、我慢の限界だったのだろう。
彼女は先ほど机に叩きつけた手紙の上に、さらに数枚の小さなメモ用紙を同様に机の上に叩きつけた。バンッという大きな音がなり、彼女がどれほど怒っているのかが伝わるようだった。
「これが証拠よ」
そこに広がった紙切れたち。
それは私がいじめっ子3人組に指示を出すときに用いたメモ用紙だった。
しかし、それは普通のメモ用紙ではない。
そう、そのメモ用紙の正体は……。
「上位貴族の中には私物の中に家紋を刻んだものを使用するところもある。特に公爵家ほどの地位の方たちであれば、それは小さな文具にまで及ぶわ。そしてそれは、この小さなメモ用紙も例外ではない」
そう言って、彼女は一枚のメモを手に取り目線の高さまで持ち上げた。
私に見せつけるように。
野次馬たちの声が一層ざわざわと大きくなっていく。
どうやら彼らにも、メモ用紙に施された模様が見えたようだ。
ナタリーが丁寧に説明してくれた通り。
私たちベルフェリト家は小さな文具であっても家紋が刻まれたものを使うことが普通だ。いわば一家の伝統と言っても良い。それはいつどんな場所、どんな状況においてもベルフェリト家の人間であることを意識することを忘れないための、いわば戒めのようなもの。
そのため、私が彼女たちに渡していたものの中にもその家紋は刻まれていたのである。
もちろんわざとである。
ベルフェリト家の家紋だと分かるようなものを選んで渡した。
私が指示した証拠になるように。
しかし、それすらも私が仕組んだものだとナタリーは気づいていない。
もし気づいていれば、こんな大勢の前で私の悪事を晒すようなことはしないはずだ。
だって、彼女は優しい人だから。
もしそれに気づいたとしたら、私が心の底から何を望んでいるのかを悟っていたはず。ならば彼女が私がわざわざ傷つくような舞台を用意するはずがない。たとえ大事な友人をいじめていたのが3年以上の付き合いになる友人だったとしても。
彼女はそれを咎めても、こんな風に晒し物にできるほど冷たい人間ではないのだ。
だからこそ。
彼女がどこまで私を見放したのかを実感することができた。
「つまり、そのメモが証拠と言いたいわけね」
一番の不安要素であったナタリーからの信用が無くなっていることに安堵しつつ、その感情を一切漏らさぬよう毅然とした態度を装って彼女と対峙する。彼女と私は今、確実に敵同士。そんな相手に隙を見せることのないよう。
私はお父様を思い出しながら彼女と向かいあっていた。
「でもそれがあったところで私が犯人だと証明できるとは限らないのではないの? そんなもの、私を落としめるために偽物を作って私を犯人に仕立て上げようとした人物が用意したものかもしれないじゃない」
「証拠はメモ用紙だけじゃないわ。今朝セイラの靴箱に入っていた手紙にも同じ家紋が刻まれていたの。筆跡も同じものだったのよ」
「それだって偽物が用意した可能性だって捨てきれないでしょう?」
そういうとナタリーは少し険しい顔になった。
どうやら反論できないようだ。
はっきり言ってしまえば、ベルフェリト家の家紋が刻まれた手紙や便箋を偽装することなど不可能だ。
そもそも特注で作るそれらを手に入れることなどできはしない。家紋を刻む技術もそうだが、紙も普通のものではなくベルフェリト家のためにわざわざ作られたオリジナルのもの。
たとえ模造品を作ったとしても一瞬にして見分けられるほど、作るのが難しい代物なのだ。
しかし、それをナタリーは知らない。
だが、彼女にだってきちんと反論できる証拠を渡してある。
そしてそれに気づかない彼女ではないと私は信じていた。
令嬢としての体裁を忘れるほど彼女は怒っているのかもしれない。
とはいえそんな彼女の態度を責める存在などここにはいなかった。
今、この場においては私よりも彼女の存在の方が上だとでも言うように。
皆、私という存在に疑いの目を向けていた。
この状況を前に怯まない私を誰か褒めてほしい。
「一体どういう意味?」
今度はナタリーを睨みつける。
しかし、彼女の怒りは相当のものなのだろう。
私に敵意を向けられても尚、彼女の瞳には一切の揺るぎもなかった。
「どういう意味なのかは貴方が一番分かっているのではなくて? 彼女たちを利用してセイラをいじめていたらしいじゃない」
やはり、裏切ったということか。早すぎる寝返りに怒りを覚えたように彼女たちを睨みつけた。ポーズであるとはいえ、ここまで何度も人を睨みつけることなど今までもこれからもきっと一生できないような経験だろう。まぁ、できれば一生味わいたくなかった経験ではあるけれど。
ナタリーの信じられないような発言に周りにいたクラスメイトたちやいつから集まったのか、廊下にいる野次馬の生徒たちがひそひそと小声で話をし始めた。どうやら順調に私の評判は落ちているようだ。
「私がいじめをしてたですって? 何を言っているのか全然わからないのだけど」
またしてもナタリーをあしらうように言う。
すると、我慢の限界だったのだろう。
彼女は先ほど机に叩きつけた手紙の上に、さらに数枚の小さなメモ用紙を同様に机の上に叩きつけた。バンッという大きな音がなり、彼女がどれほど怒っているのかが伝わるようだった。
「これが証拠よ」
そこに広がった紙切れたち。
それは私がいじめっ子3人組に指示を出すときに用いたメモ用紙だった。
しかし、それは普通のメモ用紙ではない。
そう、そのメモ用紙の正体は……。
「上位貴族の中には私物の中に家紋を刻んだものを使用するところもある。特に公爵家ほどの地位の方たちであれば、それは小さな文具にまで及ぶわ。そしてそれは、この小さなメモ用紙も例外ではない」
そう言って、彼女は一枚のメモを手に取り目線の高さまで持ち上げた。
私に見せつけるように。
野次馬たちの声が一層ざわざわと大きくなっていく。
どうやら彼らにも、メモ用紙に施された模様が見えたようだ。
ナタリーが丁寧に説明してくれた通り。
私たちベルフェリト家は小さな文具であっても家紋が刻まれたものを使うことが普通だ。いわば一家の伝統と言っても良い。それはいつどんな場所、どんな状況においてもベルフェリト家の人間であることを意識することを忘れないための、いわば戒めのようなもの。
そのため、私が彼女たちに渡していたものの中にもその家紋は刻まれていたのである。
もちろんわざとである。
ベルフェリト家の家紋だと分かるようなものを選んで渡した。
私が指示した証拠になるように。
しかし、それすらも私が仕組んだものだとナタリーは気づいていない。
もし気づいていれば、こんな大勢の前で私の悪事を晒すようなことはしないはずだ。
だって、彼女は優しい人だから。
もしそれに気づいたとしたら、私が心の底から何を望んでいるのかを悟っていたはず。ならば彼女が私がわざわざ傷つくような舞台を用意するはずがない。たとえ大事な友人をいじめていたのが3年以上の付き合いになる友人だったとしても。
彼女はそれを咎めても、こんな風に晒し物にできるほど冷たい人間ではないのだ。
だからこそ。
彼女がどこまで私を見放したのかを実感することができた。
「つまり、そのメモが証拠と言いたいわけね」
一番の不安要素であったナタリーからの信用が無くなっていることに安堵しつつ、その感情を一切漏らさぬよう毅然とした態度を装って彼女と対峙する。彼女と私は今、確実に敵同士。そんな相手に隙を見せることのないよう。
私はお父様を思い出しながら彼女と向かいあっていた。
「でもそれがあったところで私が犯人だと証明できるとは限らないのではないの? そんなもの、私を落としめるために偽物を作って私を犯人に仕立て上げようとした人物が用意したものかもしれないじゃない」
「証拠はメモ用紙だけじゃないわ。今朝セイラの靴箱に入っていた手紙にも同じ家紋が刻まれていたの。筆跡も同じものだったのよ」
「それだって偽物が用意した可能性だって捨てきれないでしょう?」
そういうとナタリーは少し険しい顔になった。
どうやら反論できないようだ。
はっきり言ってしまえば、ベルフェリト家の家紋が刻まれた手紙や便箋を偽装することなど不可能だ。
そもそも特注で作るそれらを手に入れることなどできはしない。家紋を刻む技術もそうだが、紙も普通のものではなくベルフェリト家のためにわざわざ作られたオリジナルのもの。
たとえ模造品を作ったとしても一瞬にして見分けられるほど、作るのが難しい代物なのだ。
しかし、それをナタリーは知らない。
だが、彼女にだってきちんと反論できる証拠を渡してある。
そしてそれに気づかない彼女ではないと私は信じていた。
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