悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第5章

254.もううんざり

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「いいわ。どうせ教えてくれないのでしょう? それならないのも同じよ。いくら私を大事だと言ってくれたとしても、その根拠も教えてくれない。それなら初めからそんな事言わないで」
「っ⁈ 一体どうしたのですか? いきなり怒ったりして」

戸惑う白龍を無視して口を開く。
一度湧き上がった怒りを抑えることができなかった。

「いきなりじゃないわ。いきなりじゃないわよ! 私はずっと言ってた。どんなに残酷でも構わないから前世の事を教えてほしいって。それなのに、皆私のためだとしって教えてくれない。どうして私の事なのに、私が知っちゃいけないの?」

怒りなからなのかはわからないけれど、涙が零れて止まらない。
今まで溜め込んでいた苦痛を吐き出すように彼女にぶつけていた。

シリウスは困った顔をして黙り込んでしまう。

「……貴方の苦痛は理解できます。貴方には貴方自身の事を知る権利がある。しかし――――」

彼女は一旦言葉を切ると何かを覚悟したように私を見つめた。

「どうしても、貴方にはお教えすることはできないのです。私たちを恨んでも構いません。きっと教会の人々も黒龍も覚悟の上でしょう。例え貴方に嫌われ憎悪を向けられたとしても、私たちは貴方の事を失うわけにはいかないのです」

白龍はきっぱりとそう言い切った。

あのとき黒龍がリーヴェの私室で日記を見せてくれたのは、私に甘かったからだろう。
200年もの間待ち続けた主が戻ってきたのなら、あそこまでしてしまうのは仕方ないのかもしれない。

でも、白龍も教会の人たちも黒龍のようにはいかない。

彼女の意志の強さを見るに、どうやら私がどんなに懇願したとしても何も教えてはくれないだろう。
なら、怒りをぶつけたところで意味なんてない。

「わかってください。貴方とオルフェリウスを守るためなのです」
「オルフェリウス……」

聖女様が言っていた教皇の事だろうか。
それとも誓約だのなんだのの話だろうか。

一体オルフェリウスの一族に何があるのだろう。
きっと聞いたところで教えてはくれないのだろうけど。

「もう止めましょう。良い加減お腹が減っちゃったわ」

 嘘だけど、これ以上彼女と険悪になりたくなかった。今の私にはこの学院で唯一の憩いの場であるこの場所を、延いては彼女を失うのは相当のダメージになる。

ただでさえ日常的にストレスの多い人生を送っているのだ。
これ以上精神的な負担を増やすわけにはいかない。

彼女の脇に並べられていた3つの椅子のうち、彼女から一番遠くの席に腰かけると持っていた小包を膝の上に乗せた。

今朝ミリアに渡されたそれを開くと中には小さく三角に切り分けられたサンドウィッチが3つ入っていた。ダイエット中の女子でさえ不満を抱くようなその量でも、私にとっては多い。

一つを手に取り、一口齧る。
おいしい、とは感じるもののどうしても胃に負担が掛かっているような感覚を覚えてしまう。

結局3口ほど小さく齧った後は口に運ぶことができなかった。

その様子をじっと見つめていたシリウスが徐に口を開く。

「もしかして、もう食べられないのですか?」

言葉は少々失礼だけど驚愕したような物言いは私を心配してのことだろう。
だけど、今までどんなにお昼の量が少なくても口を挟んでこなかったのに、今日は一体どうしたのだろう。

表情から察するに、気まずくて話しかけたわけではなさそうだし。
彼女への返事を言えないで固まっているとコツコツと小気味の良い音をたてて彼女が近寄ってきた。

目の前まで来ると両手を伸ばしてくる。

「!」

 彼女はいきなり両手で私頬を包み込むと、目の前まで顔を近づけた。突然の行動に驚きのあまり身を引こうとするも、頬を包む彼女の両手は思った以上に強い力で動こうとしたのに微動だにしない。

口づけが出来そうなほど近くで見つめる彼女の瞳に恥ずかしくなって目を逸らす。

綺麗な顔が近づいてくるのは嫌な気はしないけど、ちょっとドキドキしちゃうのよね。

いや、それにしても本当に美形。
って見惚れている場合じゃない。

シリウスはどうしていきなりこんなことを……。
意味のない事はしない人だからこれにもきっと何か意味があるのだろうけど。恥ずかしいやら困るやらでどうして良いかわからずただ黙り込んでしまった。

しかし、それもほんの数秒の出来事でふとした瞬間にスッと彼女の手から解放された。ホッとして下を向くと、彼女の様子を見ようと顔を上げる。そこにいたのは、目を見開きひどく困惑した彼女だった。

見るからに様子がおかしい事がわかる。

さっきから、一体どうしたのだろう。

「どうして……。なぜ、ここまで怨念が」

小さく呟いた彼女から聞こえてきた言葉はどうみても独り言。
私の存在を意識から外すほどの事が彼女の中で起きているのだろう。

とはいえ、このまま忘れ去られてなかったことにされても困る。
だってどう考えても私のことでしょう?

様子のおかしい彼女に話掛けるのは勇気がいるけれど致し方ない。
恐る恐る私は彼女に話しかけた。
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