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1章 幼少期編 I
77.日常
しおりを挟む「タルタルソースの準備がされていましたぞ。楽しみですな」
シブメンはこうやって毎日昼食時に現れ、午後に私の魔導指導をしつつ読書タイムを過ごし、おやつを食べて魔導部に帰っていく。
たぶん仕事をしているのは午前中だけね……それも怪しいけど。
「イカがいたぞ!」
ベール兄さまも昼食とおやつの常連だ。
今までエスコートしてくれていた各々方は、パタリと離宮に顔を見せなくなった。
子守りが出来たとたんこれ? なんて不貞腐れもしたけど、今までが構われすぎていたのだ。感謝しなくてはいけませ……リボンくんだけでもカムバック!プリーズ。
「わたくしが来たときはお米を研いでいましたから、今日は『定食屋風』ですね」
「イカフライのタルタルソースがけですな」
「久しぶりの米だな。ジャコふりかけはあるか?」
厨房から『ありますよ~』と返事が返ってきた。最近のチギラ料理人はオカンのようだ。
◇…◇…◇
むふふ~。ご飯を炊いた今日は、お味噌汁もセットで出てくるのです。
毎回具が違うのでこれも楽しみなのだ。
そう───お・み・そ!
春に仕込んで夏の終わりに仕上がった、現在注目のNew調味料である。
ちょっと上の方がカビたけど、取り除いたら無事に生還しました。醤油もこのくらい早かったらいいのにね。
………………………………………………………
味噌の作り方
①大豆をよく洗い、水に1日漬ける。
②漬けておいた水ごと煮る(指で摘まんで潰れるくらいまで)
③網にあけて水気を切りつつ冷ます(煮汁は捨てない)
④大豆をミキサーでペースト状にする。
⑤米麹→塩→大豆ペースト→大豆の煮汁の順に混ぜる。
⑥玉状に固め、空気を抜く。
⑦味噌玉を容器に投げて押して、積み重ねていく。
⑧表面に塩を振りかける+落し蓋+重し…密封。
……そして待つべし。
………………………………………………………
「お待たせしました」
配膳手押車で昼食が運ばれてきた。
提案箱に私が入れた便利道具のひとつ。チギラ料理人はモニターだ。
ヌディは料理の配膳を邪魔しないように壁際に下がる。
手伝うことはない。これはチギラ料理人の領分なのだ。
予想通りの献立……
イカフライのタルタルが添えと、野菜盛りのワンディッシュ。キュウリの浅漬け、大根+刻みネギのお味噌汁。そしてホンワカ白米。ん~ジャパン。食器も和風っぽいのを取り揃えております。
「万物に感謝をっ」
ベール兄さまの元気な音頭で、いただきます。
「あふっ、サクッ、もふっ」
ベール兄さまはメインのイカフライから。
イカを初めて見たときは悲鳴を上げて大騒ぎしていたけど、一度食べたら好物のひとつになったみたい。
「ずずっ」
シブメンはお味噌汁から。
最初の焼きナスと厚揚げの味噌田楽からこっち、彼は味噌のコクに取りつかれている。
最近のお気に入りは味噌おにぎりね。竹皮に包んでお持ち帰りするほどなのです。
その焼きおにぎりは、焼かない派 vs. 焼く派……離宮メンバーの票は半分に割れた。私はどっちも好きだ。
「シャク、シャク、シャク」
今日は『ねこまんま』を食べたい気分だった。本当は冷や飯の方がいいのだけど。よいではないか、よいではないか。
「新しい食べ方ですな……シャク、シャク、ふむ」
「俺も。シャク、シャク、シャク。旨っ」
私がやると、とりあえずふたりはチャレンジしてみる。
ベール兄さまのごはんにはジャコがかけてあるから、なおさら美味しいだろう。
「かっこみ……口に掻き込む食べ方のお行儀は……」
悪いに決まってるな。
ヌディを見たら、静かに首を振られてしまった。
「離宮だけで許される食べ方ですな」
「米も、長いのも、味噌も、外にはないから、やらないぜ」
「麺のズルズルも、やっぱり駄目ですか?」
「似た食い物がないからなぁ。でも駄目だな。離宮だけだ」
「我々の特権でよいのではないですかな? 味噌も半分に減ってしまったし」
「お味噌は仕込み中のがありますから大丈夫ですよ。クスクス」
お米は世間に普及させるほどの量がまだない。
離宮で食べる分があれば私はいいけど、アルベール商会次第かなぁ。
「サクッ……おいひぃ」
衣のゴソゴソに、イカのプニンな弾力。たっぷりタルタルを掬って食べる。
白米の代わりにキャベツの千切りを食べるのが私流。とんかつ屋でキャベツをおかわりするタイプなのだ。
「イカのアゲルは、小麦粉も搾りかすも旨いよな。イカの食べ方は他にどんなのがあるんだ?」
「ベール兄さまがまだ食べていないのはスルメですね。天日干しした後に鉢炉の火で炙って食べるものです。おつまみか、おやつですね。そのままでも美味しいですけど、マヨネーズをつけて食べると最高なのです。七味(まだ三味しかそろっていない)を一振りするともっと美味しいのです」
熱燗とのセットが好きだった。
日本酒の作り方はわからない。将来飲みたくなったらどうしよう。
「ははは、また干しておきます。干し網をたくさん作ってもらってよかったですね」
チギラ料理人も割と干物が好きなのだ。
果物用、野菜用、魚介用。
毎日のように干していたらランド職人長のお弟子さんが作ってくれたのだ。大変重宝していますよ。
◇…◇…◇
「ゆっくり休んできてね、ヌディ」
静かに頭を下げてヌディは退室した。
私たちの昼食が粗方終わると、彼女は休憩として城人たちの食堂に向かう。雑事を済ませて再び離宮に来るのはおやつ時になってからだ。付添人はシブメンがいるので問題はない。付添人と言うか教師になるのだが。教師っぽいこともあまりしないけどね。
「静かな侍女だなぁ。時々いるの忘れるくらいだ」
「ヌディは淑やかですが情熱家ですよ。ワーナー先生と顔を合わせるたびに運命の再会をしたような雰囲気になって……実は密かに楽しんでいるのです」
ワーナー先生も、はにかんだ笑顔がなんだか可愛いのだ。
「ワーナーに大事にされているのでしょうな」
「そういえば、ゼルドラ魔導士長も愛妻家との噂を聞きましたが」
「あんな若造と比べられるのは心外ですな。年季が違いますぞ」
「父上と母上も仲いいよな。ルエ団長も惚気が凄いし。俺の周りそんなんばっかり」
「そのうちアルベール兄さまも加わりますね」
もう、そうなってるかな?
良きかな、良きかな。
そうそう、私語は解禁になっております。
アルベール兄さまが『お前の歌のせいで意味が無くなった』とか、相変わらず訳の分からないことを言っていました。
応援ありがとうございます!
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