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1章 幼少期編 I
87-1.北の視察1(Side ロッド王)
しおりを挟む【ロッド王視点】
妻が産気づく前に戻りたいという外向きの理由をつけ、今春の視察は早めの出発を先触れた。
子供たちにはもっと早く出発するように急かされていたが、これ以上早くは無理であった。
北方の雪解けの報が例年よりも遅かったのだ。
そのことだけでも娘は顔色を悪くしたものだ。
しかし理由はこれまでの大飢饉の心配から外れ『私の貴公子がお腹を空かせるなんてあり得ない!』と騒ぎ出した。
そう……リボンの婿入り先は、よりにもよって北の三領地のひとつ『オマー子爵領』なのだ。
娘のグルグルまわる姿は可愛らしかったが、笑い事では済まされない。
「王女経費からリボンくんへの結婚祝いを贈ります! 馬2頭。荷馬車1台。荷は『組立式魔導冷凍倉庫』と、リボンくんが好きなイティゴの砂糖煮! アルベール兄さま、計算してくださいぃぃ」
安直に食料そのものを贈ろうとしない点は、子供ながらに知恵を絞っていると感心した。
まぁ、自費で用意するのなら隊列に加えるには支障がない。娘の可愛い恋心を届けてやりたいとは思うが、事が起きたら荷は捨て置くだけだ。
「お父さま~。くれぐれも、くれぐれも、リボンくんを~~~」
今季から見送りの列に加わった娘の嘆きは注目の的となった。
人の目を気にしないのは今だけなのか、この先もなのか……
身重の妻が大事を取ってここにいなくてよかったと、思うことにしよう。
馬車の扉が開けられる音で、みなの視線がこちらを向く。
その一瞬を使い、妹を小脇に抱えて列から抜けるアルベールを目の端にとらえた。
「あれはお説教かなぁ、お尻ペンペンかなぁ」
今期も同行するルベールがクスリと笑った。
どのような形で噂が定着するのか、帰城の楽しみができたな。
自分の喉がクツクツと鳴った。
この小さな騒動も『視察先を二期続けて北にした不自然さ』の良い目くらましになるだろう。
オマー子爵に結婚祝いを届けて欲しいという、娘の我儘を聞いた父親を演じるのも悪くない。
オマー領に到着後は、それに合わせて開催される『ジャガの収穫祭』がある。
祭り輿しの鐘を鳴らすのは、ジャガ栽培の命を出した王の役目だ。
祭りもこの身を目立たせるのも、目くらましではあるが。
ティストームの玄関口を守る北の三領地及び隣接国
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ガーランド伯爵領 / ガイナ帝国
オマー子爵領 / マラーナ海洋王国
ヨーン男爵領 / トルドン王国
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