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2章 幼少期編 II
72.あのピンクはどうなった? 1
しおりを挟むかまぼこ作りにハマっているチギラ料理人が用意した昼食は、かまぼこ塩チャーハンとネギと生姜のとろみスープだ。それと野菜サラダの小皿も忘れてはならない。
かまぼこを入れたチャーハンはお肉を使ったものと違ってとてもさっぱりしている。
しかも美味しい上に、かまぼこのピンク部分が彩り的に大変お洒落になっていた。
私も前世で作ったはずのレシピなんだけどな……こんなにピンクは映えていなかった。
パラッと感と味については最早比べようもない。ちくせう。
かまぼこはチャーハンに入れる前にあれこれ楽しんできた味なのだが、今のところ一番おいしかったのは鉢炉で串焼きした笹かまもどきであった。
そのままでも美味しいが、シブメンのリクエストにより味噌田楽にしたら、最高のおやつになった。
シブメンは当たり前のように焼く前の笹かまと、味噌田楽の残り全部をテイクアウトしていった(串と薬味のネギも含む)
その後に笹かまの余分が無いと知ったアルベール兄さまは、何やらチギラ料理人に耳打ちをしていた。
耳打ちされたチギラ料理人は顔を引きつらせ、ランド職人長のお弟子さんたちを巻き込み、大量の笹かま作りに取り組んだ。
次の日は疲労を残した顔色をしていたけれど、聞いたら「大丈夫ですよ」と笑っていたから追及はしないでおいた。
けれど、チギラ料理人の手荷物の中から酒瓶が顔を覗かせているのを発見した。
お父さまが好きな高級酒の瓶だ。
蓋の様子から開封済みのようだから、お父さまにおすそ分けを貰ったのかもしれない……という事は、昨夜は離宮で飲み会でもした? 笹かまがおつまみのメインかな?
ベール兄さまに知らないふりをしろと言われたので何も言わないけど、どうやら大人の飲み時間を子供に邪魔されたくないらしいね。
……うん、知っていて起きていられる時間だったら絶対乱入した自信がある。
そんな人気のかまぼこ作りは、かまぼこにすると美味しい魚をチギラ料理人がチョイスするところから始まった。私は魚に詳しくないので丸投げだ。
大雑把な作業は、ぶつ切りにした身を氷水でもみ荒いして臭みを取り、布で水気を取ってからフードプロセッサーでガーッとやる……だ。
やらなくてもいいけど、ここでチギラ料理人は布で漉している。
次はすり鉢で練る。塩・昆布だし・砂糖・片栗粉・白ワイン・謎の調味料を途中で入れて練る。練る。練る。ひたすら練る。
ネバネバになったすり身は適当な板の上に、こんもりと例の形に盛り付ける。出汁に使った昆布を巻いてもいい。
例のピンクの表面は食紅的な物をすり身に混ぜるが、色の原料はわからない。
そして蒸す。今は鍋の上に装着するせいろ蒸し器があるぜよ。
蒸しあがった後は板を上にして氷水に漬ける。理由は知らない。チギラ料理人が省かずにやっているなら、何か利点があるはず。確認したことはない。美味しいからどうでもいいのだ。
本日の昼食の話題に戻って……
ネギと生姜のとろみスープは、鶏がらスープに塩コショウと片栗粉でシンプルに。
溶き卵を入れてほしいとねだったら、チャーハンにも入っているからなしだって。味がぼやけるとかなんとか言っていた。チギラ料理人のこだわりらしい。私にはわからないけどプロに従います。
サラダのドレッシングはゴマ味噌味。
すりごま、味噌、酢、蜂蜜、ごま油……と、謎のだし汁を入れて混ぜ混ぜしていた。
余談だが、中華には欠かせないザーサイはまだ仕込んでいる最中だ。
茎の下のボコッとした部分を干して、塩漬けして発酵させて、今は香辛料に漬けている。出来上がったら中華の幅が広がるのだ。
「………旨かった」
ルエ団長が、好物を味わい尽くして余韻に浸っている。
チャーハンを食べた後はいつもこんな感じだ。
最後は私が一番楽しみにしている中華デザートの定番、杏仁豆腐である。
アーモンドを粉状にし、砂糖、黄ヤギの乳、ゼラチン、水を混ぜ混ぜすれば簡単にできる。そこに生クリームを入れたり入れなかったり、上にあんずジャムを乗せたり、マンゴージャムを乗せたり、果物のシロップ漬けを乗せたり、地味な杏仁豆腐をチギラ料理人が毎回カラフルにしてくれている。お飾りを見るのも結構楽しみなのだ。
「岬公園で捕縛されたピンクのその後は、どうなりましたかな?」
シブメンが運ばれてくる杏仁豆腐を目で追いながら、私が忘れていたピンクファイブについての質問をしてくれた。
聞いた相手はアルベール兄さまだ。ルエ団長も反応した。給仕しているチギラ料理人も反応した(一度見てみたいと言っていた)
「別々に審問したところ、全員が『白い仮面の男』から話を持ち込まれたと証言している。前金が20万ドリー。私との接触を謀って………………………………………………………………成功報酬が100万ドリー。それぞれ別の酒場の給女で、金に困っていた事情も共通していた。依頼した男は不明なので目的は謎のままだ」
途中の無言がやけに長かった。
ベール兄さまが笑うのをこらえていたので、成功報酬の"成功"が前に言っていた"ナニ"なのだとわかった。
アルベール兄さまは、その手の話を私に聞かせるのを酷く嫌う。耳年増の澄子の記憶があるというのに、ものすごい過保護である。
「5人とも反省の色を見せなかったので、刑は想定より大分重くなった」
──…うんうん、それはいい事だ。ざまぁ。
「そういえば、父上が労役になるだろうって言ってたな」
──…想定済みでしたか。
「うむ。オマー領の騒動は国の一大事として、刑法が改めて検討されることになったのだ」
──…???
「……つまり、リボンの領地で大変な犯罪が行われたから、これからは今まで以上に安心して暮らせる様に、国全体の罰をもっと重くして犯罪を少なくしていこう……という意味だ。わかるな?」
シュシューア用翻訳がなされた。
ここで頷かなければ、もっと噛み砕いた説明が待っている……今回はわかったので急いで頷いておく。
「しかし、これは建前だ。ベール、真の理由がわかるか?」
最近のアルベール兄さまは、ベール兄さまの教育に熱心なように見受けられる。
「……ピンクたちはどこに送られたんだ?」
「採石場だ」
兄の答えにベール兄さまはニヤッと笑う。
「近々の罪人は鉱山にも多く送られているか?」
「うむ」
ベール兄さまの笑みが深くなった。
「だったら、軽犯罪者を回して人手不足を補おうというのが本来の目的だ(ここでアルベール兄さまは満足そうにうなずく)……シュシュ、どうして採石場と鉱山が人手不足なのかわかるか?」
ベール兄さままで教育熱心にならないでよいのですよ。
──…重労働はどこだって不人気で人手不足です……と答えたいけど、たぶん、ここでは、不正解。
考えてもわからないので首をかしげておこう。
そこで、ルエ団長の口が『せん・そう・じゅん・び』と声無しで動いた。
知ってたけど、この人は子供好き過ぎて甘々だ。
私はお馬鹿さんのままでもいいように家族が何とかしてくれるけど、ルエ団長のお子さんは……奥さんがしっかり者だったらいいですねぇ。あ、でも、ベール兄さまが黙って見てないか。確か女の子がふたり、どんな子かなぁ。そうだ、ハティフくんとのお茶会の次は、ルエ団長のお子さんと、ついでにシブメンのお子さんを招待してお近づきになろう。もちろんハティフくんも呼んで……楽しくなりそう……ほわぁぁぁ
「シュシュ、戻ってこいっ」
隣から延びてきたベール兄さまの手に頬をムニッと摘ままれた。
──…お、っと。
戻って来た。
……どこに、戻って来た?
コトリと目の前に杏仁豆腐が置かれた。
運んでくれたチギラ料理人を見ると、ニッコリ笑ってくれた。
この笑顔は挑戦状だ。
自信作とか、隠し味とかある時にこの顔をすると私は知っている。じゅるっ。
「万物に感謝……」
「違う!」
──…何が?
「採石場が人手不足なのは空中街道の建設を急がせているからだ! 鉱山の人手不足は武器の増産が原因だ! すなわち、ルエ団長が言った『戦争準備』だ! しかしこれは、ここだけの話だ!」
ベール兄さま、お腹立ちあそばす。
「ここだけの? なぜですか?」
どうでもいいけど、早く杏仁豆腐が食べたい。
「採石場と鉱山に送る人夫を増やす手段に、刑罰を重くしたことだ!」
あぁ、そうそう、そういうお話をしていましたっけね。
「……ベールよ。シュシューアのこれに怒るのは無意味だ。深呼吸ひとつで落ち着くから、これからはそうしなさい」
「……………………………………すぅ……はぁ……」
「落ち着きましたか?」
「お前がいうなぁ!」
「ベール……」
「…………………………すぅ……はぁ……」
「アルベール兄さま、ピンクたちは採石場で何年働くのですか?」
「!!」
「ベール……」
「………………すぅ……はぁ……」
「シュシューア、しばらく待て」
──…しゃべってはいけない空気でしたか。
杏仁豆腐を食べて待つことにしよう。
…………続く
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