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2章 幼少期編 II
74.あのピンクはどうなった? 3
しおりを挟む「……昨夜だが、ミネバが被害にあった」
全員食べ終わり、残り少なくなってきたお茶をチギラ料理人が注ぎ足し終わったところで、アルベール兄さまが口火を切った。
「「えっ?!」」
私とベール兄さましか驚かなかった。
大人は知っていたようだ。
「ピンクにか?!」
「ピンクにですか?!」
「昨今の状況で他の誰だというのか」
「勇気あるな、ピンク……こんな氷眼鏡に話しかけるなんて」
激しく同意する。
きっと其奴の心臓には毛が生えているに違いない。
「話しかけるなんて甘いものではない。後ろから飛びかかられて羽谷締めにされたそうだぞ」
──…それ、襲われたって言いませんか!?
だからお疲れモードだったのか。
杏仁豆腐を食べて少しは回復したみたいだけど…………もうリラックスしてるな。凄いなスイーツパワー。
「共に行動していたランドが引き剥がして、その時は事なきを得たようだが……」
しかし、それで終わりではなかった。
適当に縛ったピンクを憲兵所に引き渡しに行く途中、其処彼処の陰に隠れているピンクを発見した。
自分と同じ扮装の女が捕まっている姿を見て、出るに出られない様子だったらしいが……
『さっさと行けっ』
二の足を踏んでいたピンクたちに、声を潜めて怒鳴る男が現れた。
外套のフードを目深にかぶった『白い仮面の男』だった。
本人は生垣に隠れているつもりのようだが丸見えであった。
その男がピンクを雇った男だと判断したミネバ副会長は、首に下げていた笛を思い切り吹いた。
アルベールイベントの関係者だとわかってから渡された、緊急事態を知らせる笛だ。
笛は一般でも売られているが、緊急用と周知され、滅多なことでは強く吹かれることはない。
そんな笛の音が夜間に響けば、聞きつけた警ら中の憲兵が即座に駆けつけることになる。
ランド職人長は捕まえておいたピンクを放り出し、目にも止まらぬ速さで白い仮面の男に飛びかかった。
恐ろしい勢いで襲い掛かって来た大男の迫力におののいたらしく、大した抵抗を受けるまでもなく簡単に拘束と相成った。
暗いところであの巨体がグワッときたら、それは怖かろう。ざまぁ。
その後は、駆けつけた憲兵が散っていたピンクも難なく捕らえ、白い仮面の男も引き渡して終息した。
ピンクの事情は憲兵にも周知されているので話が早いのだ。
しかし、またまた終わりではなかった。
憲兵所で被害届けに記入している時…『俺を誰だと思っている!』…と、白い仮面を外された男の大声が響いたのだ───……
「デリ宝石商会の幹部だろ!」
ベール兄さまが身を乗り出した。
「名答だ」
商会長の息子だったと、アルベール兄さまは力強く頷いた。
……嬉しそう。自慢の弟だって顔してる。
そんなアルベール兄さまは、チラリと私を見て、次にベール兄さまに視線を戻して『シュシューアに説明してやれ』と、無言で合図を送った。
「シュシュ……デリ宝石商会の連中は、海辺の高級宿泊邸に泊まっている。覚えているな?」
「はい」
──…そんな話もありましたね。
「デリ宝石商会長の息子は捕縛されたが、一緒に宿泊している商会の傭人たちも絶対共犯者だ」
「はい」
──…悪の組織っぽいですね。
「そいつらが酒場女たちにピンクの仮装をさせ、第一王子をたらし込むよう指示を出したんだ」
「はい」
──…岬公園で捕まえた偽ピンクですね。
「兄上だけではなく、昨夜はミネバまで標的にした。ここまではいいか?」
「はい」
「ルエ団長にハンカチーフを拾わせたピンクは、どこに滞在している?……じゃなくて、海辺の高吸宿泊邸に泊まっている」
「はい」
質問形はやめて"YES/NO"形式に定めたようだ。
「デリ宝石商会の傭人たちは、そのピンクの仲間だ」
「はい」
「デリ宝石商会はガイナ帝国の商会だ」
「はい」
「……まだわからないか」
──…?
「"予言の書"によると、転生した"建国の聖女"は、外国からティストームにやって来るんだよな?」
「……はい」
──…乙女ゲームの冒頭部分。
「デリ宝石商会は、ガイナ帝国から、ひとりの女を連れてきたぞ」
「は……い……」
──…ヒロインの入国。
「ピンクの髪。足丸出しの服。攻略対象が何たるかを知って接触を謀ってくる女だ」
──…ゲームプレイヤー。
「この際、"建国の聖女"かどうかなんてどうでもいい。近くまで来てるぞ、ピンクが」
「………来て…る」
岬公園のピンクは雇われた偽物。
ミネバ副会長を襲ったピンクも雇われた偽物。
海辺の高級ホテルに泊まっっているピンクは、本物かもしれない。
──…怖い。
急に実感がわいてきた。
ゾクリとした。
鳥肌が立った。
騎士棟でピンクの絵姿を見た時に、何か感じるものがあったのだ。
岬ピンクを直に見た時と違う何か……
『ドロボウネコ!!』
──…へっ?
乙女ゲームとは違う記憶……リアルな人間の映像……嫉妬に狂った顔で叫ぶ女……東洋人……ピンクの髪の……
──…泥棒猫。
今ならわかる……日本語だ。
今ならわかる……って、何?
日本語を知らない時の記憶ということ? 澄子以外の前世もあるってこと?……あ、ノイズ……シャットダウン…─────
「………」
──…忘れる前に報告!
『ピンクに髪を染めた不細工な女が怒っています。"予言の書"とは関係がないピンクです。泥棒猫と叫んでいます。日本語で文句を言っているので日本人です。顔も日本人です。若作りしてますけど日本人としてなら20代後半に見えます。髪を振り乱してみっともないです。歯をむき出しにして下品です。顔がぬらぬら濡れています。汗か涎か見分けがつきません。とっても汚くて臭そうです。刃物を振り回しているので頭がいかれているかもしれません』
私の口から日本語が勢いよく吐き出されていく。
「……ゼルドラ卿、訳してくれ」
何故かアルベール兄さまの声が近い。
「"予言の書"のピンクとは別のピンクがいるようですな。ニッポン人で、若く見えるが30代後半。男を取り合って刃傷沙汰を起こす狂人。あとは、そのピンクを罵っています……前世の記憶のようですな」
シブメンの声。
「サトーを巡って戦ったのか? 勝ったか?」
ベール兄さまの声も近い……って、あれ?
ベール兄さまの顔が目の前にある。席を立ち、テーブルに肘をついて私の顔を覗き込んでいた。
「まさかそのピンクに刺されて、ここに転生したのではあるまいな」
アルベール兄さまは椅子の横に片膝をついて、私の手を握っていた……いつの間に。
「……わたくしは階段から落ちて、ひとり寂しく死にました」
アルベール兄さまの目を見て答える。
「佐藤くんを好きな女子はたくさんいましたが、戦ったことはありません。澄子の顔を見ると皆逃げていきました……なぜでしょう?」
ベール兄さまの目を見て答える。
「勝ち目がないと思われたんじゃないか? 美人だったんだろ?」
「はい、澄子は美人でした。おまけに商会歴最速で役職を持ったエリート……エリート……ええと、仕事ができる人、トップの成績で……トップ……一番上、一番儲ける……」
「"精鋭"で良いのでは?」
シブメンのフォローが入った。
「スミコはセーエーです!」
過去の栄光をドヤッておく。
「未だに納得できん……これに才の要素があるなど……」
デキる澄子を語ると、アルベール兄さまは決まって地蔵のような顔になる。
「王女の前世はニッポン人で、顔の彫が浅い人種なんだろ? 俺が見たピンクの顔もそうだったが、関係あるか?」
ルエ団長はシブメンに問いかける。私にではないところがミソだ。
「海辺の宿泊邸に泊まるピンクと、王女殿下の記憶にある刃物を振り回すピンクが同一人物であるなら『転移者』の可能性もある」
──…て
──…て
──…てん
──…転移者ですとーーーっ!?
転生だけじゃなく、転移がアリの世界ですか!? うわーーーっ!
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