帝国の第一皇女に転生しましたが3日で誘拐されました

山田うちう

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第9話 師匠から明かされた真名のこと

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師匠の口から真名の話が出たのをきっかけに私の質問攻めが始まった。
私の発言なので、他の3人は黙って聞いている。ケシェットでさえ騒がない。
その点は、既に、教育済という感じだ。


「師匠、真名を受けることは悪いことですか?」
「いや、悪いことではない。」


「でも師匠、父上と母上は、私が真名を授かったことを喜んではいないと思います」
「喜んでいないわけでは無いよ。ただ、ルセルは、この伯爵家にとって唯一の後継者だからね。心配しているのだと思うよ。もし、第一皇子の婚約者となれば、ルセルは伯爵家を継ぐことは出来ない。そうなれば、別に跡継ぎを考えなければならないしね。」


「師匠、真名を授かったからと言って、第一皇子の婚約者にならなくても良いんですよね?」
「それは、こちらからは決められない。王家から指名されれば婚約者とならざるを得ないだろう。ただ、跡継ぎが1人しかいない貴族については、ある程度は考慮されると思う」


「師匠、どうすれば婚約者になることを回避できますか?」
「それは、誰にも分らない。国王と第一皇子のお考え次第だから」


「師匠、今後も起こったことを隠さず教えてくれますか?そして、第一皇子の婚約者にならなくていいように助けてもらえますか?」
「そのつもりで君たちの教育係を引き受けたんだ。出来る限り隠さずに伝えるし、ルセルが望むのなら婚約者にならなくて済むように教会側からも根回ししてみよう」


「はい、師匠。お願いします。それと、私の真名について教えてください」
私が真名のコトをさらに聞くと、師匠は少しだけ渋い顔をした。
けれど、結局は話を続けてくれた。


「教会でルセルの真名を“シュチピュリ”と言ったのを覚えている?」
「はい。覚えています」
「すべての真名にはその言葉に予言が宿っている。そして、真名の予言は必ず成就されるんだ。それは今までの真名の持ち主が証明していることだから疑いようがない事実だ。それを前提に私の説明を聞いてほしい。いいね?まず、“シュチピュリ”という言葉の予言、まあ、意味と言った方が理解しやすいだろうからそう説明しよう。教会で告げた“シュチピュリ”という真名、この意味は“意味がない“という意味だ。ハハハ。言葉遊びみたいだね。」


師匠が笑いながら、すごいことを言いだした。
(おいおい、教会で嘘を言っていいの?)


「ルセルの真名は少しマズくてね。あの時、私の独断でとっさに違う真名を言ったんだよ」
「え?真名がマズイ?」
心臓がドキンっと打つ。
(マズいってなに?)


「ルセル、君の本当の真名は“レイン” この真名の意味は“女王”だ」
「女王…」
「そう、女王。この真名をそのまま伝えてしまうと、王家に対してあまり良いことはなくてね。ルセルも考えてみて。皇子達を差し置いて、女王という予言の真名を持つ子が現れたとしたら、王家はどう思う?国王は?皇后は?第一皇子でさえ相当に面白くない気持ちになると思わない?そして、もし、国民がルセルの真名を知った時に、ルセルこそ我が国の女王だと考え始めてしまったら?そんなこんなを総合して考えると、つまり、ルセルの身が危なくなるってこと。それだけ、この国では真名の予言は絶対なんだ」


私のドキドキは止まらない。
(身が危ないって…)


「し、師匠、それはありがとうございました。私、助けて頂きました」
「いや、助けているのは、ルセルの父上と母上だよ。教会のあと、ここにきた私から事の詳細を聞くや否や、直ぐに側近のケルシーを呼んで対策を取られた。周りを見てごらん、ルセル。ここに居るケシェット、トゥジョー、ギャルディオン、そして私。皆、ルセルを守るために集まった仲間なんだ。父上と母上がルセルを守る為にこうされたんだよ」


師匠の話を聞いて、鼻がツーンとした。
私は涙目になって心の中で父上と母上に感謝した。
(父上、母上、ありがとうございます。)


そして、
「師匠、ケシェット、トゥジョー、ギャルディオン、私の為にありがとう。私、伯爵家を継ぐために頑張るから。第一皇子の婚約者になんてならないから」
私は、4人にも感謝を伝えた。


続けて師匠が言った。
「ルセルに本当の真名を話したのは、さっきも話した通り、真名は予言であり必ず成就するからなんだ。だから隠しても、結局、遅かれ早かれ本人には、本当の真名がわかるようになる。真名が本人に作用すると言えばいいかな?自然と真名を体現するといえばいいかな?ゆくゆく、本人が自分の真名をハッキリ自覚する時が来るんだよ」


「じゃ、師匠、私は女王のようになっていくってことですか?」
「そうだね、そういう方向に成長してゆくことは間違いないだろうね。」
「そんな…」


(ものすごい高飛車な女になってしまうのかな?)
子供の考える女王像なんてそんな程度だ。


「ルセル、大丈夫だよ。気楽に考えれば、ルセルが自然とリーダーシップを取るというくらいのことかもしれないし!それに、ただでさえルセルは伯爵家唯一の令嬢で、将来の伯爵家当主なんだから、少しぐらい近寄りがたくても、高飛車でも人物像的には問題ないと思うよ。ハハハ」


師匠は、いきなり他人ごとみたいに笑ったけど、私は笑える気分ではなかった。
王家とはコトを構えたくないし、第一皇子を含め、この先も出来れば王家の人とは会いたくない。でも、婚約者候補になったってことは、お城にも行くことになるのかもしれない…。それを考えると気が重くなる。

考えを巡らしている私に、次の授業に入る前にと師匠が改めて話しかけてきた。
「ルセル、最後にこれだけは覚えておいて。ルセルの対外的な真名は“シュチピュリ”のままだからね。結して本当の真名を他人に知られてはいけないよ」


「はい。わかりました、師匠」
私は素直にうなずいた。


仮の真名は、本当にしっくりこなかった。
(とっさの事とはいえ、もう少し違った真名はなかったのかな?)
仮とはいえ、真名の意味が、“意味がない”って意味だなんて…。
本当にただの言葉遊びのよう。
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