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第10話 師匠がスパルタモードには入りました
しおりを挟む勉強は、多岐にわたる。
テーブルマナー、ダンス、軍略、経済、租税、王家、貴族、領地運営。
貴族の子供である以上、礼儀作法は必須。
それに、私は父上の唯一の後継者なので、領地運営を勉強するのも、これまた必須。
伯爵家を守り反映させる為、王家と良好な関係を維持する必要上、わが国、王家、貴族の関係を学ぶことも必須。
必須の3乗。
まだ本格的な勉強が始まる前に、「私がダメでも伯父上がいる」という事を父上に話したことがある。けれど、この国の決まりで「直系の子」しか家を継ぐことは出来ないのだそうだ。いわく「爵位に値する優秀性は血統により維持される」という考えらしい。そして、当家はもう父上の代になっているので、父上の直系の子、つまり私しか家を継ぐことは出来ないという。
だから、貴族の夫婦は、結婚して3年子供に恵まれない場合、国の定めによって離婚することが決まっているのだとか。ただ、国としては、子供を産めなかった妻が悪いのではなく、子供が出来なかった結婚は、夫婦それぞれの遺伝子が合わなかったのだと判断されるだけだそうだ。そのため、離婚した夫婦はそれぞれ再婚できる。「出戻り娘」というような誹りは受けないという。
それに、何にでも例外があって、直系が武功を立てて戦死した場合は、血族の中から別の後継者を選ぶことができるらしい。国も、国の為に戦死した貴族に爵位返還は言えないのだろう。
聞いていてため息が出た。
家門を絶やさずつないでゆくというのは大変なことだ。
さて、今一度勉強の話に戻ろう。
勉強で、特に父上から言われているのは、軍略の勉強をするようにという事。
父上曰く、私が伯爵位を継ぐということは、有事の際には戦争に参加するということ。
(それが貴族の義務なのだとか)
さらに、伯爵家ともなれば、女性とはいえ、後方支援の補給係という訳にもいかず、結果、騎士として国に忠誠を見せることになるだろうと。
けれど、騎士としては、腕力、体力共に男性に勝ち目がないことは明らかなので、別のもので優秀でなければならない。
ここで一般的(この世界でいうところの)に考えれば、魔法の腕を磨くことになるのだけれども、国の魔法団に入るという事は、ある程度前線に配置されるという事。
そして、父上としては、娘の前線配置は絶対に回避したい。
そうなると、出来るだけ前線に出ない立ち位置の人材になることが必要になってくる。
それが軍師、軍略家だという。
つまり、軍略や戦略を最重要として学び、剣術と魔法は、私がわが身を守れ、騎士団に入れる程度に修練すればいいというのが父上の考えだ。
父上は、勉強について、こんなことも言っていた。
「ルセル、二兎を追う者は一兎をも得ずという教訓がある。お前も、すべてに秀でようとせず、自分の得意、または自身が必要としているスキルを重点的に伸ばしなさい。側近の3人とは仲良い主従になると思うが、お前と3人では学ぶべき重点部分が違う。さみしく思うのはよしなさい。」
父上の言うことには、私も同意している。
結局、私の勉強と私を支える勉強は、似て非なるもの。
私は、父上の期待に応えられるような後継者になるべく修練しなければ。
******************************
師匠は素晴らしい教師だと思う。何故かと言えば、勉強が面白いと思えるような教え方をしてくださるのだ。だから、私は勉強が好きになっていた。毎日の授業が楽しみで仕方ない。それに、師匠の立ててくれた時間割通りに8時間勉強したとしても、勉強部屋から出れば、大体昼の12時。お昼ご飯を食べて、今度は夜までたっぷり遊べた。
朝ごはん、勉強、昼ご飯、遊び、私たち4人はいつも一緒に過ごした。
もちろん、やる勉強は私とは違ったし、同じ空間に居てもバラバラなことをしたりした。
私は絵本を読み、ケシェットとトゥジョーはチャンバラごっこ。ギャルディオンは魔法を練習するのが好きで、気が付けばいつも何か魔法を展開していた。
「さて、素振りは終わりにして、今日から剣の型を教えよう。」
師匠が、私たちを勉強部屋の真ん中に集めて、剣の授業を始める。
「最初に、剣に色々な属性の魔法を展開させて戦うための型を学ぶ」
そして、私たちを横一列に並べて、
「1、剣を前に突き出す。目の前に敵がいるとイメージするのを忘れないでやるように。2、身体を開いて、今度は剣を後ろ側に振り下ろす。そのまま、そこから左方向に切りつけるように剣を振る。この時、左に振った剣先を、ちょうど左ひざの辺りを目印にピタッと止める。3.剣を振りかぶって、まっすぐ前に振り下ろす。再び剣を振りかぶって、右斜め下に振り下ろす。この時は右足の足先あたりを目印に剣先をピタッと止める。」
私たちは、言われたように剣を振る。
「全員、剣を振る時は足の親指に力を入れるんだ。ヨロヨロするんじゃない。この1から3の動きを何回も繰り返して。そして、言われた属性の魔法を剣に纏わせる様に展開する」
「1、水属性」
必死に剣の型を繰り返しつつ、水魔法を剣に流すように展開させてみる。
けれど、剣の型を間違えないことに意識がいってしまい、魔法の展開が難しい。
ちらっと横を見ると、みんなも苦戦しているようだ。
「2、火属性」
「3、風属性」
「4、雷属性」
「5、闇属性」
「6、聖属性」
容赦なく属性変更が続く。
「ほら、ルセル、型を崩さないように」
「トゥジョーは、もっと強く魔法を展開させるんだ」
「ケシェット、君は風属性をもう一度」
「ギャルディオン、火属性を強く」
1時間も保たず全員バテた。肩で息をする状態で座り込む。
師匠が笑いながらみんなに水をくれ、私たちはコップの水を一気に飲んだ。
「さて、みんなお疲れ様。これから毎日剣を修練してゆくから頑張るように。それと、修練に際して属性を指示しておくよ」
そして、師匠は、一人一人に指示を出した。
「トゥジョー、君は火属性に優れているようだ。他の属性指示はあまり気にせず火属性の指示があった時に全力を出しなさい。」
「ケシェットは風属性で同じようにやってみよう」
「ギャルディオンは、雷と闇の属性が合っているようだね。だから、しばらく両方を修練して、スキルが伸びそうな属性を見極めたら良いと思う」
「最後にルセル。君は、全属性平均的にできていたようだ。でも、逆に突出した属性が見えなかったともいえる。だから、全属性を修練する中で特性を発見しよう」
「はい!」
全員が元気に返事をした。
「じゃ、もう休憩は終わり。全員立って、もう一度、剣の型を最初から」
師匠が、ワル(悪)い顔でにこっと笑う。
再び、スパルタの時間が開始されるようだ。
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