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親しき仲にも礼儀は必要でしょ
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今が本当に糾弾であり断罪の場なのかと疑いたくなるほど穏やかに、A令嬢と相談役は談笑する。
相談役に味方すると決めた校医一名と女子生徒一名を含め四人の空間だけ和やかだ。
時間にしたら十五分ぐらいか、どうにか参謀役が次期神官を正気と呼べるぐらいに戻した頃に、皇太子と騎士見習いも戻ってきた。
先程の騒ぎを知らない二人は異様な空気に若干怖気付いたが、男のプライドなのか渦中に戻る。
「お待たせして誠に申し訳ないのですが、今暫くお時間を頂いてよろしいでしょうか」
「具体的には如何ほどです?」
「…五分で終わらせます」
メンタルケアにバラけていた二人に概要の説明。一人パタパタと忙しい参謀役に同情する。絶対に手は貸さないが。
本当に五分で連絡を終えて、揃った皇太子一派はA令嬢に向き直る。
「両家の話し合いは了承するが、私と次期神官が横暴だという妄言は聴き逃がせ無いな。
女性特有のヒステリックで自分が気に食わない事があれば、横暴だなんだと騒ぎ立てているだけではないのか。
それに次期神官の敬虔な姿や慈愛の精神は次代の神官に相応しく、横暴という言葉とはかけ離れている。他の神官が言っていた様に相談役は疲れているのでは?些細なすれ違いを誇大解釈しているだけに感じるが」
「少し現実との相違があっただけでショックで退席した人に、精神的な理由で騒いでいると言われるのは業腹です」
精神的ショックで途中退席はしょうが無いにしても、皇太子の自分を棚に上げる物言いは腹が立つに決まっている。
「お気づきなっていなようなので申し上げますが殿下、今貴方様は非常に横暴な態度をとっているとわかっておられますか」
「何だと?」
A令嬢側にいる三人はうんうんと首を縦に振る。
「参謀役様の謝罪を聞いておられましたか?まず殿下自身と次期神官様のせいで私達は待たされたのですからそれに対する謝罪をすべきではないかと。どうせ参謀役が既に謝罪したから良いだろうという傲慢さが見え隠れしております。
次に言葉の戦場と化しているこの場で、二人を残し責任者である貴方が何の指示も出さず己を優先して中座した事を謝罪、ないしは場を保って貰った礼をすべきです。
当たり前の様に代表として上から目線ですが、行動が伴っておられない事を自覚して頂きたい」
「なっ!ずっと気になっていたが私を愛しているくせに当たりが強くないか⁉」
「勝手に愛している事にしないで下さい」
「参謀役の説明が間違っていたとでも?」
「愛していたです。私に散々な事をしておいて未だに愛されていると勘違い出来るとはお凄いこと」
あからさまな皮肉だが言っている事は正しく、皇太子は恥ずかしさから頬を赤に染める。
コロコロと変わる表情に自身に満ちている態度、打たれ弱い所もあるが何度でも立ち向かう性根は好ましい物だ。
「…待たせてしまい失礼した。参謀役も次期神官も急にいなくなり悪かった。騎士見習いも私に付き合ってくれてありがとう」
ペコリと頭を下げる。
A令嬢は彼のそんな素直な所を愛していた。
頭を下げた事により『王族の誇りは無いのか』なんて声も聞こえたが、彼は誇り高いのだ。自分自身を高め誰もが敬い頼れる賢君になる為に努力している。
そんな彼にとって間違いを指摘され、自分の羞恥という感情を誤魔化す為にどうにか詭弁をふるうなんて悪あがきは、プライドが許さない。
信じた事に対して盲目的になってしまうが、けして悪人では無い。素直に謝れるぐらいには良い人なのだと思う。
「謝罪お受け取り致します。皆様もそれでよろしいですか?」
まさか一国の皇太子から頭を下げられると思っていなかった三人は驚きで固まっていたが、A令嬢の言葉に小さく頷いた。
すぅ、はぁ、と数回深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、皇太子が改めて切り出す。
「我らが横暴だと言う話だが」
「はい。私は殿下が、相談役様は次期神官様にそれを感じております」
「言葉を真似るようだが、そんな覚えはない」
「そう思います。お二人は悪気があって横暴だと言うわけではありませんもの。生まれによって当然として受けていられた物が無意識に横暴にしてしまっている。
そしてそれはたぶん、私も」
「生まれとは、権力か」
「その通りで御座います」
「そんなの使ってない!」
焦りと恐怖が混ざる声が二人に割り込む。
一時落ち着きを取り戻していたが、呆然自失のままでは感じていなかった不安がジワジワと侵食していき、ついには耐え切れず次期神官は恐慌に陥る。
横暴とは何故だ権力を使っていた?僕は清廉である父を尊敬し己もいつか父のような立派な聖職者になる事を夢見ていた。その為に勉学にも奉仕活動にも精を出し、自分を律し正しくあろうと生きてきて、それは父も友も同じ神官も認めてくれた。
それなのに何故。学園生活を通して知り合い静粛で品行方正で尊敬している貴方が、相談役さんが僕を否定するのですか?
胸を締め付けられる苦しみに呼吸がまともに出来ない。掻きむしるように次期神官を服の胸元を握りしめた。
彼の不幸は神の教えの通りどんな相手にも同じだけの愛で接するようにしていた事だ。相手が自分を恨んでようと好いてようと愛に差を付けてはならない。
だから知らない。この苦しみが特別な相手に、頼れ憧れる相手に嫌われたくない恐れから来るものだとわからない。
初めての感情に混乱する彼の姿を、相談役は優しい微笑みで眺めていた。
相談役に味方すると決めた校医一名と女子生徒一名を含め四人の空間だけ和やかだ。
時間にしたら十五分ぐらいか、どうにか参謀役が次期神官を正気と呼べるぐらいに戻した頃に、皇太子と騎士見習いも戻ってきた。
先程の騒ぎを知らない二人は異様な空気に若干怖気付いたが、男のプライドなのか渦中に戻る。
「お待たせして誠に申し訳ないのですが、今暫くお時間を頂いてよろしいでしょうか」
「具体的には如何ほどです?」
「…五分で終わらせます」
メンタルケアにバラけていた二人に概要の説明。一人パタパタと忙しい参謀役に同情する。絶対に手は貸さないが。
本当に五分で連絡を終えて、揃った皇太子一派はA令嬢に向き直る。
「両家の話し合いは了承するが、私と次期神官が横暴だという妄言は聴き逃がせ無いな。
女性特有のヒステリックで自分が気に食わない事があれば、横暴だなんだと騒ぎ立てているだけではないのか。
それに次期神官の敬虔な姿や慈愛の精神は次代の神官に相応しく、横暴という言葉とはかけ離れている。他の神官が言っていた様に相談役は疲れているのでは?些細なすれ違いを誇大解釈しているだけに感じるが」
「少し現実との相違があっただけでショックで退席した人に、精神的な理由で騒いでいると言われるのは業腹です」
精神的ショックで途中退席はしょうが無いにしても、皇太子の自分を棚に上げる物言いは腹が立つに決まっている。
「お気づきなっていなようなので申し上げますが殿下、今貴方様は非常に横暴な態度をとっているとわかっておられますか」
「何だと?」
A令嬢側にいる三人はうんうんと首を縦に振る。
「参謀役様の謝罪を聞いておられましたか?まず殿下自身と次期神官様のせいで私達は待たされたのですからそれに対する謝罪をすべきではないかと。どうせ参謀役が既に謝罪したから良いだろうという傲慢さが見え隠れしております。
次に言葉の戦場と化しているこの場で、二人を残し責任者である貴方が何の指示も出さず己を優先して中座した事を謝罪、ないしは場を保って貰った礼をすべきです。
当たり前の様に代表として上から目線ですが、行動が伴っておられない事を自覚して頂きたい」
「なっ!ずっと気になっていたが私を愛しているくせに当たりが強くないか⁉」
「勝手に愛している事にしないで下さい」
「参謀役の説明が間違っていたとでも?」
「愛していたです。私に散々な事をしておいて未だに愛されていると勘違い出来るとはお凄いこと」
あからさまな皮肉だが言っている事は正しく、皇太子は恥ずかしさから頬を赤に染める。
コロコロと変わる表情に自身に満ちている態度、打たれ弱い所もあるが何度でも立ち向かう性根は好ましい物だ。
「…待たせてしまい失礼した。参謀役も次期神官も急にいなくなり悪かった。騎士見習いも私に付き合ってくれてありがとう」
ペコリと頭を下げる。
A令嬢は彼のそんな素直な所を愛していた。
頭を下げた事により『王族の誇りは無いのか』なんて声も聞こえたが、彼は誇り高いのだ。自分自身を高め誰もが敬い頼れる賢君になる為に努力している。
そんな彼にとって間違いを指摘され、自分の羞恥という感情を誤魔化す為にどうにか詭弁をふるうなんて悪あがきは、プライドが許さない。
信じた事に対して盲目的になってしまうが、けして悪人では無い。素直に謝れるぐらいには良い人なのだと思う。
「謝罪お受け取り致します。皆様もそれでよろしいですか?」
まさか一国の皇太子から頭を下げられると思っていなかった三人は驚きで固まっていたが、A令嬢の言葉に小さく頷いた。
すぅ、はぁ、と数回深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、皇太子が改めて切り出す。
「我らが横暴だと言う話だが」
「はい。私は殿下が、相談役様は次期神官様にそれを感じております」
「言葉を真似るようだが、そんな覚えはない」
「そう思います。お二人は悪気があって横暴だと言うわけではありませんもの。生まれによって当然として受けていられた物が無意識に横暴にしてしまっている。
そしてそれはたぶん、私も」
「生まれとは、権力か」
「その通りで御座います」
「そんなの使ってない!」
焦りと恐怖が混ざる声が二人に割り込む。
一時落ち着きを取り戻していたが、呆然自失のままでは感じていなかった不安がジワジワと侵食していき、ついには耐え切れず次期神官は恐慌に陥る。
横暴とは何故だ権力を使っていた?僕は清廉である父を尊敬し己もいつか父のような立派な聖職者になる事を夢見ていた。その為に勉学にも奉仕活動にも精を出し、自分を律し正しくあろうと生きてきて、それは父も友も同じ神官も認めてくれた。
それなのに何故。学園生活を通して知り合い静粛で品行方正で尊敬している貴方が、相談役さんが僕を否定するのですか?
胸を締め付けられる苦しみに呼吸がまともに出来ない。掻きむしるように次期神官を服の胸元を握りしめた。
彼の不幸は神の教えの通りどんな相手にも同じだけの愛で接するようにしていた事だ。相手が自分を恨んでようと好いてようと愛に差を付けてはならない。
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初めての感情に混乱する彼の姿を、相談役は優しい微笑みで眺めていた。
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