私馬鹿は嫌いなのです

藍雨エオ

文字の大きさ
28 / 50

嘘か真か思い込みなのか

しおりを挟む
「A令嬢、君が嘘を吐いているとは決めつかない。だが真実を語っているとも言えない。
だから確認の為に今から質問をする。それに答えて欲しい」
「勿論です」
「一つ目は何故学園裏にいたんだ。散歩と言っていたがわざわざ人通りが少ない場所を選んでいて怪しく思う」
「それに対しては認識の齟齬が御座います」
「齟齬?」
 皇太子が疑問を浮かべると、A令嬢の代わりに図書員男子が答えた。
「皇太子殿下は学園裏を人通りの少ない場所と仰っていますが、あそこは散歩道や憩いの場所として人は多いですよ。
確かに学園の中央通りや庭園に比べれば人気は無いでしょうが静かな場所を求める時はあそこに行きます。
森林が近いとはいえ学園内なので手入れされていて、尚且つ裏通りを好んでいる人達は集団ではなく個人として訪れる事が多いのです。
ボクは大体一年生の後半からなので二年ほどほぼ毎日学園裏を散歩していました。その間週に二、三回はA令嬢とお会いしていました。っと言っても散歩に向かうボクと散歩帰りのA令嬢が擦れ違うので会釈程度のやり取りでしたが。
A令嬢以外にも数人の人を見かけましたし、一人も見たことが無い日なんて数えるほどしかないです」
「被害者はA令嬢に呼び出されたと言っていたが」
「尚更おかしいでしょう。A令嬢もあそこは少ないながら人通りがある事をご存知だ。相手を害そうとするのなら何で人がいる可能性が高い所に呼び出すのです?
滅多に使われない空き教室に呼び出したほうがまだマシだ」
「A令嬢今の話は」
「間違いありません。
私は毎朝の日課として学園裏の散歩をしておりました。証拠になるかはわかりませんが、図書員男子様以外にもよくご挨拶する方々がいらっしゃったので、その方々に確認して頂ければ少なくても私がよく通っていた証明にはなりますかと」
 王道の散歩コースとは外れているが、おかしいと言うほど人がいなかった訳ではないらしい。これは要確認だ。
 皇太子は議題を書いた紙に『学園裏は散歩コースとしておかしくはないか、及び本当に呼び出しがあったかの調査』と書き足した。
 加えて図書員男子はペンを受け取り付け足す。『自身以外にも目撃者がいないか。もしくは会話を聞いた者がいないかの確認を求める』
「場所については改めて調査確認をしよう。
次に侮辱されたという話だが、具体的に聞いてもいいか?」
「駄目です」
 意外な事にA令嬢は即答で断った。自分に非が無い事を証明する為に話すと思ったのだが。
「言いたくない理由はなんだ」
「私だけでも許せませんが私の家族、それに学友の方々、…参謀役様に対しても侮辱的な発言が御座いました。
それをこの様な大勢の前で言いたくありません」
「参謀役もだと!それが真実なら参謀役を友としている私に対しても侮辱だ」
「その通りです。私は例え事実確認でもそんな発言をしたくありません。ですが無視してよい事でもない。
ですので改めて話し合いの場が持たれた時に書面としてお伝えしたいのですが、よろしいでしょうか」
「わかった。ただし後で何だかんだと提出を拒まないようにこの書類にその旨を記載してもらう」
「かしこまりました」
 A令嬢が『次回の話し合いの場で侮辱の具体的内容の書類の提出。期限の先延ばし不可』と明記した。
「では被害者の頬を赤くした所、そこの疑問なんだが、日に当たって赤くする必要はあったのか?」
「そうですね、私は後半ボロが出ない様に殿下に縋り顔を見られないようにしました。
これは推測ですが、彼女は驚き興奮して泣き崩れる演技をしたので、わざわざ日に当たって体全体を火照らせたのは『わぁ!』と泣きじゃくった時の様子に真実味を出す為だったのでは無いかと」
「あぁそうか、確かに泣きじゃくり嗚咽を漏らしていたと報告を受けている。それで顔がお綺麗なままでは違和感があるな。
では頬を自分で叩いたと言ったが、図書員男子、君はその時の破裂音は気が付かなかったのか?」
「気が付きませんでした」
「それは何故だA令嬢」
「実践致しますわ」
 言うが早いかA令嬢はパンッ!と大きく手を叩いた。それは会場中に響く。
「これが図書員男子様と次期神官様が駆けつけた際の破裂音です」
 次にペチペチと手を叩く。近くにいれば聞こえるが、離れた場所にいる人には聞こえない音量で何度も何度も。
「これが頬を叩いた時です。一回一回はたいしたダメージでは無いでしょうが、繰り返せば頬を赤くするぐらいは出来ます。
呆気に取られたのもそうですが、自分の頬を必要に叩く様子は奇妙でしたので何をしていらっしゃるのかと訝しんだのです」
 決定的な物的証拠は双方に無い。だからあくまで本人と目撃者の証言で判断しなければならないのだが、かなり困難だ。
 決定的な瞬間を誰かが目撃していたら少しは足がかりともなるが、目撃者の二人は事件の直後しか見ていない。
 事前に思い通りに事が進むように準備出来る被害者は怪しいが、A令嬢の都合の良い誤魔化しにも聞こえる。
 しかし誤魔化しだとしたら何時図書員男子と証言が一致するように結託したのか、また適当を言ったにしては詳細がハッキリしているし、今回の糾弾は狙って奇襲をかけた。だが破綻はしていない理由が言えるのはそれが事実だったかA令嬢が驚くほど頭が回るかのどちらかだ。
「…一番の疑問だが、被害者が君を貶めようとする理由は何か心当たりはあるかい?」
「それが私にも、どうしてか検討もつきません」
「殿下の浮気相手だからではないのですか?」
 二人が不思議だと頭を捻る中、図書員男子が何を今更とでも言うように指摘した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件

ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。 スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。 しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。 一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。 「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。 これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

平民とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の王と結婚しました

ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・ベルフォード、これまでの婚約は白紙に戻す」  その言葉を聞いた瞬間、私はようやく――心のどこかで予感していた結末に、静かに息を吐いた。  王太子アルベルト殿下。金糸の髪に、これ見よがしな笑み。彼の隣には、私が知っている顔がある。  ――侯爵令嬢、ミレーユ・カスタニア。  学園で何かと殿下に寄り添い、私を「高慢な婚約者」と陰で嘲っていた令嬢だ。 「殿下、どういうことでしょう?」  私の声は驚くほど落ち着いていた。 「わたくしは、あなたの婚約者としてこれまで――」

処理中です...