私馬鹿は嫌いなのです

藍雨エオ

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ぶっちゃけると詐欺師と同じ手口

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「A令嬢」
「はい」
 衝撃的な事実を聞いたはずなのに、予想していたよりずっと皇太子は落ち着いていた。
「まず参謀役の予想は事実なのか?初めから断罪される気であったと」
「はい」
「何故だ」
「糾弾された時点で私には選択肢が三つありました。今は大人しくしていて後で反抗する。今すぐに反抗する。逃げる。その中で一番やってはいけない事は逃げる事でした。恐ろしくて身の安全を守りたくて逃げたとしても、逃げてしまえば罪を認めたと思われてしまう。事実はどうであれ逃げたのだから罪を認めたと。
ならば潔白の私は反抗する。後はタイミングだけどうするかでしたが…思わず滑り出た暴言がそれを決めました。吐き出された言葉は飲み込めない、ならばいっそ胃がひっくり返る程に吐き出し切ってしまった方が良い」
「だが残りを言わない方がこんな大騒ぎにならなかったのでは?
領民の事やらは一旦抜きにして君自身の立場として」
「吐き気も辛いですし吐く事も辛いです。ですがせり上がった胃液が喉で留まりまた胃の腑に落ちる事が一番不快なのです。私個人としてはですが。
どうせどの選択肢でも私の立場は悪くなる。今より状況が悪くなる事は社交界において罰を受ける事となんら変わらない。
ならば中途半端に残すより出し切って断罪された方がいい」
「…罪は確定していないのに、罰を受ける事は確定してしまっているのか」
 糾弾し断罪をする本人のくせに皇太子が一番苦しそうな顔をした。
 あぁ駄目ですよ、そんな顔しては皇太子が王室が間違っていたと認めてしまうようなもの。貴方は本当にポーカーフェイスが苦手なのですから。貴方は間違っていない。ただ少し気が早ってしまっただけのなのです。
 そうでなければならないのです。
「殿下、今はまだ私の婚約者であるお方。どうか胸をお張り下さい。頭を垂れる事なぞ赦さない」
 王族として弱った所を見せるな。弱点になる程の失敗を認めるな。ここにいる皆ですらその首を狙う獣なのかもしれないのだから。という建前で、私が民の為とはいえ自分を犠牲にして貴方の立場を守ったのだから、守られた物を蔑ろにするなという叱責である。
 皇太子は歪めていた顔を無理やり笑みに変えた。くしゃみを我慢している時みたいに変な顔だった。
「最初から相談役は気が付いていたんだな」
「そうですね」
「もし、だ。もしこの場を告解の場にしていなければどうなっていたと思う?」
「現在殿下に組みしている者とA令嬢にとって今より悪い状況でしょうね」
「君にとってはマシになるのか。それは責任を取らされる立場から外れるからか?」
「そうです」
「今より悪いというのは?」
「殿下のお考えは?」
 質問に質問で返され言葉に詰まる。
 それにクスリと相談役が笑う。
「質問ばかりですね。ワタシが、いえワタシも、殿下を騙そうとしているかもしれませんよ?」
「この場でそれは」
「嘘を言わずとも、真実だけを語り騙す事は可能ですよ。平民乙女がやったと思われる事のように」
「自分で考えろという事か…」
「いえ別にそういう訳ではありませんよ。
質問ばかりでも構いませんが、それと同時に疑いなさい」
「認識の違い、って事ですか?」
 騎士見習いが言葉を挟んだ。
 参謀役は一度頷くと、今期学園生徒に対しての最後の教えを説く。
「その通りです。アナタは噂を軽く見ていた、農家息子は重く見ていた。それは認識の違いであり環境によって認識は幾重にも変わります。
それは話し合いでよくわかったでしょう?様々な事が認識の違い、すれ違いによって大きな問題へと発展してしまった。
それに今一番アナタ達とワタシ、平民と貴族、この場にいない貧民で認識の違いがあるのですが、わかりますか?」
 答える者はいない。
「次期神官様、またアナタにとって嬉しくも無い真実を言いますがよろしいですか?」
 名指しされ一瞬ためらったが、腹なら無様を晒して暴走した後に括った。
「知ります、学びたいのです」
「では言いますが、聖職者を除けば信仰を重要視している者は少ないですよ」
「はっ…い?」
「正しくは比重がです。貴族や富豪ほど信仰心に厚く、逆だと信仰心は薄い」
「でっ、ですが!貧民街の皆さんは」
「顔を出す度に神への感謝を口にする、ですか?」
「そう、です」
「アナタがいるからですよ。アナタを喜ばせていれば食事を持ってきて貰えますから。
男爵令嬢だってそうだったでしょう。払わなくて良いなら奉仕活動の資金を払いたくなかったと。自分の食い扶持を減らしてでもお金を捻出する人もいればそうでない人もいる。
『神への祈り』だけで腹は膨れないのですよ。
全員が全員とは言いませんが生活に余裕がある人ほど信仰も熱心な傾向があります」
「その、余裕がない人ほど神頼みをするのではないのですか?
僕は奉仕活動を通してそう思いましたが」
「都合の良い時だけ救いを乞う行為が信仰なのですか?」
「ちがいま…あれ?違います、違うのですが…、神を信じるという行為が既に信仰であって、貧民ほどそれが縋る行為を伴っていて」
「口先だけの感謝と欲するだけの行為とも取れますよね」
「…そうですね」
 自分の根幹を揺るがす話だが先程の様な恐慌は見られない。
 若いと新しきを直ぐに吸収できる柔軟性があって羨ましいと相談役は思う。特に目の端で慌てふためいている同僚が見えると、余計に強くそう感じた。
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