38 / 50
ぶっちゃけると詐欺師と同じ手口
しおりを挟む
「A令嬢」
「はい」
衝撃的な事実を聞いたはずなのに、予想していたよりずっと皇太子は落ち着いていた。
「まず参謀役の予想は事実なのか?初めから断罪される気であったと」
「はい」
「何故だ」
「糾弾された時点で私には選択肢が三つありました。今は大人しくしていて後で反抗する。今すぐに反抗する。逃げる。その中で一番やってはいけない事は逃げる事でした。恐ろしくて身の安全を守りたくて逃げたとしても、逃げてしまえば罪を認めたと思われてしまう。事実はどうであれ逃げたのだから罪を認めたと。
ならば潔白の私は反抗する。後はタイミングだけどうするかでしたが…思わず滑り出た暴言がそれを決めました。吐き出された言葉は飲み込めない、ならばいっそ胃がひっくり返る程に吐き出し切ってしまった方が良い」
「だが残りを言わない方がこんな大騒ぎにならなかったのでは?
領民の事やらは一旦抜きにして君自身の立場として」
「吐き気も辛いですし吐く事も辛いです。ですがせり上がった胃液が喉で留まりまた胃の腑に落ちる事が一番不快なのです。私個人としてはですが。
どうせどの選択肢でも私の立場は悪くなる。今より状況が悪くなる事は社交界において罰を受ける事となんら変わらない。
ならば中途半端に残すより出し切って断罪された方がいい」
「…罪は確定していないのに、罰を受ける事は確定してしまっているのか」
糾弾し断罪をする本人のくせに皇太子が一番苦しそうな顔をした。
あぁ駄目ですよ、そんな顔しては皇太子が王室が間違っていたと認めてしまうようなもの。貴方は本当にポーカーフェイスが苦手なのですから。貴方は間違っていない。ただ少し気が早ってしまっただけのなのです。
そうでなければならないのです。
「殿下、今はまだ私の婚約者であるお方。どうか胸をお張り下さい。頭を垂れる事なぞ赦さない」
王族として弱った所を見せるな。弱点になる程の失敗を認めるな。ここにいる皆ですらその首を狙う獣なのかもしれないのだから。という建前で、私が民の為とはいえ自分を犠牲にして貴方の立場を守ったのだから、守られた物を蔑ろにするなという叱責である。
皇太子は歪めていた顔を無理やり笑みに変えた。くしゃみを我慢している時みたいに変な顔だった。
「最初から相談役は気が付いていたんだな」
「そうですね」
「もし、だ。もしこの場を告解の場にしていなければどうなっていたと思う?」
「現在殿下に組みしている者とA令嬢にとって今より悪い状況でしょうね」
「君にとってはマシになるのか。それは責任を取らされる立場から外れるからか?」
「そうです」
「今より悪いというのは?」
「殿下のお考えは?」
質問に質問で返され言葉に詰まる。
それにクスリと相談役が笑う。
「質問ばかりですね。ワタシが、いえワタシも、殿下を騙そうとしているかもしれませんよ?」
「この場でそれは」
「嘘を言わずとも、真実だけを語り騙す事は可能ですよ。平民乙女がやったと思われる事のように」
「自分で考えろという事か…」
「いえ別にそういう訳ではありませんよ。
質問ばかりでも構いませんが、それと同時に疑いなさい」
「認識の違い、って事ですか?」
騎士見習いが言葉を挟んだ。
参謀役は一度頷くと、今期学園生徒に対しての最後の教えを説く。
「その通りです。アナタは噂を軽く見ていた、農家息子は重く見ていた。それは認識の違いであり環境によって認識は幾重にも変わります。
それは話し合いでよくわかったでしょう?様々な事が認識の違い、すれ違いによって大きな問題へと発展してしまった。
それに今一番アナタ達とワタシ、平民と貴族、この場にいない貧民で認識の違いがあるのですが、わかりますか?」
答える者はいない。
「次期神官様、またアナタにとって嬉しくも無い真実を言いますがよろしいですか?」
名指しされ一瞬ためらったが、腹なら無様を晒して暴走した後に括った。
「知ります、学びたいのです」
「では言いますが、聖職者を除けば信仰を重要視している者は少ないですよ」
「はっ…い?」
「正しくは比重がです。貴族や富豪ほど信仰心に厚く、逆だと信仰心は薄い」
「でっ、ですが!貧民街の皆さんは」
「顔を出す度に神への感謝を口にする、ですか?」
「そう、です」
「アナタがいるからですよ。アナタを喜ばせていれば食事を持ってきて貰えますから。
男爵令嬢だってそうだったでしょう。払わなくて良いなら奉仕活動の資金を払いたくなかったと。自分の食い扶持を減らしてでもお金を捻出する人もいればそうでない人もいる。
『神への祈り』だけで腹は膨れないのですよ。
全員が全員とは言いませんが生活に余裕がある人ほど信仰も熱心な傾向があります」
「その、余裕がない人ほど神頼みをするのではないのですか?
僕は奉仕活動を通してそう思いましたが」
「都合の良い時だけ救いを乞う行為が信仰なのですか?」
「ちがいま…あれ?違います、違うのですが…、神を信じるという行為が既に信仰であって、貧民ほどそれが縋る行為を伴っていて」
「口先だけの感謝と欲するだけの行為とも取れますよね」
「…そうですね」
自分の根幹を揺るがす話だが先程の様な恐慌は見られない。
若いと新しきを直ぐに吸収できる柔軟性があって羨ましいと相談役は思う。特に目の端で慌てふためいている同僚が見えると、余計に強くそう感じた。
「はい」
衝撃的な事実を聞いたはずなのに、予想していたよりずっと皇太子は落ち着いていた。
「まず参謀役の予想は事実なのか?初めから断罪される気であったと」
「はい」
「何故だ」
「糾弾された時点で私には選択肢が三つありました。今は大人しくしていて後で反抗する。今すぐに反抗する。逃げる。その中で一番やってはいけない事は逃げる事でした。恐ろしくて身の安全を守りたくて逃げたとしても、逃げてしまえば罪を認めたと思われてしまう。事実はどうであれ逃げたのだから罪を認めたと。
ならば潔白の私は反抗する。後はタイミングだけどうするかでしたが…思わず滑り出た暴言がそれを決めました。吐き出された言葉は飲み込めない、ならばいっそ胃がひっくり返る程に吐き出し切ってしまった方が良い」
「だが残りを言わない方がこんな大騒ぎにならなかったのでは?
領民の事やらは一旦抜きにして君自身の立場として」
「吐き気も辛いですし吐く事も辛いです。ですがせり上がった胃液が喉で留まりまた胃の腑に落ちる事が一番不快なのです。私個人としてはですが。
どうせどの選択肢でも私の立場は悪くなる。今より状況が悪くなる事は社交界において罰を受ける事となんら変わらない。
ならば中途半端に残すより出し切って断罪された方がいい」
「…罪は確定していないのに、罰を受ける事は確定してしまっているのか」
糾弾し断罪をする本人のくせに皇太子が一番苦しそうな顔をした。
あぁ駄目ですよ、そんな顔しては皇太子が王室が間違っていたと認めてしまうようなもの。貴方は本当にポーカーフェイスが苦手なのですから。貴方は間違っていない。ただ少し気が早ってしまっただけのなのです。
そうでなければならないのです。
「殿下、今はまだ私の婚約者であるお方。どうか胸をお張り下さい。頭を垂れる事なぞ赦さない」
王族として弱った所を見せるな。弱点になる程の失敗を認めるな。ここにいる皆ですらその首を狙う獣なのかもしれないのだから。という建前で、私が民の為とはいえ自分を犠牲にして貴方の立場を守ったのだから、守られた物を蔑ろにするなという叱責である。
皇太子は歪めていた顔を無理やり笑みに変えた。くしゃみを我慢している時みたいに変な顔だった。
「最初から相談役は気が付いていたんだな」
「そうですね」
「もし、だ。もしこの場を告解の場にしていなければどうなっていたと思う?」
「現在殿下に組みしている者とA令嬢にとって今より悪い状況でしょうね」
「君にとってはマシになるのか。それは責任を取らされる立場から外れるからか?」
「そうです」
「今より悪いというのは?」
「殿下のお考えは?」
質問に質問で返され言葉に詰まる。
それにクスリと相談役が笑う。
「質問ばかりですね。ワタシが、いえワタシも、殿下を騙そうとしているかもしれませんよ?」
「この場でそれは」
「嘘を言わずとも、真実だけを語り騙す事は可能ですよ。平民乙女がやったと思われる事のように」
「自分で考えろという事か…」
「いえ別にそういう訳ではありませんよ。
質問ばかりでも構いませんが、それと同時に疑いなさい」
「認識の違い、って事ですか?」
騎士見習いが言葉を挟んだ。
参謀役は一度頷くと、今期学園生徒に対しての最後の教えを説く。
「その通りです。アナタは噂を軽く見ていた、農家息子は重く見ていた。それは認識の違いであり環境によって認識は幾重にも変わります。
それは話し合いでよくわかったでしょう?様々な事が認識の違い、すれ違いによって大きな問題へと発展してしまった。
それに今一番アナタ達とワタシ、平民と貴族、この場にいない貧民で認識の違いがあるのですが、わかりますか?」
答える者はいない。
「次期神官様、またアナタにとって嬉しくも無い真実を言いますがよろしいですか?」
名指しされ一瞬ためらったが、腹なら無様を晒して暴走した後に括った。
「知ります、学びたいのです」
「では言いますが、聖職者を除けば信仰を重要視している者は少ないですよ」
「はっ…い?」
「正しくは比重がです。貴族や富豪ほど信仰心に厚く、逆だと信仰心は薄い」
「でっ、ですが!貧民街の皆さんは」
「顔を出す度に神への感謝を口にする、ですか?」
「そう、です」
「アナタがいるからですよ。アナタを喜ばせていれば食事を持ってきて貰えますから。
男爵令嬢だってそうだったでしょう。払わなくて良いなら奉仕活動の資金を払いたくなかったと。自分の食い扶持を減らしてでもお金を捻出する人もいればそうでない人もいる。
『神への祈り』だけで腹は膨れないのですよ。
全員が全員とは言いませんが生活に余裕がある人ほど信仰も熱心な傾向があります」
「その、余裕がない人ほど神頼みをするのではないのですか?
僕は奉仕活動を通してそう思いましたが」
「都合の良い時だけ救いを乞う行為が信仰なのですか?」
「ちがいま…あれ?違います、違うのですが…、神を信じるという行為が既に信仰であって、貧民ほどそれが縋る行為を伴っていて」
「口先だけの感謝と欲するだけの行為とも取れますよね」
「…そうですね」
自分の根幹を揺るがす話だが先程の様な恐慌は見られない。
若いと新しきを直ぐに吸収できる柔軟性があって羨ましいと相談役は思う。特に目の端で慌てふためいている同僚が見えると、余計に強くそう感じた。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件
ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。
スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。
しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。
一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。
「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。
これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。
國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。
声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。
愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。
古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。
よくある感じのざまぁ物語です。
ふんわり設定。ゆるーくお読みください。
幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係
紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。
顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。
※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる