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リトの赤魔法
ミラの両親
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「おっと、ずいぶん暗くなってしまった……そろそろ僕の実家へ向かうとするか。」
ついにこの時が来てしまったとリトは内心身構える。ミラに案内されるまま歩いていると、 敷地の大きな家が立ち並ぶエリアへと入ってきた。
立ち並ぶ家同士の密度が低い。神木の裏手の少し丘になっているような場所で、フォトスの輝く街並みを一望できる立地だ。
「ここだよ。」
到着した家は大きな庭に囲まれていた。庭にはところどころに配置された魔法ランタンの明かりが、咲き誇る花々を優しく照らしていた。優雅な花の香りに、緊張していたリトの心も少しほぐれる。フォトス特有の白い佇まいの家は、大きさこそほかの家とそこまで変わらないが、庭の奥にもう一軒離れのような小屋が立っているのが見える。
「綺麗な庭だな……誰が手入れしてるんだ?」
「母さんだよ。父さんが勇者だったころ、父さんが帰ってきたときに少しでも楽しんでほしいと手入れしてたんだ。それが今でも趣味として続いているみたいだ。父さんも気に入ってたし。」
言いながら、ミラは家の玄関へ歩き、ベルを鳴らす。
「ただいまー。近くに寄ったから帰ってきたよー。」
少し間をおいてドアが開かれると、中から栗色の髪をひとまとめに結んだ優しそうな女性が出てきた。
「あらっ!?本当にミラなの!?しかも……お仲間がいるじゃない!ちょっとあなたー!ミラが帰ってきたわよー!さあさあ、入って入って!」
その女性……おそらくミラの母と思われる人物は、リトを見て嬉しそうに微笑みかけてきた。
ひとまず受け入れられているようで一安心する。促されるまま屋内に足を踏み入れると、柔らかな色合いで統一された内装が広がっていた。そして、奥から先ほど呼ばれていた男性が出てくる。ミラよりも幾分か精悍な顔つきをした男性が出てきた。銀色の短髪に、銀の瞳だ。見るからにミラの父ということがわかる。
「ミラ?急に帰ってくるなんてどうしたんだ?」
「特に用事があるわけじゃないんだけど……図書館に用があったのと、仲間を紹介したくて。リトだよ。」
「初めまして。ミラ、さんと一緒に旅をさせてもらってます。リトです。」
呼び捨てにするのも忍びなく、呼び慣れていない敬称を付けてぎこちなく挨拶をする。
「あはは、気を遣わなくていいよ。ミラの父のアルテスです。それにしても、2年旅して初めての仲間かあ。もはや一人で旅を終えるもんだと思ってたよ。」
ミラの父の話し方は、どことなく初めて会った時のミラの飄々とした話し方に似ている気がして、ミラとアルテスの血のつながりを感じさせた。
「ミラ、こんな時間に来るって事は、今日は泊まるんでしょ?ご飯はもう食べた?」
「そう、泊まるつもりで来たんだ。ご飯もまだだよ」
そこからしばらくは、ミラの母・ティオが用意してくれた晩御飯を食べながら、積もる話をした。ミラの旅の話や、リトの生い立ち、ミラの両親のフォトスでの暮らしなど、用意された晩御飯の皿が空になっても話題は絶えなかった。
話の途中で、ティオが「次は、恋人ね~」と、微笑みながらつぶやいた。アステルが「おいおい、急かすとよくないぞ」と咎める。「でも、勇者になってしまった以上、子孫を望まれるでしょう?なら、意識しておかないとね?」といたずらっぽくミラに問いかけた。
そうか、勇者となると、周囲から子供を残すことを望まれるのか。と、自分ではまたその役目を果たせないことに落胆してしまうリト。その感情を表情に出すまいと苦笑してその場になじもうとするが、チクリとした胸の痛みは消えなかった。
「……もう時間も時間だし、寝るよ。離れを使わせてもらうね。」
「あらあら、もうそんな時間?おやすみなさい」
「ああ、おやすみ。行くぞリト」
「ごちそうさまでした。おやすみなさい。」
リトは夕食の礼を言い頭を下げ、ミラの後を追い庭に出た。入るときには歓迎してくれているように見えた庭の花々も、その華やかさが今は自分の疎外感を際立たせているように感じられた。
結局、離れに向かい始めてから寝る準備をするまで、リトとミラはほぼ会話をすることはなかった。正確に言うと、ミラからは庭で「足元気を付けて」、家に入ってから「これ、使っていいから。」など、声を掛けていた。一方のリトの返しは「ああ、ありがとう。」のみだ。
離れはもともとミラの部屋だったので、備え付けられているベッドは二階にある一つだけ。ミラは一緒に寝るつもりだったが、リトは1階のソファーで寝ると言い出した。
「んー。僕は一緒に寝たいんだけど……ダメ?」
「ごめん。今日は一人にさせてくれないか」
「……わかった。今日だけだよ。でも、もうこれ以上一人で抱え込まないって約束して。」
「……大丈夫だよ。何もねぇって。」
何もないはさすがに無理があるだろうと内心思ったミラだが、リトが話す気分になるまで根気強く待つことにした。
「でも、寝る前にちょっとだけ、抱きしめさせて。」
「……ああ、いいよ」
そう言って腕を広げたリトの胸に飛び込みギュッと抱きしめる。いろいろあってここ数日肌を合わせることができていないことを実は不満に思っていたミラ。本当は今夜だって押し倒してしまいたかったが、リトがこんな様子では無理だろうと諦める。
「おやすみ、愛してるよ。」
「……っ、急に……っ!……俺も、だよ。おやすみ。」
リトは耳元で急に愛を囁かれ、赤面してしまう。先ほどまで暗く落ち込んでいた心がいとも簡単に高鳴ってしまった。名残惜しそうに離れ、二階へと向かうミラを見送る。
こんなにも落ち込んでしまうのはきっとミラとずっと一緒に居たいと思うからだとリトは気付いた。先ほどミラの両親に対して、ミラはやはりリトが恋人だとは明かさなかった。きっと、何か明かしたくない理由があるのだろう。両親が言っていた通り子供のことを考えるなら、いずれこの関係は終わる。でも、それでも。僅かな期間でもそばにいられるのであれば、周りからどう見られても構わない。ミラの望む通り、この関係を隠して、そばに居られればいいのかもしれない。そう言い聞かせながら、眠りについた。
ついにこの時が来てしまったとリトは内心身構える。ミラに案内されるまま歩いていると、 敷地の大きな家が立ち並ぶエリアへと入ってきた。
立ち並ぶ家同士の密度が低い。神木の裏手の少し丘になっているような場所で、フォトスの輝く街並みを一望できる立地だ。
「ここだよ。」
到着した家は大きな庭に囲まれていた。庭にはところどころに配置された魔法ランタンの明かりが、咲き誇る花々を優しく照らしていた。優雅な花の香りに、緊張していたリトの心も少しほぐれる。フォトス特有の白い佇まいの家は、大きさこそほかの家とそこまで変わらないが、庭の奥にもう一軒離れのような小屋が立っているのが見える。
「綺麗な庭だな……誰が手入れしてるんだ?」
「母さんだよ。父さんが勇者だったころ、父さんが帰ってきたときに少しでも楽しんでほしいと手入れしてたんだ。それが今でも趣味として続いているみたいだ。父さんも気に入ってたし。」
言いながら、ミラは家の玄関へ歩き、ベルを鳴らす。
「ただいまー。近くに寄ったから帰ってきたよー。」
少し間をおいてドアが開かれると、中から栗色の髪をひとまとめに結んだ優しそうな女性が出てきた。
「あらっ!?本当にミラなの!?しかも……お仲間がいるじゃない!ちょっとあなたー!ミラが帰ってきたわよー!さあさあ、入って入って!」
その女性……おそらくミラの母と思われる人物は、リトを見て嬉しそうに微笑みかけてきた。
ひとまず受け入れられているようで一安心する。促されるまま屋内に足を踏み入れると、柔らかな色合いで統一された内装が広がっていた。そして、奥から先ほど呼ばれていた男性が出てくる。ミラよりも幾分か精悍な顔つきをした男性が出てきた。銀色の短髪に、銀の瞳だ。見るからにミラの父ということがわかる。
「ミラ?急に帰ってくるなんてどうしたんだ?」
「特に用事があるわけじゃないんだけど……図書館に用があったのと、仲間を紹介したくて。リトだよ。」
「初めまして。ミラ、さんと一緒に旅をさせてもらってます。リトです。」
呼び捨てにするのも忍びなく、呼び慣れていない敬称を付けてぎこちなく挨拶をする。
「あはは、気を遣わなくていいよ。ミラの父のアルテスです。それにしても、2年旅して初めての仲間かあ。もはや一人で旅を終えるもんだと思ってたよ。」
ミラの父の話し方は、どことなく初めて会った時のミラの飄々とした話し方に似ている気がして、ミラとアルテスの血のつながりを感じさせた。
「ミラ、こんな時間に来るって事は、今日は泊まるんでしょ?ご飯はもう食べた?」
「そう、泊まるつもりで来たんだ。ご飯もまだだよ」
そこからしばらくは、ミラの母・ティオが用意してくれた晩御飯を食べながら、積もる話をした。ミラの旅の話や、リトの生い立ち、ミラの両親のフォトスでの暮らしなど、用意された晩御飯の皿が空になっても話題は絶えなかった。
話の途中で、ティオが「次は、恋人ね~」と、微笑みながらつぶやいた。アステルが「おいおい、急かすとよくないぞ」と咎める。「でも、勇者になってしまった以上、子孫を望まれるでしょう?なら、意識しておかないとね?」といたずらっぽくミラに問いかけた。
そうか、勇者となると、周囲から子供を残すことを望まれるのか。と、自分ではまたその役目を果たせないことに落胆してしまうリト。その感情を表情に出すまいと苦笑してその場になじもうとするが、チクリとした胸の痛みは消えなかった。
「……もう時間も時間だし、寝るよ。離れを使わせてもらうね。」
「あらあら、もうそんな時間?おやすみなさい」
「ああ、おやすみ。行くぞリト」
「ごちそうさまでした。おやすみなさい。」
リトは夕食の礼を言い頭を下げ、ミラの後を追い庭に出た。入るときには歓迎してくれているように見えた庭の花々も、その華やかさが今は自分の疎外感を際立たせているように感じられた。
結局、離れに向かい始めてから寝る準備をするまで、リトとミラはほぼ会話をすることはなかった。正確に言うと、ミラからは庭で「足元気を付けて」、家に入ってから「これ、使っていいから。」など、声を掛けていた。一方のリトの返しは「ああ、ありがとう。」のみだ。
離れはもともとミラの部屋だったので、備え付けられているベッドは二階にある一つだけ。ミラは一緒に寝るつもりだったが、リトは1階のソファーで寝ると言い出した。
「んー。僕は一緒に寝たいんだけど……ダメ?」
「ごめん。今日は一人にさせてくれないか」
「……わかった。今日だけだよ。でも、もうこれ以上一人で抱え込まないって約束して。」
「……大丈夫だよ。何もねぇって。」
何もないはさすがに無理があるだろうと内心思ったミラだが、リトが話す気分になるまで根気強く待つことにした。
「でも、寝る前にちょっとだけ、抱きしめさせて。」
「……ああ、いいよ」
そう言って腕を広げたリトの胸に飛び込みギュッと抱きしめる。いろいろあってここ数日肌を合わせることができていないことを実は不満に思っていたミラ。本当は今夜だって押し倒してしまいたかったが、リトがこんな様子では無理だろうと諦める。
「おやすみ、愛してるよ。」
「……っ、急に……っ!……俺も、だよ。おやすみ。」
リトは耳元で急に愛を囁かれ、赤面してしまう。先ほどまで暗く落ち込んでいた心がいとも簡単に高鳴ってしまった。名残惜しそうに離れ、二階へと向かうミラを見送る。
こんなにも落ち込んでしまうのはきっとミラとずっと一緒に居たいと思うからだとリトは気付いた。先ほどミラの両親に対して、ミラはやはりリトが恋人だとは明かさなかった。きっと、何か明かしたくない理由があるのだろう。両親が言っていた通り子供のことを考えるなら、いずれこの関係は終わる。でも、それでも。僅かな期間でもそばにいられるのであれば、周りからどう見られても構わない。ミラの望む通り、この関係を隠して、そばに居られればいいのかもしれない。そう言い聞かせながら、眠りについた。
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