夢現アリス

Marnie

文字の大きさ
13 / 14
第2章

さよなら、私のワンダーランド

しおりを挟む
 お兄ちゃんが何を言っているのか、私にはわからなかった。そして、これから何を言い出すのかも、わからなかった。流れのままに聞いてみたけれど、どんな返答が返ってきても、受け入れられる状態ではなかった。
 しかし、私の感情がまとまらないまま、お兄ちゃんはゆっくりと話し出した。
「ここは、お前が創り出した世界。創る方のでもあり、空想する方のでもある。だから当然、この世界の登場人物達は、全てお前が創り出したもの。そのほとんどは、お前が望むままに設定した架空の人物。でも、お前はその中に、俺の事までも創り出していた。そう、唯一の実在した人物として。そして、お前は俺の事を、現実世界そのままに表そうとした。少しでも、『兄の死』という現実から遠ざける為にな。」
「お兄ちゃんの死……現実から遠ざける為に…?それで、なんでお兄ちゃんは、私の夢に飛び込んだの?そもそも、夢に飛び込むなんて…」
「ああ、あまりにも無謀すぎた。本来そんな事をすれば、死人にとって、いつまでもこの世に未練を残している事になる。でも、それに引き換えてでも、お前の寂しさが紛れるなら、それで良かった…だから、お前の創り出した虚像の肉体に、魂だけで入り込んだんだ。」
 ますます訳がわからなくなってきた。
 この世に未練を残している、虚像の肉体、魂だけで入り込んだんだ……とんでもない事を言っているのはよく理解出来るが、肝心な内容と来たら、わかるようでわからない。
「そうなる事も無理はない。そりゃあ、聞き慣れない上にとんでもない事を言ってるのは、こっちだって承知だ。だけど、俺と他の登場人物達との決定的な違いが、ちゃんとある。ローラ、いや、アリス。俺がアリスの望み通りに行動しなかった事は、何回ぐらいあったか?」
「えっ!?えっとー……えぇー!?数え切れないって!」
「じゃあ、俺以外の登場人物達が、アリスの望みに背いた事は?」
「それは、あの王様がしょっちゅう…!」
「あぁ、そうだった…なら、言い方を変える。登場人物達の行動で、アリスが本気で傷付いたり、登場人物達が思ってもいない行動に出た事は、どれぐらいあった?」
「……ない…1回もない…!」
 言われてみれば、そんな事は1度もなかった。いくらさかのぼっても、この世界の登場人物達は、いつでも私の理想の形のまま行動し、楽しませてくれていた。
 改めて誰かに問われると、今まで当たり前のように過ごしてきた中で起こっていた、様々な事に気付かされる。
「散々狂わされて来ただろうけど、何だかんだ言って、楽しませて貰ってたんだろ?自分自身が楽しめるような、そういう設定にしてたんだろ?登場人物達は、お前の設定した通りにしか行動しないからな。それに対して、俺は何度もアリスと言い合ったし、喧嘩もした。それが出来たのは、周りのキャラクター達と違って、俺には『意思』があったからだ。お前が生み出した虚像に魂を宿し、夢の中での俺に『意思』が生まれた。そのおかげで、俺とアリスは現実世界と同じように生活も出来たし、ぶつかり合う事も出来たんだ。」
「そっか。お兄ちゃんは、お兄ちゃん自身だったんだね。だから安心出来たんだ…私が創り出した虚像なんかじゃなくて、本物だったから…!」
「今思うと、俺がそこまでする必要は、なかったのかもしれない…お前が夢現を逆転させてしまったのも、そのせいだからな…」
「でも、結果的には……良かった…って事で良いんじゃないの?」
 少ししぼんでしまったお兄ちゃんの肩に手を置いて、私は笑顔で話しかけた。これ程の笑顔になったのは、ずいぶんと久し振りのように感じられた。実際、心からの笑顔は、本当に久し振りだった。
 それを見たお兄ちゃんは、驚いたような顔で、私を見つめている。
 勢力逆転、攻手交代だ。
「だって、こんなに幸せな夢を見られたのって、お兄ちゃんのおかげじゃない!本来なら、死んじゃった人にはもう会えないでしょ?でも、私の場合は違った。夢の中だけど、限りなく現実に近い状況で、本物のお兄ちゃんに会えた。それも、お兄ちゃんが、私の夢に飛び込んでくれたからだもん!」
「ローラ…」
 お兄ちゃんは私の名前を口にした後、これ以上何も言えない様子だった。
 しかし、その裏には、まだ何か重大な事を抱えているように伺えた。なぜだかわからないが、私にはその「重大な事」が一体何なのかが理解する事が出来た。
「私、もう大丈夫。だから…心配しないで?」
「……ありがとう、ローラ……いつでも、ここに遊びに来れば良いよ…」
「こちらこそ、本当にありがとう……カルロお兄ちゃん…」
 お互いの手と手を合わせ、最高の笑顔で笑い合った後、2人で静かに目を閉じた。

 そして、数秒後。
 ゆっくり目を開けると、そこにはもう、お兄ちゃんの姿はなかった。
「あぁ…楽しい夢だった……さよなら、私のワンダーランド…」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...