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想磨

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1-8 凝った家作りと初めての木製道具

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 ダンジョンに籠る為に魔物を片付ける事、一時間。そして、居住空間の家を作るのに半日。

 出来たのは『ビーバー』を模範とした建造物だった。
 簡単に言ってしまえば、この家は半ば水に沈んだドームを中心に成り立っている。

「いいね。秘密基地みたいだっ」

 自分で作っておいてなんだけど、かなりセンスがいいのではないだろうか。
 余り文明的でなく、だけどそれほど自然的でない。きちんとダンジョンに調和している。

 水に潜ってドームに近づいてみた。

 こうして見ると、水中からの眺めも中々いい。
 石を土台にし、木をなるべく隙間なく組み上げていて、その様が古代の遺跡めいているのだ。

 この石も木も、湖底に転がっていた朽ち木と石の数々をちまちまと集めたもので、それを慣れない積み上げて……頑張ったなあ。
 その甲斐がある光景にまた口元がにやけてしまう。

 特に凝ったのはこの入り口だ。
 この入り口は『ビーバー』が作る通りに水の中に作っていて、水に潜れる動物しか入れない構造になっている。

 けど、それだけでは安全ではない。
 何故ならここは水生の魔物が居る場所だ。カエルなどの両生類はきっとこの出入り口を通れるだろう。

 そこで更に一捻りを加える。というか、発想の転換だ。

 そもそも僕はこんな寒い気候では生きていけない動物だ。
 水中適応の魔石を持っていて、今は濡れているから平気だけど、乾燥した瞬間に僕は凍え死ぬだろう。

 打って変わって、水の中は快適だ。
 体温は奪われず、そのまま僕の体に帰ってくる。常に羽毛布団に包まっている状態と言って過言でない。

 だから、何故水上に出る必要がある、と開き直ってみたのだった。

 つまりドームの水上空間を寝床としないでバリケード兼生活用品置き場にし、水中に新たな居住区を増設したのだ。
 この蓋をした井戸みたいな入り口から続く、地下一階とも呼べる場所こそが僕の本拠地。この家の中心部なのである。

 実際に潜って、水で満たされたすり鉢状の空間に寝転ぶ。

 下には小石を敷き詰めて、中心の方にあった砂を上に敷いている。
 本来なら寝心地は悪いけど元々羽毛に包まれているようなものだ。問題はない。

「快適快適」

 とはいっても、水の中でご飯を食べる訳にはいかないから、ドームに移動してバリケードと併設したキッチンスペースに行かないといけないのだけど。


 というわけで、家が出来たわけだから今度は飯と炎の調達といこう。

「正直お腹が減ってもう我慢できない」

 ご飯を食べるなら先ずは火が必要だ。でもサバイバルを学んだ僕にとって簡単に調達できるものである。
 というのも、魔物というのは様々なものが居て、その中には物理的におかしいものが居るからだ。

 ファンタジー世界でのサバイバルその一。火起しは魔物に任せるに限る。
 これはその通り、火種が無ければ魔物を使えばいいというものだ。

 戦いで少し歪んでしまった眼鏡をかけて、魔物を見る。

 この火熾し法を使うなら相応の魔物が必要なのだ。もしなかったら初手で躓くことになる。
 でも幸いそんなことは無く、それらしい魚を見つけた。

 ランプフィッシュという名前の、チョウチンアンコウみたいな魔物だ。
 躊躇する必要はない。すかさず捕縛して、更にその提灯みたいな所を爪で剥く。

 期待通り、水の中でも煌々と燃える鬼火が出てきた。
 こういう火はいわゆる魔法の炎で、たまに物理法則を無視したりするものがある、と昔読んだ本に書かれていた。

 物理法則を無視する。堅苦しい言い方だ。

 けど、内容は意外と簡単なことだ。
 湖底に沈んだ木を拾って、水上で二つを重ね合わせるとどうなるかというと

「本当に燃えた」

 燃えるということだった。

「これならいけるね」

 これで竈が本格始動できそうだ。

 でも、だからと言って喜び勇んで、このランプフィッシュを使うのは危険だ。
 家に運び込んだ瞬間にいきなり暴れられたりしたら、家に引火。築一時間で全焼なんて悲しいことになりかねない。

 一先ずこの鬼火が露出したランプフィッシュを倒して、新たなランプフィッシュを捕まえ直してから、キッチンスペースに移動する。

 このキッチンスペースも相応に凝った作りにしていて、お気に入りの場所だった。

 薪を置く場所、かまど、そしてその上の薄っぺらい石板。そしてランプフィッシュを入れる予定だった、一段下がった水場スペース。
 どれも動線を意識した機能美溢れる空間だった。

 僕が居た家とは比べようがないけど、これもある意味上質な空間と言える。

 そこに、最後のピースであるランプフィッシュだ。
 水場スペースに入れて、石と木で囲って固定して、ランプ部分だけ水上に出す。

 これだけで天然の火口の完成である。

 試しに使ってみるときちんと火がついて、薪が燃えた。

「よしっ」

 これで火の問題は解決だ。

 後はこれで竈に火を熾して、また水の中を泳いで辺りから魚を取って、熱々になった石板に丸ごと乗せて、焼く。
 あっという間に魚の石板焼きの完成だ。

「原始的な料理だなあ」

 塩気もなくて、焦げ付いていて、余り品が良い食べ物とは言えない。
 でも、空腹だった体には最上の御馳走だ。

 柔らかく、脂の乗ったそれを骨から身を解すように食べて、味わう。
 初めて食べる魔物だけど、美味しい。頬が落ちるくらい旨みが溢れてくる。

 初めてのキャンプだったけど、これは大成功と言って良いだろう。

「旨かった!」

 骨と内臓だけになったそれを捨てて、僕は伸びをする。
 竃があると水の中でなくても暖かくて、居心地がいい。

 お腹も落ち着いた上にそれもあったせいだろう。何だかうとうとしてきてしまった。

「でもここじゃ寝れないか」

 竃の火が消えた途端に凍死する可能性があるし、何よりカエルが来そうで怖い。
 僕は竃の火を消して、水に入り、暫し眠りについた。








 そんな生活を繰り返し細かい手直しをしている内に、ここの生活も随分と安定してきた。

 先ず、灰が貯まったから種火を残して置けるようになった。これのお陰で一日中種火が持つようになって、わざわざ火口を捕まえなくても簡単に火熾しが出来るようになった。
 そして、起きている間は火をずっと焚き続けているから薪がよく乾燥し、燃えやすくもなっていた。

 総評すると焚き火にかかる時間が減ったのだ。

 ではその時間を何に使ったのかというと、食料採集だ。
 色々な魚を取って食べて、他の動植物も試してみて、美味しい食べ物を見分けていく。

 その甲斐あって魚だけの生活から一汁一菜生活になった。もう幸せの絶頂だ。

 が、それでも僕の手直しは終わらない。まだまだ生活の改善は続く
 暖も食も改善された。となると今度は居住区である家も増改築してみたくなるのが人の性。

 ご飯を食べるスペースを広げて、食料を保管する生簀代わりの籠を併設して、その上竈の位置すら移動して、完璧なレイアウトにしてみせた。
 特に竈はカエルが侵入したら火傷するような位置にあり、罠としても機能する作りだ。


 これぞ、夢の秘密基地である。


「……じゃないよ! 何改装にはまってるのさ僕!?」

 回想していて、思わず自分に突っ込んでしまった。 
 何で僕はシュリに追われていることすら忘れて、こんなことに没頭してしまったのだろう。

 本当なら、もっと自分のスキルを使って色々する計画だった。そうすべきだった。
 なのに、子供が基地を作る感覚でどんどん改築してしまったのだ。
 その間一週間だ。一週間も遊んでしまった。

 恐るべし、子供心。

 このままではシュリに見つかってしまった時、どうしようも出来ないままなます切りにされた挙句に連れ戻されてしまう。

 今からでも遅くはない。早速、新しい道具を作らないと。

 善は急げだ。湖底の木々を拾って乾燥させた薪を組んで背負子を作り、それで木を背負って水の中に飛び出す。
 そして倒しても倒しても減らない魔物を、更に手当たり次第に倒して行った。

 魚も蛙も、よく分からない生き物だって経験値にしていく。

 僕の能力で物のレベルが上がる。そして特殊能力が付く。
 けど、それで得る効果はそれぞれ違って、完全にランダム。いい能力が付くか付かないかは運次第だ。

 だから欲しい能力がある時はこうして、物量作戦でやった方が効率がいいと思ったのだけど……。


 ……何か動きにくいし格好も悪い。


 多分、今の僕は背負子を背負いたての『二宮金次郎』みたいになっているだろう。

「で、そんなよちよち状態なのに苦も無く倒せちゃうんだよなあ」

 多分これが適正レベル四十の理由なのだろう。
 四十と言えば、農業従事者よりも少し強いだけだ。それで何とかなるレベルというのがこれなのだ。

 ここが不人気な理由が分かった。

「何だかファンタジーをしている気がしない。終わらない害獣駆除しているようにしか感じない。転生した気にもならない」

 ハチの巣から毒のないスズメバチが延々と出て来て、それをこれまた延々と駆除している気分だ。

「はあ、しんどい」

 何だか鬱々していて、くたびれてきそうになって……慌てて首を振る。

 駄目だ。こんな考えに陥ると魔物退治が辛くなってくる。もっと別の事を考えよう。
 背負った木材達がどんな成長をするのかを考えてみよう。

 もしかしたら電撃を出す気になるかも知れない。それか竜を召喚できるものとか、不老不死の木というのも捨てがたい。

「どんな雑魚でも、ワクワクが楽しめる。レベルディーラーって最高だね!」

 さあ、どんどん成長させてどんどん開発して行こう。
 僕の明るい未来に向かって、全力疾走だ。


「……やっぱ無理だ。楽しくない」


 無理に気分を引き上げても、この単純作業が全然楽しくならない。
 というか一人で妙なテンションになって、恥ずかしい。

 そもそも延々と魔物を狩らないといけないのが辛いのだ。
 その魔物もシュリの動きに比べると遅いし、攻撃する場所もタイミングも丸分かりで戦っている気がしない。

 命のやり取りをしておいてなんだけど、ただ面倒臭い。

「……いやいや、こういうのを解決するのが道具じゃないか」

 背負った薪を下ろして眼鏡をかけ、敵を避けながら眺めてみる。
 予想通り、木はどれもレベル二になっていて、特殊な効果がしっかりと現れていた。

 朽ちかけている癖に何かの強化をするとか、もう枯れ木なのに成長が速いとか、多種多様というより玉石混交だ。

 その中でも玉と言える、良い能力のものはこんなものか。
 壊れにくい効果。発火しやすい効果。捕食する効果。

「お、これは」

 更にその玉の中に眩い宝石が二つ。

 これで打開できるのではないだろうか。いや出来るに違いない。
 そしてこれで僕のレベル上げは捗る事にも、間違いない。

「くくく。あははは! やっぱりレベルディーラー最高!!」

 僕は早速その木を運用すべく育て上げた。






 そして二時間。


 もう少し成長させたい所だったけど、早々時間もかけていられない。テスト運転してみるべく、起動してみよう。

 育て上げた木の棒持って潜って、石だらけの湖底にぐいぐいと突き立てる。
 色々と試した結果、この木の能力はこうしないと効果が発動しないのだ。

 逆に言えば突き刺した瞬間に効果が発動する。僕は大急ぎで遠くに潜んで、もう一つの育てた木の棒を持って様子を見てみる。

 すると、十秒も経たない内に魔物がみるみる木の棒に集まってくる。

「よし、誘因の木はいい感じだ」

 あの木は突き刺した所を中心にして、魔物を誘き寄せる効果がある。
 それのレベルを二十ほど上げて、効果を高めるとどれだけ増えるか。


 結果が今の光景だ。


 魚が一斉に集まり押し合いへし合い潰しあった。蝙蝠が集団で水に飛び込んで水中でもがいていた。そこにカエルも混ざってひしゃげた。
 
 それだけ引き寄せられたのだ。この木の力は本当に凄い能力だ。

 ……でも、正直引いた。まるで樽の中に生き物をぎゅうぎゅうに詰め込んだみたいな光景だもの。
 試しにやっただけなのに、まさかこんな惨劇を生もうとは。

「あ、あはは。気を取り直して」

 次はこっちの杖だ。

「名づけるなら『誰でも魔法使い一号』!」

 この世界の魔法が何なのかは知らない。けどそんな僕でもこれを使えば簡単に魔法が放てる。
 そしてこの少し曲がった木の枝こそ作戦の要だった。

 効果は単純で炸裂性の魔法弾を放つ。これだけだ。
 使い方も単純、使うという意思を持って軽く振ってやるだけ。

「そりゃ」

 それだけで、光の玉が水の中を突き進んで魔物の塊に当たり爆発して、一部を抉り取った。
 最初はかんしゃく玉みたいなものだったのにレベルを上げて十くらいにしてみると、これだけ威力があがるらしい。

 ……でも、これにも正直引いた。まるで炸薬入り砲弾で蹴散らしたような光景だった。
 試しに撃っただけなのに、まさかこんな惨劇を生もうとは。

「し、しかもまだまだ上がってるし」

 一気レベルが一つ上がった。予想外だ。

 余りにもぎゅうぎゅうに集めた所に、余りにも強力な攻撃を与えた結果だった。
 確かに効率を求めたけど、まさかこんなに効率が上がるとは……。

「というか、増え過ぎじゃないかな?」

 湖底に突き刺した木の効果でまだまだ魔物が集まってきている。しかも倒した分よりずっと増えている。
 もっとどんどん倒していかないと湖底に溢れ返りそうだ。攻撃を休むことは出来そうにない。

「う、うええ」

 血の気が引いてきて、それでも僕は杖を構えた。

 また集まってきた魔物相手に光弾を発射する。より多くの魔物が倒され、効果と威力が跳ね上がる。

 またまた集まってきた魔物相手に発射して、効果と威力が跳ね上がる。

 またまたまた魔物相手に発射、効果と威力が跳ね上がる。

 何か、何か……。

「あはははは! なんか楽しいぞこれ!!」

 最初は怯えてしまったけど、どんどん増やして、どんどん高めて。この効率の良さは癖になる。
 ワクワクする。どこまで上がるのか、胸が躍る。

 もしかしたらこれが最強の武器になるのではないだろうか。僕は今伝説を作っているのではないだろうか。
 ワクワクする。楽しみで仕方がない。

「最高だ!」

 これは、良い組み合わせを見つけてしまった。俗に言う『裏技』に違いない。

 これで、この方法で、シュリの対抗手段を作り上げていこう。



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