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1-9直面した問題と封印した道具と
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「……と思ったんだけどなあ」
呟きが泡となってすうっと登っていき、水面まで到達して消える。
その儚さに、あの時の興奮が重なって、空しくなった。
それは全く予想外の出来事、ということではなかったけど、こんなに早く来るとは考えてもいなかった。
それは、僕が馬鹿というという事ではない。きっと僕と同じ立場だったなら、誰だって考え付かなかったに違いない。
だって、まさかものの三分足らずでレベルが上がりにくくなるなんて、誰も想像できまい。
異様な速さでレベルが上がっていた三分間は楽しかった。夢と未来があった。
なのにレベル三十五に差し掛かった頃から、急にレベル上げの速さにブレーキがかかった。
数字が中々上がらなくなって、いくら魔法弾を放ってもピクリとも動かなくなってしまった。
やっぱり所詮は湖底に沈んでいた木。成長には限界があるのだろうか。はたまたここの敵ではもう上がらないのか。
とにかく、楽しくなってきた矢先に水を差された気分だった。
「一気に詰まらなくなったなあ……あ。やっと三十六か」
五分かけてやっと一レベル。これではあまりにも時間がかかり過ぎる。
このままのペースだと四十になるころには、小さい僕も立派な好青年となるくらいだ。
まあ、成長は悪くはないのかもしれない。そこまで成長したなら僕の顔なんて誰も分からないだろうし、シュリも膝の一つでも悪くなるかもしれない。
僕にとっては成長でも、シュリにとっては老化。時は残酷だ。
「……でも、三十年くらいだったら平然と時間に抗いそうだなあ」
それどころかヨボヨボになっても普通に僕を捕まえようと全力疾走してきそうだ。
……冗談はさて置いて、正直言えばずっとこの場に居座るなんて御免だ。いくら探しにくい場所と言っても、シュリが来ないとも限らない。
実際の所、もうさっさと別の所に行きたいとさえ思っているのだ。
「だからと言ってこれの成長を諦めて、別の木を育ててみるのもなあ」
そんな事、杖がレベル三十になった頃にとっくに試したのだ。
元はと言えばシュリ対策の道具を作るための作業だった。ならば魔法弾に拘る必要はない、と思い切って他の木に手を出したのだ。
予想としては、どれもこれよりは強くなりそうになくて、やってみる価値はあるだろう、程度にしか考えてなかったけど……。
結果はやっぱり予想を超えなかった。ある意味、超えてきたとは言えるけど。
第一候補、炭化の木。真っ黒な肌が特徴の曲がりくねった奴だ。
育てた結果、灰になった。意味が分からなかった。
第二候補、成長の木。枯れて白くなった枝分かれしている木だ。
育てたら本当に育ちだした。しかも枯れたままで。持てなくなったので湖底に植えた。
第三候補、発火し易い木。太く短い木だ。
結果。し易いを飛び越して、自然発火した。それも水中で。今はかまどに投げ入れている。
第四候補、壊れにくい木。まっすぐで物干しざおにでも使えそうだ。
育てたら……反応がない。多分壊れにくくなっているのだと思う。使えるように、削れるうちに槍状に整えておいた。
というように結果は微妙なもので、僕の期待はこれまた裏切られる結果に終わってしまったのだ。
「何かパッとしないなあ」
どれもこれも最強の武器には程遠いし、シュリと渡り合えるとは思えない。そもそも使い道が全然分からない。
壊れにくい木だけはもしかしたら何か使えるかもしれないけど、それも微妙な長さだから悩ましい。
いや、実はもっと悩ましいことがあったりするのだけど。
「いよいよ目を逸らせなくなって来たかも」
独り言を言い続けて、泡を見続けて……。そうして他所を見ないようにするなんて子供じみた現実逃避もそろそろ出来なくなってきた。
僕はうっかりしていたのだ。あれの使い方をしっかりと把握するべきだったのだ。
そして、これの効果の凄まじさと、それがもたらす結末も。
「いやあ、あの木ってどうやったら機能が切れるのかなあ」
先ず誘因していた木が暴走しだしていたのに気づけなかった。それが不味かったのだろう。
魔法弾で叩こうが何をしようが、全く効果が切れないのだ。
その上すっかり根付いて、外れる気配すらない。もうどうしようもない。
「で、あの元気な魚たちは何時になったら絶滅するのかな」
魔物の軍勢がまた大量発生してきたのも、不味かった。
奴らは際限なく湧く存在らしく、結局いくら攻撃を続けても全然途切れない。
その上誘因の木のレベルが上がるごとにその数を増しているのだから、手の付けようがない。
結末を予想できる段階になって、水の中だけど冷や汗が噴き出すのが分かった。
僕は、どうにかならないかと、とにかくひたすら魔物をせん滅してきた。
地底に沈む木を全てレベル上げする勢いで、突破口を探した
きっと普通の動物相手だったなら絶滅するくらい倒しただろう。でも魔物達の辞書には、それに近い言葉は記されていなかったようだ。
……いい加減、諦めて現実を見よう。
絶滅知らずの魔物と際限なく誘因する木が作り出す結末を見よう。
僕は遂に、視線を前に戻した。
「き、気持ち悪い」
それは次第に魔物の死骸で満たされていく湖だった。
血潮が漂い、肉片が沈んで、魚の目玉が僕を見る。
この湖底には魔法弾で吹き飛ばされたあらゆるものが沈んでいた。それが魔物を爆散させる度に撹拌されるのだ。
その悪臭はすさまじい物で、五年間の嫌な思い出が蘇ってくるくらいだった。
ゴブリンのお腹からデロンとか、ゴブリンの首からブシューとか。
言ってしまえば、もう全画面モザイクするしかない状況なのだ。
「一応、肉食の魔物が食べてくれてはいるだろうけど、追いついていないなあ」
このままだと生活環境の悪化で体調を崩しそうだ。というか現在進行形で体調が悪い。吐き気がしてくる。
「は、早く何とかしないと……」
このいつ尽きるか分からない魔物の集団と、量産せざるを得ない死骸の山。
それを前に今まで育てた木の山を漁ってみる。
二つの問題を何とかしてくれる道具が、今まで育ててきたこの中にあるだろうかと、もう一度探しているのだ。というかなくては困る。
若干濁り気味の水の中で、今まで集めてきたを必死に漁ってみる。
そして、ふと隔離していたそれに目がいった。
「いや、ないないない」
あれは確かに良さそうだった。最初から期待していた。
けど改めて考えると実は危険じゃないか、と思ってレベルが上がらないように隔離していたのだ。
でも、この状況で一番有用そうなのは……。
「……いやいや、ないから」
あれのレベルを上げるなんて正気の沙汰ではない。部屋が汚れているからといって部屋を丸々爆破するような馬鹿なんていないではないか。
でももしかしたらそこまで危険ではないかも……。
「……いやいやいや、流石に駄目だって」
そう、駄目なのだ。絶対にやってはいけない。
やってはいけない。
絶対に……。
「『清水の舞台から飛び降りる』って言うけど実際あそこってそんなに高くないんだよね」
だから自殺行為だとしても案外うまくいくかもしれない。
ドロドロのグチャグチャな伏魔殿になりつつある湖。
もう岸に上がるしかなくなった僕は、滝の水で防寒しながら必死にそれのレベルを上げていった。
暫し倒して、おおよそ二十分は頑張っただろうか。
もう湖が血の池地獄ならぬ、臓物地獄になりつつある所で、それは完成した。
「間に合った! 間に合っちゃったよ!」
思わずやってしまった、と言ったけど心境としては正しい。
これはあの事態を収拾するうってつけのアイテムだった。
だけど、だからこそ、もしかしたら僕の手に余る代物なのかも知れないのだ。
いっそ間に合わなくて、まあ血の池地獄も名所か、と割り切る未来の方が良かったかもしれない。
なのに僕はそれのレベルを上げて、解放しようとしている。その予測不可能な存在を使おうとしている。
いいのだろうか。今更悩んでしまう。
だってこれは余りにも危険な匂いが漂っていて、余りにも怖そうで……
いやでも案外可愛い進化したし、行けるかも知れないな。
「なる様にしかならないないし、行っちゃえっ」
「キシャアアアアアアア!」
文字通り、解き放ってみた。
「いやあ、育てたら化け物になるなんて、なんでかなあ」
僕が放ったそれは、木が捻じれてトカゲのようになったものだった。
もっと言えば、頭部が異様に大きくなっていて牙が生え揃っている、歪な怪物だ。
それが、死体はおろか生きている物にすら噛みついて食べていく。手足と尾を器用にくねらせ、叫び声をあげて、餌をその体に詰め込んでいく。
そう、何を隠そうこれは捕食する木だった。
一番最初の方に出て来て、ずっと隔離されていた木だった。
いや、もう元捕食する木と言った方がいいくらい化けているけれど。
何せ歯が付いた一本の木が、手足が生えて頭が太くなってしなやかに泳ぎ出しているのだ。
もう木というより生物である。
「あー、とんでもないものを作っちゃったかな?」
でも見た目に反して、結構可愛い所があるのだ。
レベルディーラーの都合上これを持ち運ばなくてはならなくて、背負って移動していたのだけど、あれは一度も僕を噛まなかった。
それどころか僕の手が自由になる様にか、手足が生えれば僕にしがみ付き、尻尾が動かせるようになったら巻き付き、と手伝ってくれたのだ。
「シャアアアアアア!」
「しかもあれが魔物を倒すと経験値がこっちに入ってくるみたいだし、結構集団行動も得意なのかな」
背負っている木が順調にレベル上がっているから間違いない。
なんていい道具だろうか。見た目に反して有用すぎる。もっと早く育てればよかった。
「それにしても、不思議だな」
一体何で経験値が入ってくるのだろうか。別に装備しているわけではないのに。
もしかして、レベルディーラーにはまだ僕が知らない効果があるのかも知れない。
「キシャアアアア!」
例えば、今あげたようなレベルの分配方式の特殊な条件とか。
「キイイイシャアアアアア!」
ひょっとすると僕がやったよりも効率のいい経験値の稼ぎ方があったりとか。
「キイイイイイイイシャアアアアアアアアア!」
「うるさいなあ!!」
「シャアアア……」
「あ、ごめん」
レベルディーラーについて新たな疑問が浮かんでいた僕だけど、たった今分かったことがある。
それは、道具だと思っていたこれには感情があるらしい、ということだった。
呟きが泡となってすうっと登っていき、水面まで到達して消える。
その儚さに、あの時の興奮が重なって、空しくなった。
それは全く予想外の出来事、ということではなかったけど、こんなに早く来るとは考えてもいなかった。
それは、僕が馬鹿というという事ではない。きっと僕と同じ立場だったなら、誰だって考え付かなかったに違いない。
だって、まさかものの三分足らずでレベルが上がりにくくなるなんて、誰も想像できまい。
異様な速さでレベルが上がっていた三分間は楽しかった。夢と未来があった。
なのにレベル三十五に差し掛かった頃から、急にレベル上げの速さにブレーキがかかった。
数字が中々上がらなくなって、いくら魔法弾を放ってもピクリとも動かなくなってしまった。
やっぱり所詮は湖底に沈んでいた木。成長には限界があるのだろうか。はたまたここの敵ではもう上がらないのか。
とにかく、楽しくなってきた矢先に水を差された気分だった。
「一気に詰まらなくなったなあ……あ。やっと三十六か」
五分かけてやっと一レベル。これではあまりにも時間がかかり過ぎる。
このままのペースだと四十になるころには、小さい僕も立派な好青年となるくらいだ。
まあ、成長は悪くはないのかもしれない。そこまで成長したなら僕の顔なんて誰も分からないだろうし、シュリも膝の一つでも悪くなるかもしれない。
僕にとっては成長でも、シュリにとっては老化。時は残酷だ。
「……でも、三十年くらいだったら平然と時間に抗いそうだなあ」
それどころかヨボヨボになっても普通に僕を捕まえようと全力疾走してきそうだ。
……冗談はさて置いて、正直言えばずっとこの場に居座るなんて御免だ。いくら探しにくい場所と言っても、シュリが来ないとも限らない。
実際の所、もうさっさと別の所に行きたいとさえ思っているのだ。
「だからと言ってこれの成長を諦めて、別の木を育ててみるのもなあ」
そんな事、杖がレベル三十になった頃にとっくに試したのだ。
元はと言えばシュリ対策の道具を作るための作業だった。ならば魔法弾に拘る必要はない、と思い切って他の木に手を出したのだ。
予想としては、どれもこれよりは強くなりそうになくて、やってみる価値はあるだろう、程度にしか考えてなかったけど……。
結果はやっぱり予想を超えなかった。ある意味、超えてきたとは言えるけど。
第一候補、炭化の木。真っ黒な肌が特徴の曲がりくねった奴だ。
育てた結果、灰になった。意味が分からなかった。
第二候補、成長の木。枯れて白くなった枝分かれしている木だ。
育てたら本当に育ちだした。しかも枯れたままで。持てなくなったので湖底に植えた。
第三候補、発火し易い木。太く短い木だ。
結果。し易いを飛び越して、自然発火した。それも水中で。今はかまどに投げ入れている。
第四候補、壊れにくい木。まっすぐで物干しざおにでも使えそうだ。
育てたら……反応がない。多分壊れにくくなっているのだと思う。使えるように、削れるうちに槍状に整えておいた。
というように結果は微妙なもので、僕の期待はこれまた裏切られる結果に終わってしまったのだ。
「何かパッとしないなあ」
どれもこれも最強の武器には程遠いし、シュリと渡り合えるとは思えない。そもそも使い道が全然分からない。
壊れにくい木だけはもしかしたら何か使えるかもしれないけど、それも微妙な長さだから悩ましい。
いや、実はもっと悩ましいことがあったりするのだけど。
「いよいよ目を逸らせなくなって来たかも」
独り言を言い続けて、泡を見続けて……。そうして他所を見ないようにするなんて子供じみた現実逃避もそろそろ出来なくなってきた。
僕はうっかりしていたのだ。あれの使い方をしっかりと把握するべきだったのだ。
そして、これの効果の凄まじさと、それがもたらす結末も。
「いやあ、あの木ってどうやったら機能が切れるのかなあ」
先ず誘因していた木が暴走しだしていたのに気づけなかった。それが不味かったのだろう。
魔法弾で叩こうが何をしようが、全く効果が切れないのだ。
その上すっかり根付いて、外れる気配すらない。もうどうしようもない。
「で、あの元気な魚たちは何時になったら絶滅するのかな」
魔物の軍勢がまた大量発生してきたのも、不味かった。
奴らは際限なく湧く存在らしく、結局いくら攻撃を続けても全然途切れない。
その上誘因の木のレベルが上がるごとにその数を増しているのだから、手の付けようがない。
結末を予想できる段階になって、水の中だけど冷や汗が噴き出すのが分かった。
僕は、どうにかならないかと、とにかくひたすら魔物をせん滅してきた。
地底に沈む木を全てレベル上げする勢いで、突破口を探した
きっと普通の動物相手だったなら絶滅するくらい倒しただろう。でも魔物達の辞書には、それに近い言葉は記されていなかったようだ。
……いい加減、諦めて現実を見よう。
絶滅知らずの魔物と際限なく誘因する木が作り出す結末を見よう。
僕は遂に、視線を前に戻した。
「き、気持ち悪い」
それは次第に魔物の死骸で満たされていく湖だった。
血潮が漂い、肉片が沈んで、魚の目玉が僕を見る。
この湖底には魔法弾で吹き飛ばされたあらゆるものが沈んでいた。それが魔物を爆散させる度に撹拌されるのだ。
その悪臭はすさまじい物で、五年間の嫌な思い出が蘇ってくるくらいだった。
ゴブリンのお腹からデロンとか、ゴブリンの首からブシューとか。
言ってしまえば、もう全画面モザイクするしかない状況なのだ。
「一応、肉食の魔物が食べてくれてはいるだろうけど、追いついていないなあ」
このままだと生活環境の悪化で体調を崩しそうだ。というか現在進行形で体調が悪い。吐き気がしてくる。
「は、早く何とかしないと……」
このいつ尽きるか分からない魔物の集団と、量産せざるを得ない死骸の山。
それを前に今まで育てた木の山を漁ってみる。
二つの問題を何とかしてくれる道具が、今まで育ててきたこの中にあるだろうかと、もう一度探しているのだ。というかなくては困る。
若干濁り気味の水の中で、今まで集めてきたを必死に漁ってみる。
そして、ふと隔離していたそれに目がいった。
「いや、ないないない」
あれは確かに良さそうだった。最初から期待していた。
けど改めて考えると実は危険じゃないか、と思ってレベルが上がらないように隔離していたのだ。
でも、この状況で一番有用そうなのは……。
「……いやいや、ないから」
あれのレベルを上げるなんて正気の沙汰ではない。部屋が汚れているからといって部屋を丸々爆破するような馬鹿なんていないではないか。
でももしかしたらそこまで危険ではないかも……。
「……いやいやいや、流石に駄目だって」
そう、駄目なのだ。絶対にやってはいけない。
やってはいけない。
絶対に……。
「『清水の舞台から飛び降りる』って言うけど実際あそこってそんなに高くないんだよね」
だから自殺行為だとしても案外うまくいくかもしれない。
ドロドロのグチャグチャな伏魔殿になりつつある湖。
もう岸に上がるしかなくなった僕は、滝の水で防寒しながら必死にそれのレベルを上げていった。
暫し倒して、おおよそ二十分は頑張っただろうか。
もう湖が血の池地獄ならぬ、臓物地獄になりつつある所で、それは完成した。
「間に合った! 間に合っちゃったよ!」
思わずやってしまった、と言ったけど心境としては正しい。
これはあの事態を収拾するうってつけのアイテムだった。
だけど、だからこそ、もしかしたら僕の手に余る代物なのかも知れないのだ。
いっそ間に合わなくて、まあ血の池地獄も名所か、と割り切る未来の方が良かったかもしれない。
なのに僕はそれのレベルを上げて、解放しようとしている。その予測不可能な存在を使おうとしている。
いいのだろうか。今更悩んでしまう。
だってこれは余りにも危険な匂いが漂っていて、余りにも怖そうで……
いやでも案外可愛い進化したし、行けるかも知れないな。
「なる様にしかならないないし、行っちゃえっ」
「キシャアアアアアアア!」
文字通り、解き放ってみた。
「いやあ、育てたら化け物になるなんて、なんでかなあ」
僕が放ったそれは、木が捻じれてトカゲのようになったものだった。
もっと言えば、頭部が異様に大きくなっていて牙が生え揃っている、歪な怪物だ。
それが、死体はおろか生きている物にすら噛みついて食べていく。手足と尾を器用にくねらせ、叫び声をあげて、餌をその体に詰め込んでいく。
そう、何を隠そうこれは捕食する木だった。
一番最初の方に出て来て、ずっと隔離されていた木だった。
いや、もう元捕食する木と言った方がいいくらい化けているけれど。
何せ歯が付いた一本の木が、手足が生えて頭が太くなってしなやかに泳ぎ出しているのだ。
もう木というより生物である。
「あー、とんでもないものを作っちゃったかな?」
でも見た目に反して、結構可愛い所があるのだ。
レベルディーラーの都合上これを持ち運ばなくてはならなくて、背負って移動していたのだけど、あれは一度も僕を噛まなかった。
それどころか僕の手が自由になる様にか、手足が生えれば僕にしがみ付き、尻尾が動かせるようになったら巻き付き、と手伝ってくれたのだ。
「シャアアアアアア!」
「しかもあれが魔物を倒すと経験値がこっちに入ってくるみたいだし、結構集団行動も得意なのかな」
背負っている木が順調にレベル上がっているから間違いない。
なんていい道具だろうか。見た目に反して有用すぎる。もっと早く育てればよかった。
「それにしても、不思議だな」
一体何で経験値が入ってくるのだろうか。別に装備しているわけではないのに。
もしかして、レベルディーラーにはまだ僕が知らない効果があるのかも知れない。
「キシャアアアア!」
例えば、今あげたようなレベルの分配方式の特殊な条件とか。
「キイイイシャアアアアア!」
ひょっとすると僕がやったよりも効率のいい経験値の稼ぎ方があったりとか。
「キイイイイイイイシャアアアアアアアアア!」
「うるさいなあ!!」
「シャアアア……」
「あ、ごめん」
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それは、道具だと思っていたこれには感情があるらしい、ということだった。
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