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想磨

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1-14 骨散らばる地下の攻防

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 大蛙が酸を吐き出しながら、それをビチャビチャと踏んで近付いてくる。
 腹を揺らして、イボからオタマジャクシを落として、迫ってくる。
 そのオタマジャクシは落ちた端から溶けて骨になっていき、その骨をぬめぬめとした脚が踏み砕いた。

 青白い蛙は、いよいよボスらしい風格で僕の前に対峙したのだ。

 その様子を見る限り、自分で出しただけあって、あの酸は蛙には全く効かないらしい。
 序に言えばそれが満たされている胃の中に居たリンも、多分平気だ。

 つまり僕とオタマジャクシだけが、この酸だらけの洞窟の不利益を被るのだ。

「どうして僕をピンポイントで狙うような攻撃をするかなあ。もう諦めて上がろうかな」

 僕は難しい挑戦は好きな方ではない。ファンタジーは好きだけどスリルは御免だ。
 特に命の危険を伴うスリルは絶対に避けたい。

 でも、意気消沈する僕と打って変わって、リンは凄い楽しそうだった。

「いやいや、大丈夫だろ。これを使えばいい」

 リンがひょいと飛んで、オタマジャクシの骨に乗った。
 そして、名案だろう、とでも言わんばかり足元を小突いて笑って見せる。

「つまり、僕に白いところ以外歩いちゃダメってルールで戦えと?」

 どこに戦っている最中に、小さい頃やったような遊びに興じる人間がいるのだろうか。
 そもそも僕が使える攻撃で有効なものは魔法弾だ。つまり爆発を伴う。

 こんな足場で爆発なんてしたとしよう。絶対に衝撃で叩き落される。自信を持ってそう言える。

「そこは気合と根性で何とかするんだよ。ほら木衛門も言っているだろ」

 リンがビシリと指さした先には、オタマジャクシ丸呑みチャレンジを敢行している木衛門が居た。
 が、どう見ても気合と根性と言っているようには見えない。顎にオタマジャクシが嵌って、困っているようにしか見えない。

 これは一体何をしているのやら。オタマジャクシを引っこ抜いて、噛みつかれる前に酸へと投げ込む。

 するとそれが溶けきる前に蛙が踏み潰した。
 話している間に、大蛙はもうそれだけ近付いたみたいだ。

 もう猶予がない。決断しないと。

「こうなったらどうにでもするしかない、か」

 高速でオタマジャクシの骨を渡り歩いて、撃ったら衝撃の勢いに乗りながらオタマジャクシの骨に着地する。これしかない。

「……あのやっぱり無理が」

「来るぜ! お先に!」

「足削れて身長が縮んだら誰が責任とってくれるの!?」

 僕の叫びを背に、リンが一気に酸の中を走り抜ける。
 今度は舌攻撃をしっかりと伏せてかわして、更に踏み込んで、大剣を蛙の腹に叩きこんだ。

 でも、丈夫な皮のせいか分厚い脂肪のせいか、それは僅かに斬るばかりで大したダメージも与えられずに弾かれる。

「もう一丁!」

 それでもリンはまだ手を緩めない。
 反撃に繰り出された舌をくるりと回転して切り落とし、今度は突いてみるようだ。

 が、これも上手く決まらない。お腹にめり込むだけだった。
 やっぱりブヨブヨで丈夫な体に刃は通らないみたいだ。 

「だから爆発も無理だと思うんだけど」

 そう言って試さないのも戦っているリンに悪い。
 僕もリンが交戦している隙に骨を蹴って回り込んで、背後に陣取る。

 そして毒を気にしつつも蛙の背中に飛び乗って、杖先をオタマジャクシが発生するイボに押し付けた。

「っ!」

 歯を食い縛って、魔法弾を放つ。その衝撃で体が弾かれる。
 今度はしっかり心構えをしていた。ヌルヌルの背中を滑って、両手足で何とか踏ん張って耐えた。

 けど、その甲斐は余りないみたいだった。

「イボを狙ってもダメか」

 どれだけ近くで見ても、何にも傷跡がない。オタマジャクシの発生源なら弱いと思ったのだけど、その勘は外れてしまったか。

「焼き尽くす方向の爆発とか鉄の塊を飛び散らせるものだったら、もっと違っていたかな」

 その場合、爆心地に近い僕は『ガングロギャル』か『顔中ピアス』みたいになるけど。

 さて、効果がないなら長居は無用だ。いくら魔石で強化しているとはいえ僕はレベル一という事を忘れてはいけない。
 この状況で間違いが一つでも起きたなら、即刻あの世に行ってしまう。

 またオタマジャクシの骨を飛んで走って、退避する。

 そして遠目から他に弱点がないか探してみる。
 あのリンが付けた傷から突破できないか。それとも目に突き入れてしまうか。はたまた食べ物の入り口か出口か。

「どこも狙うには力不足だなあ」

 ここに来て、僕のレベル一が重くのしかかってくる。

 傷なんて蛙の真正面だ。蛙と戦いながら傷に攻撃なんて出来っこないのは明白だ。
 目まで行くのも、下手すれば頭振られて酸に落とされてしまう。
 入り口はそのまま胃袋直行だし、出口は……うん。嫌だ。

 残念、手詰まりだった。

「……待てよ」

 そうだ。発想の転換をしよう。別に僕が行く必要はない。

 だってこれは道具なのだから。誰でも扱える便利な道具を、何で僕だけが使わないといけないのか。
 誰かに使わせればいいだけだ。

 そう、例えば酸も平気で、攻撃をかわせて、オタマジャクシの小さな口に噛まれた程度じゃ絶対に死なない人に。

「リン! 役割交代しよう!」

 僕が言うと、リンが蛙の横に回り込んで返事を返す。

「急にどうした!?」

「リンじゃないと魔法弾で叩きたいところが叩けない!」

「分かった!」

 リンもその短い言葉のやり取りで分かったのだろう。

 答えが飛んできた方角から、大剣が飛んでくる。
 僕はそれを受取ろうとして……

「危なっ」

 寸でのところで飛びのく。
 僕のお腹辺りを狙っていた大剣が足場にしていた骨を真っ二つして突き刺さっていた。

 危うく開腹する所だった。

「何か僕恨まれるようなことした!?」

 普通もっと手前に投げるものだと思うのは僕だけだろうか。
 それとも竜の世界では自分の体で剣を受け止める文化でもあるのだろうか。

「いや、悪い手元狂った。ギリギリを狙ったんだけどなあ」

 一応、悪意とは真逆の感情で放られたらしい。 

 とにかく杖を投げて渡す。

 そして他の骨へと思い切り蹴り出して、すれ違い様に大剣を引き抜いた。
 重い大剣がずるりと抜けて、僕の速度は落ちるけど、目測通りに別の骨へ降りる。

 そしてそれは蛙の真正面だ。

「そぉれっ」

 リンと同じ箇所へ叩きつける。

 当然、リンよりもずっと威力は軽い。けどそれでいい。僕の役目は『ダメージソース』でなく、囮だ。

 大剣を引きずりながら、骨の上を走って回り込む。

 僕を追うように水かきのついた巨大な手が叩き潰しに来た。
 直線的で見切りやすい。それを剣で受け流しにかかる。

 けど剣が蛙の足を受け流した途端、足元で嫌な音が聞こえて、血の気が引いた。

「うわあっと!?」

 慌てて飛んで足を見てみる。少し酸に触った気がしたけど、靴は耐えてくれたみたいだ。

 しかし、オタマジャクシの骨がここまで脆いなんて想定外だった。
 一番得意な部類が封じられてしまったのは痛い。

「まあやるしかないけど」

 攻撃の手を緩める訳には行かない。折りたたまれた脚を足場にして脇腹まで回り込んで、切り付けた。
 蛙が僕に目線を向けた時、リンの声が聞こえた。

「ここはどうだっ!」

 リンが早速一発かましたみたいだ。
 やっぱり目を狙うのは基本らしくて、上の方から爆発音が響いた。

 リンの爆撃が効いたなら痛みに暴れ出すだろう。直ぐに離れないと。

 急いで足から骨に飛び移って、身構える。
 でも、急いで離れる必要はなかったみたいだ。全然聞いている様子はない。

 平然と爆発の原因は何かと、体をひねって探している。

「何あれ。ここの生物は皆目玉が頑丈なの?」

「そうらしいな。普通は弱点なんだけど」

 リンが斜め後ろに降りたらしい。やっと作戦会議をする気になったのか。

「そうだなあ。後行けそうな場所は、傷をこれで抉りながら撃つとか、ケツの穴にぶち込むとかか?」

「その……出口の方はちょっと。その杖後で使う予定だし、木衛門の口に収納するものだし」

「そっか」

 杖で肩を叩きながら、リンが難しそうな顔をする。

 彼女もいよいよ考える気になったみたいだ。
 幸いにも蛙の動きは遅い。舌攻撃の攻撃範囲も、ここからでは遠い。そうして熟考できる時間はある。

 僕がリンに意見を求めようと口を開く。

「お、そうだ。とっておきの場所があった」

 が、やっぱりリンが一気に走り出す。それは愚直で真っ直ぐで、どこかで見た光景だった。

「あ、ちょっと!?」

 リンが僕の制止を振り切って、蛙に飛びかかった。
 瞬間、舌が伸びてリンが捕まり、そのまま胃袋に収まった。

 その流れるような事の運びは、まるでリンが胃袋に飛び込んだようだった。
 芸術点すら与えられるくらいだった。

 そしてどこか焼き増ししたような光景だった。

「ちょっとは学んでよおおお!」

 と、とにかく魔法……って杖はリンが持ったままだ。
 じゃあとにかく剣でお腹を叩こう。諦めては駄目だ。リンは消化に悪いのはもう証明されてるのだから。

 僕が慌てて駆け寄ろうとした時、不意に蛙のお腹が大きく膨れた。

「へ?」

 それは断続的に繰り返していて、蛙がまた自分の手を口に入れようとしている。
 でもその作業を許さないように急激な膨張と収縮が繰り返される。

 何回も、何回も。

 次第に蛙の足から力が抜けて、ゆっくり傾いて壁に頭を預けて、動かなくなる。

 そして最後の膨張が起こって、蛙は完全に地面に倒れた。
 口がだらしなく開けられて、舌がだらりと垂れ下がり、全く動く気配が無い。

「あーそうか」

 僕が納得する中、蛙の口がもごもごと動き出した。でもそれは別に蛙が生き返ったわけではない。
 蛙の口から出て来たのは、少し髪が焦げたリンだった。

「胃の中を完全に破壊しつくしてやったぜ!」

 ニカっと笑ってブイサインする彼女だけど、その無邪気さとは裏腹にやったことは凄まじい物だ。

「まさかお腹の中で爆発させるなんて」

 リンはわざと蛙に食べられたのだ。そして魔法弾をそこで乱射して、破壊しつくした。

 そもそも胃の方の防御が薄いのは直感で分かることだし、何よりリン自身が実感していただろう。

 振り回しにくい胃袋での攻撃でもう少しで裂けるところまで行ったのに、全力が出せる外の攻撃が全然通用しないのだから。

 それは間違いなく胃の中の方が攻撃が通用するという証明だ。
 後、爆発は密閉空間の方が威力が増すというのも知っていたのかも知れない。

「もしかして、戦いの中では機転が利く方なのかなあ」

 僕はもしかしたら彼女を少し見誤っていたかも知れない。
 リンは竜という存在だけでなく、もっと凄い資質を持っているのかも知れない。

 冒険者というとても魅力的な素質を。

「いやあ、得物を交換するのは中々妙案だったな」

 また憧れの身で見ていると、リンがそう言って、僕に杖を投げ返す。
 僕が慌てて受け取ろうとして、思い出した。

 これは、リンが持って居た杖で、リンは胃袋に居たわけで……

 それも胃酸にまみれているわけだった。

「うわあ!」

 慌てて回避して、酸の中に落ちそうになって、また大慌てで他の骨に飛び移る。

「リンの馬鹿! やっぱり馬鹿だ!」

「何だと! 私は馬鹿じゃないぞ!」

「馬鹿だよ! 手が溶けるところだったじゃないか!」

「それを言うならお前だって忘れて取ろうとしてただろ! レイだって馬鹿だ!」

「リンよりは頭いいよ!」

 それはきっと、なんとも下らない言い争いだったに違いない。

 僕達に全くボス戦をしたという雰囲気はなかった。僕も充実感とか何かの前にリンの直情的というか、直感的な行動に一言言いたかったから尚それがなかった。

 でもこれはこれでらしいのかも知れないと心の端で思う節もある。
 こういう言い合いもまた、冒険者らしいと思ってしまったのだ。

 怒り半分、楽しさ半分の言い争いはしばらく続いた。

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