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想磨

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2-3 秋めくダンジョンに相応しいもの

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 シャドウストーカー。

 それは余り正体が知られていない魔物だった。
 というか、全く存在自体が知られていない魔物だった。

 しかしそれが来る、と言う噂だけは何処からともなく流れて、気付けば大切な誰かをさらってしまう。
 その魔物がやったという証拠は、後に発見される『皮だけの死体』という目を覆いたくなる存在のみ。

 だから民の一部ではこれは悪魔や邪神の仕業だと言っているらしい。

「さてと、行こうか。リン」

「おう」

 が、今の僕にはどうすることも出来ない。もしかしたら解決できるかもしれないし、そっちの件はゲイル達に任せよう。
 と言う訳で僕達は当初の目的と加えて、つい最近できた目的も達成すべく、近辺にあるダンジョンに乗り込んでいた。

 ここは密林のダンジョンという所らしく、その名の通り森自体がダンジョンというものだった。

 ダンジョンの定義は、『魔力が多量にあること』と、『魔物が大量発生する場所』だからどんな場所もダンジョンになりうるのだ。

 でも、だからと言って知らない間にダンジョンに足を踏み入れるという事は、決してない。
 どんな子供だろうと、ダンジョンがあることは容易に分かる。

 魔力が多量にあるという事は、周りとは一線を画す様相にはなるのだから。

 例えばこのダンジョン。普通の区画と比べて木々の一つ一つが一回りほど大きいのが見て取れる。
 もっと分かりやすい点を言えば、生えている草木が何故か紅葉している。
 そして余程大型の獣が通るのだろう。僕達が横に並んでも平気なくらいの獣道がいくつも交錯していた。

 赤と黄色に包まれた散歩道、という感じのここは、間違いなく異質な空間だった。

「で、出て来るのは、その散歩道を作った巨大生物なんだよね。全然散歩になりやしないや」

「そうか? いいじゃん。食べ歩きしようぜ。きっと食いでがあるぜ」

「キシャアアア」

 そんな異質な空間なのに、大食漢二名が期待に胸膨らませ、鼻息荒く突き進む。
 そう言えば僕の仲間は食費が嵩む人しかいない。どうしてだろう。

「類は友を呼ぶのかなあ」

 ふと口に出したけど、その諺は随分と的確な気がしてきた。

 木衛門が生まれてからすぐにリンが落ちてきたし、そのリンは僕と同じお尋ね者。
 まさに類は友を呼ぶ。凄い諺だ。

 鮮やかな赤を浮かべる下草を乱雑に踏みしめるリンにすら、思わず尊敬の念が湧き上がる。

「どうしたの?」

「いや、偶然ってすごいなあと思って」

「ふーん。確かに偶然ってすごいな」

 リンがにっこりと笑って道の奥を指差した。

「ご飯の話をしてたら、もう昼飯が走ってきたぜ」

 道の奥からは、彼女が昼食と呼んだ巨大な生物が重厚な足音を鳴らして走ってくる。
 鼻息は荒く、口からは牙を覗かせ、四つの蹄で草を蹴散らして迫っている。

 一言で言うなら、豚だ。
 もっと言えば、とても大きい豚だ。

「というか、すっごい怖い豚だ!」

 傷だらけの頭と鋭い牙、そして絶対殺してやる、と言われているかのような眼光が僕達を捕える。
 一瞬背筋が凍って、その瞬間、僕は思わず持っていた護身用の杖を振っていた。

 杖先から魔法弾が飛んで、豚の体に当たった。

 この杖の威力は、湖の時点で実証済みだ。そしてこのダンジョンでもしっかりと証明して見せた。

 爆風が僕の金髪を引っ張り、衝撃波が辺りの物を押し倒して、潰した。

 僕の体が風圧で浮きあがって、それを木衛門が必死につかんで留める。
 服に爪を立てて、尻尾で木に絡みついているのか。凄い力だ。
 リンはと言うと、仁王立ちで耐えている。戦闘用の服だという革のベストとズボンも、しっかりと爆発を耐え抜いていた。

 そして、爆風が止まって僕の体が地面に着くと、そこには肉も骨も、何も残っていなかった。
 危機は去ったのだ。

「ああ、怖かった」

「わ、私はその殺りく兵器を肩口にぶっ放されたことが怖いぜ」

 リンが顔を青ざめさせて、僕を見ている。
 仁王立ちでなくて、怖くて固まっていたのか。

「いや、だってあのまま行ったら僕達死んでたじゃん」

「大丈夫だよ。私が食ってやる」

「無理だよ。あの顔見た? 逆に食ってやるって顔だったよ」

「その顔を跡形もなくふっ飛ばしたのはお前だ。逆に吹っ飛ばされたんだよ。あの豚」

 そう諭されて、僕は一つ息を吐いて落ち着く。心臓の方もやっと落ち着いてくれた。

「でも意外だったな。大熊の時は普通に戦ってたのに」

「あの時は、最悪水の中に入ればよかったし、装備も充実してたし」

「そうだけどよ」

 僕は改めてリンの背中にぴったりとくっついて、自分の身を守る。こうしないと、ここでは僕は死んでしまうのだ。

 木衛門もそれに反応して、僕の背中に張り付く。前後の死角を完全になくした完全な防衛陣だ。
 これでどこから来ても平気だ。例え来ても暴食の嵐が食い尽くすだろう。

「よし、進もう」

「どんだけ不安なんだよ」

「シャアア」

 二人に呆れられたけど、このスタイルを崩す気はない。つい最近できた目的のためにも、死ぬわけにはいかないのだ。
 僕はこのままリンを押すようにして、慎重に進んでいった。




 が、ここに来て予想外の出来事が起きた。



 正しく言うなら、森に入って一時間経過現在も起こり続けている。
 それは、慎重に歩いても無駄だという事だった。

 もっと言おう。イノシシがくたびれるほど多い。

 どの道を行ってもあの恐ろしい顔と巨体が獣道という獣道をのし歩いていて、高確率で遭遇してしまっている。
 凄い時は立ち止まっている時でさえ彼方から来る始末だった。

 歩けばイノシシ。止まればイノシシ。まるで畑からイノシシが取れているみたいだ。

 他にも狐やリスのような魔物もいるだろうけど、それらは全然遭遇していない。
 それも突進してくるイノシシが蹴散らしてしまうのか、それとも人前には出てこないのか。

 とにかく猪ばかりが出て来るのだ。いい加減、心臓の方も慣れるし、あのいかつい顔だって顔なじみになってしまった。

 だから、舌の根が乾かぬうちと言う訳ではないけど、早歩きで練り歩いている。
 人間は環境になれる生き物なのだ。

「あ、また来たよ」

 全く、いい加減他の動物にあってみたいものだ。

 そもそも僕はあんなので驚いていたのだろうか。当初の感情がまるで数十年前みたいだ。一時間しか経っていないなんて、信じられない。

 だって、対処法だってお手の物なのに。

「了解」

 早速リンが動き出す。
 無駄に重量級な巨体を前に、彼女は全く気負いもせずに両手を伸ばす。

「よっと」

 そして全く気合の入っていない掛け声だった。
 だけど、何度も繰り返したように牙をしっかり掴んで押し留めて、易々と引き倒す。と同時にすぐに離れた。僕の出番だ。

「えい」

 そこに入って行って、愛刀ならぬ愛木を突き立てる。例の壊れない木だ。
 もう猪殺しと改名していいかも知れないそれをしっかりと突き刺し、抉るようにめり込ませる。

 イノシシは一撃で動かなくなった。
 もうこの工程は手慣れてしまっているからだった。何処を突けば倒せるか覚えてしまったし、間違いなく倒した時の感触も分かってしまっているのだ。

「ふうっ。これで十匹目?」

「いや、十一匹だな。……どうだ?」


 そう、恐怖に耐え、飽きてもずっとダンジョンに居たのは、これの為だった。

 ポケットの中を探ってみると石がゴロゴロと触れ合う。。
 適当に詰め込んだ石の中は、当然魔石候補で、これが最近できた目的である。

 リンには詳しく話していないけど、これがないと色々と大変な事になるだろう。

「……うん。多分これでいいと思う」

 理想に一番近いものがあった。一つは誘導性の爆発魔法を放つ石。もう一つは対象を縛り付ける、使い切りの石。

 これで僕の目的の物は達成された。

「まあ、子供はきっちり助けないとね」

「おう。……けど先ずは飯だな」

「シャアアア」

「……まあそうだね」

 僕が飽き飽きしている中で精いっぱいシリアスしている時にこの二人ときたら……。
 しかも本当に出会うイノシシを全部お腹に入れるなんて。

 食べ歩きだとは聞いていたけど、そこを有言実行する必要はあったのかな。
 『食欲の秋』とは言うけど、もしかしてこの真っ赤な光景に食欲が増進されているのかも知れない

「だとしたら、これもある意味シリアスなのかな」

 絶滅の危機に瀕するかもしれないイノシシにとってだけど。
 それでも僕は彼女たちを止める気はないし、手立てもない。

 リンと木衛門は『食欲の秋』に相応しく、狩った動物をしっかり胃袋に収めて、村に戻ったのだった。
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