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2-6 湖上の基地と黒くないストーカー
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さて、二回目のダンジョン内でのサバイバルが始まった。
今回はイノシシが頻発する地域だから、きちんと作らないと直ぐに壊されるだろう。
という事で、今回は紅葉した森の西の方にある泉とそこを源流とした川に秘密基地を作ろうという事になった。
と言っても僕が一方的にここに作ると決めただけだけど。
泉の底の方から湧き出る綺麗な水を見た時にもう、ここがいい、と即決してしまったのだ。
視界良し、風景良し、水質良しの三拍子が揃った素晴らしい場所だ。ここなら快適な水中生活を営めるだろう。
早速基地を作るべくリンが辺りの木を切って川を遮る様に沈める。今回もビーバー方式だ。
ここの魔物は陸生だからきっと安全な寝床になるに違いない。
どんどん貯まっていく水を、二人で見守ってみる。
「おお、水が溢れてきたぜ。この水を利用すればいいんだな」
「うん」
今度はこの高くなった水位を利用する。
入り口が沈むようにドームを作って、例の水中、陸地、また水中の構造を作り出す。
前に作ったのと似た構造だ。キッチンも凝っていて、当然竈も作った。
今度の竈は土と水をこねてペタペタと成形したお陰で、何だか土間にある様な『和風』のものになっっている。
そうして、所要時間二時間ほどで、おおよその物は完成した。
「今回は暖かいから、水に入る必要はないね」
ということで完成品はドームをかなり広くとったせいで、半ば泉まで到達してしまった。
けどそれが開放感を生み出していて、いい。
が、リンはこの家にまだまだ改良の余地があると考えた様だった。
水に浸かりながら、唸っている。
「……そうだ。外側に土を貼ろう」
「外側に?」
「ああ、風を通さなくなるんだ。きっといい住処になるぜ」
「へえ」
リンの案に従ってドームに練った土を貼りつけていく。何だか見た目がビーバーのダムから原始人の家屋に近づいてきた。
そうして全面に土を張り終えると、彼女の言う通り保温性も高くなったみたいで全体的に室内が温かくなった。
けどこうも通気性が悪いと窒息しそうである。
気づかないうちに昇天なんてこともあり得そうだ。
「排気する穴を作ろうか」
「そうだな」
煙突を作る時間もないし、設置していた竈のその後ろをくり抜いて穴を排気口を作る。
更に天井に穴を開けて、雨避けの傘を付けると、通気性万全の家が完成した。
「今回は完成度高いなあ」
「そうなのか? 私は初めてこういうの作ったからわかんないけど」
リンが横になって天井を見上げている。
僕もそれに倣うと、中々頑張った跡が残っている。
ここを組み上げたらいいとか枯葉を積めようとか、いろいろ工夫した後だ。
でも、僕達は肝心な所で知らない間に手を抜いてしまっていたらしい。
「寝にくいね」
「枝がそのままだからな」
「毛皮でも敷くか?」
「そうだね。ご飯のこともあるし」
僕達はもう一度起き上がって、ご飯と毛皮を得るべく水を通って外に出る。
「お、来た来た。おーい。遅いぜ!」
何故か対岸でゲイルとミミルが樽を三つ置いて待っていた。
可笑しいな。今度こそ、しっかりと彼から逃げて来たのに。
「『ストーカー規制法』ってここにも作った方がいいかもね」
僕の感情を知らないように、楽し気に手を振るゲイルは、隣の樽の影で震えている誰かさんを見習うべきだ。
体は丸々隠しているのにカタカタと揺れる宝箱の髪飾りが見えて、その姿は想像が出来た。
ゲイルはミミルをそんな状態にさせてまで、どうしてこんな所に来たのだろうか。
「いやそもそもなんでここが分かったんだよ」
「逃走者はここを通ると思ってな。後はその……色々とな」
と少し言葉を濁した後で、直ぐに表情を笑い顔に変わって樽の蓋を開けた。
「だが特上の飯持ってきたんだ。文句を言えなかった?」
それを言われて、中身を見せられて、僕は何も言えなかった。
いや、逆に一つ言うことが出来た。
「歓迎します! ゲイルさん!」
それは高級なことで有名なキノコの塩漬けだったのだ。
名前は確か、ベニハナタケ。鮮やかな赤と傘の裂け目が、まるで花の様だ、ということでついた名前らしい。
貴族の中でも食べられるものが少ないと言われるそのキノコは僕が六年前の誕生日に食べて以来、口にしていない。
それでもその芳醇な香りと濃厚な旨みは記憶に刻み込まれているものだ。
でもリンはその正体を知らないらしい。
「何だこれ。随分としなびたキノコだな? 旨いの?」
「リン。言っておくけどこれはガツガツ食べるものじゃないからね。というかこれ一樽で僕達が普通に暮らしていける金額するからね」
ここで言う『僕達』は今この場に居合わせた四人で、『普通に暮らせる』とは死ぬまで、という意味である。
つまり万で足りない、億の世界だ。いわゆる国家予算で頻発する金額だ。
「でも、なんでこんなものがあるのさ? 盗んだの?」
「いや、盗ったんじゃなくて採ったんだよ。俺達が持ってる土地にこれの自生地があってな。勿論、場所は教えねえぜ」
「当たり前だよ。これだけ収穫できる場所なら、金山と言っていいもの」
毎年一定量が取れるのだから、むしろ金山よりも価値は高いだろう。
そんな土地を所有しているなんて『アルバンフラの花』、恐るべし。
「あ、でも食べれないか無理か。免許がないと毒抜きが不安だし」
「免許か? ほれ」
ゲイルがパッと見せたそれは、まさしくその技能を保証するカードだ。
講習と実績が伴って初めて国が発行する、取得難易度が高いものである。
「まあ、国に管理されるのは御免だから更新はしてない。だがこれを取れるだけの勉強はしているから安心して食いな」
「凄いなあ」
でも、こんな大量のキノコを果たしてどうするつもりだろうか。免許が失効しているなら市場には出せないし。
……なんて恍けたり腹の探り合いは、今は無しにしよう。
「もしこれを何処かに卸したいなら、僕に依頼するといいよ」
金洗いならぬ、キノコ洗いの当てはある。
「ほう、そこを見抜いたか」
「当たり前だよ。こんな量のベニハナタケを、流さないわけないじゃん」
これに関われたなら、僕も一財産が築ける。逃げるだけの金銭は得られるだろう。
「まあ、その話は飯を食いながらしようや。これに合うのは幸い野趣溢れる肉と来た。ここには有り余るくらいあるだろ?」
と、言いながら誰に見せるでもなく四つの指を見せる。
まあ、中々妥当な値段だ。拒否する理由はない
「リンが倒したのをあげますよ」
そう言いながら僕も、誰に見せるまでもなく親指を立てて頷いた。
「ゲイルさん。悪ですね」
「国を相手取ってるお前には負けるよ」
二人の悪代官の笑い声が、ダンジョンに木霊した。
さて、原始人みたいな家で『イノシシのステーキ、ベニハナタケを添えて』なんて小洒落たものを頂いた後、僕らは改めて話し合いをする。
「まあぶっちゃけ今回の来た理由はベニハナタケの裏ルート作りに協力してほしいって事と、三度の勧誘と、後、何だったかな。まあ色々だ」
と酒が入ったガイルが大っぴらに違法行為を宣言する。
もうその存在は知っているのか、ミミルの表情に変化はない。リンとミミックの四人で遊んでいる。
「でもなんで僕に?」
「ああ。元貴族のあんたなら何かあるだろうと思って?」
「貴族としては、全くの役立たずだよ。まあ、冒険者を始めてこんなのを貰うくらいには力を持ったけど」
そういって、しわくちゃの紙を見せる。僕が冒険者になって唯一受けた依頼の時に居た、あの悪党からもらったものだ。
「何だこりゃ。しわくちゃじゃねえか」
「僕達の拠点って大抵水の中だからね」
「えーと何々『裏専門何でも屋:カロン』。聞いたことねえな」
「多分どこにも所属しないで裏を渡り歩いてる人間だね。賢そうだったから、こういう非合法だけど大した違法性がない物には喜んで一枚噛むと思うよ」
「へえ。……っててめえは動かねえのか?」
「噛んでるだろ。これの仲介で。彼に払う額の一割はもらうね」
「うっわ、ひでえな」
「誰も傷つかないとはいえ違法は違法。関係しないに越したことは無いからね」
「貴族ってのはこういうのにガンガン入っていくもんだろっ。てめえそれでも貴族かっ」
「残念。元貴族なんだ。僕」
いやはや、元貴族万歳だなあと笑って見せると、ゲイルが不意に上へと視線を向けた。
「どうしたの?」
「いや、妙に平和だなあと」
「何それ。平和じゃなくなる要因でもあるの?」
「あるっちゃあるな。あんたらとか、この土地自体とか」
「土地自体?」
彼は一体何を言っているのだろうか。確かにイノシシは多発するけど、あいつらはここまで来れないはずなのに。
「ん? 知っててここに逃げ込んだと思ったんだが?」
ニヤリと笑ってゲイルが話し出す。
「昔からここは巨大な魔物が出る土地だと恐れられていてな、冒険者はともかく、村民や行商人は近付きもしねえんだよ」
「へえ」
「後平和云々に関して付け加えるなら俺は生まれてこの方、平和というものを長く味わったことがないからだぜ」
「それは団長が平和を乱すからだよ」
ここに関してはミミルも不満があるらしい。指摘とぬいぐるみ飛んできてポフッと当たった。
そして彼女がゲイルの目の前に仁王立ちする。
「団長はダメダメさんなの。ギルにいっつもお酒の事で怒られてるの知ってるし、クラリスには鍛錬の誘いをいつも断るのはなんでだって怒られているし、エグモントさんからはいつもお金のことでお小言言われてるし。もっと計画的に動くべきなの!」
びしり、と指摘するミミル。だけどその背の小ささのせいで説得力というか、威厳が全くない。
ゲイルもへらへらと頭を撫でるだけで反省した様子がない。
というか、酒浸りで鍛錬しなくて金銭面でルーズなんて、本当にリーダーが出来ているのだろうか。
「すまん酔いでよく理解できない。要点をかいつまんでくれ」
「みんなに迷惑かけないようにして!」
「おう、するする」
だいぶ酔いが回ってきたみたいで、ミミルを両手で撫で回すのだが位置がずれて頬をもみほぐしている。
モチモチの頬を更にモッチモッチと弄んでいる。
「何か頭蓋骨が柔らかくなったなあ」
「団長……」
なるほど、これは怒られるわけだ。
気付けば酒樽を丸々空けたゲイルがミミルに叱られて、へらへらと謝る姿が展開されていた。
「レイ」
ミミルの遊び相手をしていたリンが僕の肩を叩いて、話しかける。
「結局勧誘とやらはされなかったな」
「うん。本命は販売ルートだったみたいだね」
多分気が変わってないのを確認したのだろう。もしくはまた妙な考えをひそかに持って居るとか。
なんにせよ。多分このままでは終わるまい。
「僕達の住処バレちゃったし、どうしようか」
積極的に隠そうとしていないけれど、こうも騒いだ拠点で滞在する気は余り起きない。
僕達はこう見えて指名手配犯なのだから。
「そうだな。私もここで一夜を明かすことはしたくないな」
「せっかく作ったんだけどねえ」
結局頑張って作った家はただ一回きりの宴会場ということになるようだ。
「おう、思い出した」
とここで酔っ払ったゲイルがニコニコと笑いながら、僕の方に近寄って切る。
今度は何をする気やら。
「そう言えば、妙な爆発の騒ぎを聞きつけて、ディートリンデって奴を探している人間が来たぜ。似顔絵はリンそっくりだったが。いやあ、それを言うためにも来たんだった」
と、油断していた僕に爆弾が投下され、直ぐに脇に抱えられた。
今回はイノシシが頻発する地域だから、きちんと作らないと直ぐに壊されるだろう。
という事で、今回は紅葉した森の西の方にある泉とそこを源流とした川に秘密基地を作ろうという事になった。
と言っても僕が一方的にここに作ると決めただけだけど。
泉の底の方から湧き出る綺麗な水を見た時にもう、ここがいい、と即決してしまったのだ。
視界良し、風景良し、水質良しの三拍子が揃った素晴らしい場所だ。ここなら快適な水中生活を営めるだろう。
早速基地を作るべくリンが辺りの木を切って川を遮る様に沈める。今回もビーバー方式だ。
ここの魔物は陸生だからきっと安全な寝床になるに違いない。
どんどん貯まっていく水を、二人で見守ってみる。
「おお、水が溢れてきたぜ。この水を利用すればいいんだな」
「うん」
今度はこの高くなった水位を利用する。
入り口が沈むようにドームを作って、例の水中、陸地、また水中の構造を作り出す。
前に作ったのと似た構造だ。キッチンも凝っていて、当然竈も作った。
今度の竈は土と水をこねてペタペタと成形したお陰で、何だか土間にある様な『和風』のものになっっている。
そうして、所要時間二時間ほどで、おおよその物は完成した。
「今回は暖かいから、水に入る必要はないね」
ということで完成品はドームをかなり広くとったせいで、半ば泉まで到達してしまった。
けどそれが開放感を生み出していて、いい。
が、リンはこの家にまだまだ改良の余地があると考えた様だった。
水に浸かりながら、唸っている。
「……そうだ。外側に土を貼ろう」
「外側に?」
「ああ、風を通さなくなるんだ。きっといい住処になるぜ」
「へえ」
リンの案に従ってドームに練った土を貼りつけていく。何だか見た目がビーバーのダムから原始人の家屋に近づいてきた。
そうして全面に土を張り終えると、彼女の言う通り保温性も高くなったみたいで全体的に室内が温かくなった。
けどこうも通気性が悪いと窒息しそうである。
気づかないうちに昇天なんてこともあり得そうだ。
「排気する穴を作ろうか」
「そうだな」
煙突を作る時間もないし、設置していた竈のその後ろをくり抜いて穴を排気口を作る。
更に天井に穴を開けて、雨避けの傘を付けると、通気性万全の家が完成した。
「今回は完成度高いなあ」
「そうなのか? 私は初めてこういうの作ったからわかんないけど」
リンが横になって天井を見上げている。
僕もそれに倣うと、中々頑張った跡が残っている。
ここを組み上げたらいいとか枯葉を積めようとか、いろいろ工夫した後だ。
でも、僕達は肝心な所で知らない間に手を抜いてしまっていたらしい。
「寝にくいね」
「枝がそのままだからな」
「毛皮でも敷くか?」
「そうだね。ご飯のこともあるし」
僕達はもう一度起き上がって、ご飯と毛皮を得るべく水を通って外に出る。
「お、来た来た。おーい。遅いぜ!」
何故か対岸でゲイルとミミルが樽を三つ置いて待っていた。
可笑しいな。今度こそ、しっかりと彼から逃げて来たのに。
「『ストーカー規制法』ってここにも作った方がいいかもね」
僕の感情を知らないように、楽し気に手を振るゲイルは、隣の樽の影で震えている誰かさんを見習うべきだ。
体は丸々隠しているのにカタカタと揺れる宝箱の髪飾りが見えて、その姿は想像が出来た。
ゲイルはミミルをそんな状態にさせてまで、どうしてこんな所に来たのだろうか。
「いやそもそもなんでここが分かったんだよ」
「逃走者はここを通ると思ってな。後はその……色々とな」
と少し言葉を濁した後で、直ぐに表情を笑い顔に変わって樽の蓋を開けた。
「だが特上の飯持ってきたんだ。文句を言えなかった?」
それを言われて、中身を見せられて、僕は何も言えなかった。
いや、逆に一つ言うことが出来た。
「歓迎します! ゲイルさん!」
それは高級なことで有名なキノコの塩漬けだったのだ。
名前は確か、ベニハナタケ。鮮やかな赤と傘の裂け目が、まるで花の様だ、ということでついた名前らしい。
貴族の中でも食べられるものが少ないと言われるそのキノコは僕が六年前の誕生日に食べて以来、口にしていない。
それでもその芳醇な香りと濃厚な旨みは記憶に刻み込まれているものだ。
でもリンはその正体を知らないらしい。
「何だこれ。随分としなびたキノコだな? 旨いの?」
「リン。言っておくけどこれはガツガツ食べるものじゃないからね。というかこれ一樽で僕達が普通に暮らしていける金額するからね」
ここで言う『僕達』は今この場に居合わせた四人で、『普通に暮らせる』とは死ぬまで、という意味である。
つまり万で足りない、億の世界だ。いわゆる国家予算で頻発する金額だ。
「でも、なんでこんなものがあるのさ? 盗んだの?」
「いや、盗ったんじゃなくて採ったんだよ。俺達が持ってる土地にこれの自生地があってな。勿論、場所は教えねえぜ」
「当たり前だよ。これだけ収穫できる場所なら、金山と言っていいもの」
毎年一定量が取れるのだから、むしろ金山よりも価値は高いだろう。
そんな土地を所有しているなんて『アルバンフラの花』、恐るべし。
「あ、でも食べれないか無理か。免許がないと毒抜きが不安だし」
「免許か? ほれ」
ゲイルがパッと見せたそれは、まさしくその技能を保証するカードだ。
講習と実績が伴って初めて国が発行する、取得難易度が高いものである。
「まあ、国に管理されるのは御免だから更新はしてない。だがこれを取れるだけの勉強はしているから安心して食いな」
「凄いなあ」
でも、こんな大量のキノコを果たしてどうするつもりだろうか。免許が失効しているなら市場には出せないし。
……なんて恍けたり腹の探り合いは、今は無しにしよう。
「もしこれを何処かに卸したいなら、僕に依頼するといいよ」
金洗いならぬ、キノコ洗いの当てはある。
「ほう、そこを見抜いたか」
「当たり前だよ。こんな量のベニハナタケを、流さないわけないじゃん」
これに関われたなら、僕も一財産が築ける。逃げるだけの金銭は得られるだろう。
「まあ、その話は飯を食いながらしようや。これに合うのは幸い野趣溢れる肉と来た。ここには有り余るくらいあるだろ?」
と、言いながら誰に見せるでもなく四つの指を見せる。
まあ、中々妥当な値段だ。拒否する理由はない
「リンが倒したのをあげますよ」
そう言いながら僕も、誰に見せるまでもなく親指を立てて頷いた。
「ゲイルさん。悪ですね」
「国を相手取ってるお前には負けるよ」
二人の悪代官の笑い声が、ダンジョンに木霊した。
さて、原始人みたいな家で『イノシシのステーキ、ベニハナタケを添えて』なんて小洒落たものを頂いた後、僕らは改めて話し合いをする。
「まあぶっちゃけ今回の来た理由はベニハナタケの裏ルート作りに協力してほしいって事と、三度の勧誘と、後、何だったかな。まあ色々だ」
と酒が入ったガイルが大っぴらに違法行為を宣言する。
もうその存在は知っているのか、ミミルの表情に変化はない。リンとミミックの四人で遊んでいる。
「でもなんで僕に?」
「ああ。元貴族のあんたなら何かあるだろうと思って?」
「貴族としては、全くの役立たずだよ。まあ、冒険者を始めてこんなのを貰うくらいには力を持ったけど」
そういって、しわくちゃの紙を見せる。僕が冒険者になって唯一受けた依頼の時に居た、あの悪党からもらったものだ。
「何だこりゃ。しわくちゃじゃねえか」
「僕達の拠点って大抵水の中だからね」
「えーと何々『裏専門何でも屋:カロン』。聞いたことねえな」
「多分どこにも所属しないで裏を渡り歩いてる人間だね。賢そうだったから、こういう非合法だけど大した違法性がない物には喜んで一枚噛むと思うよ」
「へえ。……っててめえは動かねえのか?」
「噛んでるだろ。これの仲介で。彼に払う額の一割はもらうね」
「うっわ、ひでえな」
「誰も傷つかないとはいえ違法は違法。関係しないに越したことは無いからね」
「貴族ってのはこういうのにガンガン入っていくもんだろっ。てめえそれでも貴族かっ」
「残念。元貴族なんだ。僕」
いやはや、元貴族万歳だなあと笑って見せると、ゲイルが不意に上へと視線を向けた。
「どうしたの?」
「いや、妙に平和だなあと」
「何それ。平和じゃなくなる要因でもあるの?」
「あるっちゃあるな。あんたらとか、この土地自体とか」
「土地自体?」
彼は一体何を言っているのだろうか。確かにイノシシは多発するけど、あいつらはここまで来れないはずなのに。
「ん? 知っててここに逃げ込んだと思ったんだが?」
ニヤリと笑ってゲイルが話し出す。
「昔からここは巨大な魔物が出る土地だと恐れられていてな、冒険者はともかく、村民や行商人は近付きもしねえんだよ」
「へえ」
「後平和云々に関して付け加えるなら俺は生まれてこの方、平和というものを長く味わったことがないからだぜ」
「それは団長が平和を乱すからだよ」
ここに関してはミミルも不満があるらしい。指摘とぬいぐるみ飛んできてポフッと当たった。
そして彼女がゲイルの目の前に仁王立ちする。
「団長はダメダメさんなの。ギルにいっつもお酒の事で怒られてるの知ってるし、クラリスには鍛錬の誘いをいつも断るのはなんでだって怒られているし、エグモントさんからはいつもお金のことでお小言言われてるし。もっと計画的に動くべきなの!」
びしり、と指摘するミミル。だけどその背の小ささのせいで説得力というか、威厳が全くない。
ゲイルもへらへらと頭を撫でるだけで反省した様子がない。
というか、酒浸りで鍛錬しなくて金銭面でルーズなんて、本当にリーダーが出来ているのだろうか。
「すまん酔いでよく理解できない。要点をかいつまんでくれ」
「みんなに迷惑かけないようにして!」
「おう、するする」
だいぶ酔いが回ってきたみたいで、ミミルを両手で撫で回すのだが位置がずれて頬をもみほぐしている。
モチモチの頬を更にモッチモッチと弄んでいる。
「何か頭蓋骨が柔らかくなったなあ」
「団長……」
なるほど、これは怒られるわけだ。
気付けば酒樽を丸々空けたゲイルがミミルに叱られて、へらへらと謝る姿が展開されていた。
「レイ」
ミミルの遊び相手をしていたリンが僕の肩を叩いて、話しかける。
「結局勧誘とやらはされなかったな」
「うん。本命は販売ルートだったみたいだね」
多分気が変わってないのを確認したのだろう。もしくはまた妙な考えをひそかに持って居るとか。
なんにせよ。多分このままでは終わるまい。
「僕達の住処バレちゃったし、どうしようか」
積極的に隠そうとしていないけれど、こうも騒いだ拠点で滞在する気は余り起きない。
僕達はこう見えて指名手配犯なのだから。
「そうだな。私もここで一夜を明かすことはしたくないな」
「せっかく作ったんだけどねえ」
結局頑張って作った家はただ一回きりの宴会場ということになるようだ。
「おう、思い出した」
とここで酔っ払ったゲイルがニコニコと笑いながら、僕の方に近寄って切る。
今度は何をする気やら。
「そう言えば、妙な爆発の騒ぎを聞きつけて、ディートリンデって奴を探している人間が来たぜ。似顔絵はリンそっくりだったが。いやあ、それを言うためにも来たんだった」
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