恵まれすぎてハードモード

想磨

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2-9 それが二流

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 上空から見るゲイルはイノシシの巨体と比べてとてもちっぽけだった。
 正直言うと、もう食われても仕方がない位だった。

 けど、ゲイルはそれを見て全く動じる様子がない。
 寧ろ目の色を変えて、にやりと笑った。

「全く、これは看過できねえな」

 にやりと笑うと凄い『収納空間』から長大な剣を抜き出した。その様は何だか雄々しく見える。
 そうだ。いつもと風格が違うのだ。それは僕が初めて会った時のゲイルさんではなく、中身が残念なゲイルでもない。

 レベル七十の第二級冒険者、ゲイルの風格だ。

「遊んでやるよ。ウリ坊」

 空間につながる亀裂に片手を突っ込み何かを取り出す。
 それは大型の薬瓶で砲丸投げの要領で持ち上げている。

「先ずはプレゼントだ!」

 踏み込み、思い切り投げつけた瓶はわずかな弧を描いてイノシシの横腹に着弾する。
 そして、瓶から液体が解放され、それが真っ赤に燃えあがる。

 自然発火する液体だ。

 森を焼かれても平気だったイノシシだが、横腹を唐突に焼かれるのは駄目だったらしい。身悶えして、敵意をむき出しにした。
 けど、頭を下げた瞬間、その眼に大型の矢が突き刺さる。

 余りの不意打ちにイノシシが甲高く鳴き、後退する。けど僕も驚きだった。

 びっくりしてゲイルに視線を戻すけど、やっぱり彼は大型の矢を撃つためのバリスタどころか、弓さえも持って居ない。
 どうやってあの矢を撃ったのだろう。

 と、彼のすぐ横に亀裂があってそこから矢じりがのぞいているのに気づいた。

「そっか。トマか」

 ゲイルの空間の管理人、トマが空間の中でバリスタを構えて、外に撃っているのだ。
 いや、でもそれだと、疑問が解決しないし、残る処が増えてしまうくらいだ。

 だってバリスタは強烈な反発力を利用した大型の発射装置だ。それを撃つには、色々と準備が必要だと聞いたことがある。

 つまり撃ったばかりですぐに次弾を装填しているのは少し可笑しい。もしかしてトマの能力と何かあるのだろうか。

「トマ、用意した百台全部使い切るぜ!」

「あ」

 と思ったら、その一言で大体の想像がついた。彼らがしたことと、その労力も。

「あらかじめ用意してたんだ。何台も」

 彼らはバリスタを引いた状態にして、ゲイルの空間内に置いておいたのだ。
 言葉通りなら、合計百台。

 何と彼らは百台ものバリスタを延々と引いて準備したのだ。
 なんて労力だろうか。ゲイルとトマが黙々とバリスタの準備する光景が目に浮かんで、思わず空笑いが漏れてしまう。

 でもその労力に見合うだけの威力はあるようで、矢はどんどん撃ちだされ、イノシシの体に刺さっていく。

「爆発でもダメージがなかった皮膚を貫通するなんて」

 僕がぶら下がったまま呟くと、リンがそれに応じてくれた。

「まあ、当然だな。威力が劣っても力を一点に集中できれば穴が空く。生き物の体は特に衝撃に強いから、その差が出たんだろ」

「……リンってある方面では賢いんだね」

「おい、馬鹿にするなよ。私はあの矢の威力でどんな発射台を使っているか分かるくらい賢いぞ。あれは西方で採用されていた、今は型落ちのバリスタだな」

「凄い。どうしてわかったの?」

「一回撃たれた事がある」

「す、すごい」

「でも、あのデカイノシシには少し役者不足だな」

 リンが指差す。

「矢尻しか刺さってないだろ? あれは多分、肉まで貫通していないぜ」

「じゃあ」

「ああ。効果なしだ」

 リンが下すと同時に、ゲイルも叫んだ。

「撃ち方止め! 無駄に分厚い皮だな。恥ってもんを知らねえらしい」

 全然違うような気もするけど、彼の言う通り多分面の皮も厚いのだろう。その通りな意味で。

 でもゲイルはまだまだ攻撃の手を有しているらしい。
 イノシシが撃ち出す気の槍を平然と避けて、手を亀裂に突っ込む。

「なら先ずはその皮を痛めつけてやるか」

 また大きな薬瓶が出て来て、ゲイルがそれを投げつける。

 今度は中身が出た途端、カエルの皮膚が音を立てて煙が噴き出した。
 酸を投げつけたらしい。しかも何個も何個も投げつけて、執拗に皮膚を弱らせていく。

 でもそれだけではないようだ。

「更にこれでどうだ!」

 彼が腕を振ると、こぼれた酸が巻き上げられて、カエルの体に吹き付けられていく。
 その不思議な手品のタネはすぐに分かった。

「凄い! 風の魔法だ!」

「そうだな! はた迷惑なことにな!」

 ああ、喜んでいる場合ではないみたいだ。

 必死な形相のリンがその酸の風から逃げる様に飛び回る。
 そして余波で流される中、どんどんイノシシの毛がの赤が消えていく。
 それは皮膚が溶けているからだと思ったのだけど。何やら様子がおかしい。

 溶けるというよりは剝がれているようで、そこから出てきたのは、一回り小さくなったイノシシだった。

 茶色の皮膚を持って居て、少しスリムな体系だ。

 それはまるで脱皮したみたいで、僕達は目を大きく見開いた。

「何か出てきた!?」

「何だあれ!?」

 僕達が目を見張っていると、イノシシの皮膚からまた赤い毛みたいなものがワサワサと生え出している。
 しかもそれは何だか毛というよりは植物的なものに見える。

 僕達が皮膚と思っていたものは、こうして作られていたらしい。道理で攻撃が効かないはずだ。
 その様を見て好機と見たか、ゲイルがにやりと笑う。

「ほお、身軽になったじゃねえか。これなら通るだろう!」

 ゲイルが投げやり用の槍を取り出し、踏み込んで、投げた。

 それは砲弾のような速さで突き進む、異様な速さでグングンイノシシに接近する。
 そして更に風で後押ししたのだろう。更に急加速して、槍は回転しながらその眼前に迫った。

 が、百年も生きているイノシシは寝ていたとはいえ老獪だった。

 その槍の先を、牙に合わせて弾いてしまった。
 その上、イノシシは異様な速さでゲイルに近づいて、その牙の切っ先を向ける。

「身軽になりすぎだろ!?」

 ゲイルが、突進攻撃をバリスタの射撃で妨害しながら逃げ出す。

「くそっ! ここら一帯を灰に変えんぞ!」

 と言っているがそうする気はないらしい。
 ちょこまかと攻撃をかわし、チクチクよ攻撃を加えて行っている。

 しかし、見れば見るほど分厚い赤の毛皮を脱いだイノシシは、身軽だった。

「うん。身軽になりすぎだね」

 僕の魔法もしっかりと効きそうなくらい、イノシシは身軽だった。

 僕はリンにお願いして突進するイノシシの上空に位置取り、魔法弾を乱射して畳み掛けた。
 足を狙った攻撃は余程だったのだろう。イノシシが足を止める。

 それは隙だ。三級冒険者の僕すら見逃すことのない大きすぎる隙だった。

「おう、良い位置に頭があるな」

 ましてや二級冒険者が放っておくなどありえない。
 再び槍を構えるゲイル。すると、今度は最初から風が彼に吹き込んで行くのが分かった。

 槍を握る手の甲に文様がチラチラと輝いて、その現象が魔法の仕業であることを示している。多分、空気を貯めて圧縮しているのだ。

 その目的は勿論。

「今度は最初から最高速だ!」

 槍を飛ばすためだ。

 まるで爆発したような音が鳴って、イノシシが弾かれたように仰け反る。

 その一瞬で目に映った光景は、速度に負けて槍が折れる光景だった。
 そして解放された空気が暴風となって、森を総ざらいし、僕とリンすら上空へと飛ばしていく。

「わわっと!? 落ちる!」

「台風かよ!」

 と言いつつもリンは的確に翼を動かして、その上昇気流をいなしつつ上昇していく。 
 そうして、徐々に暴風が収まっていくと、やっと周りを見る余裕が出て来た。

 ゲイルは投げた手を痛そうに振っていて、でも倒したことを確信したようにイノシシに近付いていた。
 一方イノシシを見てみると、仰向けに倒れていて動く気配はない。あの一撃で倒せたようだ。

 巨大なイノシシと張り合って、普通に戦える。そして僕の助力もあったけど普通に倒せる。

 これが二級の実力だった。

「凄い。あの魔法どうやったんだろう」

 あの地獄の訓練でも、魔法訓練は行わなかった。
 だからこそ彼が普通にあの規模の魔法を使う様が格好良くて、憧れてしまう。


 と、目を輝変えている場合じゃない。こうしてイノシシはゲイルの手によって倒せたのだ。

 僕は視線を上にあげる。と、リンもこちらを見て笑っていた

「よし」

「じゃあ」

「「アレクシスを叩きのめそう」」


 一気に急降下し、約束通り、アレクシスに飛び掛かった。
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