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2-10 竜人戦線
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滑空しながら僕はシュリに詰め込まれた知識を思い出していた。
確か彼女は、戦いは盤上のに似ている、と言っていた。
先手と後手で有利不利が分かれるし、弱い駒は他の駒と併用してやれば格段に強くなる。
つまり、僕も組み合わせ次第では竜人相手でもきちんと役目を果たせるのだ。
リンにひそかに魔石を手渡し、目配せする。
「……いいな。それの方が私好みだ。いきなっ!」
リンに放り投げられて、僕は木衛門と一緒に森へと落ちる。
そして上に居るアレクシスに、足を見るように体を折り曲げて、魔法弾を連射した。
「いっけえええ!!」
森の木の上に落ちて、枝に全身を打っても、アレクシスを狙い続け、撃ち続ける。
「いきなりだね」
上を飛ぶアレクシスは笑いながらそれをくるりと回って回避した。でもそれは仕方がないことだった。
魔法弾は軌道があまりにも直線的で、動けば避けられる攻撃だった。
でも、避けるというのは行動を制限されることだ。
つまり、僕の行動は実を結んだ。
「うらああ!」
心臓を狙ったリンの拳は、両手で受け止めるしかなかったみたいだ。
空気が弾ける様な音が鳴り響いた。凄い一撃だ。
手がしびれたのか、アレクシスが少し声を震わせる。
「いいコンビネーションだね」
「よお、相手してやるぜアレクシス。宣言通りにな!」
「ディートリンデ。それは良いとして、君の連れの横槍を止めてくれないか? あれを顔面とかに食らったら僕もただじゃ済まない気がするんだ」
「いい情報を聞いた。一週間くらいベッドに籠ってろ」
「それは遠慮したいな。例え君と一緒でも」
「はっ。それは私も同じだぜ!」
リンが蹴り飛ばして、僕の方を見る。それに合わせて僕も魔法弾を大量にばら撒いた。
これに全弾命中して、一週間どころか一年は寝ててもらいたいものだ。
でもアレクシスは凄く頑丈な体を持って居るらしい。それを腕で弾いてみせた。
「やっぱり、君は邪魔だなあ」
と、こっちに飛んできた。『エビで鯛を釣る』ならぬ、子供で竜が釣れた形だ。
「それを受け止められるなら遠慮しなくていいね。木衛門! 木槍!」
木衛門から棒を受け取って、アレクシスの蹴りを迎え撃つ。
飛びのきながら受け流すと、さらに詰め寄ってきて、目の前に気障な笑みがあった。
「初めまして。僕はアレクシスだ」
余裕綽々で自己紹介をして、彼がまっすぐ伸ばした五本の指を目に突き立てようとする。
身体能力の高さに任せた、高速の攻撃だ。
「初めまして。レイですっ」
でもそれは結局、技術を伴っていないただの目つぶしでしかない。
それを払いのけて、更に飛びずさる。
「おっと。やるね。でも、君は少し黙っててくれないかな?」
「嫌だね」
「君は弱弱しい。竜族の戦いには口を挟まない方がいい。君の為だよ」
「分かった。リンを諦めたら口を挟まないよ」
「それは口を挟んでやしないかな?」
「じゃあ、それが答えだってことで!」
今度は僕が仕掛ける。
先ず狙うのは急所。そして質より量で押して機会を狙おう。
アレクシスの眼を木槍で突き込む。
それを簡単に捕まれるけど、僕はもう膝めがけて蹴りを出している。
それを半身でかわされたなら、蹴りを踏み込みに繋げて、体重と勢いを乗せた肘鉄だ。
けど、どれだけ勢いよく攻撃してもレベル一の攻撃。
「マッサージは好きじゃないんだ」
払いのけられて、地面に転がされた。
僕だけだったならこのまま終わっていただろう。
「行け!」
でも、僕は単身突撃する駒ではない。
戦っている間に木衛門が回りこみ、アレクシスの後ろに立つ木に上って、後ろから飛び掛かる。
同時に僕は寝転がったまま魔法弾で足を狙った。
完全な挟み撃ちだ。上下にも分かれている。少なくともどちらかのダメージを負うはずだ。
「いい連携だね」
ふと、アレクシスと一瞬目が合った気がした。
「でも」
木衛門の攻撃が屈まれて避けられる。
「まだまだ」
魔法弾は一瞬で足を縮められ、越えられた。
「詰めが甘い!」
そして着地の瞬間に炎が起こって、僕達を舐めた。まともに浴びたら間違いなく死ぬほどの熱量だ。
直ぐに飛んで、木の影に身を潜める。
でも、何かが飛んでくる音がして、そこから飛びのく。
僕が居た木が、僕の目の前で真っ赤な剣で貫かれ、炎の柱に変わった。
あれに貫かれていたと思うと、心臓が縮みそうだ。
「さて、少し本気を見せてあげよう」
冷や汗が流れる中、燃える木が縦に切断されて、アレクシスが出て来た。
手をこちらに向けて、手のひらから炎を迸らせている。その動作は見たことがある。
反射的に転がると横顔に熱を感じた。すぐに足を狙って反撃の魔法弾を放つ。
「それは利かないよ」
それが飛んで避けられても、何度も放つ。
本人も言っていたけど、逃げているという事は少なくとも当たり所が悪ければ効くはずなのだ。
「キシャアアア!」
その上、木衛門が足に噛みつく隙も与えられる。
「っと!」
木衛門の特性のお陰か、彼の攻撃は通るらしい。
アレクシスが思わず足を振ったところで、僕はもう一方の足に魔法弾を当ててやった。
足を払われた形になり、やっと彼が地面に倒れる。
「ならば!」
が、彼の周りに炎の剣が並んで、僕に切っ先を向ける。
これで詰みだ。
「無様だな!」
急降下したリンが、アレクシスの腹に突き刺さった。
地面が割れて、彼の体がめり込む。
「ぐはっ」
と息を吐いて、アレクシスは動かなくなった。
それと同じタイミングですぐ目の前まで迫っていた炎の剣も消え失せる。
ギリギリだった。あと一歩で、僕も詰むところだった。
いつの間にか止まっていた息を吐いて、ぐったりと両手足を伸ばす。
心臓が止まるかと思った。あの剣先の群れを避けるなんて自信がなかったから、今日が命日かとすら思った。
目配せだけで伝わったか不安だったけど、きちんと僕が隙を作ってリンが止めを刺すと理解してくれていたか。
両手をに力を込めて改めて顔を上げて、辺りを見てみる。
僕の前には残ったのは白目をむいて倒れるアレクシスと
「……やばっ。やり過ぎたか?」
剛力の魔石を持ちながら思い切り殴ってしまって、青ざめたリンが居た。
どうやら、何の考えもなしに殴りつけてしまったらしい。
「えーと、とりあえず介抱しようか」
この後延命の魔石のお陰でアレクシスは何とか一命を取り留めたのだった。
「久々だね。君に見つめられるのは」
簀巻きにされたアレクシスが気障に笑いかける。簀巻きなのに。縛り上げられているのに。
そして、彼のいう『君』は決して見つめているわけではないのに。
「どうしてお前がここに居るだよ? 従者は?」
はっきり現実を突きつけるなら、リンは見下しているのだ。仁王立ちして、友好的な雰囲気は欠片もない。
しかも、いつでもアレクシスの首をもぎ取れるように、片手に魔石を、もう片方に首を掴んでいる。
それは何というか、ストーカーをとっちめている人の様だった。
「従者ならいるさ。アドラー」
「御意」
アレクシスの呼びかけに、近くの木から人影が落ちてきた。
全く気配のなかったその人物は、黒い革の包帯に上半身を包み黒い革ズボンを履いた男だ。
包帯から覗く青い目がこちらを見ている。
まさか仲間がいたとは思わなくて、身構えるけど、ふと気づく。
「ほら、居ただろう?」
と自慢げに言ったアレクシスと思い切り距離を取って、助ける様子がない。寧ろ傍観を決め込むようにしている。
どう見てもアレクシスに忠誠を誓っている人の態度ではない。寧ろ冷ややかに見ている気がする。
それはもっと具体的に言えば、ストーカーを憐れんでいる眼差しだった。
アレクシスの人となりがよく分かる二人の態度だ。僕も今後は余り近付かないようにしよう。
「じゃあこのアドラー動かせよ? 竜は竜の里から出ることを禁じられてるだろ?」
「確かにそうだけど従者じゃ君を捕まえられないからね。というか僕の従者はいうことを聞かなくてね」
「ああそっか。お前気持ち悪いしな」
「酷いなあ。折角面白い情報を持ってきたのに」
とアレクシスが言うと、従者がズボンのポケットから紙を出してリンに手渡した。
どうやら竜の国の新聞らしい。当然だけど、文字は読めない。
「竜の里にアシュルグリスが宣戦布告? なんだこれ。最近流行り始めたジョークか?」
アシュルグリス。その名前に聞き覚えがあった。最近国王が変わったという国だった様な……。
ああ、そうだ。野心家の王様になった国だ。
「ああ。馬鹿な話だろう? もっと馬鹿な話をすると、竜の里側が送った使者が殺されている」
「従者が人間に殺されただと?」
リンの表情が益々怪訝なものに変わる。
「ああそうさ。全く。血が薄くなったとはいえ竜に連なる者が殺されてしまうとはねえ」
いやはや、と笑うアレクシスに対して、リンは全く信じていない様で、彼を睨んでいる。
「いや嘘だろ。そんなことあるわけねえよ。何企んでるんだ?」
「君との結婚以外は何も考えていないよ。そしてこれは真実だ」
「お前が実は女だっていう方が信じられるんだが?」
「信じてもらうしかないね。まあ、君に故郷への愛があるのなら、戻ってきてくれよ。長老曰く、逆ハーレムが嫌ならそれでもいいから暫く防衛してくれ、だとさ」
「長老がそんな事を言ったのか」
逆……?
何だかシリアスな内容の中にギャグコメの香りがしたような気がする。
でも話は締めにかかっているらしく、アレクシスが目くばせするとアドラーが彼を持ち上げた。
「では、僕も戦争の準備があるから失礼するよ」
「二度ど来るな。私は誰とも結婚はしねえからな」
「ふっ。君を落とすのは苦労するなあ」
楽しげに笑った後、彼は背負われたまま帰っていった。
リンはその三枚目な退却を睨んで見届け、彼がもたらした一報に少し眉をしかめる。
「何であんな嘘ついたんだ? 本当に分からないんだけど」
その一報が何の目的でもたらされたのか、彼女にはさっぱり分からないようだった。
確か彼女は、戦いは盤上のに似ている、と言っていた。
先手と後手で有利不利が分かれるし、弱い駒は他の駒と併用してやれば格段に強くなる。
つまり、僕も組み合わせ次第では竜人相手でもきちんと役目を果たせるのだ。
リンにひそかに魔石を手渡し、目配せする。
「……いいな。それの方が私好みだ。いきなっ!」
リンに放り投げられて、僕は木衛門と一緒に森へと落ちる。
そして上に居るアレクシスに、足を見るように体を折り曲げて、魔法弾を連射した。
「いっけえええ!!」
森の木の上に落ちて、枝に全身を打っても、アレクシスを狙い続け、撃ち続ける。
「いきなりだね」
上を飛ぶアレクシスは笑いながらそれをくるりと回って回避した。でもそれは仕方がないことだった。
魔法弾は軌道があまりにも直線的で、動けば避けられる攻撃だった。
でも、避けるというのは行動を制限されることだ。
つまり、僕の行動は実を結んだ。
「うらああ!」
心臓を狙ったリンの拳は、両手で受け止めるしかなかったみたいだ。
空気が弾ける様な音が鳴り響いた。凄い一撃だ。
手がしびれたのか、アレクシスが少し声を震わせる。
「いいコンビネーションだね」
「よお、相手してやるぜアレクシス。宣言通りにな!」
「ディートリンデ。それは良いとして、君の連れの横槍を止めてくれないか? あれを顔面とかに食らったら僕もただじゃ済まない気がするんだ」
「いい情報を聞いた。一週間くらいベッドに籠ってろ」
「それは遠慮したいな。例え君と一緒でも」
「はっ。それは私も同じだぜ!」
リンが蹴り飛ばして、僕の方を見る。それに合わせて僕も魔法弾を大量にばら撒いた。
これに全弾命中して、一週間どころか一年は寝ててもらいたいものだ。
でもアレクシスは凄く頑丈な体を持って居るらしい。それを腕で弾いてみせた。
「やっぱり、君は邪魔だなあ」
と、こっちに飛んできた。『エビで鯛を釣る』ならぬ、子供で竜が釣れた形だ。
「それを受け止められるなら遠慮しなくていいね。木衛門! 木槍!」
木衛門から棒を受け取って、アレクシスの蹴りを迎え撃つ。
飛びのきながら受け流すと、さらに詰め寄ってきて、目の前に気障な笑みがあった。
「初めまして。僕はアレクシスだ」
余裕綽々で自己紹介をして、彼がまっすぐ伸ばした五本の指を目に突き立てようとする。
身体能力の高さに任せた、高速の攻撃だ。
「初めまして。レイですっ」
でもそれは結局、技術を伴っていないただの目つぶしでしかない。
それを払いのけて、更に飛びずさる。
「おっと。やるね。でも、君は少し黙っててくれないかな?」
「嫌だね」
「君は弱弱しい。竜族の戦いには口を挟まない方がいい。君の為だよ」
「分かった。リンを諦めたら口を挟まないよ」
「それは口を挟んでやしないかな?」
「じゃあ、それが答えだってことで!」
今度は僕が仕掛ける。
先ず狙うのは急所。そして質より量で押して機会を狙おう。
アレクシスの眼を木槍で突き込む。
それを簡単に捕まれるけど、僕はもう膝めがけて蹴りを出している。
それを半身でかわされたなら、蹴りを踏み込みに繋げて、体重と勢いを乗せた肘鉄だ。
けど、どれだけ勢いよく攻撃してもレベル一の攻撃。
「マッサージは好きじゃないんだ」
払いのけられて、地面に転がされた。
僕だけだったならこのまま終わっていただろう。
「行け!」
でも、僕は単身突撃する駒ではない。
戦っている間に木衛門が回りこみ、アレクシスの後ろに立つ木に上って、後ろから飛び掛かる。
同時に僕は寝転がったまま魔法弾で足を狙った。
完全な挟み撃ちだ。上下にも分かれている。少なくともどちらかのダメージを負うはずだ。
「いい連携だね」
ふと、アレクシスと一瞬目が合った気がした。
「でも」
木衛門の攻撃が屈まれて避けられる。
「まだまだ」
魔法弾は一瞬で足を縮められ、越えられた。
「詰めが甘い!」
そして着地の瞬間に炎が起こって、僕達を舐めた。まともに浴びたら間違いなく死ぬほどの熱量だ。
直ぐに飛んで、木の影に身を潜める。
でも、何かが飛んでくる音がして、そこから飛びのく。
僕が居た木が、僕の目の前で真っ赤な剣で貫かれ、炎の柱に変わった。
あれに貫かれていたと思うと、心臓が縮みそうだ。
「さて、少し本気を見せてあげよう」
冷や汗が流れる中、燃える木が縦に切断されて、アレクシスが出て来た。
手をこちらに向けて、手のひらから炎を迸らせている。その動作は見たことがある。
反射的に転がると横顔に熱を感じた。すぐに足を狙って反撃の魔法弾を放つ。
「それは利かないよ」
それが飛んで避けられても、何度も放つ。
本人も言っていたけど、逃げているという事は少なくとも当たり所が悪ければ効くはずなのだ。
「キシャアアア!」
その上、木衛門が足に噛みつく隙も与えられる。
「っと!」
木衛門の特性のお陰か、彼の攻撃は通るらしい。
アレクシスが思わず足を振ったところで、僕はもう一方の足に魔法弾を当ててやった。
足を払われた形になり、やっと彼が地面に倒れる。
「ならば!」
が、彼の周りに炎の剣が並んで、僕に切っ先を向ける。
これで詰みだ。
「無様だな!」
急降下したリンが、アレクシスの腹に突き刺さった。
地面が割れて、彼の体がめり込む。
「ぐはっ」
と息を吐いて、アレクシスは動かなくなった。
それと同じタイミングですぐ目の前まで迫っていた炎の剣も消え失せる。
ギリギリだった。あと一歩で、僕も詰むところだった。
いつの間にか止まっていた息を吐いて、ぐったりと両手足を伸ばす。
心臓が止まるかと思った。あの剣先の群れを避けるなんて自信がなかったから、今日が命日かとすら思った。
目配せだけで伝わったか不安だったけど、きちんと僕が隙を作ってリンが止めを刺すと理解してくれていたか。
両手をに力を込めて改めて顔を上げて、辺りを見てみる。
僕の前には残ったのは白目をむいて倒れるアレクシスと
「……やばっ。やり過ぎたか?」
剛力の魔石を持ちながら思い切り殴ってしまって、青ざめたリンが居た。
どうやら、何の考えもなしに殴りつけてしまったらしい。
「えーと、とりあえず介抱しようか」
この後延命の魔石のお陰でアレクシスは何とか一命を取り留めたのだった。
「久々だね。君に見つめられるのは」
簀巻きにされたアレクシスが気障に笑いかける。簀巻きなのに。縛り上げられているのに。
そして、彼のいう『君』は決して見つめているわけではないのに。
「どうしてお前がここに居るだよ? 従者は?」
はっきり現実を突きつけるなら、リンは見下しているのだ。仁王立ちして、友好的な雰囲気は欠片もない。
しかも、いつでもアレクシスの首をもぎ取れるように、片手に魔石を、もう片方に首を掴んでいる。
それは何というか、ストーカーをとっちめている人の様だった。
「従者ならいるさ。アドラー」
「御意」
アレクシスの呼びかけに、近くの木から人影が落ちてきた。
全く気配のなかったその人物は、黒い革の包帯に上半身を包み黒い革ズボンを履いた男だ。
包帯から覗く青い目がこちらを見ている。
まさか仲間がいたとは思わなくて、身構えるけど、ふと気づく。
「ほら、居ただろう?」
と自慢げに言ったアレクシスと思い切り距離を取って、助ける様子がない。寧ろ傍観を決め込むようにしている。
どう見てもアレクシスに忠誠を誓っている人の態度ではない。寧ろ冷ややかに見ている気がする。
それはもっと具体的に言えば、ストーカーを憐れんでいる眼差しだった。
アレクシスの人となりがよく分かる二人の態度だ。僕も今後は余り近付かないようにしよう。
「じゃあこのアドラー動かせよ? 竜は竜の里から出ることを禁じられてるだろ?」
「確かにそうだけど従者じゃ君を捕まえられないからね。というか僕の従者はいうことを聞かなくてね」
「ああそっか。お前気持ち悪いしな」
「酷いなあ。折角面白い情報を持ってきたのに」
とアレクシスが言うと、従者がズボンのポケットから紙を出してリンに手渡した。
どうやら竜の国の新聞らしい。当然だけど、文字は読めない。
「竜の里にアシュルグリスが宣戦布告? なんだこれ。最近流行り始めたジョークか?」
アシュルグリス。その名前に聞き覚えがあった。最近国王が変わったという国だった様な……。
ああ、そうだ。野心家の王様になった国だ。
「ああ。馬鹿な話だろう? もっと馬鹿な話をすると、竜の里側が送った使者が殺されている」
「従者が人間に殺されただと?」
リンの表情が益々怪訝なものに変わる。
「ああそうさ。全く。血が薄くなったとはいえ竜に連なる者が殺されてしまうとはねえ」
いやはや、と笑うアレクシスに対して、リンは全く信じていない様で、彼を睨んでいる。
「いや嘘だろ。そんなことあるわけねえよ。何企んでるんだ?」
「君との結婚以外は何も考えていないよ。そしてこれは真実だ」
「お前が実は女だっていう方が信じられるんだが?」
「信じてもらうしかないね。まあ、君に故郷への愛があるのなら、戻ってきてくれよ。長老曰く、逆ハーレムが嫌ならそれでもいいから暫く防衛してくれ、だとさ」
「長老がそんな事を言ったのか」
逆……?
何だかシリアスな内容の中にギャグコメの香りがしたような気がする。
でも話は締めにかかっているらしく、アレクシスが目くばせするとアドラーが彼を持ち上げた。
「では、僕も戦争の準備があるから失礼するよ」
「二度ど来るな。私は誰とも結婚はしねえからな」
「ふっ。君を落とすのは苦労するなあ」
楽しげに笑った後、彼は背負われたまま帰っていった。
リンはその三枚目な退却を睨んで見届け、彼がもたらした一報に少し眉をしかめる。
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