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2-11 それは驚異の展開速度
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あの謎の襲撃の後、僕の中で膨れ上がった疑問をリンが全て答えて見えて来たあらましは、こうだった。
先ず、そもそも竜という種族はとある問題に直面していた。
それは子供の出来にくさのせいで数がどんどん減って行ってしまうことだった。
原因は分かっていないけど、問題提起された時には夫婦間で一生に一人出来るかどうかだったらしい。
流石にそれでは種の保存が出来なくなる、と話し合ったのは竜の里でも特に偉い五人の長老さん。
喧々諤々の会議だったと伝えられるその話で決議されたのは、た種族の婚姻の推奨だった。
純粋な竜は生まれにくいけど、半竜ならどんどん生まれると気づいたのだ。
初めはその自由恋愛は、竜の里で歓迎されていたらしい。
少し竜の力は劣るけど、どれも立派で可愛い子供だともろ手を挙げて喜んでも居た。
でもある時、『全く竜の要素を持たない子』が生まれてから事情が変わった。
多分、竜の遺伝子は他の遺伝子に勝てなかったのだ。
竜としての血が薄くなったことに気付いた、皆はこれでは種の保存も出来ないと大慌て。
このままでは竜の誇りも、何もかも、全てなくなってしまう。
竜が歴史の中に埋もれてしまう。
何とか遺伝子を残そうと長老達はこれまた色々会議して、そしてリンに白羽の矢が立った。
リンは竜の血というスキルを持っていたからだ。
それは純粋な竜であるという証であり、今では絶滅した種類だった。
そしてそれを最大限に利用しようとした計画が『ディートリンデ逆ハーレム計画』だった。
「気付いたら、私の周りには一番血が濃い竜の貴族が六人居て、重婚を迫られていたんだ」
と、怒って良いのか笑っていいのか分からない話を語り終えた時、いち早く誰かがリンの手を掴む。
「大変だったな。私も協力しよう。六人とも首をはねてやる」
テントの中で話を聞いていた、クラリスだ。
一見凄んでいるみたいだけど、多分長老達に対して真剣に怒っているのだろう。
確か、この長身のレディース風な人も結婚を迫られて虐殺……いや逃げ出した人だったか。
きっと境遇が似ていて共感したのだろう。
「おう、中々の苦労人じゃねえか。協力するぜ。仲間になろうぜ」
ゲイルもニコニコと近付いてくる。
彼も特殊な能力で色々苦労したことは想像に難くない。きっとリンを助けてくれるだろう。
さて、そんな暖かい空気の中、僕からも言うことが一つある。
「で、なんでこんな状況になってるのさ」
当然の様にゲイル達が湧いてきて、無理やりテントに入れられたこの現状に、僕は遺憾の意を発した。
彼らの行動は全く無駄がなくそして早かった。
気付けばゲイルが隣に居て、何故かミミルとギルが後ろに配置していたのだ。
そして『いやあ、何だか大変そうだねえ』等と奴らが言っている間に、クラリスとその他メンバーがゲイルを中心にしてテントの骨組みを建て出した。
そして黄色い厚手の布が被せられると、僕達は彼らのテントの中に居たのだ。
つまりテントに僕達を入れるのでなく、僕達を入れるようにテントを建てるという無茶すらやってのけての収容だった。
その結果、出現したのが『アルバンフラ空間』と言っていい光景だ。
家財道具が並んでいて、キッチンが併設されて、ギルがコックの手伝いをし、コックが料理を盛り付けている。
そしてそれを受け取るアルバンフラメンバー。数を数えると僕が会った人間は全員集合している。
全く何処から盗み聞きして、それで何を企んでいるのやら。
疑いの眼で睨んでやると、ゲイルが両手を上げて大げさに嘆いて見せた。
「そんなに睨むなよ。一応命の恩人だぜ? しかもテントを貸してやって、飯も用意してやったのに」
「あれは共闘だったし、テントは無理やり入れられたし、ご飯にはまだ手を付けてないよ」
「シラス! おかわり!」
「……リンは別として」
隣を見ると、普通にご飯をモリモリ食べている。
こんな状況で、しかも何十分か前には深刻そうな顔をしていたのに、今は全く平然と食べている。
リンの精神は異様に頑丈だったのか。もしくは延命の魔石で精神力まで回復しているのだろうか。
「おい、レイ。進んでないな。食べないなら私が食おうか?」
「あああ! そもそも僕はもっと単純かつ楽しく生きたいんだよ!」
僕は誰かに取られる前に肉にかじりついた。
玉ねぎ系の野菜が作り出すあっさりとしたソースが肉に合って、ムカつくくらい美味しかった。
一先ず食事が終わった後、僕達の為に用意してくれたテントの中で、道具の再鑑定と木衛門への収納をする。
この比較的小さなテントはゲイルの空間に入っていたもので、僕とリンが色々と話すなら機密性が欲しいだろうと察してくれた結果だった。
でも、こういう所は気配りできるのに、どうしてこうもずかずかと纏わりついてくるのやら。
ゲイルと対する度に、どこかに『カメラ』が設置されているのかとか、ストーカーなのかとか思ってしまうのだけど。
いや、彼がこうも歓待する理由は、今回は僕ではないか。
間違いなく訳ありであるリンの勧誘を考えているのだろう。
断った僕にすら付き纏うのだから、物証がなくとも確信が持てる。
僕としては、自由に冒険したいからゲイルの下には行きたくないし、折角の旅のお供を失いたくもない。
だから、『半分』憧れの存在で『一応』恩人でもあるゲイルが益々邪魔になってきていた。
一方、テントの隅で満足げに寝転ぶリンが一体何を考えているのかというと、こんなことだった。
「一先ず、こっそり竜の里に行こうと思う」
それは予想がついていた。というか行く以外の選択肢は考えられなかった。
でも。質問してみる。
「そこから逃げてきたのに? 無理に結婚させられそうになったんでしょ」
「ああ。でもあんな嘘をついてまで呼び寄せるくらいだから、きっとなんかあったんだと思う。それになんだかんだ言って里は好きだからな」
「そっか。じゃあ僕もお供するよ」
「いいのか?」
「旅をしたいだけで、特に行先は決めてないからね。それに竜の里って言うのも気になるし」
竜の里なんてファンタジーの匂いがプンプンしてくる所に行かない訳にはいかない。
それに戦争というのはこの世界には相応しくないから、もし本当に戦争が起きかけていたら停戦に追い込んでやろう。
「となると準備だなあ」
「準備か。そうだな。何の準備もしないで行って、竜族六人に追い回されたら流石に大変か」
「僕はここで何か道具を作るけど、リンはどうする? 直ぐに行きたい?」
「いや、アレクシスと鉢合わせしても嫌だし、暫くはレベル上げかな?」
そういう彼女に、僕はふと思い出した。
「リンって何レベルなの? というか何歳?」
「十八歳でレベル六十だぜ。ああ、でも二年前に測ったきりだからな。もう少し上がってるかも知れねえ。レイは?」
「十歳でレベル一だよ」
「うへっ。現世にさ迷わずに、魂海に行ってくれ」
「さ迷ってないし、生きてるし」
レベル一はもう死んでいる次元なのか。知らなかった。
「というか言ったよね僕のスキル。そもそもコンカイって何?」
「竜の魂が還る場所だ。魂はどこかにある海に還るって信じられているんだよ。それに因んだ伝説の泉もあるし」
「へえ、そうなんだ」
と、不意に指が痺れて、力が抜けた。
適当により分けていたアイテムを見ると粘液が滲む木片を触っていたらしい。その毒液で被れていた様だ。
「毒の木片か。さっきの戦いでレベルが上がったみたいだね」
これだけ痺れるならきっと色々使える。持っていきたいな。
でも、流石にこれを木衛門に入れるのは無理だろう。木から生まれた道具とは言え、もう彼は生きているし。
「シャ!」
と思ったら、木衛門がそれを僕の指から奪って飲み込んだ。
「ちょっと! 毒だよ!?」
慌てる僕を他所に木衛門は満足げに舌なめずりをして、僕の膝の上に乗り、ごろりと横になった。
更に瞼が閉じて、うつらうつらと舟をこぎ出す。
……平気そうだ。それならならば別にいいのだけど、何で僕の手から奪ったのだろう……って何だか可笑しい。
「ねえリン。木衛門って、瞼とかあったっけ?」
「その前にそのどう見ても動物みたいな口の中に驚けよ」
「へ!?」
リンに言われて、反対を向いていた木衛門を振り向かせて口を開かせる。
何だかぐずっているようだけど、構わずにこじ開けると確かにそこには肉感たっぷりの赤と真っ白でギザギザな牙があった。
「なんでだ? というかいつの間に」
眼鏡越しに目を凝らすと、木衛門の名前が変わっている。
前は木片とだけ書かれていてその下に特殊能力が書いてあったのに、今は掠れた文字で暴食の木製人形と書いてある。
レベルも何故か後退していて、十になっている。初めて見る事尽くしだ。
「でも、一応これで見えるから道具扱いなのかな?」
とは言え文字が微妙に掠れている所を見ると、もしかして生物と道具の中間に位置しているのかも知れない。
何より睡眠しようとしたことが生物に近くなっている何よりの証だ。
と、ずっと口を開けさせた僕を嫌ったか、木衛門が噛みついてきた。
「いてっ」
そしてまた僕の膝の上に丸まって、静かに寝息を立て始めた。
それは安らかな寝息で、背中に撫でてみると尻尾を左右に振っている。
「メタモルフォーゼでもしたのかな」
「メタ?」
「突然変異」
「ああ、あり得るな。確か似たような事例を授業で習ったぜ。植物に魔力を与え続けた結果、葉っぱやら根やらがぼうぼうの塊になったって」
「へえ」
じゃあこれもいつか葉っぱやら何やらでぼうぼうになったりするのだろうか。
僕は真っ白な牙を撫でてみて、想像してみる。
牙だらけで、ウゾウゾと動く木衛門……気持ち悪い。
「変な進化だけはしないでね……っいて」
一部の牙も鋭くなっているみたいだ。少し切り傷が出来てしまった。
途端に腕に力が抜けて、だらりと重力に負ける。
「……あれ?」
どうやっても力が入らない。痺れているみたいだ。
それはきっと例の毒で、そして彼の牙から分泌したのも明らかだった。
「まさか、同化しちゃった?」
僕は顔が青ざめていくのを感じた。
先ず、そもそも竜という種族はとある問題に直面していた。
それは子供の出来にくさのせいで数がどんどん減って行ってしまうことだった。
原因は分かっていないけど、問題提起された時には夫婦間で一生に一人出来るかどうかだったらしい。
流石にそれでは種の保存が出来なくなる、と話し合ったのは竜の里でも特に偉い五人の長老さん。
喧々諤々の会議だったと伝えられるその話で決議されたのは、た種族の婚姻の推奨だった。
純粋な竜は生まれにくいけど、半竜ならどんどん生まれると気づいたのだ。
初めはその自由恋愛は、竜の里で歓迎されていたらしい。
少し竜の力は劣るけど、どれも立派で可愛い子供だともろ手を挙げて喜んでも居た。
でもある時、『全く竜の要素を持たない子』が生まれてから事情が変わった。
多分、竜の遺伝子は他の遺伝子に勝てなかったのだ。
竜としての血が薄くなったことに気付いた、皆はこれでは種の保存も出来ないと大慌て。
このままでは竜の誇りも、何もかも、全てなくなってしまう。
竜が歴史の中に埋もれてしまう。
何とか遺伝子を残そうと長老達はこれまた色々会議して、そしてリンに白羽の矢が立った。
リンは竜の血というスキルを持っていたからだ。
それは純粋な竜であるという証であり、今では絶滅した種類だった。
そしてそれを最大限に利用しようとした計画が『ディートリンデ逆ハーレム計画』だった。
「気付いたら、私の周りには一番血が濃い竜の貴族が六人居て、重婚を迫られていたんだ」
と、怒って良いのか笑っていいのか分からない話を語り終えた時、いち早く誰かがリンの手を掴む。
「大変だったな。私も協力しよう。六人とも首をはねてやる」
テントの中で話を聞いていた、クラリスだ。
一見凄んでいるみたいだけど、多分長老達に対して真剣に怒っているのだろう。
確か、この長身のレディース風な人も結婚を迫られて虐殺……いや逃げ出した人だったか。
きっと境遇が似ていて共感したのだろう。
「おう、中々の苦労人じゃねえか。協力するぜ。仲間になろうぜ」
ゲイルもニコニコと近付いてくる。
彼も特殊な能力で色々苦労したことは想像に難くない。きっとリンを助けてくれるだろう。
さて、そんな暖かい空気の中、僕からも言うことが一つある。
「で、なんでこんな状況になってるのさ」
当然の様にゲイル達が湧いてきて、無理やりテントに入れられたこの現状に、僕は遺憾の意を発した。
彼らの行動は全く無駄がなくそして早かった。
気付けばゲイルが隣に居て、何故かミミルとギルが後ろに配置していたのだ。
そして『いやあ、何だか大変そうだねえ』等と奴らが言っている間に、クラリスとその他メンバーがゲイルを中心にしてテントの骨組みを建て出した。
そして黄色い厚手の布が被せられると、僕達は彼らのテントの中に居たのだ。
つまりテントに僕達を入れるのでなく、僕達を入れるようにテントを建てるという無茶すらやってのけての収容だった。
その結果、出現したのが『アルバンフラ空間』と言っていい光景だ。
家財道具が並んでいて、キッチンが併設されて、ギルがコックの手伝いをし、コックが料理を盛り付けている。
そしてそれを受け取るアルバンフラメンバー。数を数えると僕が会った人間は全員集合している。
全く何処から盗み聞きして、それで何を企んでいるのやら。
疑いの眼で睨んでやると、ゲイルが両手を上げて大げさに嘆いて見せた。
「そんなに睨むなよ。一応命の恩人だぜ? しかもテントを貸してやって、飯も用意してやったのに」
「あれは共闘だったし、テントは無理やり入れられたし、ご飯にはまだ手を付けてないよ」
「シラス! おかわり!」
「……リンは別として」
隣を見ると、普通にご飯をモリモリ食べている。
こんな状況で、しかも何十分か前には深刻そうな顔をしていたのに、今は全く平然と食べている。
リンの精神は異様に頑丈だったのか。もしくは延命の魔石で精神力まで回復しているのだろうか。
「おい、レイ。進んでないな。食べないなら私が食おうか?」
「あああ! そもそも僕はもっと単純かつ楽しく生きたいんだよ!」
僕は誰かに取られる前に肉にかじりついた。
玉ねぎ系の野菜が作り出すあっさりとしたソースが肉に合って、ムカつくくらい美味しかった。
一先ず食事が終わった後、僕達の為に用意してくれたテントの中で、道具の再鑑定と木衛門への収納をする。
この比較的小さなテントはゲイルの空間に入っていたもので、僕とリンが色々と話すなら機密性が欲しいだろうと察してくれた結果だった。
でも、こういう所は気配りできるのに、どうしてこうもずかずかと纏わりついてくるのやら。
ゲイルと対する度に、どこかに『カメラ』が設置されているのかとか、ストーカーなのかとか思ってしまうのだけど。
いや、彼がこうも歓待する理由は、今回は僕ではないか。
間違いなく訳ありであるリンの勧誘を考えているのだろう。
断った僕にすら付き纏うのだから、物証がなくとも確信が持てる。
僕としては、自由に冒険したいからゲイルの下には行きたくないし、折角の旅のお供を失いたくもない。
だから、『半分』憧れの存在で『一応』恩人でもあるゲイルが益々邪魔になってきていた。
一方、テントの隅で満足げに寝転ぶリンが一体何を考えているのかというと、こんなことだった。
「一先ず、こっそり竜の里に行こうと思う」
それは予想がついていた。というか行く以外の選択肢は考えられなかった。
でも。質問してみる。
「そこから逃げてきたのに? 無理に結婚させられそうになったんでしょ」
「ああ。でもあんな嘘をついてまで呼び寄せるくらいだから、きっとなんかあったんだと思う。それになんだかんだ言って里は好きだからな」
「そっか。じゃあ僕もお供するよ」
「いいのか?」
「旅をしたいだけで、特に行先は決めてないからね。それに竜の里って言うのも気になるし」
竜の里なんてファンタジーの匂いがプンプンしてくる所に行かない訳にはいかない。
それに戦争というのはこの世界には相応しくないから、もし本当に戦争が起きかけていたら停戦に追い込んでやろう。
「となると準備だなあ」
「準備か。そうだな。何の準備もしないで行って、竜族六人に追い回されたら流石に大変か」
「僕はここで何か道具を作るけど、リンはどうする? 直ぐに行きたい?」
「いや、アレクシスと鉢合わせしても嫌だし、暫くはレベル上げかな?」
そういう彼女に、僕はふと思い出した。
「リンって何レベルなの? というか何歳?」
「十八歳でレベル六十だぜ。ああ、でも二年前に測ったきりだからな。もう少し上がってるかも知れねえ。レイは?」
「十歳でレベル一だよ」
「うへっ。現世にさ迷わずに、魂海に行ってくれ」
「さ迷ってないし、生きてるし」
レベル一はもう死んでいる次元なのか。知らなかった。
「というか言ったよね僕のスキル。そもそもコンカイって何?」
「竜の魂が還る場所だ。魂はどこかにある海に還るって信じられているんだよ。それに因んだ伝説の泉もあるし」
「へえ、そうなんだ」
と、不意に指が痺れて、力が抜けた。
適当により分けていたアイテムを見ると粘液が滲む木片を触っていたらしい。その毒液で被れていた様だ。
「毒の木片か。さっきの戦いでレベルが上がったみたいだね」
これだけ痺れるならきっと色々使える。持っていきたいな。
でも、流石にこれを木衛門に入れるのは無理だろう。木から生まれた道具とは言え、もう彼は生きているし。
「シャ!」
と思ったら、木衛門がそれを僕の指から奪って飲み込んだ。
「ちょっと! 毒だよ!?」
慌てる僕を他所に木衛門は満足げに舌なめずりをして、僕の膝の上に乗り、ごろりと横になった。
更に瞼が閉じて、うつらうつらと舟をこぎ出す。
……平気そうだ。それならならば別にいいのだけど、何で僕の手から奪ったのだろう……って何だか可笑しい。
「ねえリン。木衛門って、瞼とかあったっけ?」
「その前にそのどう見ても動物みたいな口の中に驚けよ」
「へ!?」
リンに言われて、反対を向いていた木衛門を振り向かせて口を開かせる。
何だかぐずっているようだけど、構わずにこじ開けると確かにそこには肉感たっぷりの赤と真っ白でギザギザな牙があった。
「なんでだ? というかいつの間に」
眼鏡越しに目を凝らすと、木衛門の名前が変わっている。
前は木片とだけ書かれていてその下に特殊能力が書いてあったのに、今は掠れた文字で暴食の木製人形と書いてある。
レベルも何故か後退していて、十になっている。初めて見る事尽くしだ。
「でも、一応これで見えるから道具扱いなのかな?」
とは言え文字が微妙に掠れている所を見ると、もしかして生物と道具の中間に位置しているのかも知れない。
何より睡眠しようとしたことが生物に近くなっている何よりの証だ。
と、ずっと口を開けさせた僕を嫌ったか、木衛門が噛みついてきた。
「いてっ」
そしてまた僕の膝の上に丸まって、静かに寝息を立て始めた。
それは安らかな寝息で、背中に撫でてみると尻尾を左右に振っている。
「メタモルフォーゼでもしたのかな」
「メタ?」
「突然変異」
「ああ、あり得るな。確か似たような事例を授業で習ったぜ。植物に魔力を与え続けた結果、葉っぱやら根やらがぼうぼうの塊になったって」
「へえ」
じゃあこれもいつか葉っぱやら何やらでぼうぼうになったりするのだろうか。
僕は真っ白な牙を撫でてみて、想像してみる。
牙だらけで、ウゾウゾと動く木衛門……気持ち悪い。
「変な進化だけはしないでね……っいて」
一部の牙も鋭くなっているみたいだ。少し切り傷が出来てしまった。
途端に腕に力が抜けて、だらりと重力に負ける。
「……あれ?」
どうやっても力が入らない。痺れているみたいだ。
それはきっと例の毒で、そして彼の牙から分泌したのも明らかだった。
「まさか、同化しちゃった?」
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