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2-12 赤い森で血眼になって
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年中秋みたいな森の中。地面と頭上に広がる赤の間で僕は走り続ける。
僕はうねうねと曲がる獣道を走り抜け、その獲物へと飛び掛かった。
「うおりゃあああああ!」
僕は必死だった。
必死にイノシシに向かって、必死に借りた剣を叩きつける。
「せいやああ!」
更に返す刀で後ろの狐も叩き切る。でもまだ足りない。全然足りる感じがしない。
荒い息もそのままに次の獲物を探して睨んで、直ぐにそこに飛びつく。
何でこんなに血に飢えた様に戦っているのか、それは休む暇がなかったからだった。
何せ、木衛門がアイテムを吸収するようになっていて、僕はそうとは知らずにどんどん分別していたのだから。
杖も木片も魔石も、入れられそうなものはバンバン入れてしまったのだから。
結果、どうなったかというと、アイテムが大量に消えた。
大慌てで木衛門を逆さまにして吐き出させたのだけど、出てきたものが魔石の類だけ。
木製の物は全部消えてなくなってしまった。
つまり、今の僕はあらゆる武器が没収されたレベル一なのだ。こんな状況なのだから、必死になるし大慌てになるし大わらわにもなる。
一方木衛門も必死そうだった。
「キシャアア!」
毒を吐き
「シャアア!」
近寄る虫モンスターを昏倒させ
「シャアアアア!」
魔法弾を口から放つ。
無意識とは言え僕の道具を食べてしまったという自責の念があるのか、彼は必死に戦っていた。
その様はもう一つの災害と言っていいくらいで、壊れないという性質がそれを補佐していた。
一人と一匹は、次の武器を手に入れる為に必死だった。
多分傍から見たら僕達は侵略者とかせん滅者とかというイメージを抱くだろう。
「はあ、はあ。次はどこ?」
「シューシュー」
僕を止められるものなどここには居やしないのだ。
木衛門に倒した敵をあげて、僕は背負っていた木の枝を下ろして、凝視する。
でも、僕が期待したものは中々ない。
「いいのがないなあ」
「シャアア」
腐りやすいとか、壊れやすいとか、マイナスの物が多い。
頑丈とか柔軟というものもあるけど、それは余り武器になりそうにない。木衛門に吸収させておこう。
僕が狙うのは完全な武器だ。攻撃性の高い物を見つけてそれを育てて竜の里に殴り込みに行かないといけないのだから。
「大体一つの戦場に三千くらいだから、千五百くらい倒せばいいんだよね」
いつかの授業で部隊の半壊は継戦能力の喪失を意味する、と習った。
今の木衛門を突撃させれば簡単に達成できそうだけど、ここはファンタジーの世界。
どんな猛者が混じっているか分かったものでない。
だから狙うのは、ただの攻撃性の強いものではない。
「出来るなら、遠距離攻撃が出来るものがいいのだけど」
呟くと、木衛門が枝をかじるのを止めて、僕にすり寄ってくる。
どうやらこいつも思いの外苦しんでいるみたいだ。
「大丈夫だよ。総合的な戦力は跳ね上がっているんだから」
そう。この木衛門が木材系の道具を消化する機能を得てから、僕達は異常な戦力を有するようになってた。
何せ今の木衛門は『異様に硬い戦車』だ。並みの魔物でも太刀打ちできない。
その上、今の所出来上がった能力上昇系は全て木衛門の胃袋に収めていて、どんどん強くなっているのだ。
それを加味すると……
「もう木衛門を主戦力と考えた方がいいのかな」
いっそそれの方が速い気がしてきた。
そもそも僕が戦う必要性はない。竜の国が守れればいいのだ。
「最低限の装備で、妥協かなあ」
目も疲れてきたし、一先ずこの綺麗な木というのも木衛門に放り投げて、こっちの香る木何て名前のはものは道具をまとめて保管している所にまとめて。
よし、新たな木の枝を探すとしよう。
眼鏡を外して、眉間を揉みながら立つと、後ろに気配がする。
「よう、若年寄。なんかくたびれてるな」
「ああ、ゲイルさん」
そう言えばアルバンフラの花もまだここに滞在していたか。
戦争には参加しないと言ったものの、戦災被害者のケアはやるとか言っていたから、もしかしたらその準備かも知れない。、
そして、ゲイルがここに来る理由はただ一つ。
「何か治療系で良さそうなの有ったか?」
「あるけど渡さないよ。こういうのの普及も危ないんだよ」
僕の能力を嗅ぎ付けての催促だ。
でも、例え人命救助に使うものだとしても安易に渡すことは出来ない。
安易に平均寿命を延ばせば国家の混乱を招くし、その治療の独占なんて起きた日には医療格差どころか寿命格差なんて事態も起きかねない。
順当な発展で自然発生するなら仕方ないのだけど、僕がわざわざ引き起こす理由はないのだ。
「いや、怪我を治すとかじゃなくていいんだよ。怪我なんてものは気力さえ持てば何とかなる。だが、その気力が持たない時がある。痛みとかでな」
「なるほどね」
直接治療をしない、怪我や病気の苦痛を紛らわす何かならば大丈夫かも知れない。そう言えばそんな木の枝がどこかに転がっていたような。
と考えた所で僕はあることを思い出した。
「あ、駄目だ」
「何だよ」
「いや確かに痛みを緩和する枝があるんだけど」
「あるのか」
「依存性があって」
「駄目じゃねえか」
要は違法薬物的なものだ。
初めて見た時、思わず遠くに投げようと手を振り上げてしまったのは記憶に新しい。
「つーか、そんなものをポンポン捨てるなよ。誰かが拾ったらどうするんだ?」
「大丈夫。凄い色の粘液が出る枝の下に入れてるから」
「……あの木の山か。ミミルがビビってたぞ」
「因みに触ったら、痺れるからね」
あれを取るためには、印を付けた防毒の木の枝を握りながら引き抜く必要がある。
「おう。もうギルが痺れてるぜ。と、そうだ。ギルが大丈夫かも聞きに来たんだった」
「いやいや、そんな状態の仲間を忘れないでよ」
今頃全身が痺れて悶えているだろうギルが、あまりにも哀れだ。
「平気だよ。三十分くらい痺れるだけだから」
「そりゃよかったが、そっちの様子は芳しくねえみたいだな」
「こればっかりは、もう運だから」
「おう、でもその運を人脈で何とかするのが大人ってもんだぜ」
ゲイルが僕の目の前に何かをひょいと投げた。
刃渡りが三十センチくらいの、剣だ。質素な鞘に収まっていて、柄には天使の羽が付いている。
「なにこれ?」
「昔、教会の関係者を助けた時に礼としてもらった。これを使うと水の魔法の威力が上がるらしい」
「え?」
何だそれ。僕が作ったことのない系統だ。
思わず注目すると、ゲイルがその剣を上にあげニヤリと笑う。
「無論ただじゃねえ。その剣。大分強くなったんじゃねえか?」
「それはぼったくりだよ」
傍に置いていた剣を抱きかかえながら、ゲイルが投げた剣を凝視してみる。
確かに水系魔法の威力が上がる効果だと書いてある。効果は……二パーセントだ。
でも鍛えればそれなりに強くなるだろうし、もしかして二倍なんてこともあり得る。
ほしい。是が非でも欲しい。喉から手が出るくらい欲しい。
よし、ワクワクする心を落ち着けよう。ゲイルは面倒くさいほど親切だけど、意地悪な面がある。
僕がこれだけ心動かされていると知ったら、変な提案をされる可能性がある。
被害はこの剣だけでいい。
「この剣が欲しいなら他に何かつけてよ」
「いやいや、結構貴重だぜこれ」
「異様に強くなったこの剣よりも?」
「それは、そっちの方が貴重だな」
「じゃあ、何か一つ」
「うーん。そうだなあ」
ゲイルが頭を悩ませる。スキンヘッドをぺたぺたと撫でで、その場で胡坐を搔くほど悩む。
そしてふと思いついた様に後ろを向いた。
「おーい。クラリス」
「何だ? 団長」
赤い森の奥から長身がのっそりと出て来る。
全身鎧で顔は分からないけど、声は間違いなくクラリスだ。
「レベル上げの手伝い。これでどうだ?」
「それをクラリスさんがやってくれるの」
正直、クラリスは苦手だ。
顔が怖いし容赦なさそうで、その威圧感で僕の身長が二センチ縮みそうな気さえしてくる。
これだけ価値を主張すれば大丈夫だし、クラリスには帰ってもらって普通に交換を提案しよう。
「物じゃないならいいや。仕方ないからおまけしといて上げ」
「遠慮するな。レベル上げ手伝ってくれ」
「分かった。任せろ。いっぱい敵を連れてくればいいんだな」
話の途中で、クラリスが会話を切って走り出した。
「ちょっと! いらないって言っていたのに……」
という言葉も、彼女の小さくなる背中に届きそうにない速さだった。
決断力があるというか、決断が速すぎるというか、速いのも思い切りがいいのも考え物だ。
しかも何をしに行ったというかと言うと、いっぱい敵を連れてくる、というのだ。
クラリスが、敵をいっぱい……。
木衛門を見ると、そちらも嫌な予感がしたらしい。見上げていた。
「木衛門、準備っ」
剣を構えると、木衛門が足元で爪を立て魔法弾の準備をする。
するとその音は直ぐに来た。
彼女は一体何をしたのか。地面が小刻みに揺れて奥から遠くに砂埃が昇って、そして迫力のある集団がやってきた。
イノシシの群れだ。そしてその前を走るクラリスだ。
「これでいいか?」
「よくないよ!」
「キシャアアア!」
木衛門が大量の魔法弾を一気に吐き出して、群れを迎え撃った。
魔法弾がクラリスを避けて群れの中に着弾する。
イノシシの巨体が何体も空を舞って、群れが急停止した。
更に容赦なく攻撃を続けて、イノシシをどんどん追い立てている。
その間にクラリスは弾幕の間を縫って僕の下に来た。
「どうだ。凄い数だろう」
「そうだね!」
皮肉交じりでしか答えられなかった。
弾幕を超えたイノシシを蹴りで止めて、首を斬り飛ばす。けど、やっぱり数が多い。
「ちょっとクラシスさん! 多すぎるから手伝って!」
「分かった。こいつら殺せばいいんだな」
クラリスが剣を抜くのと
「ちょっと、、待て! 」
というゲイルの言葉をきいたのはほぼ同時だった。
どういう意味か、と聞く前に僕の全身が痺れる。
それに突き飛ばされるように転ぶと、その目の前に電気をバリバリと散らして剣を構える偉丈夫が居た。
それは紫電散らす女騎士だった。
僕はうねうねと曲がる獣道を走り抜け、その獲物へと飛び掛かった。
「うおりゃあああああ!」
僕は必死だった。
必死にイノシシに向かって、必死に借りた剣を叩きつける。
「せいやああ!」
更に返す刀で後ろの狐も叩き切る。でもまだ足りない。全然足りる感じがしない。
荒い息もそのままに次の獲物を探して睨んで、直ぐにそこに飛びつく。
何でこんなに血に飢えた様に戦っているのか、それは休む暇がなかったからだった。
何せ、木衛門がアイテムを吸収するようになっていて、僕はそうとは知らずにどんどん分別していたのだから。
杖も木片も魔石も、入れられそうなものはバンバン入れてしまったのだから。
結果、どうなったかというと、アイテムが大量に消えた。
大慌てで木衛門を逆さまにして吐き出させたのだけど、出てきたものが魔石の類だけ。
木製の物は全部消えてなくなってしまった。
つまり、今の僕はあらゆる武器が没収されたレベル一なのだ。こんな状況なのだから、必死になるし大慌てになるし大わらわにもなる。
一方木衛門も必死そうだった。
「キシャアア!」
毒を吐き
「シャアア!」
近寄る虫モンスターを昏倒させ
「シャアアアア!」
魔法弾を口から放つ。
無意識とは言え僕の道具を食べてしまったという自責の念があるのか、彼は必死に戦っていた。
その様はもう一つの災害と言っていいくらいで、壊れないという性質がそれを補佐していた。
一人と一匹は、次の武器を手に入れる為に必死だった。
多分傍から見たら僕達は侵略者とかせん滅者とかというイメージを抱くだろう。
「はあ、はあ。次はどこ?」
「シューシュー」
僕を止められるものなどここには居やしないのだ。
木衛門に倒した敵をあげて、僕は背負っていた木の枝を下ろして、凝視する。
でも、僕が期待したものは中々ない。
「いいのがないなあ」
「シャアア」
腐りやすいとか、壊れやすいとか、マイナスの物が多い。
頑丈とか柔軟というものもあるけど、それは余り武器になりそうにない。木衛門に吸収させておこう。
僕が狙うのは完全な武器だ。攻撃性の高い物を見つけてそれを育てて竜の里に殴り込みに行かないといけないのだから。
「大体一つの戦場に三千くらいだから、千五百くらい倒せばいいんだよね」
いつかの授業で部隊の半壊は継戦能力の喪失を意味する、と習った。
今の木衛門を突撃させれば簡単に達成できそうだけど、ここはファンタジーの世界。
どんな猛者が混じっているか分かったものでない。
だから狙うのは、ただの攻撃性の強いものではない。
「出来るなら、遠距離攻撃が出来るものがいいのだけど」
呟くと、木衛門が枝をかじるのを止めて、僕にすり寄ってくる。
どうやらこいつも思いの外苦しんでいるみたいだ。
「大丈夫だよ。総合的な戦力は跳ね上がっているんだから」
そう。この木衛門が木材系の道具を消化する機能を得てから、僕達は異常な戦力を有するようになってた。
何せ今の木衛門は『異様に硬い戦車』だ。並みの魔物でも太刀打ちできない。
その上、今の所出来上がった能力上昇系は全て木衛門の胃袋に収めていて、どんどん強くなっているのだ。
それを加味すると……
「もう木衛門を主戦力と考えた方がいいのかな」
いっそそれの方が速い気がしてきた。
そもそも僕が戦う必要性はない。竜の国が守れればいいのだ。
「最低限の装備で、妥協かなあ」
目も疲れてきたし、一先ずこの綺麗な木というのも木衛門に放り投げて、こっちの香る木何て名前のはものは道具をまとめて保管している所にまとめて。
よし、新たな木の枝を探すとしよう。
眼鏡を外して、眉間を揉みながら立つと、後ろに気配がする。
「よう、若年寄。なんかくたびれてるな」
「ああ、ゲイルさん」
そう言えばアルバンフラの花もまだここに滞在していたか。
戦争には参加しないと言ったものの、戦災被害者のケアはやるとか言っていたから、もしかしたらその準備かも知れない。、
そして、ゲイルがここに来る理由はただ一つ。
「何か治療系で良さそうなの有ったか?」
「あるけど渡さないよ。こういうのの普及も危ないんだよ」
僕の能力を嗅ぎ付けての催促だ。
でも、例え人命救助に使うものだとしても安易に渡すことは出来ない。
安易に平均寿命を延ばせば国家の混乱を招くし、その治療の独占なんて起きた日には医療格差どころか寿命格差なんて事態も起きかねない。
順当な発展で自然発生するなら仕方ないのだけど、僕がわざわざ引き起こす理由はないのだ。
「いや、怪我を治すとかじゃなくていいんだよ。怪我なんてものは気力さえ持てば何とかなる。だが、その気力が持たない時がある。痛みとかでな」
「なるほどね」
直接治療をしない、怪我や病気の苦痛を紛らわす何かならば大丈夫かも知れない。そう言えばそんな木の枝がどこかに転がっていたような。
と考えた所で僕はあることを思い出した。
「あ、駄目だ」
「何だよ」
「いや確かに痛みを緩和する枝があるんだけど」
「あるのか」
「依存性があって」
「駄目じゃねえか」
要は違法薬物的なものだ。
初めて見た時、思わず遠くに投げようと手を振り上げてしまったのは記憶に新しい。
「つーか、そんなものをポンポン捨てるなよ。誰かが拾ったらどうするんだ?」
「大丈夫。凄い色の粘液が出る枝の下に入れてるから」
「……あの木の山か。ミミルがビビってたぞ」
「因みに触ったら、痺れるからね」
あれを取るためには、印を付けた防毒の木の枝を握りながら引き抜く必要がある。
「おう。もうギルが痺れてるぜ。と、そうだ。ギルが大丈夫かも聞きに来たんだった」
「いやいや、そんな状態の仲間を忘れないでよ」
今頃全身が痺れて悶えているだろうギルが、あまりにも哀れだ。
「平気だよ。三十分くらい痺れるだけだから」
「そりゃよかったが、そっちの様子は芳しくねえみたいだな」
「こればっかりは、もう運だから」
「おう、でもその運を人脈で何とかするのが大人ってもんだぜ」
ゲイルが僕の目の前に何かをひょいと投げた。
刃渡りが三十センチくらいの、剣だ。質素な鞘に収まっていて、柄には天使の羽が付いている。
「なにこれ?」
「昔、教会の関係者を助けた時に礼としてもらった。これを使うと水の魔法の威力が上がるらしい」
「え?」
何だそれ。僕が作ったことのない系統だ。
思わず注目すると、ゲイルがその剣を上にあげニヤリと笑う。
「無論ただじゃねえ。その剣。大分強くなったんじゃねえか?」
「それはぼったくりだよ」
傍に置いていた剣を抱きかかえながら、ゲイルが投げた剣を凝視してみる。
確かに水系魔法の威力が上がる効果だと書いてある。効果は……二パーセントだ。
でも鍛えればそれなりに強くなるだろうし、もしかして二倍なんてこともあり得る。
ほしい。是が非でも欲しい。喉から手が出るくらい欲しい。
よし、ワクワクする心を落ち着けよう。ゲイルは面倒くさいほど親切だけど、意地悪な面がある。
僕がこれだけ心動かされていると知ったら、変な提案をされる可能性がある。
被害はこの剣だけでいい。
「この剣が欲しいなら他に何かつけてよ」
「いやいや、結構貴重だぜこれ」
「異様に強くなったこの剣よりも?」
「それは、そっちの方が貴重だな」
「じゃあ、何か一つ」
「うーん。そうだなあ」
ゲイルが頭を悩ませる。スキンヘッドをぺたぺたと撫でで、その場で胡坐を搔くほど悩む。
そしてふと思いついた様に後ろを向いた。
「おーい。クラリス」
「何だ? 団長」
赤い森の奥から長身がのっそりと出て来る。
全身鎧で顔は分からないけど、声は間違いなくクラリスだ。
「レベル上げの手伝い。これでどうだ?」
「それをクラリスさんがやってくれるの」
正直、クラリスは苦手だ。
顔が怖いし容赦なさそうで、その威圧感で僕の身長が二センチ縮みそうな気さえしてくる。
これだけ価値を主張すれば大丈夫だし、クラリスには帰ってもらって普通に交換を提案しよう。
「物じゃないならいいや。仕方ないからおまけしといて上げ」
「遠慮するな。レベル上げ手伝ってくれ」
「分かった。任せろ。いっぱい敵を連れてくればいいんだな」
話の途中で、クラリスが会話を切って走り出した。
「ちょっと! いらないって言っていたのに……」
という言葉も、彼女の小さくなる背中に届きそうにない速さだった。
決断力があるというか、決断が速すぎるというか、速いのも思い切りがいいのも考え物だ。
しかも何をしに行ったというかと言うと、いっぱい敵を連れてくる、というのだ。
クラリスが、敵をいっぱい……。
木衛門を見ると、そちらも嫌な予感がしたらしい。見上げていた。
「木衛門、準備っ」
剣を構えると、木衛門が足元で爪を立て魔法弾の準備をする。
するとその音は直ぐに来た。
彼女は一体何をしたのか。地面が小刻みに揺れて奥から遠くに砂埃が昇って、そして迫力のある集団がやってきた。
イノシシの群れだ。そしてその前を走るクラリスだ。
「これでいいか?」
「よくないよ!」
「キシャアアア!」
木衛門が大量の魔法弾を一気に吐き出して、群れを迎え撃った。
魔法弾がクラリスを避けて群れの中に着弾する。
イノシシの巨体が何体も空を舞って、群れが急停止した。
更に容赦なく攻撃を続けて、イノシシをどんどん追い立てている。
その間にクラリスは弾幕の間を縫って僕の下に来た。
「どうだ。凄い数だろう」
「そうだね!」
皮肉交じりでしか答えられなかった。
弾幕を超えたイノシシを蹴りで止めて、首を斬り飛ばす。けど、やっぱり数が多い。
「ちょっとクラシスさん! 多すぎるから手伝って!」
「分かった。こいつら殺せばいいんだな」
クラリスが剣を抜くのと
「ちょっと、、待て! 」
というゲイルの言葉をきいたのはほぼ同時だった。
どういう意味か、と聞く前に僕の全身が痺れる。
それに突き飛ばされるように転ぶと、その目の前に電気をバリバリと散らして剣を構える偉丈夫が居た。
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