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0-1 色々とツッコミどころ満載な呼び出しについて
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薄明すらない暗闇の中。自分の手すら見えないそこに漂う。
十七年間の俺の生き様を振り返ってみると『もう少し頑張りましょう』なんて判子が押されるような人生だった。
小学生時代。俺はいいことも悪いこともしない、普通の子供だった。
誰かのスカートを捲ったこともないし、初めてのおつかいもしなかった。
してしまった悪いことと言ったら、牛乳一気飲み対決でむせて、対戦相手にそれをぶちまけたくらいだった。
中学生時代。青春に入ってもその性質は変わらなかった。
毎日友達と、やれゲームだ、やれサイクリングだと遊び呆けたが、盗んだバイクで走ってないし、窓ガラスだって割りはしない。
そしてどこかの御婆ちゃんを助けたことだってない。
要はその場のノリと流れで何となく、日々を消費してきたのだ。
そんなだからだろう。俺は何か得意とするものもなく、自慢出来るものもなく、大した能力もなく、そんなままで義務教育の終わりを迎えようとしている。いや、していたか。
とにかく今となってはもう遅い。もう少し熱中するものとか、あとちょっと勉強をしておけば、と頭の隅で考えてしまうが、無意味だった。
もう無意味なのに考えるのだから余りにも未練がましい。まあ、だからこそもう少し頑張りましょう、なんてつけるのだと思う。
でも世の大人達が言うように、人生というのは何処にどう転ぶか分からないものだった。
誰かさんがそんな判子の上に『もう一回』の判を押してくれたみたいだった。
「平賀幸尚。起きたなら何か反応をしろ。驚け。もしくは泣け。さもなくば喜べ」
闇の中、ぼんやりと浮かび上がったその誰かさんが言い放つ。
「神の御前だぞ」
だから俺は感謝の気持ちを込めて、返答した。
「この場合の神様なら、女神様だろ。普通」
この状況なら美人な女神様が出て来るはずなのに、何故か俺の前に現れた神様は瘦せこけたおじさんだった。
一先ず、寝ていた体を起こして、胡坐を掻いて、冴えない男を見る。
自称神様は、おおよそ神とは思えない見た目だった。
はっきり言ってやるなら貧乏神みたいに痩せこけている。日々の疲れが取れないまま通勤電車に揺られるサラリーマンみたいだ。うん。地獄の一ヵ月サビ残後のリーマンだ。
その上、そんな見た目の癖に人を値踏みしているような眼差しで見下している。
失礼な奴だなあとは思うが、まあ、そんな風だから俺も全く畏怖だの何だのといったものを感じずに胡坐を掻けるというものだ。堂々と観察してやる。
そんな窓際に居そうな男は、俺を見て木を捻じ曲げて作ったような椅子に座ったままため息をつく。
「そうだな。普通は女神だ。それで釣って良い様に使って、後はポイって言うのがセオリーなのだろう。そして俺達の中にも当然女神は居る。が、今は手が離せない。俺で我慢しろ」
「おい、そんな赤裸々に言うなよ。釣るとか言うなよ」
俺の中の雀の涙くらいしか残っていない信仰心が蒸発したらどうしてくれる。
神様仏様と祈る文言が使えなくなったら大変じゃないか。仏様にしか祈れなくなって、ご利益も半減じゃないか。
というかそもそもこの自称神様とやらは、本当に神様なのか。
この威厳というものが欠片もない雰囲気は、仕様なのだろうか。
うん。もしかしたら俺の努力不足なのかもしれない。改めて見てみよう。この男の神の片りんといものを……。
……いや、やっぱり、何をどう感じ取っても縋る神とか畏れる神というものは感じられない。
どちらかというと、おじさんだ。ただの、気難しいおじさんにしか見えない。
近寄りがたいという点では同じだが、結局そこしかあってない。ご利益の心配をしていたけど、元からご利益なんてありそうにない。
よし。やはり、ここは代打、女神様に変わって貰おう。
ここに来た理由は間違いなく『アレ』で、こんな所に拘るのは些末な事に違いないのだろう。
が、折角神様にあったのだ。ちゃんと女神さまに会いたい。
会って、その絶世の美女ぶりを脳に刻み込みたい。
そして目の前で信者になると宣言したい。
あわよくばお友達になりたい。
「チェンジを要求する。大人しく絶世の女神様を出すんだ」
「そうか。まあそれもいい。少し待ってもらうことになるが」
男は案外あっさりと俺のお願いを認めてくれた。が、男はこうも付け足した。
「だが、良いのか? 言っておくが俺達の女神さまは、元々世界を破壊しかけた邪神様なんだが……」
「……それって凄く怖い?」
「ああ。怖いな。俺も何度殺されそうになったか分からん。正直言って今こうして一般業務をしているのが不思議なくらいだ」
「あー。そっか。いや急におじさんの話を聞きたくなったかなあ」
無理だ。流石にそんな危険人物になんか会いたくない。
お友達になれる類でもなさそうだし、何より脳に姿を刻み込んだと思ったら、全身を切り刻まれることになりそうだ。
「そうか。では話を戻すとしよう。では、先ずは現状を確認してもらおうか?」
「ん? 周りって言ったって暗いだけだろ?」
ただの真っ暗闇だが、リーマンに言われたから改めて左右を見回してみた。
すると俺が注目するのを待っていたように、暗闇に光が溢れ出す。
星が瞼を開くように瞬き始めて、それが数百、数千、数万と増えていった。
今や、真っ暗だった世界はまるで星空の中に浮いているように変貌していた。
右を見ても左を見ても、上下すら星空だ。例えるなら、ドーム型のガラスで宇宙空間を漂っているみたいだった。
唐突に宇宙に放り出された気分になって、思わず見えない床に手をついてしまう。
きっと俺は、この床が無かったら気が狂っていたに違いない。
宇宙的脅威で1D100だ。
「な、何なんだ? ここは一体?」
「ありがたく思え。神が解説してやろう。ここは俗にいう神の座という奴だ。ここで地球産の魂を彼方へぶつけ……送り届ける」
「おい、ぶつけるって言ったぞ! 今間違いなくぶつけるって言った!」
こいつ、犯人が口を滑らせるようにとんでもないことを言いやがった。
そうだ。思い出した。犯人しか知らない事実を漏らす、秘密の暴露という奴だ。
つまりこれは間違いなく黒だった。誰か警察を、それかヤドリギの精霊、もしくは神殺しだ。封印術を使える何某さんでもいい。
一先ず座ったまま身構えていると、リーマンが面倒くさげに頭を掻いて、ため息をついた。
「ああそうだ。ぶつける。が、それはお前に不利益を被る行為ではない。砲丸投げの球が壊れないように、お前も壊れることは無い」
そして足を組んで男は肘をつく。
「それに、お前はもっと突っ込むべき事があるだろう。死人」
「いや、死人ってところは何となく分かるけど」
こんな所に居るのだから当たり前だし、そもそも死んだときの記憶は鮮明に覚えているのだから、疑いようもない。
確かあれは月曜の登校途中だった。
俺は面倒な授業の数々に憂鬱になっている最中、不意に忘れ物を思い出したのだ。
登校の道すがら宿題を思い出すなんて運がいいやら悪いやら、微妙な気分だ。
確かにそれをやったのは確かで、きっと机の上にあるのは確実だけど、気付いた場所が悪い。
何で、後五分で学校という所で思い出してしまうのだろう。
これならいっそ学校に着いてから思い出して、いやあ失敗した、と笑い話にした方がましな気がしてきた。
「どうするかな」
正直言って間に合うかどうか分からない距離だ。今引き返せば遅刻を覚悟しないといけないだろう。
が、担任よりも担当教科の先生の方が怖いのもまた事実。
二つをかけた天秤は、あっという間に宿題を取る方に傾いた。よし行こう。
住宅街の十字路を抜けるで引き返すと、すぐ後ろをトラックが通り過ぎる。
かなりの速度の様で風圧を背中に感じるほどだった。彼方も大慌てらしい。
こっちも負けてはいられない。急げばもしかしたら遅刻だって回避できるかも知れないのだ。
全速力で走る。……と脳に血が行ったらしい。また新しいことを思い出した。
その忘れ物は昨日の夜、教科書の間に挟んだことを。そしてその教科書は今朝出かける際にきちんとカバンに入れたことも。
「……こりゃ忘れ物は俺の脳のネジだったか」
なんて冗談を言いながら立ち止まり、十字路の手前で笑っているとトラックが勢いよく過ぎ去る。砂利が口に入りそうな勢いだ。……あのトラックはまだ大急ぎらしい。
それを避けながら、確認がてらカバンを探してみると、やっぱりそれはあった。
教科書の今日学ぶページに、きちんと四つ折りにして挟めたプリントが。
「走って損した。こりゃ多分一時限目の分のエネルギーがなくなったな」
呟いているとまた目の前をトラックが通り抜けた。今日はやけにトラックが多いな。何かフェアでもやっているのかも知れない。
とすると、今日の母は色々と美味しいものが買えて、今晩のご飯は少し豪華になるかも。これは楽しみだ。
「いや、もしかして無駄に凝ってしまって失敗したものが食卓に……」
レシピなんて見たこともないという母は料理上手なのだが、何故か月一でそういうものを出す。
こうなると一家の食卓は直ぐに地獄と化し、胃腸薬が地蔵菩薩に見えてくるのだ。
「ああ、今回はどっちに転ぶんだろうな」
戦々恐々としていると、ふと周りが薄暗くなった。僕の周りにだけ影が落ちている。
雲か何かかと、上を見てみた。
何故かトラックが上から降って来ていた。
痛みを感じる間はなかった。
「って何で降ってきたんだよ! トラック!」
改めて思い出したらありえないことだろうが。
住宅街なのにトラックが何台も通過して、果てには空を飛ぶなんて。
日本の運送業がそこまで進化しているなんて聞いたことがないぞ。
「理由か? お前がぎりぎりでかわすから、面倒くさくなったんだ」
「お前の仕業か! 雑なんだよ殺し方!」
「殺されたことに怒るべきじゃないのか?」
そこは怒っても仕様がない。リーマン風とは言え神が決めたんだから、まさしく天寿という奴だ。
それに『転生』といったら人生をやり直せる絶好の機会だ。
もう少し頑張りましょう、から大変よく出来ました、になれるかも知れない。
「後は……別に道楽でやったんじゃないだろ? 多分」
「ああそうだ。理解が早くて助かる。後一週間で死ぬ魂で、一番仕事に手ごろなものがお前だったんだよ」
「へえ。……って一週間!? 俺って一週間後で死ぬはずだったの!?」
衝撃の事実に驚いていると、男は更に情報を付け足した。
「ああ、友人と海に行って、隠していた泳げないことがバレそうになり、必死に泳いだ挙句溺れ死んだぞ」
「何か間抜けな死に方だ!?」
「しかもパニック状態になっていたから気付かなかったんだろうな。足が付くところで死んでいる」
「追い打ちが酷い!」
「基本人間は陸生生物だ。それを踏まえて次の生では水場には注意するんだな。後、嘘はいけないな。泳げないことなんて友達は皆知っていたというのに」
「言わないで! 恥ずかしいからもう止めて! てか知ってたら止めてよ! 未来の友達!」
顔が熱い。想像すらしたくない。そんな死に方なんてするくらいだったら、それこそ飛来したトラックに潰された方がましだ。
……ああ、ならましな死に方をしたのか。良かった良かった。
「さて、何故どうしてここに来たかは説明した。次はお前をどうしたいかについて語るとしよう」
男は足を組み替えて、何処からか紙を取り出した。
いよいよ、転生の要綱が伝えられるらしい。
十七年間の俺の生き様を振り返ってみると『もう少し頑張りましょう』なんて判子が押されるような人生だった。
小学生時代。俺はいいことも悪いこともしない、普通の子供だった。
誰かのスカートを捲ったこともないし、初めてのおつかいもしなかった。
してしまった悪いことと言ったら、牛乳一気飲み対決でむせて、対戦相手にそれをぶちまけたくらいだった。
中学生時代。青春に入ってもその性質は変わらなかった。
毎日友達と、やれゲームだ、やれサイクリングだと遊び呆けたが、盗んだバイクで走ってないし、窓ガラスだって割りはしない。
そしてどこかの御婆ちゃんを助けたことだってない。
要はその場のノリと流れで何となく、日々を消費してきたのだ。
そんなだからだろう。俺は何か得意とするものもなく、自慢出来るものもなく、大した能力もなく、そんなままで義務教育の終わりを迎えようとしている。いや、していたか。
とにかく今となってはもう遅い。もう少し熱中するものとか、あとちょっと勉強をしておけば、と頭の隅で考えてしまうが、無意味だった。
もう無意味なのに考えるのだから余りにも未練がましい。まあ、だからこそもう少し頑張りましょう、なんてつけるのだと思う。
でも世の大人達が言うように、人生というのは何処にどう転ぶか分からないものだった。
誰かさんがそんな判子の上に『もう一回』の判を押してくれたみたいだった。
「平賀幸尚。起きたなら何か反応をしろ。驚け。もしくは泣け。さもなくば喜べ」
闇の中、ぼんやりと浮かび上がったその誰かさんが言い放つ。
「神の御前だぞ」
だから俺は感謝の気持ちを込めて、返答した。
「この場合の神様なら、女神様だろ。普通」
この状況なら美人な女神様が出て来るはずなのに、何故か俺の前に現れた神様は瘦せこけたおじさんだった。
一先ず、寝ていた体を起こして、胡坐を掻いて、冴えない男を見る。
自称神様は、おおよそ神とは思えない見た目だった。
はっきり言ってやるなら貧乏神みたいに痩せこけている。日々の疲れが取れないまま通勤電車に揺られるサラリーマンみたいだ。うん。地獄の一ヵ月サビ残後のリーマンだ。
その上、そんな見た目の癖に人を値踏みしているような眼差しで見下している。
失礼な奴だなあとは思うが、まあ、そんな風だから俺も全く畏怖だの何だのといったものを感じずに胡坐を掻けるというものだ。堂々と観察してやる。
そんな窓際に居そうな男は、俺を見て木を捻じ曲げて作ったような椅子に座ったままため息をつく。
「そうだな。普通は女神だ。それで釣って良い様に使って、後はポイって言うのがセオリーなのだろう。そして俺達の中にも当然女神は居る。が、今は手が離せない。俺で我慢しろ」
「おい、そんな赤裸々に言うなよ。釣るとか言うなよ」
俺の中の雀の涙くらいしか残っていない信仰心が蒸発したらどうしてくれる。
神様仏様と祈る文言が使えなくなったら大変じゃないか。仏様にしか祈れなくなって、ご利益も半減じゃないか。
というかそもそもこの自称神様とやらは、本当に神様なのか。
この威厳というものが欠片もない雰囲気は、仕様なのだろうか。
うん。もしかしたら俺の努力不足なのかもしれない。改めて見てみよう。この男の神の片りんといものを……。
……いや、やっぱり、何をどう感じ取っても縋る神とか畏れる神というものは感じられない。
どちらかというと、おじさんだ。ただの、気難しいおじさんにしか見えない。
近寄りがたいという点では同じだが、結局そこしかあってない。ご利益の心配をしていたけど、元からご利益なんてありそうにない。
よし。やはり、ここは代打、女神様に変わって貰おう。
ここに来た理由は間違いなく『アレ』で、こんな所に拘るのは些末な事に違いないのだろう。
が、折角神様にあったのだ。ちゃんと女神さまに会いたい。
会って、その絶世の美女ぶりを脳に刻み込みたい。
そして目の前で信者になると宣言したい。
あわよくばお友達になりたい。
「チェンジを要求する。大人しく絶世の女神様を出すんだ」
「そうか。まあそれもいい。少し待ってもらうことになるが」
男は案外あっさりと俺のお願いを認めてくれた。が、男はこうも付け足した。
「だが、良いのか? 言っておくが俺達の女神さまは、元々世界を破壊しかけた邪神様なんだが……」
「……それって凄く怖い?」
「ああ。怖いな。俺も何度殺されそうになったか分からん。正直言って今こうして一般業務をしているのが不思議なくらいだ」
「あー。そっか。いや急におじさんの話を聞きたくなったかなあ」
無理だ。流石にそんな危険人物になんか会いたくない。
お友達になれる類でもなさそうだし、何より脳に姿を刻み込んだと思ったら、全身を切り刻まれることになりそうだ。
「そうか。では話を戻すとしよう。では、先ずは現状を確認してもらおうか?」
「ん? 周りって言ったって暗いだけだろ?」
ただの真っ暗闇だが、リーマンに言われたから改めて左右を見回してみた。
すると俺が注目するのを待っていたように、暗闇に光が溢れ出す。
星が瞼を開くように瞬き始めて、それが数百、数千、数万と増えていった。
今や、真っ暗だった世界はまるで星空の中に浮いているように変貌していた。
右を見ても左を見ても、上下すら星空だ。例えるなら、ドーム型のガラスで宇宙空間を漂っているみたいだった。
唐突に宇宙に放り出された気分になって、思わず見えない床に手をついてしまう。
きっと俺は、この床が無かったら気が狂っていたに違いない。
宇宙的脅威で1D100だ。
「な、何なんだ? ここは一体?」
「ありがたく思え。神が解説してやろう。ここは俗にいう神の座という奴だ。ここで地球産の魂を彼方へぶつけ……送り届ける」
「おい、ぶつけるって言ったぞ! 今間違いなくぶつけるって言った!」
こいつ、犯人が口を滑らせるようにとんでもないことを言いやがった。
そうだ。思い出した。犯人しか知らない事実を漏らす、秘密の暴露という奴だ。
つまりこれは間違いなく黒だった。誰か警察を、それかヤドリギの精霊、もしくは神殺しだ。封印術を使える何某さんでもいい。
一先ず座ったまま身構えていると、リーマンが面倒くさげに頭を掻いて、ため息をついた。
「ああそうだ。ぶつける。が、それはお前に不利益を被る行為ではない。砲丸投げの球が壊れないように、お前も壊れることは無い」
そして足を組んで男は肘をつく。
「それに、お前はもっと突っ込むべき事があるだろう。死人」
「いや、死人ってところは何となく分かるけど」
こんな所に居るのだから当たり前だし、そもそも死んだときの記憶は鮮明に覚えているのだから、疑いようもない。
確かあれは月曜の登校途中だった。
俺は面倒な授業の数々に憂鬱になっている最中、不意に忘れ物を思い出したのだ。
登校の道すがら宿題を思い出すなんて運がいいやら悪いやら、微妙な気分だ。
確かにそれをやったのは確かで、きっと机の上にあるのは確実だけど、気付いた場所が悪い。
何で、後五分で学校という所で思い出してしまうのだろう。
これならいっそ学校に着いてから思い出して、いやあ失敗した、と笑い話にした方がましな気がしてきた。
「どうするかな」
正直言って間に合うかどうか分からない距離だ。今引き返せば遅刻を覚悟しないといけないだろう。
が、担任よりも担当教科の先生の方が怖いのもまた事実。
二つをかけた天秤は、あっという間に宿題を取る方に傾いた。よし行こう。
住宅街の十字路を抜けるで引き返すと、すぐ後ろをトラックが通り過ぎる。
かなりの速度の様で風圧を背中に感じるほどだった。彼方も大慌てらしい。
こっちも負けてはいられない。急げばもしかしたら遅刻だって回避できるかも知れないのだ。
全速力で走る。……と脳に血が行ったらしい。また新しいことを思い出した。
その忘れ物は昨日の夜、教科書の間に挟んだことを。そしてその教科書は今朝出かける際にきちんとカバンに入れたことも。
「……こりゃ忘れ物は俺の脳のネジだったか」
なんて冗談を言いながら立ち止まり、十字路の手前で笑っているとトラックが勢いよく過ぎ去る。砂利が口に入りそうな勢いだ。……あのトラックはまだ大急ぎらしい。
それを避けながら、確認がてらカバンを探してみると、やっぱりそれはあった。
教科書の今日学ぶページに、きちんと四つ折りにして挟めたプリントが。
「走って損した。こりゃ多分一時限目の分のエネルギーがなくなったな」
呟いているとまた目の前をトラックが通り抜けた。今日はやけにトラックが多いな。何かフェアでもやっているのかも知れない。
とすると、今日の母は色々と美味しいものが買えて、今晩のご飯は少し豪華になるかも。これは楽しみだ。
「いや、もしかして無駄に凝ってしまって失敗したものが食卓に……」
レシピなんて見たこともないという母は料理上手なのだが、何故か月一でそういうものを出す。
こうなると一家の食卓は直ぐに地獄と化し、胃腸薬が地蔵菩薩に見えてくるのだ。
「ああ、今回はどっちに転ぶんだろうな」
戦々恐々としていると、ふと周りが薄暗くなった。僕の周りにだけ影が落ちている。
雲か何かかと、上を見てみた。
何故かトラックが上から降って来ていた。
痛みを感じる間はなかった。
「って何で降ってきたんだよ! トラック!」
改めて思い出したらありえないことだろうが。
住宅街なのにトラックが何台も通過して、果てには空を飛ぶなんて。
日本の運送業がそこまで進化しているなんて聞いたことがないぞ。
「理由か? お前がぎりぎりでかわすから、面倒くさくなったんだ」
「お前の仕業か! 雑なんだよ殺し方!」
「殺されたことに怒るべきじゃないのか?」
そこは怒っても仕様がない。リーマン風とは言え神が決めたんだから、まさしく天寿という奴だ。
それに『転生』といったら人生をやり直せる絶好の機会だ。
もう少し頑張りましょう、から大変よく出来ました、になれるかも知れない。
「後は……別に道楽でやったんじゃないだろ? 多分」
「ああそうだ。理解が早くて助かる。後一週間で死ぬ魂で、一番仕事に手ごろなものがお前だったんだよ」
「へえ。……って一週間!? 俺って一週間後で死ぬはずだったの!?」
衝撃の事実に驚いていると、男は更に情報を付け足した。
「ああ、友人と海に行って、隠していた泳げないことがバレそうになり、必死に泳いだ挙句溺れ死んだぞ」
「何か間抜けな死に方だ!?」
「しかもパニック状態になっていたから気付かなかったんだろうな。足が付くところで死んでいる」
「追い打ちが酷い!」
「基本人間は陸生生物だ。それを踏まえて次の生では水場には注意するんだな。後、嘘はいけないな。泳げないことなんて友達は皆知っていたというのに」
「言わないで! 恥ずかしいからもう止めて! てか知ってたら止めてよ! 未来の友達!」
顔が熱い。想像すらしたくない。そんな死に方なんてするくらいだったら、それこそ飛来したトラックに潰された方がましだ。
……ああ、ならましな死に方をしたのか。良かった良かった。
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