輜重兵の契約

想磨

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序章 豪雨での戦闘にて、思う

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 雨をこれほど憎たらしく思った日はない。

 草原地帯をぬかるませ、軍服やら下着やらをぐしゃぐしゃに濡らし尽くし、俺の体温を容赦なく奪っていくそれが、とてもとても憎らしい。
 それが八つ当たりだったとしても、空はそれを甘んじて受け入れる義務がある、とすら思うくらいだ。

 何せこっちは体温が下がりやすい子供だというのに、天候というのは容赦がないのだから。
 頬を伝う雫も腕から銃器へと濡らす流れも、俺を地獄へ引っ張ろうとしているような気がしてくる。

 そしてその雨に等しく降られる、眼前に居る敵も存外容赦という物を知らないらしく、業腹である。

 向けられた銃剣付きライフルの銃口を見据え顔を背けると、雨を貫いて銃弾が飛来し頬を掠める。少し切ったらしい。頬が熱くなり温い液体が滴り落ちた。
 まあ、容赦がないのが当然だった。ここではそれが当たり前だった。

 そこはごくごく普通の戦地だった。

 ごくごく普通に銃弾が飛び、ごくごく普通に焼け焦げる何かの匂いがし、ごくごく当たり前に死体が転がっている。
 だからその死体を持ち上げ盾にし、雨に濡れた髪を振り払って、もう一度サブマシンガンをぶっ放してやった。

 初めて体験した戦争の感想を述べるなら、思うより非常に単純なのだな、と言った所である。
 何せ、敵が死んで味方が生き長らえるか、味方が死んで敵が生き長らえるか。これだけなのだから。 

 そこに愛国心も功名心も何もない。どんな理由で来ようがここではただ生きる為に戦うのだ。
 自分の命を賭け台に乗せ、痛みと苦しみも賭け台に乗せ、そうして賭けをし寿命を延ばしているのだ。

 もっと簡潔に言うと、平穏な世では無償で与えられる生存権をここでは奪い合う。そんな不可思議な場所だった。
 まあ、そうやって賭けをさせる為に送り込んだ輩の思惑は、もっと複雑怪奇かつ、経済的理性的な面から外れたモノなのだろう。

 そう、とても楽し気なあの男の様に。

「ぬおりゃあ! これでどうだ!」

 手に持った死体の背から刃が生えたので、それを手放し後退する。
 死体に笑顔のまま銃剣を突き立てたそれは、神兵と呼ばれる強大な人間だった。

 とある人曰く、神兵とは神とやらが戦争をややこしくするために力を与えた存在らしい。
 一人で千に値する戦力。そしてそれとは別に備わった特殊な力。それらをもって戦争を蹂躙する様は、まさしく神の兵士であった。

 味方の死体すら易々と引き裂き、投げつけてくる奴はきっとヴァルキリーか何かの使いなのだろう。
 一応、俺もその神兵ではあるが、あんな無茶苦茶な戦い方は出来る気がしない。

 何せ俺は輜重兵。補給部隊の人間だった。
 しかも、まだまだ兵役について半年も経っていない、ピッカピカの新兵だ。

 神兵でありながら新兵である俺に、あんな某ゲームの様に人を吹き飛ばす真似は出来る筈もなかった。

 雨に濡れた髪をまた払って視界を確保する。奴は、まだまだこちらに銃剣を振り回していて、後方に下がる様に仰け反ると髪が少し切れた。
 自分はかなりの美少年に『作られている』のに、なんとも容赦がない。

 俺を捕えるとか言っていた気がしたのだが、どうにも人を殺すことしか考えていないらしい。彼はヴァルキリーでなく、バーサーカーだったようだ。
 益々手が付けられないな。お手上げだ。

「くそっ逃げんじゃねえ!!」

 だからと言って、これ以上悠々とは見ていられないが。
 耳元でチリチリとやかましい『奴ら』をそろそろ黙らせないといけないのだ。

「そうか、ではやるとしよう」

 迫る銃剣を見る。鋭く尖った切っ先はきっと俺を易々と裂くだろう。
 骨を砕くかもしれないし、もしかしたら死体の様に裂かれるかもしれない。

 だが、準備は整っていた。俺の胸ポケットには小瓶がいくつもある。

 これをもって俺はここに居る全ての存在に知らしめてやるとしよう。
 『資本主義国に生まれた平和主義者』の観点から見た『戦場』とはなんであるか。

 無秩序に物を奪おうとする人間がどれだけの覚悟をすべきなのか。
 契約を無視し多くを乞い、手を伸ばす輩には何が起きるか。

 その時、それらがどんな反応をするか非常に見物である。 
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