2 / 10
第一章
スタートは町から
しおりを挟む謎の浮遊感の後、ザワザワとした喧噪が聞こえてきた。自分の周りには2、3人しかいなかった筈、何故こんなに賑やかなのだろうか。優夜は不思議に思って閉じていた目を開く。そこには、先ほどまで見ていた日本の町並みではなく、様々な人が行き交う中世風の街並みが広がっていた。
「ここはどこだ。さっきの光は一体・・・」
慌てて体を見回す。が、特に異常はないようだった。
ふぅ・・・。さて、一度落ち着こう。まずここはどこなのか気になるが、何と無くわかるので後回しだ。次に、持ち物を確認しよう。周囲を見回すと広場のようなところがあったので、その端っこまで移動する。
広場の端で、肩に掛けている鞄を降ろし、持ち物を確認する。現在の所持品は以下の通り。
[ 所持品 ]
ポケット:ハンカチ、ティッシュのみ
鞄:財布、家の鍵、水筒、腕時計、眼鏡、筆記用具類(筆箱等)、プリント類(成績表を含む)、スマホ類(イヤホン等)、道具類(ホッチキス等)、折り畳み傘、ウエットティッシュ、絆創膏
お金:3000円
まあだいたいこんなもんだよな。邪魔なものは売るとして・・・いつもは持ってるだけのティッシュや絆創膏も今回ばかりは役に立ちそうだ。
そんなことより・・・ふむ、どうやらここは間違いなく異世界のようだ。先程から、通りを歩いている人や露店みたいなところで話している人の中に、明らかに人間ではない人が混ざっているからだ。具体的には、頭に動物の耳などがついていたり、尻尾があったり、髪の色が赤や青、そしてピンクなどのカラフルな人がいる。よく見ると目の色もそうだ。
・・・流石にコスプレではないだろう、いくら何でも綺麗すぎる。何より太陽だ、色は地球で見ていたものと同じだが、形が違う。この世界の太陽はダイヤモンドのような形をしている。
ここに居ても仕方ない、気になることもあるし誰かに聞いてみようか。実は周りの人達の言っていることが分かるのだ。聞くことができるなら話すこともできるだろう。というヤケクソ気味な考えで
「あ。あの、ちょっと良いですか」
自分の前を歩いていく、大剣らしきものを背負う獣人?に声をかける。彼は、190cm位の大きな体躯で、燃えるような赤髪と灼眼をもっている。そして、獣耳とふさふさの尻尾がある。
彼は鋭い目でこちらを見て「なんだあんた、俺に何か用か」
よかった。言葉が通じるようだ・・・しかし、日本語に聞こえるのに口の動きが全然違うのは何故だろうか。これは、俺がよく読む異世界モノの小説にもよくある話だったので今は気にしないでおく。
「は、はい。少し知りたいことがあるのですが・・・・・・」
よく考えたら、この世界についてと町の常識について教えて下さいなんて尋ねれる訳がなかった。どうしたものかと思案していると、昔読んだ小説のなかに今の自分の状況と似ている場面があったことを思い出した。その小説の主人公が使っていたやり方を使うことにする。
「ん?どうした」
「ああ、すみません。昨日どうやら頭を強く打ったみたいで、自分の名前しか覚えていないのです。えーと、ここの名前と常識について詳しく教えてくれませんか」
「おいおい大丈夫か・・・ったくしゃあねえなぁ。教えてやるから忘れんなよ」
彼は呆れながらそう言った。一見怖い人だか、案外優しそうだ。
優夜はその後も次々に質問し必要な情報を聞き出していった。
** **
あの後、名前を教えあってから別れた。
分かったことをまとめよう。まず、あのいかつい人はアレク・ザキアスという名で、獣人(狼)の冒険者だそうだ。冒険者については、冒険者ギルドにいけば分かると言われたため、教えてもらっていない。
彼によると、ここは、アークと呼ばれる巨大な大陸のど真ん中に位置するコーネリアス王国で、さらにその中央に位置する王都とのこと。そして、5つの種族の国があり、俺みたいな人間、彼のような獣人、美しいエルフ、酒好きのドワーフ、和風な竜人などが、それぞれ独自の文化を築いているらしい。
国どうしの仲良が良い為、戦争もなくそれぞれ互いに交易が盛んである。なお、全ての国の通貨が共通で、どこのユーロだ、と思ったが、実際に見せてもらうとよくできていて、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白銀貨の順に分かれている。
露店で売ってるものが大体1個鉄貨2~3枚なので、鉄貨は日本円で言うと1枚100円程度で、鉄貨10枚で銅貨1枚、つまり1枚1000円程度、こんな感じで考えると銀貨1万円、金貨10万円、白銀貨100万円となる。
常識は日本とほぼ同じで、他人に迷惑をかけないようにすれば問題無く、詳しく知りたければ、俺が立っているこの道を進んだところにある図書館に行けと言われた。季節や時間も日本と一緒で現在は夏である。ついでに腕時計を鞄から取り出し、時間を合わせて左手に装着しておく。 時間の確認方法は、町中に点在する日本の時計によく似たものをみれば分かる。今は10時半ピッタリだ。
最後に、このコーネリアス王国城下町の地図をもらった。世界地図は、店で売っているからそこで買うことにする。他にもまだあるが一先ずこの服装をなんとかしなければ。そう、今着ている制服が珍しいらしく少し目立っているのだ。
優夜は俯きながら速足で雑貨屋っぽいところへ向かった。
** **
手荷物を幾つか売り払うと、銀貨6枚、銅貨8枚、鉄貨3枚になった。店主のおっちゃんに必死で粘った甲斐があったな。何せこれからの生活がかかっていたのだから仕方ない・・・1時間以上居座り続けたが。
因みに銅貨3枚で服などを色々購入した。今は白色Tシャツに青のズボンをはいている。靴は元々はいてた運動靴だ。
よし、次は宿屋を探しそこで昼飯を食おう。さっきから腹が食料を求めている。アレクさんにおすすめの宿を教えてもらったのでそこへ行く。
ダイヤモンドな太陽の光が差す中、優夜は宿屋へ向かって歩き出した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
252
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる