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第一章
サフィーレ大森林
しおりを挟む魔法書に書かれていることを読み上げる。えーと、なになに?
――――――まずは、体内のマナを感知すべし・・・・
俺はゆっくりと深呼吸して意識を深く沈める。すると、何やら体内を巡る血の他にもう一つ流れているものがあることに気づいた。
(ん?なんだこれ。これがマナなのか?)
――――――マナを感知した後は、それを体外に放出するのだ・・・・
意識を集中して、マナを手のひらへもっていく。そして、解き放つ。
「出でよ、我がマナ」それっぽい事を言うと、手からマナが出て宿屋の一室にマナが充満する。
――――――その感覚で自身の属性を意識し、魔法を行使せよ・・・・
俺の属性は・・・風!そう意識すると、頭の中に詠唱する言葉が浮かんだ。
「”風よ吹け ウインド”」
サア――とそよ風が吹いた。
(おお!しょぼいけど、魔法だー)
高一にもなって大はしゃぎする俺。
その後、色々と試して気づいた。
(これは・・・・風というよりも空気を操っているな)
俺は、意識を風から空気に変えて魔法を行使する。
「”空気よ我が願いに応じろ エア・コントロール”」
二酸化炭素のみを口にもってくるイメージ。・・・・・・・苦しくなってきたので解除する。
どうやら空気の成分も操作可能のようだ。が、生憎俺は窒素、酸素、二酸化炭素の三つしか知らない。
「よぅしこれなら・・・・」
俺はもう一度魔法を使おうとしてぶっ倒れる。所謂魔力切れだ。
夢中になりすぎるあまり、マナを使いきると行動不可になるのを忘れていた。
数分後、マナが少し回復したので起き上がる。
(ふう・・・マナの管理は肝に銘じておこう。外へ行く前に思い出せて良かった)
ふと窓の外をみると、辺りはすっかり暗くなっていた。
(明日は魔法の練習がてら外へ行ってみるか)
優夜は、借りている魔物などの図鑑を読みながら眠りにつく。
――――意識が闇の中に沈んでいった。
** **
次の日の昼(・)、優夜は店で色々と買い物をし、その時に購入したバックパックを持って外へ出た。
時刻は午後3時だ。・・・また寝坊したんだよ!
外には、草原が広がっていた。町の人から、西にサフィーレ大森林という森があると聞いたのでそこへ向かう。その道中、魔物が現れた。
「こ、コイツは!」
そこにいたのは、スライムであった。但し、某大人気RPGのような可愛い見た目ではなくドロドロとしているが。
「キモッ・・・攻撃魔法の練習台にしてやる」
「”我が敵を貫け エア・アロー”」
空気で出来た矢を放つ・・・命中。スライムは即死した。
スライムの魔石とジェルみたいなものを剥ぎ取りバックパックに入れた。
「よしっ。ちゃんと攻撃は通るな、この調子でどんどんいこう」
優夜は、魔法を改良しつつ、弱そうな魔物を次々と倒していった。
** **
《サフィーレ大森林》
・ダンジョン同様、世界の始まりから存在するとされる広大な森で魔物の巣窟
・浅部、中部、深部の三つに分かれていて、適正ランクは、浅部がF・E・D、中部がC・B・A、深部がS・SSとなっている
・深部には、世界樹と呼ばれる巨大な樹がある。その大樹の葉を使って作ったポーションは、絶大な効果を持つらしい
バックパックがパンパンになってきた頃、サフィーレ大森林についた。少し進むと開けた場所に出たので、マナポーションを飲みながら休憩する。
「ふぅ・・・危ない危ない、もう少しで魔力切れするところだった・・・ステータスはどうなってるかな?」
カードを見ると、職:15⇒23、風魔法Ⅰ⇒Ⅲ、MPⅡ⇒Ⅲ、MNDⅡ⇒Ⅲ、が変化していた。
(・・・魔法関係しか上がっていない。戦闘スタイルを考えなければ)
そんな事を考えていると、森の奥から声が聞こえてきた。
「ちょっと、何なのよアンタら」
(あれ?この声どっかで聞いたことが・・・・)
「へっへっへ、嬢ちゃん金持ってんだろ。俺たちゃ知っているぜ。なあ、バーカル、チョーカス」
「ああ、そうだなアホーレ」
「ついでに言えば、親の為に集めてるってこともなぁ」
(この声も・・・気になるな、近づいてみるか)
ゆっくりと近づき、木の陰から様子を窺う・・・全員見覚えがある。
(マジであの三人のオッサン、A・B・Cだったとは・・・名前酷いな。それとあの女の子は確か・・・)
「なっ!なんでそれを知って・・・」
「伝手があるのさ。それより、俺たちが言いたいことは分かるよな?」
「・・・あたしのお金が欲しいんでしょ?」
「それはついでだ」
「ついでって。・・・まさか!体が目的なの?」
「やっと気づいたのか。まあ、もう遅いがな」
「嫌、こっちに来ないでよ。誰か、助けてー」
「こんな森の奥に来る奴なんている訳ないだろ」
「お楽しみの時間だ。」
「うひひっ、獣人は初めてだけど楽しみだなあ」
結構ヤバそうなので介入する。
「あー、ゴホンゴホン、その辺でやめておいた方がいいですよ。ABCトリオ」
茂みから飛び出し、昨日宿屋で戦ったオッサンABCに声をかける。
「誰だ!ってお前は昨日の・・・」
「てめえ、何しに来やがった」
「お前は・・・・」
「どうも、また会いましたね。オッサン達。またバカなことをしてるんですか?」
襲われかけていた女の子---昨日ギルドの前でぶつかった獣人(猫)の女の子を庇いながら言う。
「なめやがって、今度こそぶちのめしてやる」
「あんときとは違うことを思い知らせてやるぜ」
「一度勝てたからって調子乗んなよ」
一瞬即発の雰囲気の中、オッサン達を警戒しながらその子と話す。
「お、おい。大丈夫か?」
「べ、別にあいつらなんか、アンタに助けてもらわなくても何とかなったわよ」
「嘘つけ。めちゃくちゃビビッてたじゃねえか」
「うぐっ・・・そんなことより、なんでこんなところに?」
「魔法の練習をしに来てて、休憩してたら声が聞こえ・・・どうかしたか?」
「・・・ねえ、あいつら何かこっちを見て震えてない?」
「確かに・・・どちらかと言えば俺達の後ろを見ているような」
俺とその子は、恐る恐る振り返る。
薄暗い森の中木漏れ日に照らされて、20メートルほど後ろにソイツはいた。
―――――――3メートルを超える巨躯に群青色の皮膚。額には漆黒の角。そして、禍々しく光る魔物特有の紅き眼を持つ。日本では、妖怪として知られている鬼が立っていたのだ。その魔物は大きく息を吸い込み、
『グオオオオオオオオオオオ!!!』と咆哮を放った。それにつられて魔物達がゾロゾロとやって来る。
「あ、アイツはまさか・・・」
「ここは浅部だろ。なんであんな中部の魔物が!」
「いいから逃げるぞ二人とも」
オッサン達が駆け出す。
「お、俺達も逃げるぞ」
「ええ」
俺は、走りながら昨晩読んだ図鑑を思い出す。
個体名:鬼、適正ランク:Bの化け物だ。
・・・コイツはヤバいな。Fランクの俺では相手にならない。取り敢えず逃げよう。
俺達は無我夢中で走った。
** **
幸いそこまで足は速くなかった為、なんとか逃げ切ることができた。取り敢えず茂みの裏へ隠れる。
「ハア、ハア、ハア・・・危なかったな」
「ハア、ハア、そうね」
しばらく黙り、息を落ち着けてから尋ねる。
「・・・ここがどの辺か分かるか?」
「いいえ、さっきいた場所の方向すら分からないわ。まあ、浅部では無いでしょうね・・・」
「そうか・・・しかし、さっきのオッサンBが言ってたように、どうして中部の魔物がこの浅部にいたんだ?」
「・・・偶々フラッと来たんじゃないの」
「俺達はアイツの気まぐれで殺されかけたのか・・・」
「そんな事を一々気にしてたら冒険者なんてやってらんないわよ」
などと話していると、『グォオオオ』という叫び声が聞こえてくる。かなり近い!
「ッ!」
「キャ、ムグッ!」
隣にいる彼女が悲鳴を上げそうだったので、咄嗟に口を押さえつける。
〈な、何すんのよ〉
〈仕方ないだろ、声を上げると見つかっちまうんだから〉
小声で会話し、茂みから様子を窺う・・・どうやら気付かれなかったようだ。目測で5メートル程先に鬼がいる。
少しでも離れようと移動していると、
ぺキリッ!
と、地面に落ちている木の枝を踏み砕いてしまう。そして、その音は森の中で盛大に鳴り響いた。
「や、やらかしたー!」
「ばかー!」
俺達は全力で逃げ出した。
後ろから、音に気づいた魔物達が鬼を筆頭に追いかけて来る。
「ねえ、どうするの?」
「少し、考えさせてくれ」
このままじゃ二人とも死ぬ。そう思った俺の脳内に選択肢が浮かぶ。
1:自分が囮になって彼女に逃げてもらう
2:彼女を囮にして自分だけ逃げる
2は駄目だ。女の子を犠牲にして生き延びるようなクズにはなりたくない。となると1か・・・アレを使えばどうにかなるかもしれない。
「俺が囮になる!だから君は逃げろ」
「で、でもアンタは」
「大丈夫だ。こう見えて運はいい方なんだ、俺」
彼女の言葉を遮って言う。まだ少し言いたそうだが、俺の真剣な顔を見て諦めてくれた。
「分かったわ・・・・・・・死なないでね」
「もちろんだ。俺はまだ、死ぬわけにはいかない」
(この世界を満喫できていないからな・・・)
「・・・カルラよ。」
「え、何だって?」
「カルラ・キャシーユ!あたしの名前」
「カルラ、ね。俺は」
ベキッ!
自分の名前を教えようとしたとき、ついさっき通り抜けた木がへし折られた。
不味い、もうこんな近くにまで迫られている。
「俺の名は、再会した時に教える!だから死ぬな。お互い何があろうと絶対に生きよう」
「あたしは、これでもDランク冒険者。その辺の魔物にやられたりしないわ。そっちこそ、生き延びなさいよ」
「ああ、そん時はこの間言ってたことを詳しく教えてくれ」
(本当は知っているが、詳しい情報が知りたい)
「ふふ、考えておくわ。またね」
彼女はそう言い、尻尾で俺の顔を撫でると脇道に逸れていった。
(び、びっくりした。妙に色気があるよなカルラは・・・尻尾フワフワだったな。とまずは、コイツをどうにかしないと)
俺は振り返りかえって鬼と対峙し、とっておきの魔法を使う。
(喰らえ!)
「”我が敵を撃ち抜け エア・ガン”」
グシャッ!
空気の弾丸が鬼の右目を破壊した。
『ガァアアアア』と目を抑えて地面を転がる鬼。しかし、数秒後何事も無かったかのように立ち上がると、閉じていた目を開く。すると、確かに潰した筈の右目が再生していた。
「なっ!なんだよそれ、そんなのありかよ」
俺は、呆然と立ち尽くした。鬼の自然治癒力が高いことは知っているが、あんな瞬時に再生できるわけがない。
ふと、魔物ついて調べた時に書かれていたことを思い出した。
・魔物には、稀少種と呼ばれる、突然変異した個体がいる
・彼らは総じて能力が途轍もなく高いため、適正ランクが元のランクから二段階上昇する
・見分け方は、体の一部が変異しているので見れば直ぐに分かる
(百年前までは存在していたが、それ以来ほとんど確認されていない)
(・・・・まさか、稀少種・・・なのか?)
鬼を観察する・・・右手の指が左手の指より半分ぐら細いことに気づいた。
(・・・ははは、適正ランク:BではなくSだったとは・・・アイツからすれば俺は道端の小石程度の存在なんだろうな・・・)
稀少種・鬼は、格下と見ていた俺に傷をつけられたことでブチ切れており、もの凄い形相で襲い掛かってきた。
『グオオッ!』
はっ、と我に返った優夜は稀少種・鬼に背を向けると駆け出した。
無意識のうちに、カルラが逃げていった方とは反対の方向。つまり、サフィーレ大森林の深部に向かっているとは知らずに。
こうして、相手はガチの鬼!捕まれば殺される!などの余計な特典付きの命を懸けた鬼ごっこが始まった。
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