薬草師ドゥーラ・スノーの冒険日記

津崎鈴子

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核心の迷宮

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 サントル園長の計らいで、遥か遠い砂漠の国の民族衣装を身につけている私。

ゆったりとしたズボンは足首で引き締められ固定されていてすごく動きやすい。

上着は、伸縮性のある生地なので、ピッタリしていても苦しくない。

中身は変わらないのに、衣装で印象ががらりとかわる。

「なかなか似合ってるじゃないか」

園長は、ドレス姿だといざと言う時に身動きが取りにくいだろう、と貸してくれた。
ベールをかぶれば一目では私と判りにくい。

「それからこれ。持って行きな」

 サントル園長に巾着袋を渡された。色々と入っているようだけど、なんだろう

「今から、危険な場所に行くんだろう?何かと役に立つだろうってものを入れてある」

 開けてみるとなにやら黒い丸薬のようなものや紙でできた紐のようなものなど何に使うか見当もつかないものばかり入っている。

その中から、なんの変哲もない糸玉を取り出して説明してくれた。

「この糸玉は、すぐれものだよ。例えば、洞窟の入口にあるものにこの糸の先を引っ掛けて、こっそり持っておくんだ。すると道に迷ってもすぐに入口にたどり着けるしあんたを探している人間がこの糸を見ればすぐにあんたの居所を割り出せる」

 この中の小道具はサントル園長が若かりし頃に旅をしていた時に使っていたものなのだそうだ。

「詳しい説明は中にメモを入れてあるからね、時間のあるときに確認するといい」

 さすがに世界を股にかけたことのある人だけあっていろんな修羅場をくぐってきたのだろう。
貫禄が違うなぁと思った。


作戦の段取りは、明日の朝に馬車で王立薬草園を視察して、王宮に向かい挨拶。

王宮に至るまでの道は人気の少ない道を選ぶ。出来るだけ関係ない人を巻き込まないようにする為と、こちらに手を出しやすくする為だった。 少し緊張してくる。 

移動する馬車の中で、色々な事が頭に浮かんでは消える。
大規模な捜索隊が行方を追うのに未だに消息が掴めないサラエリーナ。
王都にいるはずの父、そして捕えられたガルディア。

すべてにユーラーティ神殿が関わっている。

なぜ、サラエリーナはさらわれたのか?

王都にいるという父は、どこに捕らわれているのか?

そして、ガルディアは、無事でいるのか……。

「ドゥーラ、心配しないで。ちゃんと守りますから」

クラーヴィオに心配そうに声を掛けられはっとする。

「ごめんなさい、上手く行くように頑張りますね」

うーん。色々心配かけてるなぁ。いけないいけない。ちゃんと集中しなくちゃ。

私の大切な人たちを捕らえるモノの正体も今回で掴めるかも知れない。

自分の身を危険に晒したとしても、助けられる可能性があるならば助けたい。

「ドゥーラ、もし私に何かあっても私を信じると約束して欲しいのです」

おもむろに、クラーヴィオが真剣な眼差しで告げるので思わず絶句してしまった。

「何かって何ですか……?」

嫌な予感しかしないけど……。

「そうですね、今回のファザーンとガルディアに起こったようなことがあっても、ですよ」

 私は、二の句が告げなくなってしまった。考えたくない。もうこれ以上誰かを失うことなんて……。

「何かあったとき、分かれて行動したほうが逃げ延びる確率が上がるという場合があります。私はこれでも色々と修羅場を経験しているので後で合流しましょう、ということです」

「そんな……私、クラーヴィオ様までいなくなったら……」

「ドゥーラ、大切なものは、今持っているものを手放さなければ手に入れられない場合もあります私は、常に最悪を想定して動くことにしているんですよ。とても臆病なのでね」

 穏やかな瞳で微笑んだクラーヴィオは、どこか寂しげに見えた。

「それと、誤解しないように言っておきますが」

クラーヴィオはドゥーラの頭を撫でながら、言った。

「私、結構しぶといんですよね。だから、私が簡単に死ぬって勘違いしないで欲しいんです」

 優しいクラーヴィオの手から暖かさを感じた。

「わかりました。でも、無茶しないでくださいね」

「ええ。あ、それからもうひとつ。ガルディアは、私の知る人間の中で一番頑丈ですから」

だから安心していなさい、と微笑むクラーヴィオ。

少し涙目になりながら、私は頷いた。



 先程まで晴れ渡っていた空が、にわかに暗くなり始めた。

丁度、森から抜けようとしている木々で少し見通しが悪くなっている場所だ。

馬車が急に激しく揺れて馬のいななきが聞こえる。何かがドサりと落ちる鈍い音がした。

激しい揺れに窓枠をつかみなんとか揺れを抑えようとする。

「来たみたいですね……いいですか、先ほど言ったこと、忘れないでくださいね。何があっても
私を信じて。必ず合流しますからね!」

 そう言って、馬車の外に躍り出たクラーヴィオ。その直後から、激しい剣戟の音が響き渡る。

 いよいよ、核心に触れることが出来る。

私は、そう確信し、拳を握り締めた。

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