薬草師ドゥーラ・スノーの冒険日記

津崎鈴子

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奪還の期限

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 ショックで何も考えられない。

あの、サラエリーナが恐ろしいことに利用されようとしているなんて。

「ファザーンさん、サラエリーナがとらわれている場所はわかっているの。

そんな恐ろしいことに巻き込まれそうになっているのなら、早く助けないと! 」

内心すごく焦っている。あの時置いていくしかなかっただけに唇を噛み締める私。

ただ、ファザーンはそんな私を落ち着かせるように背中をなでると、こう言った。

「落ち着いて。気持ちはわかります。ただ、慎重にしないとコトがうまく運びません

儀式は、おそらく今から七日の後ではないかと思うのです。それまでに準備を整えましょう」

ファザーンの持ち出してきた文献の中にもある、千年後が、計算の上では七日後だという。

儀式に重要なのは、時と場所と依代よりしろで、封じられた神の聖域で大掛かりな

準備が必要なのだそうだ。

「 じゃぁ、少なくとも6日間はサラエリーナは命の危険はないということ?」

ケルドが少し考えて質問する。それに、ファザーンは頷いた。

「ガルディアが、ドゥーラにまだ機が熟してないから、と連れ出すのに待ったを掛けたということは

何らかの意味があると思って間違いないでしょう。必ず連れ戻すと約束したのでしょう?」

 優しい瞳でファザーンは尋ねてきた。

うん。確かにそう言った。まだ気が熟していないと。それって、ガルディアはその儀式に

何らかの関わりがあるってことなんだろう。

私はファザーンに力強く頷いた。それをみて、満足そうに微笑むファザーン。

でもそれならなんでサラエリーナが飲まされた薬のことを知らなかったんだろう。

知っていたら教えてくれたはずなんだけど、と考え込んでいた。

「ガルディアは、寝返ったふりをして調べているのでしょう。隠密行動は苦手なはずなのに」

ファザーンは、ため息を漏らす。

「ま、寝返ったばかりの人間は、信用されてないだろうから大事なことは聞かされないと思うんだよ」

ケルドはしみじみとつぶやく。

そういうもんなんだろうか。でも、ケルドの説得力のある言葉に経歴が垣間見えた気がした。

「ところで、儀式が終わってサラエリーナの中にその邪神が取り込まれてしまったら

サラエリーナはどうなるの?」

私の問いかけにファザーンは、少し口ごもって、言いにくそうに口を開く。

「おそらく、自我は消え去り、力を振るうだけの存在となり果てるでしょう。無垢な魂は

無防備ですから、邪悪な意志に侵食されても抗う術がありません」

「そんな……じゃぁ、儀式が終わる前に救い出さないといけないってことなのね」

「6日のうちに、サラエリーナは儀式の行われる場所へ移送されるでしょう。奪還するとしたら

その時です。おそらくガルディアも機をみて行動を起こそうとしているのかもしれません」

ガルディアはヒトリで頑張っているんだ。そう思うと泣けてくる。

何とかしてサラエリーナとガルディアを取り戻さないと。

「サラエリーナが飲まされた薬、もしかしたら知っているかもしれない人がいるの」

「え?」 ファザーンとケルドの声が重なる。

「ユーラーティ神殿の北側の森の中に屋敷があって、さらわれた時、私そこに閉じ込められていたの」

私は、屋敷の中に居た、毒薬の研究をしていた老人がいて、その老人がこの一件で使用された

すべての毒薬を生み出していたと見て間違いないと告げる。

「なるほど。その老人ならば、サラエリーナに使用された薬物を知っていても不思議ではない」

ファザーンは、考え込む。

「とりあえず、危険を冒してその老人のところに行く前に、もうひとりの専門家に

お伺いを立ててからでもいいんじゃない?」

ケルドは、ニッコリと微笑んで告げた。

「もうひとりの専門家? ヘルシャフトさんのこと?」

そうか。ヘルシャフトは、薬草学については見識が深いよなぁ。

でも、今、商人ギルド長の手当で手が離せないだろうし

そう考えているとケルドは意外な人物の名前を口にした。

「何言ってんの。クラーヴィオだよ。彼は、王都の裏も表も知り尽くした商人なんだよ」

え?

今度は私が絶句した。

そういえば、この王都の屋敷を預けていると言っていた。

実力主義のヘルシャフトなのだから、いくら身内といっても交渉の拠点に無能な人間を

置くはずがない。しかし、あれだけの若さでそれだけの信頼を得るということは、

すごくやり手なのだろう。のんびりした毎日を過ごしていて麻痺してしまっていた。

「そうですね、クラーヴィオは薬草やそれを生成した薬などを取り扱っているから

薬については王都では一番精通しているでしょう」

「そういえば、クラーヴィオさん、調べたいことがあるからって部屋に戻っちゃって」

何かひらめいたことがあったのかもしれない。あらゆる薬学に精通しているからこそ、

気づいたことがあったのかも。早速クラーヴィオの私室に三人で向かうことにした。
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