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危機の中の邂逅

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洞窟の入り口に差し掛かり、目の前をかすめた物は傍に立っていた樹に突き刺さった
指の長さ位の柄のないナイフだった。

クラーヴィオが身体を引き戻してくれなかったら直撃して命を落としていただろう。

ぞぞぞっと背筋に冷たいものが走る。

ナイフを投げた本人は、肩までに切りそろえられた黒髪が、心なしか

乱れているように感じ、眼も少し血走っているように感じた。

「 どいてちょうだい? その子ネズミちゃんを渡してくれたら、命は助けて

あげなくもないわよぉ~? カッコつけずにぃどっかへ消えちゃいなさい 」

クラーヴィオは、構えを解かずドゥーラを隠す。

「 命が惜しくないようねぇ~? イイ男がこの世からひとり減るのは不本意だけどぉ~ 」

アダラは言葉を切り、クラーヴィオを見据える。

狂気をはらんだ女の瞳にほの昏い炎がかげり、一気に距離を詰める。

両手を広げ、クラーヴィオに振りかぶるアダラ、そしてその様子に、ドゥーラを横抱きにして

近くの茂みに横飛びをしてアダラが放った何かを避ける。

 アダラは、クラーヴィオが着地したところを見計らい、もう一度両手を大きくしならせて

何かを放つ。 木漏れ日に何かが光った気がしたが、気が付くのが一瞬遅かった。

その何かは、クラーヴィオにまとわりつき、身体の自由を奪ってしまった。

「 私に逆らうおバカさんは生かしておけないのよねぇ~ 」

 何か見えない糸のようなものに絡みつかれたクラーヴィオは地面にうずくまる。

「 無様なことねぇ、色男さ~ん? 子ネズミちゃんは私がちゃんと役に立ててあげるからぁ」

大きく振りかぶった手を怪しくうごめかせながら、血に染まったような唇を歪ませて

嫣然とほほ笑んだアダラは、うずくまるクラーヴィオにひとこと放つ。

「 安心してお逝きなさいなぁ~ 」

アダラが両手を交差した刹那、クラーヴィオの声にならない声があたりに響き渡る。

見ると、瞬時にクラーヴィオの衣服が切り裂かれたようになり、素肌がところどころ

赤く皮膚が切れているのが見え隠れする。

「 この糸が瞬時に身体を切り裂けないなんてぇ、おかしいわねぇ? 」

アダラの嘲笑交じりの声があたりに響く。

くぐもった声で痛みをこらえるクラーヴィオを見て、私は、体中にまとわりついている

何かを外そうとした。

「 さ……わるっな…… 危な……い!! 」

いつもの物腰とは打って変った形相に思わず手をひっこめる。

その様子に、唇をゆがめたアダラはさらにクラーヴィオを締め上げる。

「 子ネズミちゃん? この男を助けたかったらぁ、私と一緒に来るのよぉ 」

青白い顔に際立つ真紅しんく の唇がにやりと笑うと痩身な身体が、ゆらりと動いて
こちらへ歩き出す。

「 だ……めだっ……聞くな!!!」

しかし、とっさのことに身体が動かない。視線だけが、こちらへ迫りくるアダラへ集中する。

「 やせ我慢はおよしなさぁい? もう、虫の息よねぇ?さぁ、子ネズミちゃんどうするの? 」

アダラは、さらにクラーヴィオを締め付ける。そのとたんに鈍い音が響く。

ぐあぁぁ、と声にならない叫びをあげるクラーヴィオは、額に脂汗が滲んだ。

「 やめて!!!クラーヴィオ様を放して 行くから。一緒に!!!」

「 ドゥーラ、ダメ……だ 」

私のひと言に、アダラは鼻を鳴らしてほほ笑む。

「 ふふ。子ネズミちゃんの方が、ちょっとだけ賢かったわねぇ~ 」

不意に甲高い金属音がして、アダラはクラーヴィオを締め付けていた戒めを解いた。

「 子ネズミちゃん、さ、いらっしゃい。あんたはザーコボル様の為に働くのよ 」 

私に向かって指を差し出したアダラの表情が固まった。

「 おいおい、誰の命令で勝手な行動とってんだ? ババァ 」

アダラの背後から聞きなれた声が響く。

「 いい気になってんじゃないわよぉ? 赤毛のドブネズミがっ!! 」

 憎々しげに唸るアダラの首に、光るものが当てられている。

怒りを滲ませたその男は、ずっと会いたかったガルディアその人だった。

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