48 / 54
アダラの猛威
しおりを挟む
鬱蒼うっそうとした森の中、しん、と張りつめた空気が支配する。
倒れて痛みに耐えるクラーヴィオ、私を捕らえようと手を伸ばして硬直したアダラ、
そして、そのアダラの首筋に刃物を突き付けて動きを封じた、ガルディア。
それぞれが動けないでいる状態が続いたが、静寂を破ったのは、ガルディアのつぶやきだった。
「 アダラ、お前は欲張りすぎた……他人を踏みにじりすぎたんだよ 」
その言葉に、アダラはほくそ笑んだ。
「 欲張って何がいけませんのぉ? 踏みにじられるような愚鈍な人間が悪いんじゃなぁい? 」
「 なんだと? 」
怒りをあらわにするガルディアに構わず、アダラは続ける。
「 欲しいものを欲しいって言って何が悪いのかわからないですわぁ 」
アダラは視線を私に向けた。
「 欲しいものを欲しいっていうのは誰にだって出来ることなのにぃ 」
歪いびつな笑みを浮かべて言葉を続ける。
「ドブネズミちゃんも、欲しいモノあるでしょう? 素直になったらどう? 」
ねっとりとしたアダラの声に、背筋に冷たいものが走った気がした。
「 欲しいからって、自分のものにするだけがいいわけではねえんだよ。
そんなこともわかんねえのか? ババァ 」
ガルディアの怒気があたりを包む。しかし、アダラは余裕の表情を崩さない。
だが、感情が動いたその時にわずかに隙が生まれ、アダラはそれを無駄にはせず
ガルディアの拘束から抜け出した。
「 わたしぃ、欲しいものは諦めない主義ななのねぇ? その子ネズミちゃんは頂いていくわぁ 」
そして、私に手を伸ばす。空気がしなるような音がして、目の前で何かがぶつかり、弾ける。
きらりと光る何か糸のような細い繊維が枯れた木に巻き付いて地面に落ちる。
舌打ちがアダラから聞こえる。
「 死にぞこない……がぁ!!」
眼の端を釣り上げた怒りの形相のアダラは木の枝を投げたクラーヴィオを睨み据えた。
「 そう……簡単にやられないよ……もう大切なものを護れないほどの子供じゃないからね 」
息をあげながらもひるまずアダラに言い返す。
よろよろと立ち上がるが、瞳は力強い光を放っている。
その姿に視線を向けていた為、アダラは背後に近づくガルディアに気が付くのが遅れた。
鈍い音と共にあたりに響きわたる。
と、同時にアダラの絶叫が静まり返った森に響く。
顔を血まみれにしたアダラ、その青白い頬から血が勢いよく流れだす。
背後に血に染まったガルディアの剣からは紅いものがしたたり落ちている。
「 次は外さない。お前を生かしておくのは難しそうだからな 」
ガルディアの硬質な声が、一際低く響く。
「 おのれぇええドブネズミがぁああ!!! 私の顔に傷を!!!!」
狂乱したアダラはガルディアに掴み掛ろうとした。
しかしその手が届くことはなかった。いち早く、ガルディアの剣がアダラを切り伏せたからだ。
鈍い音と、鉄さびのような鼻につくにおいと共にアダラは崩れ落ちる。
しばしの沈黙ののち、ガルディアは、ただ、一連の状況をただ見ているだけしか出来ず、
放心した私に向かって近づいた。
「 大丈夫か……? 」
心配そうな瞳で、私をのぞき込む。
その時、涙があふれてきた。
怖かった。
安心した。
そして、もう一度会えた。
そんな感情が一気にあふれてきて、ただ声をあげて泣いた。
そんなわけのわからない状態の私に、おろおろした様子のガルディアは、抱きしめて
そっと背中を撫でてくれた。
しばらくすると、咳払いとイラついた声が低くあたりに響いた。
「 ええっと……怪我人の前でいちゃいちゃするの、やめてくれないかな? 」
その声にはっとする。
そうだ。満身創痍のクラーヴィオがここにはいたんだった!!
「 ご、ごめんなさい!! 大丈夫? 」
「 ああ、気にしないで。ドゥーラに言ってないからさ 」
笑ってくれてるけど……なんか目が笑ってない気がする。
倒れて痛みに耐えるクラーヴィオ、私を捕らえようと手を伸ばして硬直したアダラ、
そして、そのアダラの首筋に刃物を突き付けて動きを封じた、ガルディア。
それぞれが動けないでいる状態が続いたが、静寂を破ったのは、ガルディアのつぶやきだった。
「 アダラ、お前は欲張りすぎた……他人を踏みにじりすぎたんだよ 」
その言葉に、アダラはほくそ笑んだ。
「 欲張って何がいけませんのぉ? 踏みにじられるような愚鈍な人間が悪いんじゃなぁい? 」
「 なんだと? 」
怒りをあらわにするガルディアに構わず、アダラは続ける。
「 欲しいものを欲しいって言って何が悪いのかわからないですわぁ 」
アダラは視線を私に向けた。
「 欲しいものを欲しいっていうのは誰にだって出来ることなのにぃ 」
歪いびつな笑みを浮かべて言葉を続ける。
「ドブネズミちゃんも、欲しいモノあるでしょう? 素直になったらどう? 」
ねっとりとしたアダラの声に、背筋に冷たいものが走った気がした。
「 欲しいからって、自分のものにするだけがいいわけではねえんだよ。
そんなこともわかんねえのか? ババァ 」
ガルディアの怒気があたりを包む。しかし、アダラは余裕の表情を崩さない。
だが、感情が動いたその時にわずかに隙が生まれ、アダラはそれを無駄にはせず
ガルディアの拘束から抜け出した。
「 わたしぃ、欲しいものは諦めない主義ななのねぇ? その子ネズミちゃんは頂いていくわぁ 」
そして、私に手を伸ばす。空気がしなるような音がして、目の前で何かがぶつかり、弾ける。
きらりと光る何か糸のような細い繊維が枯れた木に巻き付いて地面に落ちる。
舌打ちがアダラから聞こえる。
「 死にぞこない……がぁ!!」
眼の端を釣り上げた怒りの形相のアダラは木の枝を投げたクラーヴィオを睨み据えた。
「 そう……簡単にやられないよ……もう大切なものを護れないほどの子供じゃないからね 」
息をあげながらもひるまずアダラに言い返す。
よろよろと立ち上がるが、瞳は力強い光を放っている。
その姿に視線を向けていた為、アダラは背後に近づくガルディアに気が付くのが遅れた。
鈍い音と共にあたりに響きわたる。
と、同時にアダラの絶叫が静まり返った森に響く。
顔を血まみれにしたアダラ、その青白い頬から血が勢いよく流れだす。
背後に血に染まったガルディアの剣からは紅いものがしたたり落ちている。
「 次は外さない。お前を生かしておくのは難しそうだからな 」
ガルディアの硬質な声が、一際低く響く。
「 おのれぇええドブネズミがぁああ!!! 私の顔に傷を!!!!」
狂乱したアダラはガルディアに掴み掛ろうとした。
しかしその手が届くことはなかった。いち早く、ガルディアの剣がアダラを切り伏せたからだ。
鈍い音と、鉄さびのような鼻につくにおいと共にアダラは崩れ落ちる。
しばしの沈黙ののち、ガルディアは、ただ、一連の状況をただ見ているだけしか出来ず、
放心した私に向かって近づいた。
「 大丈夫か……? 」
心配そうな瞳で、私をのぞき込む。
その時、涙があふれてきた。
怖かった。
安心した。
そして、もう一度会えた。
そんな感情が一気にあふれてきて、ただ声をあげて泣いた。
そんなわけのわからない状態の私に、おろおろした様子のガルディアは、抱きしめて
そっと背中を撫でてくれた。
しばらくすると、咳払いとイラついた声が低くあたりに響いた。
「 ええっと……怪我人の前でいちゃいちゃするの、やめてくれないかな? 」
その声にはっとする。
そうだ。満身創痍のクラーヴィオがここにはいたんだった!!
「 ご、ごめんなさい!! 大丈夫? 」
「 ああ、気にしないで。ドゥーラに言ってないからさ 」
笑ってくれてるけど……なんか目が笑ってない気がする。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる