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家族の面影

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 静寂が戻った森の中で、クラーヴィオとガルディアはそれぞれの現状を交換し合う。

意識がない状態のサラエリーナを奪還し、解毒薬の完成を待つことが今は最善であると
ここまで来た事を手短に説明する。

この谷の最深部に彼女は囚われているとガルディアは告げた。

「 儀式が近くて警備が厳重だ。ふたりで、しかもまともに動けない状態の人間が居ては、

死にに行くようなものじゃないか 」

 ガルディアの指摘に言葉も出ない。

サラエリーナを救う為とはいえ、別の犠牲を出すことはできない

 儀式の刻限は迫る、しかしこちらは少人数の味方しかいない……。

「 問題ないよ……。もう少しだけ待ってくれたら、行こう 」

かすかに微笑むクラーヴィオの姿に、思わず駆け寄った。

 私は何をしていたんだろう。

こんなに傷だらけのクラーヴィオを手当もせずにいたなんて。

「 ごめんなさい……今すぐに手当てをしますね 」

サントル園長からもらった巾着の応急セットで簡単に止血し、服の裾を少し破る。

包帯代わりに巻いてみるもののじわじわと血が表ににじみ出てくる。

 傷の深さがわかる。これでは同行は頼めない。

「 ごめんなさい。 こんなになるまで私をかばってくれて……もう十分です 」

自然とあふれてくる涙。

止まらない涙をそっと拭ってくれたクラーヴィオは、私を見つめて口を開く。

「 少しだけ、昔話を聞いてくれますか? 」

その真剣なまなざしに、大切な話であることは容易に想像できたので黙ってうなづく。


「 僕には、年の離れた姉がいたんです。颯爽として、何でもできるかっこいい女性でした 」

懐かしい、戻らない遠い日を見つめているようなまなざしに胸がざわめく。

「 私と引き換えに亡くなった母の代りに、私を育ててくれた人でした。

その時、兄が遊学していたので、外国でしたし、愛妻を亡くした辛さから逃げるかのように

父はめったに家には帰ってこられず、姉は、私のことを放っておくことが出来なかったのでしょう。

自分の事よりも、私を育てることに心血を注いでくれていた。

……しかし、私が6歳を迎える頃、姉は自分の幸せを見つけたのです。

姉は私を置いていくことに悩み、苦しみました。

子供だった私は、姉と離れたくなくて、最後まで駄々をこねていました

そんな時、兄が戻ってきて叱られました。お前は姉さんを大切に思わないのか?とね

 姉は、愛する人と共に遠く離れた街へ行ってしまいました。が、入れ替わるように

兄が私を鍛えてくれたのです。おかげで今があるのですが……。 」

少し複雑そうに苦笑いをする様子から察するに、ヘルシャフトはかなり厳しく教育したのだろう。

なんせ、あのヘルシャフトだ。手加減するって言葉、知らないんだろうなぁと思う。

「 それでもマメに手紙をくれていたんですが、突然病に侵され、亡くなったそうです。

その時は私もまだ子供で、すべて終わった後に知ったのです 」

 この人も、大切な人を亡くしてしまったんだ……。そう思うと涙が込み上げてくる。

「 その姉に、似てるんです、ドゥーラは。 だから、手助けがしたいんです。」

揺るがない強い決意のまなざしを向けられた。

「 私は、もう大切なものを護れない子供じゃないんです。だから、手伝わせてください 」 

青ざめた顔で、しっかりと手を握られる。

 その強い思いは嬉しい。しかし、傷だらけの身体を無理させることはできない。

 どうすべきか悩んで言葉を出せずにいる。

沈黙があたりに流れるが、静寂を破ったのはガルディアだった。

「 俺なら、ドゥーラをサラエリーナのところに連れていける。必ず、守る 」

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