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自由への暗闘

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 探し求めていた諸悪の根源国一番を冠する医師、ザーコボル。

歪ないびつ笑みを浮かべながらこちらを睨み据えている。

あたりは寒々とした空間でありながら、むせかえる鉄さびのような臭いが漂い

思わず胃の中のものが逆流しそうな禍々しさを覚えた。

地面は、どす黒いものでぬめりを帯びていて足を取られそうになる。

これって、血……?

「 サラエリーナはどこ? 返して!! 」

思わずザーコボルに向かって怒鳴りつけた。

足の震えが止まらない。歯も情けなくガタガタと小刻みに打ち合う。

「 これはこれは、勇敢なお嬢さん。 あなたは昔の知り合いに似ている 」

にやにやと余裕の笑みを浮かべた刹那、その表情を氷で覆われたように無表情に変えた。

「 私の愛おしいものを奪っていくのに手を貸した女狐に……そっくりだよ」

その淡々とした声に、強い執着のような怨念めいた感情がにじみ出る。

「 しかし、その女狐は、10年前に私の研究の為に役立ってもらったがね 」

嘲笑交じりにつぶやく。

「 裏切り者のドブネズミよ。お前の連れてきた娘の価値がわからないのだろうなぁ 」

あざ笑うザーコボルはガルディアの背中にいる私を見た。

「 この娘は、箱入りの令嬢だったサラエリーナの心に多大なる影響を与えている……

そんな大切な友が目の前で冷たくなれば、いよいよ心が空虚に支配され邪神の器として完成するのだ 」

 おぞましい笑みがこぼれる。思わず後ずさるが、ガルディアが力強く視線を送ってくれる。

「 そんなことはさせねぇよ。お前はここで終わりだ! 」

ザーコボルの歪な野望を食い止める。そして剣を構える。

「 私は終わらないよ。風は私に吹いているのだからな」

ザーコボルの合図とともに四方の隠し扉から武装した神殿兵達が現れた。

「 その娘を捕らえろ。赤毛のドブネズミにはここで死んでもらう 」

その言葉と共に、神殿兵たちが襲い掛かる。

「 ドゥーラ、すぐに終わらせる。離れるなよ」

ガルディアの強さは半端なかった。押し寄せる神殿兵をなぎ倒す。

しかし、私をかばいながらの戦いはかなり負担を強いている。

 私につかみかかる神殿兵の手を噛みついたり蹴っ飛ばしたりするのが精いっぱいだ。

その時、新たな勢力が扉から現れる。

もうダメか……と諦めかけた私とは逆に、ガルディアははじめあっけにとられていたのに口元に笑みを浮かべる。

 そのなだれ込んできた黒衣の一団の先頭に立つ黒いフードの男が高らかに声を上げる。

「待たせたな。ガルディア」

その男にはどこか見覚えがあった。

そうだ、サラエリーナの眠っていた部屋にいた男。ガルディアに指示を出していた偉そうな男だった。

「おっせーんだよ。……無事でよかった!!」

「再会を楽しむ前に、片付けるべきことがあるだろう?ここは任せて行け」

 黒衣の男が現れるとともに、苦虫をかみつぶしたかのような顔でザーコボルは近くの壁の中に消えた。

「あの男の行く先にサラエリーナがあるはずだ。追うぞ」

ガルディアの言葉に力強くうなずく。

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