52 / 54
罪の気配
しおりを挟む
ごつごつとした岩肌を探ると、カチリと何かの仕掛けが動いて壁が開く。
人一人が通れる通路が伸びていた。
「行くぞ。時間がない」
ガルディアの言葉に、うなづき、先を急ぐ。
湿気た匂いのする通路には、確かに何らかの気配が感じられる。
この道はどこに続いているのだろう。
しばらく進むと、道が分かれていた。
足跡が辿れないこの岩肌の道、3つの下り坂を前にあまり思案している時間もない。
耳を澄ませても、足音すら聞こえない静まり返った空間に悩む。
ガルディアが慎重に辺りを調べる。
ここで、間違った道に進めば確実に間に合わない。
サラエリーナに会いたいと、早く手を取りたいとそう思った時。
ふと左の方から嫌な気配を感じた。
「なんかこっちから嫌な感じがする」
説明しにくいけど、ねっとりとした肌を撫で上げられるような気配。
気持ち悪いけどそのほんのわずかになにか懐かしい気配が紛れてる気がした。
正直にそのことを告げると、ガルディアは少し考えて左の道に進もうと決断した。
「ドゥーラは、あのお嬢ちゃんと見えない絆があるから、きっと救いを求めている声なき声が聞こえるんだろうって思う」
そう、静かな瞳で言った。でも間違っていたら、とか、罠だったら?って悩む気持ちが歩みを躊躇させる。
「ガルディアが危ない目に合うのは嫌だ。私の感じたことだけで大事な決断させてしまったら」
「……いいんだよ、ドゥーラ。この決断が間違っていたとしても、敵が潜んで居たら俺が倒すし、罠だったら破ってやる。場数は踏んでるからな。心配するな。絶対にお前は守るから」
その力強い言葉に背中を押され、左の道を選択し進む。
しばらく歩くと、その気持ち悪い気配は強くなっていく。
でも、気持ち悪い感触はガルディアには感じられないらしい。
私だけが感じてるのがすごく不思議だけどサラエリーナとの絆が
私に道を示してくれているんだろうと納得した。
しばらく行くと開けた場所があり、その中央に少女サラエリーナが横たえられている。
胸が上下しているところを見ると、呼吸はしているらしい。生きてるって確信できただけでも少しホッとする。
禍々しい気配は強く、息苦しくなって来た。早くこんなところから連れ出さないと。サラエリーナは病みあがりなのに。
思わず駆け出そうとする私をガルディアは止めた。
「少し待て。誰も居ねえ。なんでだ」
この状況を不審に思いながらもガルディアが周囲を慎重に見渡す。
ザーコボルの姿を探すが見当たらない。
サラエリーナは遠目にも顔色は青白く、疲れやつれたような面差しに胸が締め付けられるようだった。
その時、愉悦に満ちた声が頭上から振ってくる。
「 ご苦労だったな、ドブネズミよ 」
声のした方を見上げると、ギラギラとした恰幅の良い男ザーコボル・グラーティがこちらを睨み据えている。
「 ひと足遅かったようだな。ふふふ……はははは……いま、儀式は完成する!!!」
ザーコボルは、持っていた短剣を自らの腕に突き立てた。地面にはおびただしい血が流れる。
しかし、その地はまるで生き物のようにサラエリーナの眠っている、周りを取り囲み、何か模様を描きながらうごめいた。
「チッ、魔法陣ってやつか!!」
地面にに文字が彫りこまれてその溝がザーコボルの血で埋められていく。
円が繋がれたその刹那。血で彩られた魔法陣からどす黒い煙のような禍々しいもの、瘴気が立ち上り、
渦巻いていく。黒い瘴気は、サラエリーナを取り巻き、少しずつ大きくなっていく。
「はーーーっはっはっは。どんどん増幅しろ!そしてわが願いのために力を尽くすのだ!!!」
そうザーコボルは、狂気に満ちた表情でサラエリーナを見つめる。
サラエリーナの衣がふわり、と翻ると、より増幅していく瘴気が白い衣を漆黒に染めていく。
何かの力に引き上げられたかのように、サラエリーナは空中をふわふわと浮いている。
まだ意識は戻らないのか、瞳は閉じられたままだ。
その時、私たちの通ってきた扉から人がこの部屋になだれ込んで来た。
ファザーンとケルド、それにクラーヴィオも居る。
「待たせたね!」
ケルドは痛々しい傷跡をものともせずに駆け寄ってきてくれた。
その時、暴風とも思える風があたりの砂利を巻き込んで襲い掛かる。
「お嬢ちゃん、ドゥーラが迎えに来てくれたよ、帰ろうよ、家に」
ケルドは、私を庇いながら叫ぶ。
《 うるさい!!!! 》
いきなり目を開いたサラエリーナから、彼女のものとは違う禍々しい声が絞り出される。
見開いたその瞳は、瞳と呼ぶにはおぞましい、落ちくぼんだ空洞のような闇があった。
《 いつもいつも邪魔する……目障りな人間がぁ。 消えて!!!》
その声とともに大きな衝撃がケルドを吹き飛ばす。
「ケルド!!!!」
吹き飛ばされた方向を振り返る。
岩肌に叩き付けられて呻うめいているケルドが見える。
強風はおさまることなくまだあたりに渦巻いている。
《 私だって、私だって……》
その言葉とともに風は一段と凄みを増す。
「 そうだ!!巫女よ!!その女を殺してしまえ!そうすればお前を苦しめるものは
この世のどこにもなくなるぞ!!」
ザーコボルはそうサラエリーナに叫ぶ。
《殺してしまえば……苦しまなくて済む……の?》
明らかに悩んでいる。ザーコボルの言葉は暗闇の中に取り込まれようとしている
サラエリーナを昏い闇の底へと引き込んでしまう。
人一人が通れる通路が伸びていた。
「行くぞ。時間がない」
ガルディアの言葉に、うなづき、先を急ぐ。
湿気た匂いのする通路には、確かに何らかの気配が感じられる。
この道はどこに続いているのだろう。
しばらく進むと、道が分かれていた。
足跡が辿れないこの岩肌の道、3つの下り坂を前にあまり思案している時間もない。
耳を澄ませても、足音すら聞こえない静まり返った空間に悩む。
ガルディアが慎重に辺りを調べる。
ここで、間違った道に進めば確実に間に合わない。
サラエリーナに会いたいと、早く手を取りたいとそう思った時。
ふと左の方から嫌な気配を感じた。
「なんかこっちから嫌な感じがする」
説明しにくいけど、ねっとりとした肌を撫で上げられるような気配。
気持ち悪いけどそのほんのわずかになにか懐かしい気配が紛れてる気がした。
正直にそのことを告げると、ガルディアは少し考えて左の道に進もうと決断した。
「ドゥーラは、あのお嬢ちゃんと見えない絆があるから、きっと救いを求めている声なき声が聞こえるんだろうって思う」
そう、静かな瞳で言った。でも間違っていたら、とか、罠だったら?って悩む気持ちが歩みを躊躇させる。
「ガルディアが危ない目に合うのは嫌だ。私の感じたことだけで大事な決断させてしまったら」
「……いいんだよ、ドゥーラ。この決断が間違っていたとしても、敵が潜んで居たら俺が倒すし、罠だったら破ってやる。場数は踏んでるからな。心配するな。絶対にお前は守るから」
その力強い言葉に背中を押され、左の道を選択し進む。
しばらく歩くと、その気持ち悪い気配は強くなっていく。
でも、気持ち悪い感触はガルディアには感じられないらしい。
私だけが感じてるのがすごく不思議だけどサラエリーナとの絆が
私に道を示してくれているんだろうと納得した。
しばらく行くと開けた場所があり、その中央に少女サラエリーナが横たえられている。
胸が上下しているところを見ると、呼吸はしているらしい。生きてるって確信できただけでも少しホッとする。
禍々しい気配は強く、息苦しくなって来た。早くこんなところから連れ出さないと。サラエリーナは病みあがりなのに。
思わず駆け出そうとする私をガルディアは止めた。
「少し待て。誰も居ねえ。なんでだ」
この状況を不審に思いながらもガルディアが周囲を慎重に見渡す。
ザーコボルの姿を探すが見当たらない。
サラエリーナは遠目にも顔色は青白く、疲れやつれたような面差しに胸が締め付けられるようだった。
その時、愉悦に満ちた声が頭上から振ってくる。
「 ご苦労だったな、ドブネズミよ 」
声のした方を見上げると、ギラギラとした恰幅の良い男ザーコボル・グラーティがこちらを睨み据えている。
「 ひと足遅かったようだな。ふふふ……はははは……いま、儀式は完成する!!!」
ザーコボルは、持っていた短剣を自らの腕に突き立てた。地面にはおびただしい血が流れる。
しかし、その地はまるで生き物のようにサラエリーナの眠っている、周りを取り囲み、何か模様を描きながらうごめいた。
「チッ、魔法陣ってやつか!!」
地面にに文字が彫りこまれてその溝がザーコボルの血で埋められていく。
円が繋がれたその刹那。血で彩られた魔法陣からどす黒い煙のような禍々しいもの、瘴気が立ち上り、
渦巻いていく。黒い瘴気は、サラエリーナを取り巻き、少しずつ大きくなっていく。
「はーーーっはっはっは。どんどん増幅しろ!そしてわが願いのために力を尽くすのだ!!!」
そうザーコボルは、狂気に満ちた表情でサラエリーナを見つめる。
サラエリーナの衣がふわり、と翻ると、より増幅していく瘴気が白い衣を漆黒に染めていく。
何かの力に引き上げられたかのように、サラエリーナは空中をふわふわと浮いている。
まだ意識は戻らないのか、瞳は閉じられたままだ。
その時、私たちの通ってきた扉から人がこの部屋になだれ込んで来た。
ファザーンとケルド、それにクラーヴィオも居る。
「待たせたね!」
ケルドは痛々しい傷跡をものともせずに駆け寄ってきてくれた。
その時、暴風とも思える風があたりの砂利を巻き込んで襲い掛かる。
「お嬢ちゃん、ドゥーラが迎えに来てくれたよ、帰ろうよ、家に」
ケルドは、私を庇いながら叫ぶ。
《 うるさい!!!! 》
いきなり目を開いたサラエリーナから、彼女のものとは違う禍々しい声が絞り出される。
見開いたその瞳は、瞳と呼ぶにはおぞましい、落ちくぼんだ空洞のような闇があった。
《 いつもいつも邪魔する……目障りな人間がぁ。 消えて!!!》
その声とともに大きな衝撃がケルドを吹き飛ばす。
「ケルド!!!!」
吹き飛ばされた方向を振り返る。
岩肌に叩き付けられて呻うめいているケルドが見える。
強風はおさまることなくまだあたりに渦巻いている。
《 私だって、私だって……》
その言葉とともに風は一段と凄みを増す。
「 そうだ!!巫女よ!!その女を殺してしまえ!そうすればお前を苦しめるものは
この世のどこにもなくなるぞ!!」
ザーコボルはそうサラエリーナに叫ぶ。
《殺してしまえば……苦しまなくて済む……の?》
明らかに悩んでいる。ザーコボルの言葉は暗闇の中に取り込まれようとしている
サラエリーナを昏い闇の底へと引き込んでしまう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる