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罪の気配
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ごつごつとした岩肌を探ると、カチリと何かの仕掛けが動いて壁が開く。
人一人が通れる通路が伸びていた。
「行くぞ。時間がない」
ガルディアの言葉に、うなづき、先を急ぐ。
湿気た匂いのする通路には、確かに何らかの気配が感じられる。
この道はどこに続いているのだろう。
しばらく進むと、道が分かれていた。
足跡が辿れないこの岩肌の道、3つの下り坂を前にあまり思案している時間もない。
耳を澄ませても、足音すら聞こえない静まり返った空間に悩む。
ガルディアが慎重に辺りを調べる。
ここで、間違った道に進めば確実に間に合わない。
サラエリーナに会いたいと、早く手を取りたいとそう思った時。
ふと左の方から嫌な気配を感じた。
「なんかこっちから嫌な感じがする」
説明しにくいけど、ねっとりとした肌を撫で上げられるような気配。
気持ち悪いけどそのほんのわずかになにか懐かしい気配が紛れてる気がした。
正直にそのことを告げると、ガルディアは少し考えて左の道に進もうと決断した。
「ドゥーラは、あのお嬢ちゃんと見えない絆があるから、きっと救いを求めている声なき声が聞こえるんだろうって思う」
そう、静かな瞳で言った。でも間違っていたら、とか、罠だったら?って悩む気持ちが歩みを躊躇させる。
「ガルディアが危ない目に合うのは嫌だ。私の感じたことだけで大事な決断させてしまったら」
「……いいんだよ、ドゥーラ。この決断が間違っていたとしても、敵が潜んで居たら俺が倒すし、罠だったら破ってやる。場数は踏んでるからな。心配するな。絶対にお前は守るから」
その力強い言葉に背中を押され、左の道を選択し進む。
しばらく歩くと、その気持ち悪い気配は強くなっていく。
でも、気持ち悪い感触はガルディアには感じられないらしい。
私だけが感じてるのがすごく不思議だけどサラエリーナとの絆が
私に道を示してくれているんだろうと納得した。
しばらく行くと開けた場所があり、その中央に少女サラエリーナが横たえられている。
胸が上下しているところを見ると、呼吸はしているらしい。生きてるって確信できただけでも少しホッとする。
禍々しい気配は強く、息苦しくなって来た。早くこんなところから連れ出さないと。サラエリーナは病みあがりなのに。
思わず駆け出そうとする私をガルディアは止めた。
「少し待て。誰も居ねえ。なんでだ」
この状況を不審に思いながらもガルディアが周囲を慎重に見渡す。
ザーコボルの姿を探すが見当たらない。
サラエリーナは遠目にも顔色は青白く、疲れやつれたような面差しに胸が締め付けられるようだった。
その時、愉悦に満ちた声が頭上から振ってくる。
「 ご苦労だったな、ドブネズミよ 」
声のした方を見上げると、ギラギラとした恰幅の良い男ザーコボル・グラーティがこちらを睨み据えている。
「 ひと足遅かったようだな。ふふふ……はははは……いま、儀式は完成する!!!」
ザーコボルは、持っていた短剣を自らの腕に突き立てた。地面にはおびただしい血が流れる。
しかし、その地はまるで生き物のようにサラエリーナの眠っている、周りを取り囲み、何か模様を描きながらうごめいた。
「チッ、魔法陣ってやつか!!」
地面にに文字が彫りこまれてその溝がザーコボルの血で埋められていく。
円が繋がれたその刹那。血で彩られた魔法陣からどす黒い煙のような禍々しいもの、瘴気が立ち上り、
渦巻いていく。黒い瘴気は、サラエリーナを取り巻き、少しずつ大きくなっていく。
「はーーーっはっはっは。どんどん増幅しろ!そしてわが願いのために力を尽くすのだ!!!」
そうザーコボルは、狂気に満ちた表情でサラエリーナを見つめる。
サラエリーナの衣がふわり、と翻ると、より増幅していく瘴気が白い衣を漆黒に染めていく。
何かの力に引き上げられたかのように、サラエリーナは空中をふわふわと浮いている。
まだ意識は戻らないのか、瞳は閉じられたままだ。
その時、私たちの通ってきた扉から人がこの部屋になだれ込んで来た。
ファザーンとケルド、それにクラーヴィオも居る。
「待たせたね!」
ケルドは痛々しい傷跡をものともせずに駆け寄ってきてくれた。
その時、暴風とも思える風があたりの砂利を巻き込んで襲い掛かる。
「お嬢ちゃん、ドゥーラが迎えに来てくれたよ、帰ろうよ、家に」
ケルドは、私を庇いながら叫ぶ。
《 うるさい!!!! 》
いきなり目を開いたサラエリーナから、彼女のものとは違う禍々しい声が絞り出される。
見開いたその瞳は、瞳と呼ぶにはおぞましい、落ちくぼんだ空洞のような闇があった。
《 いつもいつも邪魔する……目障りな人間がぁ。 消えて!!!》
その声とともに大きな衝撃がケルドを吹き飛ばす。
「ケルド!!!!」
吹き飛ばされた方向を振り返る。
岩肌に叩き付けられて呻うめいているケルドが見える。
強風はおさまることなくまだあたりに渦巻いている。
《 私だって、私だって……》
その言葉とともに風は一段と凄みを増す。
「 そうだ!!巫女よ!!その女を殺してしまえ!そうすればお前を苦しめるものは
この世のどこにもなくなるぞ!!」
ザーコボルはそうサラエリーナに叫ぶ。
《殺してしまえば……苦しまなくて済む……の?》
明らかに悩んでいる。ザーコボルの言葉は暗闇の中に取り込まれようとしている
サラエリーナを昏い闇の底へと引き込んでしまう。
人一人が通れる通路が伸びていた。
「行くぞ。時間がない」
ガルディアの言葉に、うなづき、先を急ぐ。
湿気た匂いのする通路には、確かに何らかの気配が感じられる。
この道はどこに続いているのだろう。
しばらく進むと、道が分かれていた。
足跡が辿れないこの岩肌の道、3つの下り坂を前にあまり思案している時間もない。
耳を澄ませても、足音すら聞こえない静まり返った空間に悩む。
ガルディアが慎重に辺りを調べる。
ここで、間違った道に進めば確実に間に合わない。
サラエリーナに会いたいと、早く手を取りたいとそう思った時。
ふと左の方から嫌な気配を感じた。
「なんかこっちから嫌な感じがする」
説明しにくいけど、ねっとりとした肌を撫で上げられるような気配。
気持ち悪いけどそのほんのわずかになにか懐かしい気配が紛れてる気がした。
正直にそのことを告げると、ガルディアは少し考えて左の道に進もうと決断した。
「ドゥーラは、あのお嬢ちゃんと見えない絆があるから、きっと救いを求めている声なき声が聞こえるんだろうって思う」
そう、静かな瞳で言った。でも間違っていたら、とか、罠だったら?って悩む気持ちが歩みを躊躇させる。
「ガルディアが危ない目に合うのは嫌だ。私の感じたことだけで大事な決断させてしまったら」
「……いいんだよ、ドゥーラ。この決断が間違っていたとしても、敵が潜んで居たら俺が倒すし、罠だったら破ってやる。場数は踏んでるからな。心配するな。絶対にお前は守るから」
その力強い言葉に背中を押され、左の道を選択し進む。
しばらく歩くと、その気持ち悪い気配は強くなっていく。
でも、気持ち悪い感触はガルディアには感じられないらしい。
私だけが感じてるのがすごく不思議だけどサラエリーナとの絆が
私に道を示してくれているんだろうと納得した。
しばらく行くと開けた場所があり、その中央に少女サラエリーナが横たえられている。
胸が上下しているところを見ると、呼吸はしているらしい。生きてるって確信できただけでも少しホッとする。
禍々しい気配は強く、息苦しくなって来た。早くこんなところから連れ出さないと。サラエリーナは病みあがりなのに。
思わず駆け出そうとする私をガルディアは止めた。
「少し待て。誰も居ねえ。なんでだ」
この状況を不審に思いながらもガルディアが周囲を慎重に見渡す。
ザーコボルの姿を探すが見当たらない。
サラエリーナは遠目にも顔色は青白く、疲れやつれたような面差しに胸が締め付けられるようだった。
その時、愉悦に満ちた声が頭上から振ってくる。
「 ご苦労だったな、ドブネズミよ 」
声のした方を見上げると、ギラギラとした恰幅の良い男ザーコボル・グラーティがこちらを睨み据えている。
「 ひと足遅かったようだな。ふふふ……はははは……いま、儀式は完成する!!!」
ザーコボルは、持っていた短剣を自らの腕に突き立てた。地面にはおびただしい血が流れる。
しかし、その地はまるで生き物のようにサラエリーナの眠っている、周りを取り囲み、何か模様を描きながらうごめいた。
「チッ、魔法陣ってやつか!!」
地面にに文字が彫りこまれてその溝がザーコボルの血で埋められていく。
円が繋がれたその刹那。血で彩られた魔法陣からどす黒い煙のような禍々しいもの、瘴気が立ち上り、
渦巻いていく。黒い瘴気は、サラエリーナを取り巻き、少しずつ大きくなっていく。
「はーーーっはっはっは。どんどん増幅しろ!そしてわが願いのために力を尽くすのだ!!!」
そうザーコボルは、狂気に満ちた表情でサラエリーナを見つめる。
サラエリーナの衣がふわり、と翻ると、より増幅していく瘴気が白い衣を漆黒に染めていく。
何かの力に引き上げられたかのように、サラエリーナは空中をふわふわと浮いている。
まだ意識は戻らないのか、瞳は閉じられたままだ。
その時、私たちの通ってきた扉から人がこの部屋になだれ込んで来た。
ファザーンとケルド、それにクラーヴィオも居る。
「待たせたね!」
ケルドは痛々しい傷跡をものともせずに駆け寄ってきてくれた。
その時、暴風とも思える風があたりの砂利を巻き込んで襲い掛かる。
「お嬢ちゃん、ドゥーラが迎えに来てくれたよ、帰ろうよ、家に」
ケルドは、私を庇いながら叫ぶ。
《 うるさい!!!! 》
いきなり目を開いたサラエリーナから、彼女のものとは違う禍々しい声が絞り出される。
見開いたその瞳は、瞳と呼ぶにはおぞましい、落ちくぼんだ空洞のような闇があった。
《 いつもいつも邪魔する……目障りな人間がぁ。 消えて!!!》
その声とともに大きな衝撃がケルドを吹き飛ばす。
「ケルド!!!!」
吹き飛ばされた方向を振り返る。
岩肌に叩き付けられて呻うめいているケルドが見える。
強風はおさまることなくまだあたりに渦巻いている。
《 私だって、私だって……》
その言葉とともに風は一段と凄みを増す。
「 そうだ!!巫女よ!!その女を殺してしまえ!そうすればお前を苦しめるものは
この世のどこにもなくなるぞ!!」
ザーコボルはそうサラエリーナに叫ぶ。
《殺してしまえば……苦しまなくて済む……の?》
明らかに悩んでいる。ザーコボルの言葉は暗闇の中に取り込まれようとしている
サラエリーナを昏い闇の底へと引き込んでしまう。
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