薬草師ドゥーラ・スノーの冒険日記

津崎鈴子

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瘴気の嵐

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 激しく渦巻く瘴気の風に翻弄され、眼も開けていられないが必死で耐える。

この瘴気の突風の中心にいるのは、探し求めていたサラエリーナ。

あの儚げな少女の面影はすでになく、どす黒い瘴気を纏い、中空から私たちを睨みつけている。

それを言葉巧みに操るのは、自らの血にまみれた片腕をだらりと下げたザーコボルだった。

明らかに悩んでいる。ザーコボルの言葉は暗闇の中に取り込まれようとしている

サラエリーナを昏くらい闇の底へと引き込んでしまう。

「サラエリーナ!!負けないで!!」

私は精一杯の言葉をぶつける。

「サラエリーナ、貴女が元気になったら一緒に遊びに行くのよ。

一緒においしいものを食べて、いろんな場所に出かけて行って……

貴女も私も、知らないことがいっぱいある。いっしょに探しに行きましょう」

風が少し凪いで来たその時、ザーコボルが再びサラエリーナに命じた。

「巫女よ!!その女を殺せ!殺さなければお前が滅びるぞ!!」

ザーコボルが苛立ったように叫ぶ。しかし、サラエリーナは動かない。

「ええい!!もう良いわ!!私が手を下す!!」

腰につけていたナイフを取り出すと、私に襲い掛かってきた。

いきなりのことでよけられない。身を守るために手をかざす。

瞬間、暖かな衝撃が私を包んだ。そのナイフがの衝撃ではない。

ナイフは、私の肌を傷つけることはできなかった。


「……させるかよ……」



荒い息で私を抱え込んだ声。私を抱え込み、その腕にナイフが突き立っている。

「ガルディア!!!」

私の声に不意に視線を下に見て、にやりとほほ笑む。

そして、すぐにザーコボルに視線を戻すとあっけにとられているザーコボルににらみつける。

「お前の悪事もここまでだ。こいつの人生を歪ませた罪、死んだくらいで償えると思うなよ」

 ザーコボルはガルディアの迫力に息をのむ。

その時、遅れて隠し通路から現れた黒衣の一団がザーコボルを取り押さえた。

「お前の所業に教主様はお怒りである。逃げられないものと覚悟せよ」

黒衣の一団の先頭に立つ男が言い放つ。

「けがらわしい!手を放せ!!巫女よ、この者どもを滅ぼしてしまえ!!!」

力の限り叫ぶと、サラエリーナは視線を投げてザーコボルに告げた。


《 さっきからうるさい。お前の声は不愉快だ!! 》


 そして、サラエリーナの背後の瘴気が伸びたかと思うとその喉を貫いた。

くぐもった声を発し、口からは泥のように血が流れる。ごぼごぼとこぼれる血を

ザーコボルは手で受けて確認すると目をむき声を上げるがより一層の血が流れる

その様子に、驚愕の視線を向けつつも、黒衣の一団はザーコボルを捕縛する。

一瞬の出来事だった。あっけにとられていたが、ナイフを腕から抜き、床に捨てる

音にはっと気を取り直し、護ってくれたガルディアに思わずしがみつく。

それに応えたかのように、彼も抱きしめ返し背中を撫でてくれる。

「この状態は惜しいけど……」

ぐっと、私を押し返す。

「 ドゥーラ、まだやらなきゃならねぇことがあるだろう?」

その声に頷き、正面を見据える。また風がきつくなってきた。


《 また、虫けらが……邪魔しないでぇええええええええ 》


突風に思わず大柄なガルディアも吹き飛ばされそうになるが踏ん張る。


風圧でまともに目も開けられないような状況だ。だが行かなくては。

私に出来ること……否、私がサラエリーナにしてあげたい、子供のころ

私がして欲しかったことをサラエリーナにしようと思った。

押し返されそうになる強風も、なぜか私が進もうと決意すると和らいだ。

しかし、サラエリーナを取り巻く瘴気は、触れるとその部分が痺れるような

熱い痛みが走る。痛みに顔をしかめるものの、しかし歩みは止められない。

瘴気はサラエリーナに近づくほど鋭さを増し、頬をかすめると血が流れる。

しかし、今はそんなことに構っていられない。体中に傷を作りながらも、

衣のように瘴気をまとったサラエリーナの傍まで来るとサラエリーナを見た。

息をのみ何が起こるのか不安な表情で、サラエリーナは私を見つめる。

「サラ、私たちのところに戻ってきて……」

そして、瘴気に腕を焼かれそうな痛みを与えられても、構わずに彼女を抱きしめた。

刹那。サラエリーナは苦悶の表情を浮かべ、瘴気は一際大きく膨らんで、私を

拒絶するかのように放流された瘴気の流れに必死で耐える。

禍々しい声があたりを包み、その場にいた人間にも心を通り過ぎたかのような

おぞましい感情がすり抜けていった。

「サラ、あなたのこと大切なの。大好きよ」

その刹那、痛みと瘴気は霧が晴れたかのように消失した。

瘴気に取りつかれていたサラエリーナは力を失ったように急に意識をなくし、

ふわふわと浮かんでいたが急に落下してきた。

危ない!その時、ガルディアがふたり分の重さを支えてくれた。

「 よく頑張ったな、えらいぞ」

それはどちらに向けられた言葉なのか。

深く考える前に、私も意識がそこで途切れていた。

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