36 / 71
波の行く先2
しおりを挟む
ハルカちゃんからのメール、一蹴してしまえばいいのに悩んで居る私がいる。
答えは決まっているのに、何かが私を引き留めようとする。
部屋で悩んで居ると、ふと気配がする。見ると入り口のふすまに手をかけたエミさんがいた。
「ユキちゃん、どうしたの?」
驚いているエミさんに、泣きついてしまった。
今までのこと、そして今起こっていること。
すると、エミさんは私の傍に座り、背中を撫でて抱きしめてくれた。
「辛かったね。あんたのお母さんから大まかな話は聞いているよ」
意外な話だったけど、今思えばすとんと腑に落ちる話だ。
エミさんがずっと私を見守っていてくれたんだとはっきりとわかった。
ただ、前に一緒に暮らしていた家政婦さんが家の事情で辞めてしまって困っていたのは事実、とのこと。
「私も、独りが心細いと思っていたから、ルームシェア出来て嬉しかったのよ」
とにっこりと笑ってくれた。
「世の中不条理なことががまかり通ってしまう事も多いわ、人生ってそんなものなの。努力ってものには限界があるのよ。ましてや結婚なんて相手のあることだもの。思うとおりに行きっこないじゃない。」
エミさんは、静けさの中に深い思いのこもったまなざしで見つめる。私も泣くのを忘れて見入ってしまう。
エミさんの目じりの皺。笑ってできた皺だろうけど、笑って過ごせるようになるまできっとたくさん辛いことがあったんだろうな、って思った。
「その女の子は可哀想ね。自分で男を育てる楽しみを知らないんでしょ?男は鉱石なの。女の磨き方次第で宝石にもクズ石にも化けるもの。他人が磨き上げた宝石を奪たところで磨き続けなければ曇るだけ、そして磨き方を間違えれば宝石は傷だらけになって価値を無くすわ」
エミさんは私の常識の外にあるような事を言うなぁと驚いた。
おばあちゃんの世代の人の価値観ってもっと古くて頭の固い倫理観ガチガチな意見を出すって思ってた。
「で、この間来たハルカちゃんのお兄ちゃんがユキちゃんを呼んでいるの?」
エミさんの問いかけに黙って頷く。どうしていいかわからない。
「じゃぁ、会えばいいじゃない。いろいろと複雑な心のままに。ユキちゃんにそういう気持ちを植え付けた本人にぶつけてやりなさい。いいのよ、それで。責任とるってのは、しでかしたことのけじめを付けさせるってこと。けじめがついて初めてユキちゃんも彼も前に進めるの」
☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・
翌日、エミさんも一緒に病院に行ってくれることになった。
そのことをハルカちゃんにメールすると、学校を休んで病院で待っとくとのこと。
いや、真面目に勉強してくださいと伝えた。気持ちは嬉しいけどこれ以上休んだら単位やばいでしょ?
病室には、疲れ切ってさらに白髪の増えたテルのお母さんが座っていた。
私が来たのですごく驚いたようだ。お母さんも自身も青白い顔をしている。
倒れかけているのを気力で踏ん張っているようだ。
「おばさん、テルの様子はどうなんですか?」
私の声に、テルのお母さん涙が止まらないらしい。
テルが入院していたのは、ただ単に精神的な疲労と栄養失調だって。
しばらく碌に食事をしてなくて身体が衰弱していってるらしい。
青ざめた顔で昏々と眠り続けている。点滴が刺さる腕もすっかり痩せてしまっていた。
「テルは、ずっと貴女と別れたことを後悔していたの。あんな女に騙されて貴女を失って…………見ていられなかった」
絞り出すようにテルのお母さんは言った。辛そうに。
あいちゃんの行動は、誰も幸せにしなかった。
奪っていくなら、幸せにしてほしかった。今更遅いけど。
「もし、もしもテルに気持ちが残っているなら、もう一度チャンスをあげてくれないかしら。こんなことお願いできる筋合いもないけれど、馬鹿な息子だけど、馬鹿な母親に免じてどうか……」
テルのお母さんに手を握られて頬を寄せられた。涙で手が濡れていく。
テルのお母さんの悲痛な叫びは、胸に刺さる。
「お母さん落ち着いてください。この件ではみんなが傷つきました。ユキちゃんも、まだ心の傷に耐えている中、こちらに伺ったんです」
冷静で、年長者ならではの圧が感じられた。
「ごめんなさいね。ユキちゃん。勝手なことばかり言って…………」
テルのお母さんは謝ってくれた。つらそうに。見ていて痛々しい姿だ。
「ユキ……?」
かすれた声が病室にかすかに響く。昏々と眠り続けていたテルが目を覚ました。
数か月ぶりの再会だった。
答えは決まっているのに、何かが私を引き留めようとする。
部屋で悩んで居ると、ふと気配がする。見ると入り口のふすまに手をかけたエミさんがいた。
「ユキちゃん、どうしたの?」
驚いているエミさんに、泣きついてしまった。
今までのこと、そして今起こっていること。
すると、エミさんは私の傍に座り、背中を撫でて抱きしめてくれた。
「辛かったね。あんたのお母さんから大まかな話は聞いているよ」
意外な話だったけど、今思えばすとんと腑に落ちる話だ。
エミさんがずっと私を見守っていてくれたんだとはっきりとわかった。
ただ、前に一緒に暮らしていた家政婦さんが家の事情で辞めてしまって困っていたのは事実、とのこと。
「私も、独りが心細いと思っていたから、ルームシェア出来て嬉しかったのよ」
とにっこりと笑ってくれた。
「世の中不条理なことががまかり通ってしまう事も多いわ、人生ってそんなものなの。努力ってものには限界があるのよ。ましてや結婚なんて相手のあることだもの。思うとおりに行きっこないじゃない。」
エミさんは、静けさの中に深い思いのこもったまなざしで見つめる。私も泣くのを忘れて見入ってしまう。
エミさんの目じりの皺。笑ってできた皺だろうけど、笑って過ごせるようになるまできっとたくさん辛いことがあったんだろうな、って思った。
「その女の子は可哀想ね。自分で男を育てる楽しみを知らないんでしょ?男は鉱石なの。女の磨き方次第で宝石にもクズ石にも化けるもの。他人が磨き上げた宝石を奪たところで磨き続けなければ曇るだけ、そして磨き方を間違えれば宝石は傷だらけになって価値を無くすわ」
エミさんは私の常識の外にあるような事を言うなぁと驚いた。
おばあちゃんの世代の人の価値観ってもっと古くて頭の固い倫理観ガチガチな意見を出すって思ってた。
「で、この間来たハルカちゃんのお兄ちゃんがユキちゃんを呼んでいるの?」
エミさんの問いかけに黙って頷く。どうしていいかわからない。
「じゃぁ、会えばいいじゃない。いろいろと複雑な心のままに。ユキちゃんにそういう気持ちを植え付けた本人にぶつけてやりなさい。いいのよ、それで。責任とるってのは、しでかしたことのけじめを付けさせるってこと。けじめがついて初めてユキちゃんも彼も前に進めるの」
☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・
翌日、エミさんも一緒に病院に行ってくれることになった。
そのことをハルカちゃんにメールすると、学校を休んで病院で待っとくとのこと。
いや、真面目に勉強してくださいと伝えた。気持ちは嬉しいけどこれ以上休んだら単位やばいでしょ?
病室には、疲れ切ってさらに白髪の増えたテルのお母さんが座っていた。
私が来たのですごく驚いたようだ。お母さんも自身も青白い顔をしている。
倒れかけているのを気力で踏ん張っているようだ。
「おばさん、テルの様子はどうなんですか?」
私の声に、テルのお母さん涙が止まらないらしい。
テルが入院していたのは、ただ単に精神的な疲労と栄養失調だって。
しばらく碌に食事をしてなくて身体が衰弱していってるらしい。
青ざめた顔で昏々と眠り続けている。点滴が刺さる腕もすっかり痩せてしまっていた。
「テルは、ずっと貴女と別れたことを後悔していたの。あんな女に騙されて貴女を失って…………見ていられなかった」
絞り出すようにテルのお母さんは言った。辛そうに。
あいちゃんの行動は、誰も幸せにしなかった。
奪っていくなら、幸せにしてほしかった。今更遅いけど。
「もし、もしもテルに気持ちが残っているなら、もう一度チャンスをあげてくれないかしら。こんなことお願いできる筋合いもないけれど、馬鹿な息子だけど、馬鹿な母親に免じてどうか……」
テルのお母さんに手を握られて頬を寄せられた。涙で手が濡れていく。
テルのお母さんの悲痛な叫びは、胸に刺さる。
「お母さん落ち着いてください。この件ではみんなが傷つきました。ユキちゃんも、まだ心の傷に耐えている中、こちらに伺ったんです」
冷静で、年長者ならではの圧が感じられた。
「ごめんなさいね。ユキちゃん。勝手なことばかり言って…………」
テルのお母さんは謝ってくれた。つらそうに。見ていて痛々しい姿だ。
「ユキ……?」
かすれた声が病室にかすかに響く。昏々と眠り続けていたテルが目を覚ました。
数か月ぶりの再会だった。
0
あなたにおすすめの小説
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
空蝉
杉山 実
恋愛
落合麻結は29歳に成った。
高校生の時に愛した大学生坂上伸一が忘れれない。
突然、バイクの事故で麻結の前から姿を消した。
12年経過した今年も命日に、伊豆の堂ヶ島付近の事故現場に佇んでいた。
父は地銀の支店長で、娘がいつまでも過去を引きずっているのが心配の種だった。
美しい娘に色々な人からの誘い、紹介等が跡を絶たない程。
行き交う人が振り返る程綺麗な我が子が、30歳を前にしても中々恋愛もしなければ、結婚話に耳を傾けない。
そんな麻結を巡る恋愛を綴る物語の始まりです。
空蝉とは蝉の抜け殻の事、、、、麻結の思いは、、、、
貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳
大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。
でも、これはただのお見合いではないらしい。
初出はエブリスタ様にて。
また番外編を追加する予定です。
シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。
表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。
さようなら、お別れしましょう
椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。
妻に新しいも古いもありますか?
愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?
私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。
――つまり、別居。
夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。
――あなたにお礼を言いますわ。
【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる!
※他サイトにも掲載しております。
※表紙はお借りしたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる