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第二巻 第三章 第二部 ボレロ
第四十六話 セビリアの舞踏姫・ボレロ
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午前0時。
私とエディは、反応がある方角へと走っていた。
反応の正体は、ボレロ。
私たちの宿敵である、ボレロである。
彼女の魔法は『クレシェンド』を多用する魔法。
クレシェンドとは、『より強く』と言う意味の演奏記号だ。
彼女が使う、『ボレロ』と言う曲は、最初は静かだが、だんだんと強力になって行く魔法。
つまり、討伐が遅れれば遅れるほど、手をつけられなくなって行くのである。
すでに、賀田病院から走って5分以上は経っている。
そして、私たちが進む先から、ボレロの演奏が聞こえてくる。
ボレロはすでに、強力な魔法を発動するためにチャージしているのである!
「エディ! 急がないと、私たちじゃ手に負えなくなるよ!」
「分かってんがな! この地鳴り、ボレロの演奏っちゅうことくらい!」
――徐々に、私の肌が裂けるような振動を受け始める。
ある程度近付けば、その肌が裂ける振動が、焼き爛れるような激痛へと変わって行くのだろう。
しかし、私の頭の中で、一つの反応が消えたのである!
反応とは、フーガ先生が率いる魔王軍討伐隊のメンバーの反応のことだ。
私たちは立ち止まり、お互いの顔を見合わせる。
「嘘っ。そんな」
「アイネはん……。エピソードはんの反応が消えてんけど。私だけやんな?」
「いいや。私も消えたよ」
「それって、エピソードはんが負けたちゅうことかいな!」
「反応がなくなったってことは、もう事切れてるってことだよ。エピソードはファンタジアに負けたんだ」
「そ、そないな事って……! エピソードはん、勝てるって意気込んどったやないか! あれは見栄っ張りやったんか!」
「分からない。でも、私たちは先を急ごう。今は、今の敵を見ることしかできないから!」
「そ、そうやな! ボレロ倒してから、応援に行こか!」
「うん!」
私たちは、エピソードの方を振り返って、走り出す。
彼女が簡単に負けるはずがない。
きっと、何かがあったんだ。
あったんだきっと。
そう思わなきゃ、私の精神が壊れそうになるから。
そう信じなきゃ、私は逃げ出したくなってしまうから。
「エディ! あれだよ! 見えてきた!」
「あれか! な、なんやあれ!」
そこに広がっているのは、海を操る様に唸る、巨大な水の塊だったのだ!
大きさは、大体リュート君のアパートくらい。
半径約10メートルくらいの円形の水球である!
その内側を、色々な楽器が飛び回っている!
そして、その中心に居る紫髪の女性こそが、ボレロだ!
「あら、遅かったわね。曲はもう中盤よ?」
ボレロは指揮棒を振りながら、私たちを一瞥する。
「なんちゅう巨大な水玉や! 早うぶち壊さんと、ホンマにやばいで!」
「うん! 私はエディの援護をする! エディはボレロを叩いて!」
「承知っ!」
エディは胸に手を置くと、目を瞑って魔力を集中させる。
そして、彼女の魔力がピークに達すると、
「心笛解放! ライオンハート!」
エディの叫びとともに、雷が彼女の体に落ち、魔力が肥大していく!
地中にある砂鉄を吸い上げて、エディの体を覆っていくのである!
「す、すごいエディ! 本当に宣言通り出来ちゃうなんて……」
エディと私との訓練の際には、室内で行っていたため、当然砂鉄などは無い。
彼女は、勘だけで魔法を操っているのである!
『私、インスピやったら得意やで! なんせ、軽音楽部やったからな! エディリオン、爆誕や!』
――私の眼前には、5メートルほどの巨人、否、ロボットが現れたのだ!
「なにあれ、アニメの真似事?」
ボレロは一人、呟いた。
心笛解放は、『魔力や魔素を身に纏い、特攻を仕掛ける』のが特徴である。
ただしかし、砂鉄などの金属を見に纏う魔法は、見たことも聞いたこともない。
エディは、ただのインスピレーションだけで、誰も考え付かなかった新たなる魔法を作り出したのだ!
魔法を1時間で完成間近まで持って行き、この瞬間に完成させる。
彼女は、類稀なる奇才の持ち主なのである。
『いやぁ! 我ながら、ごっついもん作ったわ! どないやボレロ! これが私の心笛解放や! どえらいやろ!」
「はぁ。呆れた。子供がおもちゃを貰ってはしゃいでるみたいだわ」
『なんやと!? ボレロはこのロボットの良さが分からんちゅうんか!』
エディは、アニメが好きだと言っていた。
特に、ロボットアニメが。
それをどうしてもモチーフにした魔法にしたいというものだから、最初は相当心配したけど。
「良し悪しで魔法を使ってるなんて、三流以下ね。遊びに付き合うつもりはないわ。残念だけど、あなたには途中退席してもらうわね」
『なんやと!? もうええわ、アイネはん! あいつにロボットのロマンとカッコよさ、同時に叩き込んだるわ!』
「ええと、エディ。」
『問題ない! 私がボレロをどついたったら終いやで! いかに私が強いか、見せたるがな!」
「ええ、ええ~……」
エディはきっと、伸び伸び一人で決めさせた方が良いタイプの人だ。
私の様に、ただ指示を待つ人間とは違うんだ。
『ほな、行きまっせアイネはん!』
真っ黒いロボット。
カッコいい見た目と赤とオレンジの紋章、まさにエディが言ってた通りの見た目だ。
あらゆる身体の動きができる様に、関節の部分はちゃんと考えられて作られている。
――芸術品レベルだ。
エディリオンが走り出すと、地面が砕けて弾け飛ぶ!
重さは相当なもので、あんなロボットでパンチをされれば、ひとたまりもないだろう。
ただ、相手はボレロ。
魔王軍の中でも強い部類に入ると聞く。
果たして、私たちの魔法で彼女を倒すことができるのか。
「本当に、不細工な魔法ね。そんな力技で私の魔法を突破できると思っているのかしら?」
ボレロはエディリオンを見て、侮蔑を吐く。
それほど、ボレロの魔法は強大であり、本気を出す相手ではないと思われていると言うことだ。
後手に回れば回るほど、私たちの戦況は悪くなる一方だ。
ならば、私たちは特攻を仕掛けていくしかない!
『そないなこと言うて! 私かて演奏者(シンフォニカ)の端くれや! どうぞ、よろしゅうお願いしますわ!』
エディリオンは地面を蹴り、空中へと上がっていく!
――そして、彼女の拳が光ると、ファンファーレがなり始めたのだ!
『威風堂々や! 私の演奏、とくと聴きなはれや!』
彼女の真骨頂である、『威風堂々』が流れ始める!
威風堂々とは、軍の行進曲として用いられていた曲である!
雄大さと物々しさを語ったこの一曲は、自信満々かつ傲慢なエディにとってはピッタリな曲となっている。
まさに、エディの全てを象徴する様な曲なのだ!
『悪いけど、一撃で終わらしたるわ!』
拳を空へと突き上げた瞬間、彼女に向けて雷が落ちる!
そして、右手に砂が集まって行き、短いナイフが形成された!
雷を操り、電磁石を作り上げる!
その電磁石の力で砂鉄を集め、鉄製のナイフを作成したのだ!
『ほな、さいなら!』
エディリオンの背後から炎が吹き出し、ものすごいスピードでボレロの水球へと落下していく!
なんの工夫もない特攻だが、刃さえ通ればどうにかなる!
「いっけぇエディ!」
『うおおおおおおっ!』
「本当、子供の演奏の様。全く、へたくそね」
ボレロは指揮棒を一度振ると、エディに向けて線が飛んでいく!
『な、なんやっ!』
――瞬間、エディリオンの右手が空へと飛んだのである!
『アイネはんっ!』
「うん!」
私は胸に魔力を満ちさせ、大声を張り上げる!
「心揮解放! セイクリッド!」
私はすぐさま指揮棒を召喚し、エディリオンの直前目掛けて魔法を放った!
私の魔法は防御壁だ!
「さよなら」
ボレロは指揮棒を振ると、エディリオン目掛けて何かを放った!
しかし、間一髪、エディリオンの前に防御壁を置いたお陰でどうにか魔法を弾け飛ばせた!
『撤退撤退! 撤退や!』
エディリオンは地面を蹴り上げて私のところまで戻って来る!
『あいつ! 水玉から、なんか出しよったで! 多分、ウォーターカッターや!』
「カッター……。ボレロの攻撃方法はそれだね」
私は指揮棒をボレロに向けると、彼女は不敵な笑みを浮かべる。
「なるほど。私の攻撃方法を読むために、無策でロボットに攻撃をさせたと。これは一本取られましたわね」
『そうや! アイネはんの作戦や! どや、恐れ入ったか!』
「ほう、素晴らしいとは思うわ。ただ、私の攻撃方法がわかったからと言って、それ以降の策が思いつかないのなら、私の演奏は止められない。無意味なのよ?」
「それはどうかな。私だって、馬鹿じゃない。ここから作戦を立てるまで」
私はエディに対して手でサインを送ると、エディリオンはグッとサムズアップを見せた。
『やっぱり、その作戦で行くんか。まぁええわ! アイネはん、あとは頼んだで!』
「うん!」
エディリオンは地面を蹴って走り出し、私も指揮棒を構える!
――私の作戦で、ボレロに敵うかどうかは分からない。
ただ、勝てるのだとしたら、もはやこの方法しかないのだ。
「私の小夜曲で、ボレロを止める!」
私は指揮棒を振り、青い防御壁を召喚させる!
エディリオンには、もう攻撃をさせない!
『アイネクライネナハトムジーク』!!
応援ありがとうございます!
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