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第二巻 第三章 第三部 ハレルヤ
第五十九話 ラデツキー行進曲
しおりを挟む――僕は、たった数ヶ月間という短い間で、ハレルヤ大佐……ハレルヤのことが好きになった。
僕が彼女を初めて見つけた時から、一目惚れだったような気がする。
性奴隷として足枷を嵌められ、連れていかれる彼女に関心を持ったのが理由だ。
彼女を側に置いていたい。
自分の為だけではなく、彼女の為に何かをしてあげたい。
こんなこと、僕が思うだなんて考えもつかなかった。
秘書として彼女を側に置き、話をして行くにつれて、少しずつ彼女に笑顔が取り戻せるのではないかと思っていた。
このままハレルヤと一緒に過ごせば、僕は彼女に幸せになってもらえるんじゃないかと思った。
――しかし、彼女は戦士としてある日旅立った。
僕の元から離れる時、彼女は笑いも怒りもしなかった。
その時、彼女はすぐに僕の元へと帰ってくるものだと思っていた。
だが、彼女は僕の元には帰ってこなかった。
その代わりに大きな功績を作って帰ってきた。
僕の元からどんどん離れていくことが常に怖かった。
僕は、ハレルヤに讃えて欲しかった。
僕の元に帰ってきて、一番安心できると言って欲しかった。
彼女は瞬く間に大佐になり、僕では届かない場所まで行ってしまった。
怒りを覚えて僕は、ハレルヤのところまで向かった。
だが、彼女は僕の元に帰るなんて考えていなかった。
The Kingdom of this world is become the Kingdom of our Lordand of His Christ and He shall reign for ever and ever
彼女が縋っていたのは、ありもしない神の救済だった。
彼女はもう、何かに寄り添っていないと生きていけない。
何かを信じていなければ、立っていられない。
だから、拠り所を無理やり作ったのだ。
それが、物語に登場する『救世主(メサイア)』だった。
King of Kings, and Lord of Lordsand of His Christ and He shall reign for ever and ever
――僕は、嫉妬した。
なぜ、僕を讃えてくれないのか。
なぜ、神話に心酔してしまったのか。
ハレルヤはもう、僕の元へは戻ってこない。
彼女が欲しているのは、自分自身を救ってくれる救世主だ。
僕の元に帰ってこない理由なんて、明白なのに。
なぜ、諦め切れないのだろう。
ハレルヤ、僕は君が最初からずっと好きだった。
「ラデツキー・マーチ!!!!!!」
僕はヒポクリットを振り、ハレルヤ大佐に向けると、僕の背後の戦艦が一斉に紫色の魔法弾を発射する!
それを見たハレルヤ大佐は、両手を胸の前に組み、口を開けるのだ!
and of His Christ and He shall reign for ever and ever
「ハレルヤ!!!!!!」
彼女の叫びと同時に、彼女の背後の劇場の下から、超巨大な女性の像が現れ、大きく手を広げたのである!
――あれこそが、ハレルヤ大佐が考える救世主なのだろう!
「ハレルヤ大佐、目を覚ましてください! あなたを救済する者は、メサイアではない!」
「愚かな! 神の裁きを受けなさい!」
――僕と彼女の言葉がぶつかり合う!
そして天女の像の手のひらから放たれた黄色い光と僕の艦隊から放たれた紫色の魔法弾がぶつかり合う!
「ハレルヤぁぁぁぁぁぁぁっ!」
気付かないうちに、僕は艦隊から身を投げ出していた。
ヒポクリットを天に掲げると、無数のフリントロック式銃が降り注いで来る!
戦艦から身を投げ出した理由は、自分でも分からなかった。
ただ、僕はハレルヤ大佐に向けて攻撃をしたことに対して後悔をしてしまったからなのだろうと思う。
自分で攻撃しておいて、なんて愚かなんだろうとつくづく思う。
でも、そうでもしないとならないと思ったのだ。
――ハレルヤを救いたい。
この身を挺してでも、彼女を守りたい。
彼女が救われてほしい。
この僕が、彼女の救世主になりたい。
だから、僕はハレルヤ大佐に向けて飛び込んで行ったのだろうと思う。
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