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第三章 主人公、投獄!
24.カナヤデビュー!
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ラノベで起きてはならないことの1つに、『目的の消滅』と言う現象がある。
文字通り、主人公の目的が完全に見失われてしまうことだ。
「おいら、魔王倒す~!」とか言って村を飛び出した鼻垂れ主人公が、何故か2番目の村で子作りを始めてスローライフしたり、「俺が人類を救うんだ!」とか言っておいて悪人の虐殺を笑顔でしてみたり。
とにもかくにも、物語の中心人物の言っていることとやることの辻褄が合わなければ、サイコパス認定されてクソへと堕ちて逝く。
そう、目的を忘れてはならないのである。
◆
そう、目的を忘れてはならないのである。
俺の頭の中は、現在メンテナンス中ですので、時間をおいてプレイしてください……。
あれ、俺の目的ってなんだったっけ?
たしか、ノベルメイカーに10万字分の小説を書いて、神様が満足する作品を作ったら、現世に戻れるとかそんなだった気がするけど……。
俺、実は人間じゃなくて新竜人族で、ちっちゃいけど頭から角が生えてきた……?
ヤバイですね!
「おーい兄弟! すまんが、俺様の背中を流してはくれんか?」
「あぁ、分かった。ちょっと待ってろ」
俺は鏡の前で座るハイライターのところへと向かう。
うわ、今気づいたんだけど、尾骶骨辺りからちっちゃいけど竜の尻尾が生えてきてる。
今まで頭の高さにしか鏡がなかったから気づかなかったな。
「いつ見ても、ノベルの身体は素晴らしいな。半年前のポヨポヨの身体はどこに行ったのやら」
「あんまり風呂でそう言うこと言うなよ! 男同士で気持ち悪い!」
説明が遅れたが、ここはカナヤの中心地に聳える建物……カナヤ宮殿である。
宮殿の地下層に牢屋が設けられており、そこは朝しか太陽光が当たらないようにうまく設計されてあるらしい。
俺は牢屋から出た後、その足で宮殿の1階層に上がり、こうして露天風呂を楽しんでいるのである。
俺はハイライターの背中を流すために、バスチェアに座ってナイロンタオルを持つ。
備え付けの液体洗剤が入ったプラスチック容器をとって、タオルにこれでもかと洗剤をつける。
――それにしても、この世界の文明は随分と進んでいるようだな。
すでにプラスチック容器やプラスチック製のバスチェアまで作っている。
カナヤの宿屋で止まった時は大体は木製で、最新素材が綺麗に象られた色鮮やかな陶器だったと言う印象だった。
それと比べれば、このカナヤの中心部の建物の中はあまりにも近代的で文明が進み過ぎている。
風呂だって、ローマで流行ったテルマエと言う公衆浴場を想像していたのに、様式はまるっきり違う。
まるで、ここが日本にあるリゾート施設のような印象がかなり強い。
サウナもあるし、温度計や精密そうな発条時計まで!
大浴場の中にあるってことは、水蒸気では壊れない様に対策済みなんだろうな。
「なぁハイライター。俺が転生者だって何故知っている?」
「そりゃ、マスターがそう言ったからだ。俺様は転生者とかよく知らんが、マスターは熟知している」
ここでマスターの名前が出る。
以前にも言った通り、この街は間違いなく何者かの天才的な施しで区画整理が行われている。
中世にしては規則や倫理観があまりにもはっきりしていて、『人と車』が完全に区別されている。
宛ら、現世の道路のように歩道と車道が分けられているのである。
普通なら、こんな非効率的な区画整理は中世には向かない。
何故ならば、人と車を分けるならば、必ず信号という概念が必要になる。
信号は機械式だから現代では利用されるが、この世界には電気はなく、信号役を立てるにも人件費と人手が無駄である。
ただし、カナヤのマスターはそれを熟知していて、その上で『人と車の道を完全に区別』している。
人は狭い路地を通り、左側通行を原則とし、道端は厳選路地として区画されている。
馬車・竜車は最も大きな通路を通り、最短距離で都心へと荷物を運べる。
メリットは、都心で物資調達が一斉にでき、物資の多さに目移りして買い溜めてしまう相乗効果が生まれる。
それによって経済は回りやすく、拠点に卸売りが集中しているために政府は財政を管理しやすい。
デメリットは、都心でしか物資調達ができない、都心に人間が集中し過ぎる……それくらいだろうか。
お互いのメリットを抑え、デメリットを最小限に留める。
これは、もはや現代からの観点における中世に対する見方から、区画整理を行っているようにしか思えない!
「ハイライター。マスターってのは、異世界から来た人間なのか?」
少なからず半分以上は当たっているはずだ。
違うにしても、必ず政府内には現世の財政について深く知る者と科学を熟知する者がいる。
――それか、どちらもしてのける人物が!
「なぁんだ。会わせてから紹介するつもりだったがな。その通りだ、マスターは転生者。7年前に、この街に降り立った救世主だ」
やはり!
でなきゃ、この文明の辻褄が合わない!
しかも、ここのマスター、デキる!
「まぁ、会っちまえば話は早ぇと思うぜ! お前もどこかしらの異世界から来た転生者なんだ。昔の話でもして花でも咲かせりゃ分かり合えるだろうよ。そんなこといいから、俺様の背中を流せよ! すげぇぞー? キノコみたいに垢がボロボロ取れるぜきっと!」
「うわ、きったねぇこと言うなよな! てか、お前は夜な夜な牢屋の外に出てたなら一人で風呂入れよ! 背中を擦る道具が監獄にないんだから!」
俺はそう言い、ハイライターの背中にナイロンタオルでボリボリと擦った!
その瞬間、脱皮かと思うくらい黒い皮膚がボロンボロンと落ちやがる!
「そう言えばよ、ハイライター言ってたよな。『俺は凶悪犯罪者だからな?』って。あれは演技なのか?」
「いいや、本当だ。俺もちょうど投獄されるところでな、まさにグッドタイミングだったのだよ!」
「は? 最高騎士長だろお前? 何をしたら投獄されるんだよ」
「なぁに、マスターが開発したセンタクキからエッチな柄のパンツを拝借しただけだ! そしたら、それはコンパスという娘のお気に入りの一品でな! いやぁ、殺されかけたなぁ! わっはははははは!」
――そりゃあ、バカなんかあんた。
人の見本にならなきゃならん人が、何をしでかしてるんだこのバカ!
◆
6ヶ月ぶりに全身を隈なく洗った。
牢獄にある固形石鹸では落とし切れない皮脂汚れや、背中に堆積する汚れも綺麗さっぱり洗い流した!
すげぇさっぱりしたぞ、これだから日本の温泉って文化は最高なんだよなぁ!
ま、ここは源泉地ではないけど!
「それじゃ、今からこれに着替えてくれ! 今日からお前はこのカナヤの傭兵として勤務することになるんだからな! 隊服だ!」
と、ハイライターは綺麗に畳まれた服を寄越した!
スッゲェ! これがハイファンタジーの貴族御用達の専属隊服か!
生地はやはり現代の元とは違って分厚い生物の皮から作られたものだ!
繋ぎ目には金属製の鎖が用いられており、頑丈ではあるが非効率に重い。
だが、これはこれで中世時代の鎧にしては予想通りだ!
それに、俺はこういうものを着るために死ぬ思いで鍛えてきたんだ!
重いなんて理由で遅れはとったりしないさ!
「それに着替えて、ついにマスターのところに行くぞ! 直前にノベルのお仲間とも合流させよとの命もある」
「おおっ! ここでやっと仲間との涙の再会ってわけだ! ちゃんと演出まで完備しているとはマスター恐るべし!」
俺はホクホクした心地で隊服に着替える。
黒と赤で彩られた、王道ファンタジーならではの隊服だ!
すっげぇテンションが上がってきた!
俺はこのままカナヤの傭兵として、マスターのための傭兵としてこれから戦っていくのだ!
俺の力は街のために!
俺の力はマスターのために!
「待て、ハイライター。俺の目的ってなんだっけ?」
「何を今更! カナヤの傭兵となり、この街を守ることだろう! 何を迷っているのだ! この最高騎士長の教え子なのだ、間違いなくマスターに気に入ってもらえるぞ!」
ちがうちがう、そうじゃ、そうじゃなぁい!
俺が転生してきて、初めて事件を解決した時に叫んだ言葉を思い出してみろ!
俺、なんって言ったよ!
『法に触れようが何だろうが、傷つけていい理由にはならない!』
『俺が、この街のマスターになる!』
『俺が法律を作ってやる! 獣人は可愛い、愛しい、みんなが大好きな種族だってな!』
『俺が法律だ! 獣人は可愛いっっっっ!』
あっれぇぇぇぇぇぇ?!
なんで俺ってば、マスターのために働くことになってんの?!
マスターを倒して、俺がマスターになって、獣人が虐げられるのを止めるんじゃなかったっけか!
やられた、完全にしてやられた俺の馬鹿!
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