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第五章 拳銃学・ステイプラー
40. 銃弾ではなく、花のおもちゃなら
しおりを挟む彼は審判の日、顳顬に銃口を向けた。
どちらか1人が死ななければならない。
1週間、最後の日。
彼は、止めようとするステイプラーの手が自分のところに届く前に、ゆっくりと引き金を引いたのである。
彼女はどれほど強く願ったのであろう。
フリンクロック式銃に詰められた物が『弾丸』ではなく『花のおもちゃ』であればよかったと。
目の前で真っ赤に咲く血液の花束を眺めたステイプラーは、その瞬間に何かがプツンと切れたそうだ。
壊れてしまったんだ。
それは、きっと自分の何かが夢の中へと乖離しただけだ。
その正体が俺の目の前にいるし、それを俺は夢であると認識している。
ただし、亜人の男の子が死んだという事実は何度夢から醒めようとも変わることはない。
彼は死ぬ間際に最後、ステイプラーにこんな質問を投げかけたらしい。
『ステイプラー。君は、俺のことが好きかい?』
◆
「私は、彼に返答してあげることはできなかった。その念が、今もこうして夢の中で生きている。私はステイプラーだ。ただの残骸だけどね」
全ての情報と、ステイプラーが感じていた事が俺の心の中に流れ込んでいた。
「お前……。これを伝えたくて、俺を抱き枕にし続けたのか?」
「そうだよ。私は私の潜在心理。私が願えば、今の私がそうしてくれる。随分と時間がかかってしまったね。君のような童貞だったら、数秒で眠りに堕ちてくれると思ったんだけど」
「うるせぇ、余計なことを言うなっつの!」
顔が熱くなって、恥ずかしさが一斉にこみ上げてきた。
夢から醒めれば、きっと俺は大人のステイプラーに抱きつかれてる。
そして、今も永遠の苦しみから解放されずに生きているんだ。
死んでもいい人間がいるのかどうなのか、そればかり迷っている孅い女性が泣いているんだ。
「君は私の正義の味方になれる。君を見てそう思ったよ」
「それは随分と過大評価だぜ? 俺はただのラノベ好きだ。ただの偽善の塊、人を殺す勇気もないヘタレだ」
「君は過小評価している。君は悪を赦せる勇気の持ち主だ。少なくとも、今の私には絶対にあり得ない光を君は持っている。だから、私を救って欲しい! 君に私の全てを捧げたい! そのために、私は君に力を与え続けたのだから!」
――子供の姿のステイプラーは、見る見るうちに黄色い光へと姿を変えていき、優しく燃える蝋燭の炎のようになる。
その光はとても穏やかで、彼女の強さを凝縮したような心地を受ける。
『――私は、私が過去に置いてけぼりにした夢だ。幸せな未来を信じていた頃の淡い夢。君の素晴らしい力で、今の私に光を見せて欲しい。私は妖精族だ! 君に私の全てを見せてあげたい!』
炎は俺の胸の近くで微かに燃え続けると、ゆっくりと俺の心臓に向けて入っていく。
「あぁ、俺に任せてくれ。お前はもう悲しむ必要はない。戦争もない、悲しみも一切ない、幸せで誰も殺す事がない世界を作りあげてみせる。だから、安心して俺の中で眠ってくれ」
『――ありがとう、ノベル。これで、私は100年ぶりに熟睡できそうだよ。とても素晴らしい夢を見よう、もう悲しみがない優しい夢を』
彼女の炎は俺の胸の中に飛び込んでいくと、心がポカポカと暖かくなっていく。
あぁ、これがステイプラーの忘れ物か。
彼女が壊れてしまう前に持っていた、優しくて心温まる『感情』――。
『大好きだよっ!』
亜人族の少年に言い遅れた言葉の炎が、俺の中でも強く燃えている。
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