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第五章 拳銃学・ステイプラー

41.抑止力と花束

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 ◆

 はっ!

 俺の目が開き、全ての眠りから醒めた!

「ステイプラー!」

「えっ……どうしたの?」

 俺は彼女の手を握り、彼女に魔法で可視できるフリンクロック式銃を持たせた!
 この力は、ステイプラーが得意とする魔法『風景念射スクリーンショット』である!
 目を瞑って念じることで、フリンクロック式銃を設置した場所の風景を見ることができる!

「ど、どうしてノベルは私の魔法を――」

「そんなことはいい! 獲物が待ってるぜ!」

 ――現在の時刻は9時13分!
 雑音も、ハイライターが扉に突き刺さった角を抜こうとする音も全て聞こえてくる!
 間違いない、この世界は現実!

 ってか、おいクソラノベ!
 ステイプラーとのエッチな絡み全部が夢の中の話だったなんて!
『夢落ちなんて最低っ!』て罵られても知らねぇからな!

「北緯30度、東経60度! ステイプラー、撃鉄を起こせ!」

「う、うん! 分かった!」

 俺は彼女の手を握りしめ、照準を定める!
 すげぇぞ、子供のステイプラーに貰ったこの能力!
 コンマ1ミリまで超絶正確に対象を狙うことができるぞ!
 フリンクロック式銃の命中率ったら馬鹿みたいに低いし、そもそも狙撃のために生み出された武器でもない!
 だけど、俺には分かる!
 間違いなく、俺が撃ちたい物を射抜くことができるってことを!

「ノベル……! もしかして!」

「あぁ、お前の思ってる通り! お前から能力を貰ったんだ! お前の『残骸』からな!」

「えぇ……!」

 ここまですごいなんてな。
 ステイプラーが何を考えているかが正確に分かる!
 狩人は、目配せをするだけで状況を把握できるスキルがあるって聞いたことはあるが、ここまで洗練されていると目配せする必要が無い!
 もはや、俺とステイプラーは一心同体!
 何をしていようとも全て分かるぞ!

「……あの人たちは麻薬の密売人なの?」

「あぁそうだ! お前が夢の中で殺しかけた奴らだ!」

 ――そう、俺が狙っているのは、以前取り逃した麻薬の密売人だ!
 ただし、今回は夢の中じゃなくてガチで生きている人間だ!

「いいかステイプラー、お前はもう誰も殺さなくていいんだ! ってか俺が誰も殺させねぇ!」

「でも、あの人たちは密売人なんだよ? 早く仕留めなければ」


「うるせぇこのバカ! 1人で泣いてるような奴にこれ以上何も背負わせねぇって言ってんだ!」

 ステイプラーは迷っていた。

『私には、殺していい人といけない人の違いがわからない』

 そんなこと、迷う必要はない!
 殺されていい生き物なんてこの世界に1人だって存在しない!

「撃て、ステイプラー! これがお前の、最後の射撃にしてやる!」

「……うんっ!」



 そして、ステイプラーは自らの力で引き金を引いた。
 これまで、彼女はたった1人で罪深い人を射殺してきた。
 しかし、人が人を裁いていい理由はない。

 フリンクロック式銃の燧石ひうちいしで爆薬に引火、爆音を立てて撃ち出された銃弾の砲口初速は秒速800メートルを優に超える!
 その弾丸は、密売人が差し出した麻袋に命中した!

「……ノベルっ! この弾!」

「あぁ。こりゃ傑作だろう?」


 麻薬の入った袋に命中した弾は、形を変えて花のように大きく広がる。
 色とりどりで、見たものの心は大凡おおよそ浄化される。
 そんな魔法を、俺が考えて撃ち出したのだ。

「うん……うんっ! これでいいの、これでよかったんだ!」

 ステイプラーは俺の耳元で囁き、しゃくり上げて泣き始める。
 俺はもう、ステイプラーの一部だ。
 なぜならば、俺はこの瞬間に彼女と契約をしたのである。
 妖精族と新竜人族ドラゴニアンが契約したらおかしいか?
 そんな常識、どこの書物にも書いてねぇよ。

「お前のバディはもう2度と銃で人を殺さない。誰も死なない、誰も死なせない」

「うん……うんっ!」

「これが、俺が導き出した問いの答えだ。文章で説明したほうがいいか?」

「いいや、分かるよ。ノベルは本当に優しい人なんだね。君越しに心の中に流れ込んでくるの。100年前の私が、私に語りかけてくるの!」

『この、おっちょこちょい。100年前の忘れ物を届けにきたよ。もう2度と置いてけぼりにしちゃダメだからね?』

「うん、絶対に忘れない! もう離したりしないよ、ごめんね! ごめんねっ……!」

 ――麻薬の入った袋に穿たれた弾は形を変えて、天に向けて大きく育った。
 麻薬の密売人はそれを取り、その場で小さくうずくまる。
 密売人だって、本当はこんな仕事をしたくないんだろう。
 家族を養うためならば、なんだってする……か。
 だけど、そりゃ飛んだ間違いだ。
 今を後悔し、1から前進できるように俺はお前を応援してやりたい。

 ――そのために、俺から色とりどりの花束をプレゼントしてやった。
 麻袋に当たったのは銃弾かと思いきや、それはマジック用の花束だ。

 自殺を選ばざるを得なかった若き亜人族の少年からのメッセージだ。
 もう2度と誰かを傷つけたりしちゃダメだ。
 そう言う、優しい亜人族の少年のな。
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