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IF世界
遭遇戦
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能力で創り出した紅槍『幽玄ノ心』を手に、私は空を翔ける。
目指す先は電波塔の頂上。
そこに佇む白いテロリスト『フラスコ』。
格上相手に戦いを挑むというのに、私の心は虚無に満たされていた。
不安もなく、恐怖もなく、絶望も希望も無い。
敵は世界最強の一角とも謳われる、夢理民。
抱いた夢-願いで世界の理から逸脱した者。
その時の気分であっさりと全てを奪う夢理民に対しても、不思議と忌避感や嫌悪は感じなかった。
何故かは自分にも分からない。だけど、心は軽い気がした。
流れていく寒空の先で、ついに目標を捉えた。
のんびりと防衛軍のヘリが去った方を眺めるフラスコの首へと私は槍を振り被った。
「ッ!?」
ズルリ、と真っ直ぐ叩きつけた幽玄ノ心の穂先が不可視の壁を滑るように反れる。
確実に当たるはずだった攻撃が空を切った事に目を瞠る。
次の瞬間、背中に強烈な痛みと衝撃を感じた。遠ざかった背中に、吹き飛ばされて鉄骨にぶつかったのだと理解した。
この程度の痛みなら問題ない。
私は体勢を立て直すと槍を構え直し、こちらを振り返った敵を睨む。
白い髪、白いコート、肌まで異様に白いその姿はまるで幽霊の様だ。
丸眼鏡ごしに異彩の双眸と目が合った。
琥珀と翡翠の目を細め、フラスコは首を傾げた。
「防衛軍が逃げたのはキミの差し金か。それにしては増援には見えないけどなァ。ねェお譲さん?」
「……私はCinderella Policeの構成員です」
「しんでれらぽりすゥ?……どっかで聞いた名前だなァ」
油断なく構える私とは対照的に、フラスコは隙だらけだった。自分の固有能力に自信があるんだろう。厄介な事に彼ら夢理民にとっては油断でも慢心でもなく自明の理。
夢理民の固有能力は『理』の外にあるらしく、常識が通用しないのが常識。
元から楽に勝てるとは思ってなかったけれど、それでも勝機など有って無いようなものだと思えてしまう。
まぁ普通に戦えばの話だけど。
どっちみち私はもう戦うしかない。
私はCinderella Policeの一員で、フラスコは犯罪者なのだから。
「…分かりやすく言ってあげますよ?私はあなたを止める者です」
「………へェ」
私の言葉にフラスコは目を見開くと、その意味を理解して口角をニヤリと上げた。
「なら、試してみなよお譲さん」
「言われなくてもっ!」
あからさまな挑発。
私は敢えてそれに乗って攻撃を仕掛ける素振りを見せながら、前にクレアさんから教わった夢理民との戦い方を思い出す。
『いいか、夢理民と戦う時に最も重要なのは、奴らの能力を把握することだ』
『奴らの能力は確かに強力だ。ただ真正面から突っ込んでも死ぬだけだ』
『だが万能という訳でもない。見極めろ-』
夢理民のチカラにも欠点がある。
それが分かれば私は勝てる。
最初の不意打ちが外れたこと、そしてその後に私が吹き飛ばされたこと、これだけだとまだ断定は出来ない。
けれど起こった現象から空間系か移動系、それか両方の要素を持っていることが予想できる。
なら点か線でしか攻撃出来ない近接戦闘はほぼ無意味。
フラスコの能力に凡そアタリをつけ、私は対策を考える。
悠々と待ち構えるフラスコ目掛けて槍を振り下ろすと見せかけ、わざと目の前で足場の鉄骨に叩きつける。
そのまま棒高跳びの様に槍を基点に上に飛ぶ。ガリガリと穂先で傷をつけ、空中で体を捻って距離をとる。
私が完全に足場から離れた時点で、フラスコが爆発に巻き込まれた。
能力で創造したのは爆弾。急造の上に無理やり描いたから威力は低いだろうけど、それも計算の内。私は空中で姿勢を制御しながら、予め絵を描いてストックしておいた手帳を取り出し、ページを開く。
即興品だった爆弾とは違い、相応の時間をかけた絵のクオリティは当然高い。
数ある絵の中からロケットランチャーを実体化させ、私は間髪入れずに引鉄を引いた。
「なッ」
私を見上げたフラスコが驚愕に目を見開く。
1発じゃどうせ切り抜けられる。それなら数を増やせば良い。
複製の能力で十数発に数を増やしたロケット弾が盛大な爆発を引き起こした。
「フ、フフフフフ」
「やっぱり効果なし、ですか」
黒煙を吹き飛ばして笑うフラスコの姿に、舌打ちをしたくなる。
あれだけの爆発を食らっても無傷。
なるほど、確かに理不尽と呼ばれるに相応しい化け物っぷり。人を止めただけはある。
ロケットランチャーを放り捨て、私は新たにガトリング砲を実体化させる。
かなり重いから空中で使うのは避けたかったけど、四の五の言っている場合じゃない。
「今のは驚いたよ…まるで、手品を見せられているみたいだ」
「手品で済めばいいですねッ」
回転する砲身から吐き出される大量の弾丸。
反動を力尽くで押さえ込みながらフラスコを注視する。
弾丸は全て滑らかに軌道を変えて逸れていた。最初から決められたコースをなぞるように、自然に外れている。それが却って不自然さを強調しているせいで、とても気持ちの悪い能力に見える。
「遠距離武器は悪手だよ」
「ッ!?」
嘲笑うかのような声色でフラスコが呟いた瞬間、途轍もない衝撃と熱に襲われた。
攻撃されたことは分かる。何をしたのかが全く判らなかった。
翼を羽ばたかせ何とか留まろうとしたけれど、今度は私の体が意思とは無関係に動く。
体が引っ張られる感覚と共に電波塔の壁に叩きつけられ、肺から空気が抜けた。
「クフフ、うかうかしてると危ないぞ」
膝をついて咳き込む私にフラスコが忠告をしてくる。
顔を上げれてみればフラスコが指揮者の様に右腕を振り降ろしていた。
第六感が警鐘を鳴らす。私が慌てて飛び退くと追従する様に、後ろから立て続けに轟音が響く。
見ればさっきまで私が居た場所に鉄骨が突き刺さっていた。
「手品のお礼に面白いものを見せてあげようかァ」
「お断りします」
「ククク、連れないねェ」
「興味が無いので」
「そんなこと言わずに、さッ!」
フラスコの言葉と共に辺りの鉄骨が滑るように切断されて飛んでくる。私は再度空中へ逃れ、飛来する鉄骨を槍で捌く。
先程の不可視の攻撃を防ぐ為に飛び回る私を追いかけて次々と鉄骨が打ち出される。
縦横無尽に空を翔けながら、もう一度手帳のページを開き実体化させる。目を閉じながら実体化させたそれを投げつける。腕で顔を隠しても瞼越しに強烈な光が目に刺さる。
フラスコが見せた能力はさっきの鉄骨飛ばしで4つ。空間歪曲、不可視の攻撃、念動力、凍結…共通点がまるで見当たらない。1つの能力としては恐ろしく高い汎用性。
でもやっぱり欠点は有った。フラスコは不意打ちには能力の行使が間に合わないらしい。だから無理やり隙を作らせた。
両手で目を抑えているフラスコが立ち直らない内に接近する。
高速で近づく私の真横を、赤い光が通り抜けて行った。光線の熱量にチリチリと空気が焼けるのを感じ、直後背後から今までとは比較にならない音の波が押し寄せた。
光の飛んで来た方へ目を向けると、この攻防の間も絶えず点灯していた航空障害灯が煌々と赤い光を放っている。何をすれば可視光が熱線に変わるというのか、もうとっくに理解の範疇を超えているその能力に初めて怖いと思った。
「どうでした?私の手品は」
「…やってくれるじゃ、ないか」
まだ目が眩んでいるのか、焦点の合わない目で私を睨みつけるフラスコ。
航空障害灯の明滅に合わせて私を撃ち落とさんと無数の熱線が迫る。狙いが雑で軌道も大振りなそれを特に苦労もせず避け切った私は、遂にフラスコに肉薄した。
「もっと面白いものを見せて上げましょうか?」
「へェ?まだ何かあるのかい。それは楽しみだ、ねッ!」
矢継ぎ早に槍で突きを繰り出すけれどやっぱり不自然に滑って当たらない。しかしフラスコも本調子では無いらしく、先程までの様に直立で迎え撃つのを止めて躱していた。
今が攻め時だと直感した私は片手で槍を操りながら空いた手で素早く手帳を開き、目的のページを見つけると足下に叩きつけた。
「煙幕!?」
「そんなに慌てなくてもちゃんと見せてあげますよ」
「な、に……?」
立ち込める煙幕を時間稼ぎと思ったのか、直ぐにフラスコは吹き飛ばす。
思ったよりも早かったけれど、最低限の準備は終わっている。
360度全方向に展開された大量の幽玄ノ心。
「とっておきを、楽しんで死んで下さい」
「クソがァァァッ!!!」
流石に予想外だったのか絶句するフラスコに私が淡々と告げる。言い終えると同時に複製した槍が同時にフラスコに殺到した。
数多の槍がフラスコを串刺しにしたかに思えた、その瞬間。
「…なん、で…?」
『私』の胸に槍が突き刺さった。
「なァんてね。惜しかったなァお嬢ちゃん」
どくどくと流れる血を呆然と見ている『私』にフラスコの声が聞こえた。
乱雑に突き刺さってい紅槍の中、無傷のフラスコが立っていた。その手にはどこから取り出したのか真っ黒なペーパーナイフが握られている。
「……そんな…」
「まァ発想は悪くなかった。相手がオレじゃなければねェ」
肩を竦めて残念がるフラスコがナイフを振り抜き『私』に止めを刺す。
そして『私』が後ろから蒼い大鎌『夢幻ノ愛』を振り下ろした。
甲高い金属音が響く。
完全な不意打ちのはずだったのに、フラスコは右手に持ったペーパーナイフで鎌を弾いていた。
「惜しかった、と言っただろ」
「これでもダメですか。本当に厄介な能力ですね」
低い声で吐き捨てたフラスコに『私』も悪態を吐きながら切り掛った。
フラスコは鎌を小さなナイフで器用に捌く。
以前のように逸らされることはなかった。
代わりに打ち合う度に鎌が弾かれ、反動で体勢を崩しそうになる。翼で少し浮きながら食らいつく『私』にフラスコは退屈そうに口を開いた。
「コピーかそれに類する能力だと分かれば、予想はつくさ。オレが『自分はコピーしない』と高を括るとでも思ったのかい?甘いよ、考えが」
「……何か勘違いしているようですけど、さっきの複製も、この『私』も、全部ただの布石にすぎませんよ」
何度も体勢を崩され無理な動きをした『私』は肩で息をしながら嘲笑した。
同時に大きく弾かれた鎌に引っ張られ『私』は体勢を崩す。次の瞬間には『私』の首が落ちた。
「……ん?」
周囲が突然夜になったかの様に暗くなる。
上を見上げたフラスコと最初から上空にいた私の目が合う。
「言ったでしょう?とっておきを見せてあげますって」
「…おいおい…マジかよ…」
複製を2体も時間稼ぎに宛がった私のとっておき。
実物大の月の創造。
驚愕で固まるフラスコに微笑みながら告げ、私は月を落とした。
ゆっくりと破滅を齎す為に墜ちる月。
質量兵器と化した月は、私の見てる目の前で左右にズレて街に落ちた。
物理的に綺麗な半月された月が街を潰す様を眺めながら、辛うじて被害を免れたビルの上に降り立つ。
「どうでした?私のとっておきは」
落下に伴う衝撃で倒壊した電波塔の残骸の上に立つフラスコへ声を掛ける。
恐らく月を切断しただろう真っ黒なペーパーナイフをクルクルと手で遊びながらフラスコは静かに口を開く。
「今のは少し危なかったなァ。キミの能力は、コピーじゃなくて創造だったワケだ……いや、両方持ってるだろ、キミ。ついでに言うと創造の条件は絵、違うか?」
「……やっぱりバレてましたか」
「それにしても、オレを止めると言った割には被害を考えないんだねキミ」
「後で直せば済む話でしょう?」
能力を言い当てられて、私は肩を竦める。
とっておきをあっさりと躱された事に落胆はない。本当の本命はこっちだから。
カラカラと笑うフラスコに軽口で答えて。
創造した傘を差し、私は踊る様に跳ねる。
雨がぽつぽつと降り始めた。
「……何をしてるんだ、キミ」
「別にいいじゃないですか」
少しずつ勢いを増す雨に打たれながら、フラスコは訝しげに私を見る。
跳ねるのを止めずに、雨に当たらない様に、私は口を開く。
「これでもう、本当にお終いなんですから」
「は?」
私の言葉にまるで意味が判らないと首を傾げるフラスコ。
常に余裕を崩さなかったそのフラスコが、咳き込んで真っ赤な血を吐いた。
「………………………あ?」
何が起きたか理解出来ずに困惑するフラスコが自分の吐いた鮮血で染まった手をまじまじと見つめる。
私はそこで跳ねるのを止めた。
「何だコレ?……お前、何をした?」
「『病雨からのかくれんぼ』、私の能力を使った技…の1つです」
終に立っていられなくなったのか、フラスコは口から滝の様に血を吐きながら膝をつく。
そんなフラスコに種明かしをしてあげる。
「当たれば夢理民でも死ぬ『病』。それがこの雨の正体。あなたはもう、直に死にますよ」
「ハ、ハハ、ハハハハハ…何だそれ…」
屈んでいたフラスコが笑う。
何が可笑しいのか、ケタケタと血を吐きながら腹を抱えて笑い転げる。
そして、しっかりとした足取りで立ち上がった。
今度は私が困惑する番だった。
「……何で、死んでないんですか……」
「成程成程、複製、創造と来て『想像』か」
私の言葉には欠片も反応を示さず、血で汚れた口元を乱雑に袖で拭う。
丸眼鏡の奥で琥珀のバツと翡翠の六芒星を刻んだ瞳と目が合った。
「面白い、実に面白いよ、お前」
愉快で堪らないという風に肩を揺らすフラスコの言葉を最後に、私の意識は闇に呑まれた。
▷▶︎▷
「よっと……軽いな?」
意識をズラして気絶させたアルビノの少女を受け止め、横抱きに抱える。
今日は運が良い。
最初街に来た時は全く期待していなかったが、飛んだ掘り出し物があったワケだ。
どれ程稀少で強力な能力を持っていても、所詮『理』の中で生きている存在。何ものにも縛られることの無い夢理民には叶わないハズだった。
だがこの子は夢理民の想定を軽々と超えてきた。
「しっかし、ホントに死ぬかと思ったわ」
真っ赤な鮮血の様な色をした硝子球のようなものを左手で取り出す。
その硝子球の中身は、先程オレを追い詰めた『病』。
既に体から流れた血にズラして封じ込めた。
咄嗟にしては上手く行ったから良かったが。
オレの固有能力【総てがズレる】の本質は『総率編纂』。総てを思いのままに率い、編纂するチカラ。
『此処では無い何処かへ辿り着く』というオレの願いを叶える為に、世界の全てを支配することを可能にしたコレが無ければ、或いは違うものだったなら、斃れていたのはオレだった。
「クフフフ、ククク……クハハハハハハ……コレだからこの世界は面白い……」
真逆とは思ったが、夢理民にも効果のある『もの』を創造してくるとは思わなかった。
間違いなく天性の想像力の賜物だろう。
惜しいと思った。
この青眼のアルビノの少女を。
見れば分かるその稀少価値の高さは、天然物は先ず居ないと断言出来る程。
『Cinderella Police』の構成員だと言っていたが、それ以前はさぞかし利用されていただろう。
実に勿体無い。
強く願えば、新たな同胞に為り得たかもしれないというのに。
「…連れて帰るにしても能力は対策しとかないとメンドーだなァ」
『病の硝子球』を上着のポケットに仕舞い、少女を抱え直す。
破壊の跡が痛々しい、というより文字通り消滅した街を一眺めして、オレはアジトへとズレた。
「眼ェ、取るか。絵が主体みたいだし」
目指す先は電波塔の頂上。
そこに佇む白いテロリスト『フラスコ』。
格上相手に戦いを挑むというのに、私の心は虚無に満たされていた。
不安もなく、恐怖もなく、絶望も希望も無い。
敵は世界最強の一角とも謳われる、夢理民。
抱いた夢-願いで世界の理から逸脱した者。
その時の気分であっさりと全てを奪う夢理民に対しても、不思議と忌避感や嫌悪は感じなかった。
何故かは自分にも分からない。だけど、心は軽い気がした。
流れていく寒空の先で、ついに目標を捉えた。
のんびりと防衛軍のヘリが去った方を眺めるフラスコの首へと私は槍を振り被った。
「ッ!?」
ズルリ、と真っ直ぐ叩きつけた幽玄ノ心の穂先が不可視の壁を滑るように反れる。
確実に当たるはずだった攻撃が空を切った事に目を瞠る。
次の瞬間、背中に強烈な痛みと衝撃を感じた。遠ざかった背中に、吹き飛ばされて鉄骨にぶつかったのだと理解した。
この程度の痛みなら問題ない。
私は体勢を立て直すと槍を構え直し、こちらを振り返った敵を睨む。
白い髪、白いコート、肌まで異様に白いその姿はまるで幽霊の様だ。
丸眼鏡ごしに異彩の双眸と目が合った。
琥珀と翡翠の目を細め、フラスコは首を傾げた。
「防衛軍が逃げたのはキミの差し金か。それにしては増援には見えないけどなァ。ねェお譲さん?」
「……私はCinderella Policeの構成員です」
「しんでれらぽりすゥ?……どっかで聞いた名前だなァ」
油断なく構える私とは対照的に、フラスコは隙だらけだった。自分の固有能力に自信があるんだろう。厄介な事に彼ら夢理民にとっては油断でも慢心でもなく自明の理。
夢理民の固有能力は『理』の外にあるらしく、常識が通用しないのが常識。
元から楽に勝てるとは思ってなかったけれど、それでも勝機など有って無いようなものだと思えてしまう。
まぁ普通に戦えばの話だけど。
どっちみち私はもう戦うしかない。
私はCinderella Policeの一員で、フラスコは犯罪者なのだから。
「…分かりやすく言ってあげますよ?私はあなたを止める者です」
「………へェ」
私の言葉にフラスコは目を見開くと、その意味を理解して口角をニヤリと上げた。
「なら、試してみなよお譲さん」
「言われなくてもっ!」
あからさまな挑発。
私は敢えてそれに乗って攻撃を仕掛ける素振りを見せながら、前にクレアさんから教わった夢理民との戦い方を思い出す。
『いいか、夢理民と戦う時に最も重要なのは、奴らの能力を把握することだ』
『奴らの能力は確かに強力だ。ただ真正面から突っ込んでも死ぬだけだ』
『だが万能という訳でもない。見極めろ-』
夢理民のチカラにも欠点がある。
それが分かれば私は勝てる。
最初の不意打ちが外れたこと、そしてその後に私が吹き飛ばされたこと、これだけだとまだ断定は出来ない。
けれど起こった現象から空間系か移動系、それか両方の要素を持っていることが予想できる。
なら点か線でしか攻撃出来ない近接戦闘はほぼ無意味。
フラスコの能力に凡そアタリをつけ、私は対策を考える。
悠々と待ち構えるフラスコ目掛けて槍を振り下ろすと見せかけ、わざと目の前で足場の鉄骨に叩きつける。
そのまま棒高跳びの様に槍を基点に上に飛ぶ。ガリガリと穂先で傷をつけ、空中で体を捻って距離をとる。
私が完全に足場から離れた時点で、フラスコが爆発に巻き込まれた。
能力で創造したのは爆弾。急造の上に無理やり描いたから威力は低いだろうけど、それも計算の内。私は空中で姿勢を制御しながら、予め絵を描いてストックしておいた手帳を取り出し、ページを開く。
即興品だった爆弾とは違い、相応の時間をかけた絵のクオリティは当然高い。
数ある絵の中からロケットランチャーを実体化させ、私は間髪入れずに引鉄を引いた。
「なッ」
私を見上げたフラスコが驚愕に目を見開く。
1発じゃどうせ切り抜けられる。それなら数を増やせば良い。
複製の能力で十数発に数を増やしたロケット弾が盛大な爆発を引き起こした。
「フ、フフフフフ」
「やっぱり効果なし、ですか」
黒煙を吹き飛ばして笑うフラスコの姿に、舌打ちをしたくなる。
あれだけの爆発を食らっても無傷。
なるほど、確かに理不尽と呼ばれるに相応しい化け物っぷり。人を止めただけはある。
ロケットランチャーを放り捨て、私は新たにガトリング砲を実体化させる。
かなり重いから空中で使うのは避けたかったけど、四の五の言っている場合じゃない。
「今のは驚いたよ…まるで、手品を見せられているみたいだ」
「手品で済めばいいですねッ」
回転する砲身から吐き出される大量の弾丸。
反動を力尽くで押さえ込みながらフラスコを注視する。
弾丸は全て滑らかに軌道を変えて逸れていた。最初から決められたコースをなぞるように、自然に外れている。それが却って不自然さを強調しているせいで、とても気持ちの悪い能力に見える。
「遠距離武器は悪手だよ」
「ッ!?」
嘲笑うかのような声色でフラスコが呟いた瞬間、途轍もない衝撃と熱に襲われた。
攻撃されたことは分かる。何をしたのかが全く判らなかった。
翼を羽ばたかせ何とか留まろうとしたけれど、今度は私の体が意思とは無関係に動く。
体が引っ張られる感覚と共に電波塔の壁に叩きつけられ、肺から空気が抜けた。
「クフフ、うかうかしてると危ないぞ」
膝をついて咳き込む私にフラスコが忠告をしてくる。
顔を上げれてみればフラスコが指揮者の様に右腕を振り降ろしていた。
第六感が警鐘を鳴らす。私が慌てて飛び退くと追従する様に、後ろから立て続けに轟音が響く。
見ればさっきまで私が居た場所に鉄骨が突き刺さっていた。
「手品のお礼に面白いものを見せてあげようかァ」
「お断りします」
「ククク、連れないねェ」
「興味が無いので」
「そんなこと言わずに、さッ!」
フラスコの言葉と共に辺りの鉄骨が滑るように切断されて飛んでくる。私は再度空中へ逃れ、飛来する鉄骨を槍で捌く。
先程の不可視の攻撃を防ぐ為に飛び回る私を追いかけて次々と鉄骨が打ち出される。
縦横無尽に空を翔けながら、もう一度手帳のページを開き実体化させる。目を閉じながら実体化させたそれを投げつける。腕で顔を隠しても瞼越しに強烈な光が目に刺さる。
フラスコが見せた能力はさっきの鉄骨飛ばしで4つ。空間歪曲、不可視の攻撃、念動力、凍結…共通点がまるで見当たらない。1つの能力としては恐ろしく高い汎用性。
でもやっぱり欠点は有った。フラスコは不意打ちには能力の行使が間に合わないらしい。だから無理やり隙を作らせた。
両手で目を抑えているフラスコが立ち直らない内に接近する。
高速で近づく私の真横を、赤い光が通り抜けて行った。光線の熱量にチリチリと空気が焼けるのを感じ、直後背後から今までとは比較にならない音の波が押し寄せた。
光の飛んで来た方へ目を向けると、この攻防の間も絶えず点灯していた航空障害灯が煌々と赤い光を放っている。何をすれば可視光が熱線に変わるというのか、もうとっくに理解の範疇を超えているその能力に初めて怖いと思った。
「どうでした?私の手品は」
「…やってくれるじゃ、ないか」
まだ目が眩んでいるのか、焦点の合わない目で私を睨みつけるフラスコ。
航空障害灯の明滅に合わせて私を撃ち落とさんと無数の熱線が迫る。狙いが雑で軌道も大振りなそれを特に苦労もせず避け切った私は、遂にフラスコに肉薄した。
「もっと面白いものを見せて上げましょうか?」
「へェ?まだ何かあるのかい。それは楽しみだ、ねッ!」
矢継ぎ早に槍で突きを繰り出すけれどやっぱり不自然に滑って当たらない。しかしフラスコも本調子では無いらしく、先程までの様に直立で迎え撃つのを止めて躱していた。
今が攻め時だと直感した私は片手で槍を操りながら空いた手で素早く手帳を開き、目的のページを見つけると足下に叩きつけた。
「煙幕!?」
「そんなに慌てなくてもちゃんと見せてあげますよ」
「な、に……?」
立ち込める煙幕を時間稼ぎと思ったのか、直ぐにフラスコは吹き飛ばす。
思ったよりも早かったけれど、最低限の準備は終わっている。
360度全方向に展開された大量の幽玄ノ心。
「とっておきを、楽しんで死んで下さい」
「クソがァァァッ!!!」
流石に予想外だったのか絶句するフラスコに私が淡々と告げる。言い終えると同時に複製した槍が同時にフラスコに殺到した。
数多の槍がフラスコを串刺しにしたかに思えた、その瞬間。
「…なん、で…?」
『私』の胸に槍が突き刺さった。
「なァんてね。惜しかったなァお嬢ちゃん」
どくどくと流れる血を呆然と見ている『私』にフラスコの声が聞こえた。
乱雑に突き刺さってい紅槍の中、無傷のフラスコが立っていた。その手にはどこから取り出したのか真っ黒なペーパーナイフが握られている。
「……そんな…」
「まァ発想は悪くなかった。相手がオレじゃなければねェ」
肩を竦めて残念がるフラスコがナイフを振り抜き『私』に止めを刺す。
そして『私』が後ろから蒼い大鎌『夢幻ノ愛』を振り下ろした。
甲高い金属音が響く。
完全な不意打ちのはずだったのに、フラスコは右手に持ったペーパーナイフで鎌を弾いていた。
「惜しかった、と言っただろ」
「これでもダメですか。本当に厄介な能力ですね」
低い声で吐き捨てたフラスコに『私』も悪態を吐きながら切り掛った。
フラスコは鎌を小さなナイフで器用に捌く。
以前のように逸らされることはなかった。
代わりに打ち合う度に鎌が弾かれ、反動で体勢を崩しそうになる。翼で少し浮きながら食らいつく『私』にフラスコは退屈そうに口を開いた。
「コピーかそれに類する能力だと分かれば、予想はつくさ。オレが『自分はコピーしない』と高を括るとでも思ったのかい?甘いよ、考えが」
「……何か勘違いしているようですけど、さっきの複製も、この『私』も、全部ただの布石にすぎませんよ」
何度も体勢を崩され無理な動きをした『私』は肩で息をしながら嘲笑した。
同時に大きく弾かれた鎌に引っ張られ『私』は体勢を崩す。次の瞬間には『私』の首が落ちた。
「……ん?」
周囲が突然夜になったかの様に暗くなる。
上を見上げたフラスコと最初から上空にいた私の目が合う。
「言ったでしょう?とっておきを見せてあげますって」
「…おいおい…マジかよ…」
複製を2体も時間稼ぎに宛がった私のとっておき。
実物大の月の創造。
驚愕で固まるフラスコに微笑みながら告げ、私は月を落とした。
ゆっくりと破滅を齎す為に墜ちる月。
質量兵器と化した月は、私の見てる目の前で左右にズレて街に落ちた。
物理的に綺麗な半月された月が街を潰す様を眺めながら、辛うじて被害を免れたビルの上に降り立つ。
「どうでした?私のとっておきは」
落下に伴う衝撃で倒壊した電波塔の残骸の上に立つフラスコへ声を掛ける。
恐らく月を切断しただろう真っ黒なペーパーナイフをクルクルと手で遊びながらフラスコは静かに口を開く。
「今のは少し危なかったなァ。キミの能力は、コピーじゃなくて創造だったワケだ……いや、両方持ってるだろ、キミ。ついでに言うと創造の条件は絵、違うか?」
「……やっぱりバレてましたか」
「それにしても、オレを止めると言った割には被害を考えないんだねキミ」
「後で直せば済む話でしょう?」
能力を言い当てられて、私は肩を竦める。
とっておきをあっさりと躱された事に落胆はない。本当の本命はこっちだから。
カラカラと笑うフラスコに軽口で答えて。
創造した傘を差し、私は踊る様に跳ねる。
雨がぽつぽつと降り始めた。
「……何をしてるんだ、キミ」
「別にいいじゃないですか」
少しずつ勢いを増す雨に打たれながら、フラスコは訝しげに私を見る。
跳ねるのを止めずに、雨に当たらない様に、私は口を開く。
「これでもう、本当にお終いなんですから」
「は?」
私の言葉にまるで意味が判らないと首を傾げるフラスコ。
常に余裕を崩さなかったそのフラスコが、咳き込んで真っ赤な血を吐いた。
「………………………あ?」
何が起きたか理解出来ずに困惑するフラスコが自分の吐いた鮮血で染まった手をまじまじと見つめる。
私はそこで跳ねるのを止めた。
「何だコレ?……お前、何をした?」
「『病雨からのかくれんぼ』、私の能力を使った技…の1つです」
終に立っていられなくなったのか、フラスコは口から滝の様に血を吐きながら膝をつく。
そんなフラスコに種明かしをしてあげる。
「当たれば夢理民でも死ぬ『病』。それがこの雨の正体。あなたはもう、直に死にますよ」
「ハ、ハハ、ハハハハハ…何だそれ…」
屈んでいたフラスコが笑う。
何が可笑しいのか、ケタケタと血を吐きながら腹を抱えて笑い転げる。
そして、しっかりとした足取りで立ち上がった。
今度は私が困惑する番だった。
「……何で、死んでないんですか……」
「成程成程、複製、創造と来て『想像』か」
私の言葉には欠片も反応を示さず、血で汚れた口元を乱雑に袖で拭う。
丸眼鏡の奥で琥珀のバツと翡翠の六芒星を刻んだ瞳と目が合った。
「面白い、実に面白いよ、お前」
愉快で堪らないという風に肩を揺らすフラスコの言葉を最後に、私の意識は闇に呑まれた。
▷▶︎▷
「よっと……軽いな?」
意識をズラして気絶させたアルビノの少女を受け止め、横抱きに抱える。
今日は運が良い。
最初街に来た時は全く期待していなかったが、飛んだ掘り出し物があったワケだ。
どれ程稀少で強力な能力を持っていても、所詮『理』の中で生きている存在。何ものにも縛られることの無い夢理民には叶わないハズだった。
だがこの子は夢理民の想定を軽々と超えてきた。
「しっかし、ホントに死ぬかと思ったわ」
真っ赤な鮮血の様な色をした硝子球のようなものを左手で取り出す。
その硝子球の中身は、先程オレを追い詰めた『病』。
既に体から流れた血にズラして封じ込めた。
咄嗟にしては上手く行ったから良かったが。
オレの固有能力【総てがズレる】の本質は『総率編纂』。総てを思いのままに率い、編纂するチカラ。
『此処では無い何処かへ辿り着く』というオレの願いを叶える為に、世界の全てを支配することを可能にしたコレが無ければ、或いは違うものだったなら、斃れていたのはオレだった。
「クフフフ、ククク……クハハハハハハ……コレだからこの世界は面白い……」
真逆とは思ったが、夢理民にも効果のある『もの』を創造してくるとは思わなかった。
間違いなく天性の想像力の賜物だろう。
惜しいと思った。
この青眼のアルビノの少女を。
見れば分かるその稀少価値の高さは、天然物は先ず居ないと断言出来る程。
『Cinderella Police』の構成員だと言っていたが、それ以前はさぞかし利用されていただろう。
実に勿体無い。
強く願えば、新たな同胞に為り得たかもしれないというのに。
「…連れて帰るにしても能力は対策しとかないとメンドーだなァ」
『病の硝子球』を上着のポケットに仕舞い、少女を抱え直す。
破壊の跡が痛々しい、というより文字通り消滅した街を一眺めして、オレはアジトへとズレた。
「眼ェ、取るか。絵が主体みたいだし」
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