住めば都

白いモフモフ

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 6人家族と兄は言う。αであるお爺ちゃんを筆頭に、お爺ちゃんお婆ちゃん、父と母、長男と自分。全部で6人だと。じゃぁ僕は?

 僕は家族に入れてもらえない。Ωだから。大旦那様、大奥様、旦那様、奥様、ご長男様、ご次男様……そう呼ばないといけないらしい。(じゃぁ僕はどこから生まれたんだ?木の又からでも生まれたのか?世間でのΩの扱いはだいぶ昔に改善され、解ってる筈だっていうのにね。あれ?解ってるかなぁ?)

 僕の部屋は台所と用具置き場の間にある人2人分の幅のスペースだ。天井は斜めだし窓もないけど体を真っ直ぐに伸ばして眠れるから良いだろう。(ドアが無い時点で部屋じゃないよね。)

 仕事は3食分の支度と片付け、掃除だ。前は洗濯もあったけど、高価な物を手にすると変なことをしかねないからとやらなくて良いことになった。泥棒とか心配してるらしい。(そんな事心配する前にまともな衣服を与えるとか普通の食事を与えるとかが先じゃない?)

 今日は大奥様のお友達がお茶会に来るのでその用意も言いつけられている。(無駄に見栄はりなんだよね。)中庭につながるお部屋にテーブルセットとティーセットを用意し、庭から綺麗な花を選んで飾る。お茶うけのパウンドケーキを焼いてお皿に並べていると、もっと豪華な物をと言われた。でも大奥様の手作りという事になってるので足の悪い大奥様では手の込んだお菓子は作れないのではと言うと頬と背中を杖で打たれた。(Ω、児童虐待もいいところだよ。っていうかそんな力あるなら杖いらないじゃん。杖持って走れそうだよ。)

 さて、どうしてこんな目に会いながらもこの家に居続けるのかなんだけどそれは簡単な事です。出ていくための機会を窺っているからだ。そもそも僕はまだ14才で成人前だから家出しても仕事がない。ストリートチルドレンとか街角で体を売るなんてしたくない。保護施設らしい物はあるらしいけどこの町には無い。ならば、別の町へ行こうとすれば良いけど道中無事に行けるとはとても思えない。子供の一人旅なんて人拐いしてと言ってる様なものだ。

 だから14才になり教会で成人の証明書を発行してもらってからでないといけないんだ。その日なら今までで一番安全に行けるはずなんだ。
 
 この家の人も僕の成人には注意してる。逃げる事を危惧して高価な物や現金を僕に渡さないようにしてるらしい。掃除、片付けを僕がしてるんだから無駄なのにね。ヘソクリの在処くらい知ってるよ?額の裏、本棚の中、机の裏……わかりやすいなぁ。


「まぁオホホホ、お恥ずかしい。」
「素晴らしいですわ、こんなに綺麗に。」
「さぁ、こちらにお掛けになって、私が焼いた物ですのよ、お口にあうかしら?」
「素晴らしいですわ、お菓子までお作りになりますの?」
「ええ、でももうこの年でしょ?足も悪いのでもう簡単なお菓子しか作れませんのよ。」

 サンルームから聞こえてくる声に、誇らしそうに胸を張り言ってるのだろうと見なくてもわかる。大方僕の育てた薔薇園を見せて歩き、僕の育てた番犬を見せびらかし、休憩しましょうとここに集めたのだろう。

 ここまででも解ってもらえたと思うけど、僕は決して“大人しい聞き分けの良い子供”ではない。でもそう見せて油断させないといけない。明日、明日でこの生活ともお別れだ。



 もう真夜中を過ぎている頃、ようやく皆が寝静まった。さっきまで度々家の人が僕が寝てるかどうか見に来ていた。逃げ出すための用意をしてないか見張る為だろう。
 はい、残念でした~、そんなのとっくの昔に終わってますぅ。こんな場所に置くわけ無いでしょ、馬鹿なの?
 家の人達は僕が証明書をもらえないようにしたかったらしいが、同い年の者は皆揃って貰うので僕だけ行かせないと変に思われると結局僕が教会に行く邪魔はしないことになった。ついでにボロボロの服でもおかしいので朝になったらお下がりを渡されるらしい。

 翌朝、いつものように朝御飯の支度をしていると大奥様から袋を渡された。そして奥様からは箱を。中を見てみると一昨年まで次男が履いてた靴と服だった。渡される事を知らなかったふりで驚き、喜んで礼を言った。

 
 教会の外まで大旦那様がこっそり着いて来ている。僕に知られない様にしてるらしいがしっかり見えてる。僕は知らないふりで皆と教会で祈ってる。順番に成人の証明書となるタグを貰い、首にかけていく。今後はこれが身分証になるのだ。名前を呼ばれ、正しい人間になれという言葉を貰いタグをかける。
 この瞬間をどんなに待ち焦がれていたか!

 皆揃って教会をでて行くのを僕はそっと裏から見ていた。大旦那様が僕を探してあたふたしてるのが見える。その隙に裏道を通って急いで戻り、家の外の用具置き場で普通の服に着替え荷物を担いだ。コツコツと貯めてきたお金と保存食に着替えの入った鞄を持ちそっと町の門へ向かった。

 僕と同い年の貴族の子が都市に向かって旅に出るのでその前に出発しようと思ってるんだ。この貴族の子が旅に出るため数ヵ月前から都市迄の道の保安が大分良くなった。貴族の親が心配して徹底的に野党退治や獸退治をしたからだ。これを利用しない手はない。
 僕の家の人達も僕が居なくなったとわかったらこの貴族の子の出発に紛れて外に出ようとしてると詠むだろうからその前にでないとね。

 門の人に何気なく挨拶して通り抜ける。見てないけど良いのかな?貴族の子の出発に振る舞い酒が出るかなんて話して僕が通ったの気にしてないようだ。後で家の人達が騒いでも知らないよ?まぁ所詮はちょっと金持ちの商人の家だから、どう騒いだって事件扱いにはならない。ましてや成人を迎えた者が自分の意思で出ていくのだから。

 ほてほてと歩いて行くと後ろから農家の人の馬車が来たので後ろに乗せてもらう。ここら辺ではよくあることだ。「坊主、どこ行くんだ?」というから「都市にいって働き口探す」と答えた。

「そぅかぁ~、坊主も大変だなぁ。おいちゃんの家も去年末っ子を都市にやったんだぁ~、元気にしってっかなぁ……。」

 都市方面の別れ道まで来るとお礼に都市でおいちゃんの末っ子に伝言を伝える約束をした。東門で料理人見習いになってるらしい。居場所がはっきりしているから伝えるのは出来るだろう。

 またほてほてと歩いてまた農家の馬車に乗せてもらう。ここまでで予定より随分早くなってる。この日は道端の藁束の中で眠った。
 朝早くから起きて保存食を食べながら歩く。川で水を飲んで顔を洗ってまた歩く。

 都市まで後1日程のところで、後ろから3人の傭兵に追い抜かれた。あの傭兵達は見覚えがある。町の貴族に雇われてる人達で貴族の子の前を行き安全を確保する役目の人達だ。その後2時間ほどで貴族の子の馬車に抜かされたが僕の最初の予定より2日分くらい早いようだ。
 ほら、そんな事考えてる間に大きな壁が見えてきた。

 お昼をちょっと過ぎた頃、門に到着。すぐに農家のおいちゃんの末っ子を探して伝言を伝えるととても嬉しそうにしていた。その子にギルドの場所を聞いて別れた。
 
 ギルドはあまり人がいなかった。カウンターの中に数人と掲示板の前に2人、テーブルに3人。僕はカウンターに行くと“よろず相談”を申し込んだ。
“よろず相談”の多くは成人したばかりの者が都市に来た者に色々と相談しながら独り立ち出来るように手助けしてくれたりしている。

「承りました、では2階の奥へどうぞ。白いドアの中でお待ちください。」

 ちょっとドキドキしながら階段を昇る。一番奥の突き当たり、白いドアがあった。
 中で待つとさっきの女の人と迫力感のすごい人が入ってきた。筋肉もりもりで首まで太い……あの太もも、僕のウエストくらい有るんじゃ?

「さて、お待たせしました。ご相談とは…。」

 僕の目の前には迫力の人がドスンッと座り女の人はその後ろに控えた。

「ありがとうございます、実は僕は数日前に成人を迎えまして…………。」

 話を終えるとあの迫力の人は唸っていた。後ろの女の人も渋い顔をしている。それもそのはずだ。
 だって、この人達はいつもの田舎町から出てきた新成人の生活支援相談と思っていたのだろうが実際は違う事を話されたのだから。

「坊主、今の話は……。本当か?」

「ですよね?そう思っちゃいますよね?僕もほんとに良く生き残れたと思います。」

 そう。僕は今までのあれやこれやを全部話したのだ。実は“よろず相談”はよろずというだけあって原則、何でも相談して良いとなってる。そしてこの相談員はある程度の地位と良識を持つ人が領主に任命されて役割につくときまってる。そんな人達が非人道的な話を聞いたら?

「ちょっと女性の前で失礼しますね。」

 ベストとシャツを脱いで背中を見せた。そこには痣やムチの跡、切り刻み跡もある。「ひでぇ」と呟きが聞こえた。それから左脇腹の変色も見せる。ここは感覚が鈍くなってしまってるので痛くはないが見た目がひどい。さすがにお尻の火傷跡は見せないけどもう虐待の証拠には充分だろう。

「今まで誰かに相談や助けを求めた事は?」

「成人前でしたので逃げ場所もないしどうすることも出来ませんでした。祖父母、両親、兄弟と誰かしらの目もありますし、それに……幼い時からの事です。近所や町の人が知らない筈がない。すべては知らなくても扱いが違う事はわかっていて知らん顔している人です。本当に助けを求められるとは思いませんでした。下手に言えばもっと扱いが酷くなります。」

「……どうやってここまで?」

「成人の証明は教会で受け取りますから、監視が緩みます。親は仕事がありますし、祖母は足が悪い。兄達は遊びにいってしまうから監視の目は祖父しかありません。僕が走れば年寄りの祖父は追い付けませんから。」

 その後も色々と話をして少し時間をくれと言われた。そのかわりしばらくの宿としてギルドマスターの家に泊めてもらえるらしい。まぁ、目の前の迫力おいちゃんがギルマスだったんだけど。

「あの、ギルマスさんて……」

「ダガートだ。そういやお前さんの名前聞いてないな?」

 あーー、とうとうそこに触れちゃうか。正直言いたくないから誤魔化してたんだけどね。

「ダガートさん……。よろしくお願いいたします。改めて、僕は……グズと呼ばれてました……」

 二人の顔が『え?』ってなって固まってる。そう、僕は名前がないんだ。グズは名前じゃなくて呼ばれ方。家の人達は「グズ、これ捨てろ」とか「グズ、そこを拭きなさい」とか言って命令した。他にも呼ばれ方は色々あるけどタグにもグズと記載されてしまってる。

「いや、あんまりだろ。」

「だから僕に名前をつけてもらえませんか?」



 僕の名前は『エレフセリア』になった。自由という意味らしい。新しいなんとなく綺麗な響きの名前にウキウキする。すごく嬉しくてたまらない!



「おい、エレ~風呂沸いたから入ってこい~。」

 ってお風呂場から聞こえるけど、一緒に入るつもり?ダメでしょ。……あ、いけない大事な事を伝え忘れてた!

「ダガートさん……いい忘れてた事あるんだけど。」

「んーなんだぁ?聞くから入ってこい~。」

「それなんだけどね、僕Ωなんだぁ。」

 ゴガン!って大きな音がしてダボンッ!バシャッバシャッン!ガラッ!

「おい、ホントか!!」

 ……見えてますよ?視線を横に向けて目をそらすと「お、すまんすまん」とタオルを巻いてくれた。

「も一回きくぞ?エレお前ホントにΩなのか?」

 うん。と頷く。Ωって今じゃ減りすぎて稀少種だもんね。家の人達は自分達とは違うから気持ち悪いって言ってたけど。

 しゃがみこんで「あーー、」とがっくり項垂れて頭抱えたまま動かないダガートに取り敢えず毛布を被せる。このままじゃ風邪ひくよ?

「でも安心していいよ?僕まだ発情期来てないから。こんな体だからまだまだ来ないよ。」

「いや、それはなんとかした方が良いだろ。幸い俺はαだ。うんそうだな、そうだ。エレ、何も問題は無いぞ!エレは俺の嫁だからな。」

  ……はい?どういうこと?

「よしっ!決まった!明日から早速動くぞ。」

 そしてあれよあれよという間にお風呂に入れられて揉みくちゃにされ、温かい美味しい食事をたらふく食わされ、寝かされた。
 『俺の嫁だから一緒の風呂も一緒のベッドもありだ。むしろ一緒じゃないといけない』だってさ。まぁ、ギュってされながら眠るのは嫌じゃなかった。
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