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6.聖女さまは忙しい
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純白のドーム型の屋根と高くそびえる柱が映え、誰もが大貴族の館や宗教施設と見まがうようなパーティ専用ホール
その正面入り口が朝日を浴びて黄金色に輝き柱や壁に飾られた様々な紋章をあしらった色鮮やかな布の群れが風にはためく
軒にいくつか吊るされたガラス棒を利用した風鈴が「シャラシャラ」と天国を思わせる音楽を奏でる
この美しいホールは、主に平民の利用を想定して建てられ、内部には小ホールや会議室もあり
個人的なパーティや貴族風のお茶会を開くのはもちろん、結婚式用に立派な祭壇まで備えている。
今ではパーティだけでなく会議など他の利用者も増えて人が集まり、周辺にいろいろなお店が出来、それがさらに人を呼ぶ
そんなホール界隈は街の新しい人気スポットになりつつある
折からの断罪ブームに乗ってホールにはパーティの予約が捌ききれないほど殺到し、悪役令嬢請負業も予想以上に順調で笑いが止まらない。
私は早朝からパーティの裏方として走り回っていたが、いまはホールの控え室でお化粧に余念がない
今日のパーティは断罪がメインだというのに、肝心の悪役令嬢役の女性が来ない、それで見に行かせたら立てないくらい酷い二日酔いで使い物にならないという。
この国は何事にもおおらかで契約や約束を守らないし、時間にはルーズで遅れてくるのが当たり前
だからいつも人を多めに配置したり、ダブルキャストにしたりして穴があかないようにしているが、今日は運悪くそんな余裕がなく、急遽私が代役を務めることになった
ドタキャンした悪役令嬢役の背が高かったため、悪役を象徴するような黒の地に毒々しい赤を配した豪奢なドレスは、スタッフが大急ぎで寸法直しをしている
靴は少しでも背が高く見えるように、かなりかかとの高い厚底のハイヒールを履く。
断罪は舞台上で行われるため、化粧は近くで見れば驚くような白塗りで
頬には顔を細く見せるシャドウ、鼻にはしっかりハイライトを入れ、目を強調した太いアイラインに真っ赤なルージュという大胆なメイクですが
遠目には色白なうりざね顔の美人で、いかにも気が強そうなつり目の悪役令嬢に見えるでしょう♪
出番が終わればすぐ裏方に回るために、腰まである艶やかな黒髪はウィッグ、メイクをしながらも念の為にセリフと段取りを再度チェックする。
でも「お仕事とはいえ何で他人の婚約破棄や断罪のために、一所懸命に走り回っているんでしょ (?_?) 」今更ながら論理の矛盾に気付き疑問を感じてしまう
何故なら、超絶カワイイ私には素敵な人との出会いが絶対に待っているはずなのに、近づいて来るのはイケメンだけどおカネ目当ての人ばかり
他人から見れば人も金も集まり、たくさん儲かっているように見えても、いまは先行投資の真最中で、むしろおカネが足りなくて困っているというのに、何も分かっていない人たちが多過ぎる
おかげで顔には出さないけれど重度の人間不信になり、もうスッパリ諦らめて一生独身で過ごし、街の発展のために尽くした高潔な聖女さまと讃えられるのもありかなと思い始めています。
ホールの方が急に忙しくなって冒険者ギルドにあまり顔を出していないので、休みの日に薬草採取がてら小屋の様子を見に行くと
小屋のまわりに人や獣の足跡があり、少し心配なので魔道具で簡単な結界を張り、人形の工房に行って悪役令嬢の身代わり人形を作るついでに相談してみた
すると、つぶやいたり身動きするだけの人形より、ロボットのような高度なゴーレムが昨今の流行りだと勧められる
こちらは、高価だが掃除や洗濯、警備など簡単な作業をこなすことが出来るというので、臭くて熱いポーション作りにも役立つと思い、試しに二体注文した
上手く行けば作業をオートメーション化して、ポーションを量産出来るかも知れない
もし量産化に成功してもコストの問題を解決しなければならないが、薬師ギルドに低級ポーションを納品出来れば、ゆくゆくは中級ポーションの作り方も教えて貰えるだろうという目論見で妄想が膨らむ
冒険者なのに相変らず魔物と闘うことが出来ない、どうやら悪役令嬢係りの時に呪いをかけられたらしい、弱い魔物だと分かっていても身体が動かず、気がつけば回避や逃走を選んでいる
だから、収入源は今のところ薬草採取やポーション作り、またはホール経営のようなサービス業に頼るしかない
物を売るのは下手なので、作ったポーションはギルドに納品した方が手間がかからなくて良いかも知れません
いま気になるのは悪役令嬢の断罪ブームが過熱気味な事、一回のパーティで競い合うように次々と婚約破棄が行われるため、断罪で会場が笑いに包まれたり拍手喝采するという大喜利のような状態なってしまっている
本来は嫌われ者で厳しく断罪されるべき悪役令嬢も、令嬢が最後まで無実を訴え自分の生き方を貫く姿が
弱者を応援する判官贔屓の平民の共感を呼んで憧れの対象になってしまい、大人になったら悪役令嬢になりたいという女の子が増えた
これは、社会現象にまでなった悪役令嬢ブームも、そろそろ末期的な兆候を見せ始めているような気がして不安
ただ、かけられた呪いや魔法は薄れはじめているようで、ときおり脈絡も無く記憶の断片が浮かんで来る
ハロウィン、クリスマス、お正月、恵方巻き、バレンタインデー、ホワイトデー、お誕生日会、ひな祭りなど、前の世界の楽しい事、美味しい食べ物の思い出の数々
でも、恵方巻きは関西の寿司屋さんがはじめたし、バレンタインはチョコ屋さん
たとえ悪役令嬢ブームが去ったとしても、この知識を生かして新たなブームを起こせばやっていけるような気がします。
転移者はこの世界では異物でよそ者だけど、前の世界の文化が少しでも伝われば
こちらの人々を楽しませることが出来るし、私も懐かしい季節のイベントが見られて嬉しい♪
私は誰に任命された訳でもないのに、今後も異世界特命全権大使として頑張る所存でございます、たぶん。(了)( ̄^ ̄ゞ)
その正面入り口が朝日を浴びて黄金色に輝き柱や壁に飾られた様々な紋章をあしらった色鮮やかな布の群れが風にはためく
軒にいくつか吊るされたガラス棒を利用した風鈴が「シャラシャラ」と天国を思わせる音楽を奏でる
この美しいホールは、主に平民の利用を想定して建てられ、内部には小ホールや会議室もあり
個人的なパーティや貴族風のお茶会を開くのはもちろん、結婚式用に立派な祭壇まで備えている。
今ではパーティだけでなく会議など他の利用者も増えて人が集まり、周辺にいろいろなお店が出来、それがさらに人を呼ぶ
そんなホール界隈は街の新しい人気スポットになりつつある
折からの断罪ブームに乗ってホールにはパーティの予約が捌ききれないほど殺到し、悪役令嬢請負業も予想以上に順調で笑いが止まらない。
私は早朝からパーティの裏方として走り回っていたが、いまはホールの控え室でお化粧に余念がない
今日のパーティは断罪がメインだというのに、肝心の悪役令嬢役の女性が来ない、それで見に行かせたら立てないくらい酷い二日酔いで使い物にならないという。
この国は何事にもおおらかで契約や約束を守らないし、時間にはルーズで遅れてくるのが当たり前
だからいつも人を多めに配置したり、ダブルキャストにしたりして穴があかないようにしているが、今日は運悪くそんな余裕がなく、急遽私が代役を務めることになった
ドタキャンした悪役令嬢役の背が高かったため、悪役を象徴するような黒の地に毒々しい赤を配した豪奢なドレスは、スタッフが大急ぎで寸法直しをしている
靴は少しでも背が高く見えるように、かなりかかとの高い厚底のハイヒールを履く。
断罪は舞台上で行われるため、化粧は近くで見れば驚くような白塗りで
頬には顔を細く見せるシャドウ、鼻にはしっかりハイライトを入れ、目を強調した太いアイラインに真っ赤なルージュという大胆なメイクですが
遠目には色白なうりざね顔の美人で、いかにも気が強そうなつり目の悪役令嬢に見えるでしょう♪
出番が終わればすぐ裏方に回るために、腰まである艶やかな黒髪はウィッグ、メイクをしながらも念の為にセリフと段取りを再度チェックする。
でも「お仕事とはいえ何で他人の婚約破棄や断罪のために、一所懸命に走り回っているんでしょ (?_?) 」今更ながら論理の矛盾に気付き疑問を感じてしまう
何故なら、超絶カワイイ私には素敵な人との出会いが絶対に待っているはずなのに、近づいて来るのはイケメンだけどおカネ目当ての人ばかり
他人から見れば人も金も集まり、たくさん儲かっているように見えても、いまは先行投資の真最中で、むしろおカネが足りなくて困っているというのに、何も分かっていない人たちが多過ぎる
おかげで顔には出さないけれど重度の人間不信になり、もうスッパリ諦らめて一生独身で過ごし、街の発展のために尽くした高潔な聖女さまと讃えられるのもありかなと思い始めています。
ホールの方が急に忙しくなって冒険者ギルドにあまり顔を出していないので、休みの日に薬草採取がてら小屋の様子を見に行くと
小屋のまわりに人や獣の足跡があり、少し心配なので魔道具で簡単な結界を張り、人形の工房に行って悪役令嬢の身代わり人形を作るついでに相談してみた
すると、つぶやいたり身動きするだけの人形より、ロボットのような高度なゴーレムが昨今の流行りだと勧められる
こちらは、高価だが掃除や洗濯、警備など簡単な作業をこなすことが出来るというので、臭くて熱いポーション作りにも役立つと思い、試しに二体注文した
上手く行けば作業をオートメーション化して、ポーションを量産出来るかも知れない
もし量産化に成功してもコストの問題を解決しなければならないが、薬師ギルドに低級ポーションを納品出来れば、ゆくゆくは中級ポーションの作り方も教えて貰えるだろうという目論見で妄想が膨らむ
冒険者なのに相変らず魔物と闘うことが出来ない、どうやら悪役令嬢係りの時に呪いをかけられたらしい、弱い魔物だと分かっていても身体が動かず、気がつけば回避や逃走を選んでいる
だから、収入源は今のところ薬草採取やポーション作り、またはホール経営のようなサービス業に頼るしかない
物を売るのは下手なので、作ったポーションはギルドに納品した方が手間がかからなくて良いかも知れません
いま気になるのは悪役令嬢の断罪ブームが過熱気味な事、一回のパーティで競い合うように次々と婚約破棄が行われるため、断罪で会場が笑いに包まれたり拍手喝采するという大喜利のような状態なってしまっている
本来は嫌われ者で厳しく断罪されるべき悪役令嬢も、令嬢が最後まで無実を訴え自分の生き方を貫く姿が
弱者を応援する判官贔屓の平民の共感を呼んで憧れの対象になってしまい、大人になったら悪役令嬢になりたいという女の子が増えた
これは、社会現象にまでなった悪役令嬢ブームも、そろそろ末期的な兆候を見せ始めているような気がして不安
ただ、かけられた呪いや魔法は薄れはじめているようで、ときおり脈絡も無く記憶の断片が浮かんで来る
ハロウィン、クリスマス、お正月、恵方巻き、バレンタインデー、ホワイトデー、お誕生日会、ひな祭りなど、前の世界の楽しい事、美味しい食べ物の思い出の数々
でも、恵方巻きは関西の寿司屋さんがはじめたし、バレンタインはチョコ屋さん
たとえ悪役令嬢ブームが去ったとしても、この知識を生かして新たなブームを起こせばやっていけるような気がします。
転移者はこの世界では異物でよそ者だけど、前の世界の文化が少しでも伝われば
こちらの人々を楽しませることが出来るし、私も懐かしい季節のイベントが見られて嬉しい♪
私は誰に任命された訳でもないのに、今後も異世界特命全権大使として頑張る所存でございます、たぶん。(了)( ̄^ ̄ゞ)
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