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第2章
リーナの母親(ラハール視点)
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危ない状態だったリーナ様は何とか持ちこたえた。
ラハールはホッとするのと同時に、自分がその状況を作ってしまった悔しさを噛みしめるしかできなかった。
リーナ様の闇落ちは村人の穢れのせいだった。自分が村に連れていかなければ、闇落ちする事などなかったという事実‥
ラリーン様にお願いして付いてきているのに、なんの役にもたっていない自分に嫌悪感が増していく。
落ち着いたリーナ様を確認してから外に出て風にあたってなんとか自分への苛立ちを抑えていた。
「ラハール、ここにいたのですか?姿が見えないので心配しました。」
後ろからラリーン様の声が聞こえた。
「ラリーン様‥勝手に離れて申し訳ありません。リーナ様は大丈夫ですか?」
ラハールはラリーンの言葉への返答はせず、謝った。
自分を気にかけてくれているのはわかるが、役立たずな上、心配されるだけの自分が情けなくて仕方なかった。
「ええ、とりあえずリーナさんが落ち着いたので、馬車に荷物を取りに行くところです。」
「それなら、私が取りに行きましょう。そのくらいしか私にはできませんから。」
できる仕事は全てしていきたい。
そうしていないとリーナ様を闇落ちさせた罪悪感にのまれそうだった。
「ラハール、あなたは十分にやってくれています。リーナさんを動かせるのはあなたしかいないし、旅に慣れているあなたがルートや宿の手配など全てしてくれています。だいぶ時間を短縮できたと思います。」
外には出ていないとはいえ、穢れを持つリーナを抱きかかえられるのは穢れに耐性のある聖女か神官しかいない。
ラリーンにはリーナを抱きかかえられるだけの力がなくラハールが全て行なっていた。
そして、旅がスムーズにすすめられるよう今までの経験を使い、安全な最短ルートを選び、検問での対応や宿の手配など旅慣れをしていないマークバルダとラリーンの代わりに行なっていた。
いくらマークバルダが強いといえ野盗などと鉢合わせると、どうしても時間を使ってしまう為、安全なルートを通るのは重要だった。
「大したことはしておりません‥」
そんな事くらいしかできない。
悔しそうに手をギュッと握るのをラリーンは悲しそうに見るも何も言わなかった。
慰めてもラハールを余計に苦しめ、ラリーンの思いは届かないとわかっているから。
「リーナさんの話を聞きましたか?」
ラリーンは話を変えた。
「はい、夢の中で母親に会ったという‥」
夢で会った母親の励ましでリーナ様が落ち着き、生きる意欲を見出していた。
ずっと村を全滅させたと苦しんでいるリーナ様の慰めになってくれればよいのだが‥
「本当に夢だったと思いますか?」
「といいますと‥」
ラリーン様は真剣な顔をしていた。本当に夢でなかったと思っているように。
「夢で母親は穢れは消滅すると言い切りました。闇落ちすれば、ありえない話です。」
夢は人の願望を表すという。それがリーナ様の願望だとすると叶わないその願いに胸が苦しかった。
「あれだけの穢れを外に出さずに抱えこめていたのも不思議だったのですが‥リーナさんの内部の穢れは確実に減っています。」
「それはラリーン様が浄化している為では?」
ラリーン様は苦笑した。
「神を増やしてからは少しましにはなりましたが、それでも浄化は間に合っていません。穢れが溢れ出そうになり苦しむリーナさんを楽にするくらいです。」
ラリーンは苦しそうに顔を歪めた。
「そうなのですか‥」
ラリーン様も自分と同じく何もできないと悔しく思っているのかもしれない。
聖女としての強い力を持ち、複数の神々と絆を結んだ。それでもほとんど浄化できないなんて‥リーナ様はなんと大きな穢れを抱えているのだろう。
「それなのに、内部の穢れが減っています。」
ラリーン様はその事実を繰り返した。
それはリーナ様が闇落ちをしても自分で浄化できているという事か?
「ラハールはリーナさんの母親に会ったと言っていましたね。どんな人でしたか?」
リーナの母親を思い返す。
「とても心の澄んでいる優しい女性だったと記憶しています。」
リーナの母親とのやりとりをラリーンに聞かせた。
「では、神殿や聖女について何も聞かなかったのですね。」
「はい、質問は一切しませんでした。リーナ様の意思に任せると言われただけでした。」
少しラリーンは少し考え込んでいた。
「普通、娘を送り出すのなら、どのような場所なのか気になりませんか?村人なら尚更です。あなたとも初対面で信用できるかもわからなかったはずです。」
村に情報など伝わりにくい。リーナ様は聖女という言葉も知らなかった。
「そういえば、そうですね。」
選定の儀まで時間がなかった為、深くは考えていなかったが、普通はそうなのだろう。
リーナへの愛情を持って育てていたのはラハールの目にもわかったし、関心がないと言うわけではないだろう。
ラリーン様はリーナの母親の容姿や特徴について細かく聞いてきた。
「その方は知っていたのかもしれません。神殿や聖女の事を。」
何を言いたいのかラハールにはわからず、ラリーンを見つめた。
「私はリーナさんの夢で出てきた母親との同じセリフを言っていた聖女を知っています。」
ラリーンは同一人物だと確信しているようだった。
そんな事はありえない。聖女の引退としては若すぎる‥
だが、心がとても澄んでおり、リーナ様とは同じあたたかさがあった。
「リーナ様の母親も聖女だったと言うのですか?」
「リーナさんの言う通り、私はその聖女がリーナさんの中にいるのではと思っています。」
そう言い切るラリーン様は本気でそう信じているような強い目をしていた。
ラハールはホッとするのと同時に、自分がその状況を作ってしまった悔しさを噛みしめるしかできなかった。
リーナ様の闇落ちは村人の穢れのせいだった。自分が村に連れていかなければ、闇落ちする事などなかったという事実‥
ラリーン様にお願いして付いてきているのに、なんの役にもたっていない自分に嫌悪感が増していく。
落ち着いたリーナ様を確認してから外に出て風にあたってなんとか自分への苛立ちを抑えていた。
「ラハール、ここにいたのですか?姿が見えないので心配しました。」
後ろからラリーン様の声が聞こえた。
「ラリーン様‥勝手に離れて申し訳ありません。リーナ様は大丈夫ですか?」
ラハールはラリーンの言葉への返答はせず、謝った。
自分を気にかけてくれているのはわかるが、役立たずな上、心配されるだけの自分が情けなくて仕方なかった。
「ええ、とりあえずリーナさんが落ち着いたので、馬車に荷物を取りに行くところです。」
「それなら、私が取りに行きましょう。そのくらいしか私にはできませんから。」
できる仕事は全てしていきたい。
そうしていないとリーナ様を闇落ちさせた罪悪感にのまれそうだった。
「ラハール、あなたは十分にやってくれています。リーナさんを動かせるのはあなたしかいないし、旅に慣れているあなたがルートや宿の手配など全てしてくれています。だいぶ時間を短縮できたと思います。」
外には出ていないとはいえ、穢れを持つリーナを抱きかかえられるのは穢れに耐性のある聖女か神官しかいない。
ラリーンにはリーナを抱きかかえられるだけの力がなくラハールが全て行なっていた。
そして、旅がスムーズにすすめられるよう今までの経験を使い、安全な最短ルートを選び、検問での対応や宿の手配など旅慣れをしていないマークバルダとラリーンの代わりに行なっていた。
いくらマークバルダが強いといえ野盗などと鉢合わせると、どうしても時間を使ってしまう為、安全なルートを通るのは重要だった。
「大したことはしておりません‥」
そんな事くらいしかできない。
悔しそうに手をギュッと握るのをラリーンは悲しそうに見るも何も言わなかった。
慰めてもラハールを余計に苦しめ、ラリーンの思いは届かないとわかっているから。
「リーナさんの話を聞きましたか?」
ラリーンは話を変えた。
「はい、夢の中で母親に会ったという‥」
夢で会った母親の励ましでリーナ様が落ち着き、生きる意欲を見出していた。
ずっと村を全滅させたと苦しんでいるリーナ様の慰めになってくれればよいのだが‥
「本当に夢だったと思いますか?」
「といいますと‥」
ラリーン様は真剣な顔をしていた。本当に夢でなかったと思っているように。
「夢で母親は穢れは消滅すると言い切りました。闇落ちすれば、ありえない話です。」
夢は人の願望を表すという。それがリーナ様の願望だとすると叶わないその願いに胸が苦しかった。
「あれだけの穢れを外に出さずに抱えこめていたのも不思議だったのですが‥リーナさんの内部の穢れは確実に減っています。」
「それはラリーン様が浄化している為では?」
ラリーン様は苦笑した。
「神を増やしてからは少しましにはなりましたが、それでも浄化は間に合っていません。穢れが溢れ出そうになり苦しむリーナさんを楽にするくらいです。」
ラリーンは苦しそうに顔を歪めた。
「そうなのですか‥」
ラリーン様も自分と同じく何もできないと悔しく思っているのかもしれない。
聖女としての強い力を持ち、複数の神々と絆を結んだ。それでもほとんど浄化できないなんて‥リーナ様はなんと大きな穢れを抱えているのだろう。
「それなのに、内部の穢れが減っています。」
ラリーン様はその事実を繰り返した。
それはリーナ様が闇落ちをしても自分で浄化できているという事か?
「ラハールはリーナさんの母親に会ったと言っていましたね。どんな人でしたか?」
リーナの母親を思い返す。
「とても心の澄んでいる優しい女性だったと記憶しています。」
リーナの母親とのやりとりをラリーンに聞かせた。
「では、神殿や聖女について何も聞かなかったのですね。」
「はい、質問は一切しませんでした。リーナ様の意思に任せると言われただけでした。」
少しラリーンは少し考え込んでいた。
「普通、娘を送り出すのなら、どのような場所なのか気になりませんか?村人なら尚更です。あなたとも初対面で信用できるかもわからなかったはずです。」
村に情報など伝わりにくい。リーナ様は聖女という言葉も知らなかった。
「そういえば、そうですね。」
選定の儀まで時間がなかった為、深くは考えていなかったが、普通はそうなのだろう。
リーナへの愛情を持って育てていたのはラハールの目にもわかったし、関心がないと言うわけではないだろう。
ラリーン様はリーナの母親の容姿や特徴について細かく聞いてきた。
「その方は知っていたのかもしれません。神殿や聖女の事を。」
何を言いたいのかラハールにはわからず、ラリーンを見つめた。
「私はリーナさんの夢で出てきた母親との同じセリフを言っていた聖女を知っています。」
ラリーンは同一人物だと確信しているようだった。
そんな事はありえない。聖女の引退としては若すぎる‥
だが、心がとても澄んでおり、リーナ様とは同じあたたかさがあった。
「リーナ様の母親も聖女だったと言うのですか?」
「リーナさんの言う通り、私はその聖女がリーナさんの中にいるのではと思っています。」
そう言い切るラリーン様は本気でそう信じているような強い目をしていた。
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